反乱の夜明け #15-a |
年 代 | 出 来 事 | 場 面 | 参 考 |
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ハンは頭に一発食らったような衝撃を受けながら、ブリアが構えているブラスターを見つめた。「ハニー、何をしてるんだ?」 「わたしはこれが全部必要なのよ。自分のためじゃないわ。レジスタンスのためよ」彼女の合図で反乱軍の兵士たちが入ってきて、ハンの手から手押し車を取り、それに箱を積みはじめた。 ハンは信じられずに、最初の宝がドアの外に出ていくのを見送った。「ブリア・・・」彼はかすれた声で言った。「こんなことはやめてくれ。これは夢だ。きみは・・・きみは・・・これは冗談だろ?」 「ごめんなさい、ハン。全部必要なの。この惑星からわたしたちが播き集められるものは全部。加工スパイスも、武器も、宝物も。ええ、公平じゃないのはわかってる。でも、わたしにはどうにもできないのよ」 「反乱軍のほかの指揮官も、こんなことをしてるのか?」 「いいえ。わたしが知るかぎりではね。でも、ゆうべ連絡を受けたのはわたしだもの。情報郡は、帝国がとてつもない兵器を建造しているという証拠をつかんだの。恐ろしい兵器を。惑星ひとつがそっくり消えてしまうような。その兵器のことを探りだす必要があるの。そのためにはクレジットがいる・・・莫大なクレジットがいるのよ。買収や、監視機器や、軍の増強・・・さまざまなことに。イリーシアだけで足りるのを願うだけだわ」 ハンは唇を舐めた。「きみはおれを愛してるんだと思ってたよ。そう言ったじゃないか」 またしてもひと積み運び去られた。ハンはそれを見送りながら、大声でうめきたかった。チューイーは実際にうめいた。 ブリアはため息をついて頷き、低い声で言った。「ええ、愛してる。いつも一緒にいたいわ。わたしと一緒に行きましょうよ、ハン。あなたはもうナー・シャッダへは帰れない。一緒に帝国と戦いましょう。あなたとわたしとチューイーで。素晴らしいチームになるわ。誰もが犠牲を払わなくてはならないの。わたしがこれを自分のために使うとは思っていないでしょう?」 ハンは首を振り、苦い声で言った。「ああ、そうは思ってない。これっぽっちも思わないよ」彼は深く息を吸いこんだ。「ブリア・・・おれはきみを愛していた」 ブリアはハンが過去形で言うのを聞くと、つらそうに顔を歪めた。「ハン、あなたを愛してるわ!ほんとよ!でも、自分の気持ちに負けて、反乱同盟軍への義務を忘れることはできない!この襲撃はテストだったの。そしてわたしたちは見事に成功した!ほかのレジスタンス・グループは、わたしたちが成し遂げたことを知るわ!ハン・・・わたしたちは惑星全体を占拠したのよ!この襲撃は反乱軍の歴史に残るわ!わたしにはわかるの!」 「ああ、ブリア・サレンが彼女を信頼していた人々を裏切ったという歴史が残るだろうよ。彼女が愛していると言った男まで」 ブリアの目に涙があふれ、頬を伝って流れた。またべつの箱を積んでドアの外に出ていく兵士たちの邪魔にならないように、彼女は横に寄った。「ハン・・・お願い、お願いだから・・・一緒に来て。あなたは生まれつきのリーダーよ。犯罪者の生活を送る必要はない。反乱同盟軍に入れば、すぐに将校になれるわ。給料だってもらえる!たいしたことはないけど、生活していくことはできるわ。お願い、ハン!」 彼は冷ややかにブリアをにらみつけた。彼女があまりにもひどく泣いているので、ジェイス・ポールがその手からブラスターを取り、自分でそれを構えた。「最後の箱を積んでいるところです、中佐」 彼女は頷いた。そして袖で涙を拭き、どうにか自制心を取り戻そうとした。 「お願い、ハン。いまは怒っているかもしれない。気持ちはわかるわ。ただ・・・メッセージを送って。連絡先はジャバに聞けばわかるから。お願いよ、ハン」 「ああ、メッセージを送るよ。ブルー・ライトでおれが言ったことを覚えてるかい?結局、あれは全部真実だったんだ。きみを信じたおれが馬鹿だった」彼はポケットの中に手を突っこんで、小さなポーチを取りだした。中にはフリムジーが一枚入っていた。「これが何だかわかるか?」 彼女はそれを見て、近づき、それから頷きながら青い顔で後ずさった。「ええ・・・」 「こんなものを一〇年も大事に持っていたなんて、おれは大馬鹿だったよ」ハンは吐き捨てた。「だが、今日からはもう女にはだまされない。二度とだまされないぞ」 彼はわざとゆっくりフリムジーを細かく破り、指のあいだから床に落ちるにまかせた。「まだ無事なうちに船に乗って、さっさとここを出ていくんだな。今度会ったら、撃ち殺してやる」 彼女はショックを受けて彼を見つめた。やがてポールが彼女の腕をつかんだ。「中佐・・・積み終わりました」 「わかったわ」彼女は震える声で答えた。「ハン・・・ごめんなさい。これからもあなたを愛しているわ。永遠に。わたしが愛したのはあなただけ。これからもずっとそうよ。ごめんなさい・・・」 ポールが彼女の肩を抱き、ハンに言った。「ひとつだけ箱を残しておいた。それときみの手押し車も。ソロ、急いでここを離れたほうがいいぞ。われわれは建物に爆薬を仕掛けた。三〇分後に爆発する」 ハンとチューイーに狙いをつけたまま、ポールはゆっくりドアの外に後ずさった。シャトルの横に立っている兵士たちも、こちらに銃を向けている。 ハンはシャトルが飛び去るのを黙って見送った。 そしてそれが行ってしまうと、震えるように深く息を吸いこんだ。喉と胸が痛む。もう一度息をすると、またしても痛んだ。ハンは涙をこらえ、唇を噛んだ。そしてその痛みで自制心を取り戻した、「チューイー。今日はすごい一日だったな」 チューイーは同情するような声を発した。 「とにかく、こうしちゃいられない。いいか、時間に気をつけろよ。そして敷地内を見てまわるんだ。ひょっとすると、貴重品が落ちてるかもしれん。おれはテロエンザの部屋を見てくる。たしかあっちにも何かあったと思う。一七分後にここで会おう」 「フルルルーグ!」 ウーキーはほかの場所を見に行った。 ハンは宝物殿とテロエンザの住居を見てまわり、細かい品物を集め、ガナー・トスが泣いているのを見つけた。彼は冷たい目で老ジジアンを見た。「あんたは彼女と結婚しなくて、運がよかったぞ。ここを出るんだ、トス。この建物はあと一五分で爆発する」 老ジジアンは昆虫のようにそそくさと部屋を出ていった。ハンは鼻を鳴らし、テロエンザの住居を略奪した。 そしてそこそこ価値のあるものをひと袋持って<ファルコン>に戻り、チューイーを捜した。“急げよ、毛玉” 出発の準備を始めるつもりで船の中に戻ったとき、チューイーの吼える声がした。ハン、出てこい!こんなものが見つかった!ウーキーはそう言っていた。 ハンは期待に胸を躍らせた。グリッタースティムの箱でも見つけたか! 彼は船の外に走りでた。が、混乱して急停止した。チューバッカは頬のこけた目ばかり大きな、ぼろをまとった子供たちと立っていた。子供たちはひどく怯えている。ウーキーはいちばん小さい子供を抱いていた。ほかの八人は四歳から一二歳ぐらいだ。 ハンは怒鳴った。「何だ?いったいこのガキたちはどっから来たんだ?」 チューバッカは、がらんとした建物を捜していると、宿舎の裏にある地下室から泣き声が聞こえたのだと説明した。この子供たちは、明らかに巡礼たちのあいだに生まれ、襲撃のあとの混乱で、エグザルテイション中毒になった両親に忘れられてしまったのだろう。 九人は全部人間の子供たちだった。それもコレリア人のようだ。彼は声に出してうめいた。「チューイー!おまえは宝物を見つけにいったんだぞ!」 子供たちは宝だ、チューバッカは腹立たしげに指摘した。「ああ、このチビたちを奴隷として売る気ならな」 チューイーは上唇をめくり、恐ろしい声で唸った。 ハンは両手を上げた。「わかった、わかったよ。いまのは冗談だ!おれが奴隷嫌いなことは知ってるだろ!だが、こいつらをどうするつもりだ?」 あと五分で建物が爆発する。いちばんいい方法を話しあっている暇はない。チューバッカはそう指摘した。 ハンは額にしわを寄せた。「わかった。よし、おまえら、船に乗るんだ。早くしろ。非常事態用の携帯食糧か何かを掻き集められるだろう」 二分後、<ファルコン>はイリーシアを飛び立った。ハンはコロニー1の上をぐるりと旋回した。地上では建物がひとつずつ火を噴き、巨大な火の玉になっていく。二、三時間もすれば、黒焦げの燃えかすだけになるだろう。そしておそらく、ジャングルが再びこの惑星を征服してしまう。 |
ベサディ卿、ダーガは、驚きに目をみはって、自分のヨットのビューポートからイリーシアの夜の側を見つめた。地獄の炎がまばゆい花のように開くのが、宇宙からでもはっきりと見える。これまでコロニーだった場所は、この惑星特有の強い風にあおられ、すさまじい勢いで燃えていた。 あそこには生き残りもいる。反乱軍に投降したノヴァ・フォースの兵士たち。老ガナー・トス。彼らはどこからか回収した二、三のポータブル・コム・ユニットで、ついさっき、このヨットに連絡を入れてきた。ダーガのヨットが軌道に到着したとたんに、救出してくれと一斉にわめきたてた。だが、工場と倉庫はすべてが燃える瓦礫と化した。 “消えてなくなった・・・”信じられないことだ。たった一日−いや、わずか数時間のうちにすべてが失われるとは。 だが、失われた。何もかもなくなった。 ダーガは深く息を吸いこんで、つい数分前のプリンス・シゾールからのメッセージのことを考えた。気持ちのよい、安心させるような調子で、シゾールはまだダーガがブラック・サンに借金があることを思いださせたが、こういう事態に立ち至ったからには、支払いの方法は相談に応じると言ってくれた。また、喜んでベサディがイリーシアの工場を再建する手助けをする、と仄めかした。 “だが・・・”ダーガは思った。“無理だ” ひとつには、反乱軍は何千という巡礼を運び去った。シゾールの情報部の調べでは、彼らはエグザルテイションの中毒を癒す“特効薬”を開発したという。あれだけ大勢の巡礼たちがイリーシアの真実を暴露すれば、新しい労働力を確保するのは不可能だろう。 それに、せっかくジアーが選んだトランダ・ティルの最高位司祭は、イリーシアをひと目見て、あの宗教とも、スパイス工場とも、何の関係も持ちたくない、ときっぱり断わった。 “だめだ。次の儲け話を見つけるしかない” そしてもちろん、“この次”はつねにある。ベサディがいまよりも豊かになる方法を考えるとしよう。そしてこのダーガが、プリンス・シゾールに仕えるとすれば、まあ、そのときは、ブラック・サンのトップにのし上がるだけだ。 さしあたっての目標はヴィゴ−シゾールの副官−になること。そしてそこから・・・シゾール自身をおびやかす存在になるよう努める。いつの日か、皇帝に挑戦してもいい。わたしは賢いハットだ。ほかの人間と同じように、帝国領を支配することができる。 ダーガは悩める日々を思いださせる、ひとつの品物をちらっと見下ろした。長い、血のついた角を。“少なくとも、復讐は終わった。アラクよ、安らかに眠りたまえ” ハット卿はインターコムのキーを押した。パイロットが即座に応じた。「傭兵を拾う手配をしろ。そしてナル・ハッタに戻れ。ここの用事は終わった。屋敷に戻る」 「はい、ユア・エクセレンシー」 ダーガはゆったりと寝そべってため息をつき、テロエンザの角を手にとった。彼はそれを考え深げに撫でながら、これからのプランを練りはじめた。 |
六時間後に、ハイパースペースから出たときも、ハン・ソロとチューバッカはコレリア人の孤児たちをどうするか、まだ議論していた。するとコム・システムが電子音を発し、メッセージが入ったことを知らせた。 チューイーは子供たちをコレリアに送り届けるべきだと主張した。そして家族に渡すべきだ、と。ハンは燃料と時間の無駄だと抗議した。「どこかの宇宙港で降ろせば、誰かが世話をしてくれるさ」 いや、息子を持つ父親としては、子供たちをコレリアに届けるのがいちばんだと思う、チューバッカは頑固にそう言いはった。 ハンはウーキーをにらみつけ、メッセージを受けるためにコムのキーを押した。ジャバ・ザ・ハットの映像がコントロール・パネルの上に現われた。「ハン、マイ・ボーイ!」 「やあ、ジャバ。どうかしたのかい?」 ジャバは嬉しくもなさそうなハンの声に、かすかに顔をしかめたが、すぐにこの不快を忘れた。「ハン、おめでとう!襲撃は完全に成功したそうだな!わたしはたいへん喜んでいる!」 「そいつはよかった。だが、それを言うために、わざわざ惑星間コールで連絡をくれたのか?」 「ああ・・・いや、ハン」ジャバは喉の奥で笑った。「ケッセルのモルース・ドゥールから、スパイスを受け取って、タトゥイーンのわたしのところにすぐに届けてくれ。わかったか?手配はすっかり済んでいる。スパイスの金も払ってある」 「わかったよ、ジャバ。報酬はいつものとおりだな?」 「ああ、ああ」ジャバは割れ鐘のような声で答えた。「急いでくれれば、ボーナスを出してもいいぞ」 「いますぐケッセルに向かうよ、ジャバ」 「結構だ、ハン、マイ・ボーイ」ジャバは考え深い顔でハンを見つめた。「それに、ハン・・・この仕事のあとは、少し休んだほうがいいぞ。こういってはなんだが、何だかやつれとる」 「ああ、ジャバ。そうするよ」 彼は接続を切り、顔をしかめた。「くそ、ぎゃあぎゃあ泣きわめくガキどもを連れて、仕事をするはめになるとはな。密輸稼業から足を洗う潮時かもしれんな、チューイー」 チューバッカはケッセルに着いたら、トララドン・ミルクとサンドウィッチ用のフラットブレッドを買う必要があると言っただけだった。 ハンはうめいた。 |
反乱の夜明け P.305下 - P.306下 |
一二時間後、スパイスを安全な秘密の下部デッキに入れ、ハンはケッセルを飛び立った。子供たちに食べ物を配るのはチューイーに任せ、彼はコースを確認しながらモーに向かった。と、突然、コントロール・ボードのライトが点滅した。帝国の税関船が彼を追ってくるのだ!「チューイー、こっちに来てくれ!」彼は叫びながら速度を上げた。 数分後、ウーキーはコクピットに走りこんできた。「あのキッドどもにストラップをつけさせろ!」ハンは叫んだ。「それからここに来てくれ!インプが二隻追ってくる!荒っぽい操縦になるぞ!」 「フルルルーム!」 ハンは<ファルコン>を弾丸のように飛ばした。サラと競った日よりも、速いくらいだ。チューイーが副操縦士席におさまると、後ろでくぐもった軋むような声が聞こえ、彼はちらっと振り向いた。イリーシアで拾った少年のひとりが、目を見ひらき、モーを見つめている。「こんなところで何をしてるんだ?」ハンは怒鳴った。“くそ、これだからガキは困る!” 「見てるんだ」その少年は答えた。 「怖くないのか?」ハンは<ファルコン>を横に立て、ブラック・ホール群のイオン・ガスをかわしながら、不機嫌な声で言った。インプ艦が撃ってきたが、大きくはずれて飛びすぎた。 “まったく!何だってキッドを乗せてるときに、撃たれるはめになるんだ?” 「うん、サー!」子供はさえずった。「カッコいい!もっと速く飛べる?」 「気に入ってくれてよかったよ」ハンはつぶやいた。「キッド、もっと速く飛ぶとも・・・」 彼は速度を上げ、最初のブラック・ホール群をかすめるように通過した。あまりの速さにすべてがにじんで、まるでハイパースペースを飛んでいるようだ。<ファルコン>をこんなに速く飛ばすのは初めてだ。「うわお!」ハンはブラック・ホールの重力井戸にあやうく引きこまれそうになって叫んだ。 「うわお!」少年は真似した。 ハンは<ファルコン>を飛ばしながら、狂ったように笑いだした。「こういうのが好きか、キッド?おれがあの帝国軍のナメクジどもを引き離すのを、よく見てろ!」 「うん、ソロ船長!もっと速く!」 「なんて名前だ、キッド?」ハンはモーの恐ろしい重力井戸に沿って、最後のカーブを回りながら尋ねた。井戸に近づきすぎて引き込まれそうになり、エンジンが抗議の唸りを発する。 「クリス・プテスカだよ、サー」 「速いのが好きか?」 「うん!」 「よし・・・」 ハンはピットに入り、飛んでくる小惑星を紙一重の差でかわしながら、ジグザグに飛んでいった。インプとの差はさっきより開いている。敵の船はもうほとんど見えない・・・。 “あと少し離せれば・・・” 額の汗が流れ落ち、目に入る。だが、彼は速度を落とさなかった。小惑星をかわして夢中で飛んでいるうちに、気がつくと、もうピットの終わりに来ていた。 「よし」ハンは唸るように言った。「あとはここを出て、ハイパースペースにジャンプすればいいだけだ」 チューイーが突然うめきながら、狂ったようにボードを示した。ハンは計器を見て大きな声でうめいた。「くそ! ピットのはずれにインプが三隻も待ち構えてる!待ちぶせしてるにちがいない!一隻はでかいぞ!」 ハンはめまぐるしく頭を回転させた。「チューイー、あのインプどもをまくのは無理だ」ハンは言った。「それに五隻も敵にまわしたんじゃ、戦っても勝ちめはない。だが、追跡してくる船は、いまはまだ見えない。ピットのすぐ内側に積み荷を落とすとしよう。おまえがカート大佐のときにやったみたいにな。あとで戻ってきて、回収すればいい。どう思う?」 チューイーは大声で同意した。「よし、操縦を代わってくれ。こいつは大急ぎでやってのける必要がある。これが座標だ」 「フルルルーフ!」 ウーキーにその座標に向かうように言い、ハンは秘密の区画がある通路に飛びだした。クリスがすぐあとを追ってくる。「おい、おまえたち、手を貸してくれ」彼はワイヤーをひと巻き取りだしながら言った。何人かの子供たちが集まり、そこに立って、彼を見ている。「おまえたちの名前はなんだ?」 「カーサよ、サー」長いブロンドの髪をおさげにした、一二、三歳の少女が答えた。 「ぼくはティム」小さな子供が言った。 「おれはアーロン」これは濃い色の髪の少年だ。「手伝うよ!」 「よし」ハンはデッキプレートを持ち上げた。「この樽を右舷のエアロックまで運ぶのを手伝ってくれ」 二分もすると、スパイスを投棄できる用意が整った。ハンはキッドたちをエアロックから追いだし、ぴたりとドアを閉め、標準の真空化手順を踏まずに、マニュアル・オーバーライドで外側のドアを大きく引き開けた。 「チューイー!」彼はわめいた。「投棄したぞ!座標をログに入れろ!」 うまくいけば、捜索が終わったあと、あのスパイスを追跡し、取り戻すことができるだろう。あの樽は合金だから、充分近づけばセンサーが拾ってくれる。 この状況では、これが最善の方法だった。 ハンはコクピットに駆け戻り、忙いでコースに戻った。待ち構えているやつらが予測している座標でピットを出る必要がある。ピットを出ていくと、あとから追ってきたインプの税関船が、ものすごい勢いで近づいてきた。ハンはチューイーを見た。「危ないところだったな」 コム・ユニットのライトが点滅した。ハンはキーを起動した。「未確認船、これからそちらに乗船する。準備にかかれ」怒った声がそう言ったとたん、<ファルコン>はトラクター・ビームにつかまれた。「こちら帝国軍ライト・クルーザー<アセッサー>だ。抵抗すれば、撃ち落とす」 ハンは子供たちに囲まれて、コクピットに座り、<ファルコン>が大きな帝国軍の艦に引き寄せられていくのを見守った。「いいか、おまえたち、よけいなことを言うなよ」 ドッキングの数秒後、帝国兵が<ファルコン>のエアロックの前に立ち、開けろと要求した。ハンはため息をつき、彼らを入れるために立ち上がって、あとについてくる子供たちを引き連れていった。 重武装した兵隊と一緒に、艦長も乗りこんできた。「タイバート・カプコット艦長だ」疑い深そうな顔の禿げた男は、特別にまずい料理でも見るような顔でハンを見た。「ソロ船長、きみはケッセルから禁制のスパイスを運んだ嫌疑を受けている。わたしが船内の捜索の指揮を執る」 ハンは手を振って船の中を示した。「どこでも捜してください。何も隠してませんよ」 カプコットはせせら笑い、ハンより何センチか背が低いにもかからわず、鼻先からハンを見下ろした。 艦長はスキャナーを持った部下に向かって頷いた。「あらゆる場所を隅々まで捜索しろ」彼は命じた。「わたしはあのスパイスが欲しい」 ハンは肩をすくめ、横に寄った。 帝国軍は捜索し・・・捜索し・・・さらに捜索した。ハンとチューイーは、ラウンジや後部倉庫で何かが倒れる音を聞いて顔をしかめた。「おい!」ハンは抗議した。「おれはまっとうな貿易商だ。船の中をそんなに荒らされちゃ困る!」 「まっとうな貿易商だと」カプコットは鼻で笑った。「スパイスを運んでいないとしたら、何をしていたんだ?」 ハンは素早く考えた。「おれは・・・その・・・実は、このキッドたちをコレリアに送っていく途中なんだ」彼は言った。「ほら、奴隷のいる惑星で大きな救出作戦があって、そして・・・その・・・このキッドたちはその惑星に残された。だから、連れてきてやったんだ」 艦長はハンをにらんだ。「コレリアは向こうの方角だぞ」彼は船尾を指さした。 ハンは肩をすくめた。「途中で立ち寄って食料を買う必要があったのさ。そうだろ、キッド?」 「うん!」小さなティムが答えた。「お腹がすいてたんだ!ソロ船長が助けてくれたんだよ!」 「ソロ船長は命懸けであたしたちを助けてくれたの」カーサが長いおさげをよじりながら言った。「船長は英雄よ」 「おれたちを助けてくれたんだ」アーロンも言った。「おれたち、もう少しで吹っ飛ばされるとこだったの」 小さなクリスがハンのそばに来て、彼の手をとり、帝国軍の艦長を見上げた。「ソロ船長は銀河一の名パイロットだよ。帝国軍より速く−」 ハンは危ないところで彼の口を手でふさいだ。「その」彼は力なく笑った。「キッドときたら、おかしなことを言うな。あんたには家族がいるのかい、艦長?」 カプコットはおかしいとは思わなかったようだ。 ようやく捜索乗員たちが戻ってきた。彼らは一様に不機嫌な顔をしていた。「艦長、徹底的に捜索しましたが、何も見つかりませんでした」 タイバート・カプコットの顔は怒りで赤くなった。彼はそこに立って言葉を探していたが、やがてハンの顔を見た。「よろしい。われわれの勇敢なソロ船長は、この子供たちをコレリアに届けるところだそうだ。これほど高潔な行為には、帝国軍のエスコートが必要だろう。コレリアにコースを取りたまえ、船長。われわれはきみをエスコートする」 ハンはあんぐり口を開け、それからぱちんと閉じて、努力して頷いた。「いいとも、行きましょう」 |
反乱の夜明け P.306下 - P.310下 |
故郷のコレリアに着いたときには、その日がほとんど終わりかけていた。ハンはスパイスが心配で、この遅れに気が気ではなかった。あれがなくなればジャバは弁償しろと迫るだろう。商売は商売だ。そしてハットは情け深いことで知られているとはいえない。 コレリアに着くと、インプがすでに連絡を入れており、マスコミ関係者が彼らを待っていた。ハンとチューイーは歓迎され、英雄扱いされた。感謝した政府は、ハンにコレリアン・ブラッドストライプを授与しようとしたくらいだった。だが、この勲章はすでにもらっている。 ハンはピットと投棄した積み荷のところに戻りたくていらいらした。そしてようやく子供たちに−まあ、みんな、なかなかいいキッドたちだった−別れを告げ、自由な市民としてコレリアを発った。 |
反乱の夜明け P.310下 - P.311上 |
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