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反乱の夜明け #14
イリーシアの戦い

年 代 出 来 事 場 面 参 考


イリーシア
Ylesia
Rebel Dawn
P.325 - P.360 L.31
 ジャラス・ニブルは周囲の嵐を見守り、彼に従ってくる反乱同盟軍のアサルト・シャトルと頻繁に連絡をとりながら、慎重にイリーシアの大気圏に入った。この艦隊を先導している彼は、自分の責任をよく心得ていた。「シャトル3」彼はコム・ユニットに向かって軋むようなベーシックで呼びかけた。「気をつけろ。左に流れてるぞ。ストーム・セル311がそっちに向かってる。稲光を伴う嵐は計器を狂わせる。速度を上げて、おれたちに近づくんだ」
 「こちらシャトル3、了解した、<ドリーム・オブ・フリーダム>」
 彼らは分厚い雲の中を降下していた。周囲は暗く、強い風が吹きつけてくる。彼らは太陽に向かって飛んでいたが、夜が明ける前に下に降りることになる。
 サラスタンは自分の計器を確認した。「隊形のあいだを詰めろ」彼は命じた。「全船、距離を詰めろ」
 右舷を飛ぶシャトルのランニング・ライトがちらっと見え、それから雲に隠れた。彼らは強風にあおられていた。雲があまりにも厚いので、ニブルはビュースクリーンを見る手間もかけなかった。計器を頼りに飛ぶしかない。すぐそばで雨とあられの電磁嵐が猛威をふるい、黒い雲の中に稲光が閃くなか、ニブルは戦術センサー上の隊形の進行に従った。
 イリーシアの大気の中を飛ぶのは一〇年ぶりだったが、すべての記憶が驚くほどはっきりとよみがえってくる。ニブルはコロニー1に振り分けられた反乱軍の半分を先導し、あとの半分は<ミレニアム・ファルコン>のハン・ソロが先導していた。ニブルは昨日、ざっと彼の船を見せてもらった。そしてふたりは思い出話に花を咲かせ、ニブルは、ハンが誇りであり喜びである自分の船を、嬉しそうに案内するのを楽しんだ。
 ニブルはべつのストーム・セルを見つけ、彼の隊形にそれを示した。そして無意識に船ディング針路を確認しながら、自分の船を急角度で降下させた。彼が着床するのはコロニー1の敷地のど真ん中だ。彼は一チーム分の兵士を乗せていた。アンドリスの工場を確保するのが、彼らの任務だった。
 ニブルが降下していくと、艦隊の進行状況を報告する<リトリビューション>の指揮官の声が聞こえた。思いのほか強い抵抗にあったが、反乱軍はイリーシアのスペース・ステーションを占拠したという報告だ。
 ニブルは連絡を密にとりながら、隊形を導いて降下していった。彼はあまり経験のないパイロットの負担を軽くするため、ストーム・セルの状況を注意深く追跡していた。論理的には、ニブルのあとに従えば、ほかの船は操縦に専念できるわけだ。
 もうすぐ、最も厚い雲の層の下に出る。夜明けはほぼ一時間後に迫っているが、コロニー1はまだ暗闇の中に沈んでいた。ニブルはいちばん右のシャトルが遅れているのに気がつき、急いで連絡をとった。
 「アサルト・シャトル6、遅れてるぞ。どうした?」
 「スタビライザーがいうことを聞かないんだ」緊張した若い声が返ってきた。「いま副操縦士が調整してる」
 「隊形、速度を落とせ。シャトル6を残しちゃ行けないからな」
 隊形はニブルの命令に従った。次に聞こえたのはハン・ソロの声だった。「おい、ニブル、どうした?速度が落ちてるぞ」
 サラスタンは状況を説明した。「こっちだけ先に着いても困る。おれも速度を落とすよ」ハンが言った。<ファルコン>とそれに従う船が速度を落とし、後ろにさがった。ニブルの船は、プランどおり、先頭で降下していく。
 雲の中から出たときは、どちらのグループもきちんと隊形を組んでいた。コロニー1には夜の光が見えた。ニブルは反乱軍のパイロットのお守りができるように、シャトル6を自分のすぐ横に移し、あいかわらず隊形を先導していた。ほかのシャトルは船半分の距離をおいて<ドリーム・オブ・フリーダム>と6に従いながら、自分たちに割り振られたランディング座標に向かっていく。
 と、いきなりそれが起こった。センサーがけたたましく警報を発した。ちらっと下を見ると、ヘビー・ターボレーザーが彼を狙っている!
 “何だ?”ニブルはぼんやりと思った。“いったい全体−”
 すさまじい爆発が起こり、<ドリーム・オブ・フリーダム>は一瞬にして炎に包まれた。哀れなニブルは、自分が撃たれたことに気づく暇すらなかった。

イリーシア
Ylesia
Rebel Dawn
P.325 - P.360 L.31
 ハン・ソロは恐怖に目をみはり、<ドリーム>とアサルト・シャトル6が、地上に据えつけられたヘビー・ターボレーザーからの二発にやられ、一瞬にして吹っ飛ぶのを見守った。ターボレーザーが再び火を噴き、あわてて回避飛行に移った二機のシャトルが強風に突っこみ、ずんぐりした翼を接触させて火を噴きながら、ジャングルに落ちていった。まばゆい火の玉が暗闇を赤く染め、墜落の場所を示す。
 ハンはつかの間ショックで凍りついたが、すぐに我に返った。“ターボレーザーだと!いったいどこから来たんだ?”それから彼は自分の位置をチェックして、回避飛行に移った。同時にコムのスイッチを入れた。「隊形1と2、針路を転じろ!ブリア、きみの部下に予備ランディング座標に降下するよう言うんだ!離れろ!下にはヘビー・ターボレーザーがあるぞ!ニブルはそれにやられた!」
 彼は返事を待たずに<ファルコン>を横に立て、接近針路を変更した。だが、ほんの少し遅かった。恐ろしい緑のエネルギー・ビームが<ファルコン>の船体下部を紙一重で通過し、ボードのダメージ・コントロール警告ライトが点滅しはじめた。いまのビームが、取り付けたばかりのリトラクタブル・ブラスターのコントローラーを壊したのだ。あまりにも近かったため、地形追走センサーもやられていた。ハンは毒づき、温厚なチューイーさえ吼えた。下部砲塔にいるジャリクが叫び声をあげた。おそらくいまのビームを間近に見て、恐怖に駆られたのだろう。
 “まったく、あんなに近くちゃ神経がもたない!”
 彼は隊形から離れ、速度を上げてターボレーザーのレンジを出た。ありがたいことに、ほかのシャトルも無事だった。
 予備のランディング座標は砂浜だ。コロニー1の中心からは二キロ以上離れている。ハンは着床準備にかかり、<ファルコン>を海のそばのかたい砂地に降ろした。彼は少しのあいだ、イリーシアの闇に包まれ、荒い息をついてそこに座っていた。ほかのパイロットが<ファルコン>の上に降りないように、ライトはそのままつけておいた。
 右手は砂丘で、その向こうに湿原とコロニー1がある。左手はハット語でゾマ・ガワンガ、“西の海”だ。前後に広がる砂浜には、すでにほかのシャトルが着床していた。
 航行後の点検をチューイーに任せ、ハンはコムのスイッチを入れた。「シャトル1、こちら<ファルコン>、ブリア、ハンだ。シャトル1、応答せよ」
 静電気の音がし、それからブリアの声が聞こえた。ハンはほっとしてため息をついた。少し前に隊形の様子がわからなくなっていたのだ。ジャングルに墜落したのはシャトル1ではないと思っていたが、確認できるまでは心配だった。
 「ハン、聞こえるわ。シャトル1は予備座標に着床するところよ。これから地上戦に備え、部隊を配置するわ。砂丘を越え、ジャングルを抜けてコロニー1の施設に向かう」
 「おれも一緒に行く。ひとりで行くな」
 「了解、<ファルコン>」彼女はためらった。「ハン、管理ビルを急いで確保したいの。トゴリアン部隊をいますぐ送りこめる?」
 ブリアは宝物殿のことを心配しているのだ。コロニー1を熟知しているマーグがトゴリアン部隊を率いて先陣を切るのは、最初の予定どおりだ。だが、ここはもとの座標から、だいぶ離れている。
 「わかった。そうするよ」
 ハンはラウンジに向かった。トゴリアンたちはストラップをはずし、武器のエネルギーを確認しながら、荒っぽい航行にぶつぶつ言っていた。彼らはなぜハンが胃がよじれるようなアクロバット飛行をしたのか、知りたがった。ハンはざっと説明し、それからマーグとムロヴとサラとほかのトゴリアンたちに、攻撃目標よりかなり遠くに着床したことを説明した。「最初のプランより、厳しい状況になるぞ。ジャングルの中を二キロも歩くことになる」
 マーグは天井に頭をぶつけないように気をつけながら立ち上がった。「心配入らない、ハン。マーグ、ジャングルの中、管理ビルに行く。マーグ、コロニー1のジャングルで狩りした。マーグ、地形よく覚えてる」
 ハンは赤外線ゴーグルとライト・ヘルメットをつけ、武器をつかんで、トゴリアン部隊のあとからランプを降り、彼らのあざやかな黄色い姿が砂浜を歩いていくのをしばらく見守った。ゴーグルを押し上げると、その姿はとたんに闇に包まれた。そしてトゴリアンたちは影のようにその闇に消えていた。夜明け前の空気を胸いっぱいに吸いこむと、イリーシアの海のにおいとともに、さまざまな記憶がよみがえった。
 「チューイー」ハンは言った。「気をつけろよ。この惑星はまったく厄介なところだ。雨が降ってないだけまだましだが」彼は自分のゴーグルを叩いた。「こいつが必要か?」
 チューイーは首を振った。ウーキーは人間よりずっと夜目がきく。このままでよく見える、ゴーグルはいらない、彼はそう答えた。
 ハンが踵を返して昇降ランプを上がろうとすると、ランドとジャリクが降りてきた。ふたりともハンのようにブラスター・ライフルを手に持ち、赤外線ゴーグルのついたヘルメットをかぶっている。ふたりはランプの下で並び、反乱軍の兵士たちがシャトルから降りて集合するのを見ている。ランディング・ビークルもほとんどがすでに降ろされていた。
 「で・・・どこへ行くつもりだ?」ハンは尋ねた。
 「戦いのあるところさ」ジャリクが答えた。「これは見逃せないよ!」若者はブラスター・ライフルをつかんで、飛び跳ねた。最初の地上戦を前にしてすっかり興奮しているようだ。
 ハンはすでに、ジャリクは<ファルコン>に残していこうと決めていた。そのほうが安全だ。「待ってくれ。トゴリアンは管理ビルを確保するために出発した。おれとチューイーはブリアと一緒に行く。そのうえおまえたちまで戦いに参加したら、だれが<ファルコン>を見張るんだ」
 「ロックして、セキュリティ・システムを起動しておけばいいさ」ジャリクが言った。「あんたが入れたくなければ、誰も入れないよ、ハン」
 ランドはしんがりについていた反乱軍と密輸業者たちの船が着床する砂浜を示した。「ブリアはここの船に後衛の見張りを残すんじゃないのか?」
 ハンは彼をにらんだ。ランドは自分がよけいなことを言ったのに気づいて、口をつぐんだ。
 密輸業者が自分たちの船から出てきた。何人かは不機嫌な顔をしている。カジ・ネドマクとアーリー・ブロンがかっかして近づいてくるのを見て、ハンは緊張した。彼の知らない数人の男たちが一緒だった。「ソロ!おれたちをまっすぐターボレーザーに先導するとは、いったいどういうつもりだ?」ブロンが怒鳴った。「あやうくエンジンをやられるところだったぞ!」
 ハンは肩をすくめ、両手を広げた。「おい、おれのせいじゃない!知らなかったんだ!おれも黒焦げになるところだった!」
 そのとき、副官のジェイス・ポールを伴ってブリアが近づいてきた。「ハンの責任じゃないわ」彼女は腹を立てている密輸業者たちをなだめた。「でも、ボサンには文句を言うつもりよ。彼らがこの任務に必要な情報を収集することになっていたの。あのターボレーザーが据え付けられたばかりならべつだけど、そうでなければ突き止めておくべきだったわ」
 集まった船長たちは、さらに不満を口にした。が、ブリアは片手を上げてそれを制した。「心配しないで。分け前は手に入るわ」彼女は凛とした厳しい声で言い渡した。「わたしたちが施設を確保するまで、この砂浜で待っててちょうだい。さもなければ・・・戦いが好きな人は、大歓迎よ」
 ほとんどが首を振り、歩み去った。だが、ひとりかふたりは反乱軍と行動をともにすることにした。たぶん、倉庫で最上のスパイスを物色するためだろう。ハンはブリアを見た。「チューイーとおれはきみと一緒に行く」
 ジェイス・ポールが口を開いた。「中佐、部隊を連れてあのターボレーザーを確保に向かいます。あとでほかのシャトルが降下するのに、あれが火を噴いていたのでは、とても無理です」
 ブリアは頷いた。「申し出は許可します、中尉。デモ・チームを連れていきなさい。あのレーザーを確保するか、それが無理なら破壊してちょうだい」
 「了解しました、中佐」
 「おれはジャリク・ソロだけど、一緒に行ってもいいかな?」ジャリクが口をはさんだ。「あのレーザーは、もう少しでおれの尻を焦がすとこだったんだ。あれを確保するのに手を貸したい」
 ポールは頷いた。「いいとも」
 ハンはランドの目を捉え、ジャリクのほうに顎をしゃくった。ランドはため息をつき、前に進み出た。「おれも入れてくれ、中尉。ランド・カルリジアンだ」
 「いいとも、カルリジアン」ハンはポールのチームと部緒に砂浜を歩きだした友だちに手を振り、ブリアが船を守るためここに残す兵士たちに最後の指示を与えるのを見守った。
 それからチューイーとともに、ブリアとそのチームのあとに従った。コムリンクがさえずり、ブリアは聞こえるように、それを上に向けた。上の<リトリビューション>に残っている、攻撃隊の指揮官ブレヴォンからだ。「レインボー1から全隊に告ぐ。ほかのコロニーから手強い抵抗の報告が届いている。油断するな」
 ブリアはハンを見て、それからクロノに目をやった。「ほかのコロニーではすでに戦いが始まっているわ。わたしたちは予定より遅れてる」彼女はコムリンクの音を低くした。それぞれの隊を率いる中佐たちが報告を入れる声が、遠く、小さく聞こえる。彼女は小走りになり、ハンは部隊とともにそのあとを追った。
 赤外線ゴーグルの視界は、慣れるまで少し時間がかかる。ハンは砂浜に打ち上げられた漂流物につまずいては転びそうになり、棘のある草に踏みこんではすり傷ができた。そのたびにチューイーが根気よく体をつかんで持ち上げ、からんだ草から助けだしてくれた。すり傷の痛みに耐えながら、ハンは後ろの連中に警告した。
 “ここは久しぶりだからな”ハンはそう思いながら重いA280ライフルをつかんで、ブリアのあとから砂浜を上がった。砂が動き、体のまわりで崩れていく。足もとも不安定だ。以前似たようなことをしたときは、不愉快な結果になった。
 ブリアが最初に頂上についた。彼女は砂の上に伏せ、油断するなと手で合図した。ここで撃ち合いが始まるとはハンには思えなかった。コロニー1の建物はまだずっと先なのだ。だが、戦いでは気を抜くことは死につながる。彼はうつぶせになり、チューイーを従え、彼女のそばに這っていった。襟もとから砂が入り、体が痒くなる。だが、掻いている暇はない。
 ハンとウーキーとブリアは、最後の五〇センチを這い上がり、砂丘のてっぺんから顔を出し−頭を吹っ飛ばされそうになった。彼らはブラスターの連射を浴び、あわてて頭を引っこめた。砂の一部が瞬時にしてガラスに変わり、熱い粒子となって飛び散り、彼らを刺した。
 チューイーが吼え、三人は砂に伏せた。連射がやむと、ブリアは砂丘の向こうをスキャンし、ハンを見た。赤外線のさまざまな色合いの緑を背景に、白い唇と黄色くぼやけた顔が見える。ハンはゴーグルの下でブリアが顔を曇らせているのを感じた。「ハン・・・向こう側には少なくとも二〇の生命体がいるわ。わたしたちを待ちぶせしてる。誰だか知らないけど、ガモーリアンじゃないことはたしかね」
 ハンは彼女を見つめた。「それにあのターボレーザー・・・」
 「ええ」彼女はコムリンクのスイッチを入れた。「レインボー1、こちらレッド1、着床時にターボレーザーの攻撃を受け、予備ランディング座標に変更。中程度の被害で着床。四隻失ったわ1−シャトルが三隻と、友だちがひとり」“友だち”とは、同行している密輸業者か海賊のことだ。「強力な抵抗に直面したが、攻撃を続行する」
 攻撃司令官の声が聞こえた。「レインボー1、了解した。レッド1、ホワイト1が必要か?」<リトリビューション>に残っているバックアップが必要か、ブレヴォンはそう尋ねているのだった。
 ブリアはコムリンクのキーを押した。「まだいいわ。レインボー1。ターボレーザーを確保しないうちは、着床は無理よ。現在その努力中。以上」
 「レインボー1、以上」ブレヴォンは了解し、通信を終えた。
 ブリアは周波数を切り替え、自分の部隊に連絡した。「ジェイス、ブリアよ。砂丘の向こうを見てみた?」
 「ええ」ポールの声は厳しかった。「あの連中は誰なんです?」
 「さあ。でも、プロだってことは間違いないわね。北に向かってジャングルを通り、湿原に出てちょうだい。わたしたちはジャングルを通過して南から行くわ。挟み撃ちにしましょう」
 「了解」ポールが言った。「泥の中を這うのは、こっちに押しつけるんですね」
 ブリアは短く笑い、接続を切った。
 ハンとブリアのチームは一〇分近く砂浜を歩き、ジャングルの木立が充分なカバーになるところまで出て、それから砂丘を上がり、おりてジャングルに入った。ハンはチューイーのあとに従い、腐った植物の中をのろのろと進んだ。ひどい臭いだ。ハンは鼻にしわを寄せた。人間より嗅覚の鋭いウーキーが、抗議するようにうめいた。彼らは汗をしたたらせ、ジャングルのぬかるみに滑りながら進んだ。もっと滑らない底のブーツをはいてくるんだった。ハンはそう思わずにはいられなかった。
 ようやくジャングルの端に達した。ブリアのセンサーは彼らの目標がすぐ先にあることを示している。ジャングルの中にしゃがむと、コムリンクが再び音を発した。彼女は音量を上げた。「・・・各隊が強力な抵抗にあっている。グリーン1は敵を数名捕らえ、ノヴァ・フォースと呼ばれる傭兵部隊の存在を確認した。レインボー1以上」
 「ノヴァ・フォース?傭兵部隊?」ハンはブリアを見た。「まったく!いったいどこから湧いてでたんだ?」
 彼女は肩をすくめた。
 ハンは険しい顔になった。「密輸業者や海賊には、朝飯前だと説明したんだぞ!」
 ハンはブリアとジェイス・ポールとの通信に耳を傾けた。用意は整った・・・。
 ハンの脈は狂ったように打っていた。唾を呑むと、金属的な味がした。「用意はいいか、パル?」彼はボウキャスターのエネルギーを確認しているチューイーに向かって囁いた。
 「フルルルーン!」
 たっぷり充電されているのはわかっていたが、ハンもそれに倣い、ブラスター・ライフルのエネルギーを点検した。
 ようやくブリアが頷いた。そして三人と部隊はジャングルから匍匐前進し、ぬかるみの中、刈りとった草の横を進んだ。もちろん、つい最近、雨が降ったのだ。ここはイリーシアだ。やがてかたいパーマクリートに指が触れた。ランディング・フィールドか、それとも道路か・・・一〇年前にはなかったものだ。
 ブリアはポールと秒読みを初め、それから−
 「撃て!」
 ハンはゴーグルをつけたまま膝立ちになった。見慣れぬヘルメットをつけたおぼろげな形が、熱を発して黄色く見える。彼は撃った。
 明けはじめた夜の薄闇を、ブラスター弾がまばゆく染め、すさまじい発射音が悲鳴や雄叫びを吸いこむ。ハンはライフルを連射しながら、チューバッカやブリアの兵士と前進を続けた。彼の左の兵士が倒れた。彼はちらっと彼女を見たが、彼女の顔があった場所には黒い穴しかなかった。彼は焦げた肉のにおいをかぎながら前進を続けた。
 まもなく敵の銃声が途絶え、完全に消えた。ブリアは撃ち方やめ、と怒鳴った。近づいたハンとチューイーの前には、死体が散らばっていた。ブリアは足の先でそのひとつをこづいた。泥浴びをしたあとのトランダ・ティルのように、全身泥にまみれたジェイス・ポールが、近づいてきた。「袖の記章を見て」ブリアが言った「爆発している星の形だわ。それにこの装甲服と武装からして、プロに間違いない」彼女は死体を数えた。「二〇人。ターボレーザーを守っている兵士の数はもっと多いでしょうね」
 彼女とハンは敷地を見渡した。夜明け前の薄闇の中に、ターボレーザーを据え付けたタワーが見える。「あいつが下に向いて地上を攻撃できなくてよかった」ハンはつぶやいた。「さもなきゃ、おれたちはあっという間に黒焦げだ」
 ジャリクとランドが近づいてきた。ブリアは、負傷者に手を貸し、ノヴァ・フォースの武器を回収して船に戻るように、数人の兵士たちに命じている。四人は横に立ってそれを見守った。「いいこと、全部回収するのよ。使えるものはすべて」
 兵士たちは頷いた。
 ハンは泥まみれのランドとジャリクに顔を向け、首を振った。「ランド、ドレア・レンサルがいまのおまえを見たら・・・」
 チューイーが笑いだした。
 「うるさい、ハン。おまえだってひどいもんだぞ、チューバッカ」ランドは台無しになった服の泥を指先で弾いた。さいわい彼は、この仕事向けに軍服を着ていた。「その話はやめろ。このまえこんなに汚くなったのは・・・まあ、話すと長くなるが」
 ハンは低い声で笑ってジャリクを見た。「で・・・おまえはどんな調子だ、キッド?」
 ジャリクは頷いた。「快調さ、ハン。少なくとも、ふたりは倒した」
 ハンは肩をつかんだ。「そいつはすごい。これで今度は戦士ってわけだ」
 ジャリクは泥だらけの顔に白い歯を閃かせた。
 負傷者が運ばれると、ブリアはコムリンクのスイッチを入れ、待機しているチームに速度を上げ、急いで敷地に向かうように命じた。「コロニー1を確保するわ!かたまって行くわよ!デモ・チーム、用意はいい?」
 音量を上げると、仲間の通信が聞こえた。「レインボー1、こちらグリーン2。わたしが指揮をとる。グリーン1はやられた」
 「レインボー1、了解。グリーン2、そちらの状況は?」
 「ほぼ完了した。あとは雑魚の整理だけだ。五分以内にターゲットを確保する」
 ブリアは顔をしかめた。「わたしたちはずいぶん遅れてるわ」彼女はキーを押した。「レインボー1、こちらレッド1。前線突破。兵力を強化して施設に向かう」
 「レッド1、ターボレーザーの状況は?」
 「レインボー1、二部隊でこれからそれを確保にかかる。レッド1、アウト」
 「レインボー1・・・アウト」
 ハンとチューイーはポールのグループがジャングルに入るのを見送った。東からターボレーザーに近づくためだ。それから彼らもブリアの部隊と一緒に施設に侵入し、忙しくなった。途中、イリーシアのガードの散発的な抵抗にあったが、ほとんどが簡単に対処できた・・・これは予定どおりだ。銃声がやんだあとも、の静寂は戻らなかった。うめき声や助けを呼ぶわめき声、さまざまなエイリアンの言葉が聞こえる。
 ブリアの部隊は連絡をとり合いながら前進した。
 「レッド・ハンド・リーダー、こちらスカッド3。アンドリス工場を確保しました。デモ・チームが入っているところです」
 「レッド・ハンド・リーダー、スカッド6です。ウェルカム・センターを確保しました。デモ・チームを召集中です」
 「レッド・ハンド・リーダー、スカッド7です。宿舎に入っています。傭兵がガードしていますが・・・六人だけです。たいした抵抗はないと思われます・・・」
 「レッド・ハンド・リーダー、スカッド2です。ターボレーザーを確保するため、位置につくところです。攻撃時間は・・・五分後です」
 ハンとチューイーは、ブリアのそばを離れず、三人はたがいの背中をカバーしながら進んだ。施設内にはブラスター・ライフルの音が反響し、悲鳴とガモーリアンの唸りや金切り声、泣き声がそれに交じる。
 どうやらここには全部で三、四〇人の傭兵がいるようだ。ノヴァ・フォースの兵士たちは選りすぐりのプロで、勇敢に巧みに戦った。そして、敗北が明らかになると降伏した。彼らが戦っているのは金のため、大義のためではない。生きながらえて、またべつのときに戦えばいいのだ。
 一度、狂った巡礼がブラスターを拾い、影の中から飛びだしてきて、ブリアを撃とうとした。ハンはそのボサン女を撃ち殺した。とっさにほかを狙う暇がなかったのだ。ブリアは恐怖を浮かべてその巡礼を見下ろした。青緑色の目に光ったのは、涙だったかもしれない。「ハニー・・・仕方がなかったんだ・・・」
 「わかってるわ」ブリアは消えそうな笑みを浮かべた。「でも、助けようとしている人々に攻撃されるのは、つらいものよ」
 ハンは肩を叩いて慰めた。彼女はコムリンクを口に近づけ、攻撃司令官に答え、IDを聞いた。「レインボー1」
 時間がじりじりと過ぎていく。ブリアは自分の部隊に後ろにつけと合図した。攻撃司令官チャンネルの声が再び聞こえた。一見落ち着いた声だが、緊張しているのがわかる。「レインボー1、こちらブルー1。助けが必要なの!」
 ブレヴォンは抑揚のない声で答えた。「ブルー1、状況を説明せよ」
 「損害は三〇パーセント。敵の銃撃で動きがとれない。少なくとも二基のリピーティング・ブラスターがあるわ。ひとつは倉庫、もうひとつは宿舎よ。ホワイト1を要請する」
 「ブルー1、こちらホワイト1。三分で二小隊降下できる。どこに降ろす?」
 「倉庫を占拠して。一小隊は北に。ヒル3-1の南側に頼むわ。もう一隊はジャングルの中、東に降ろし、敵を側面から攻撃してちょうだい。こっちは宿舎を攻撃するわ」
 「いいだろう、ブルー1。ホワイト1、アウト」
 「ブルー1、アウト」
 ブリアはターボレーザーを見上げた。が明けはじめている。「ジェイスが攻撃を開始するころだわ・・・」
 その言葉が合図のように、ターボレーザーの周囲でまばゆい光が爆発し、叫び声と悲鳴と少なくとも二発のグレネードが爆発する音が、空気を震わせた。
 ブリアは体をこわばらせ、何秒か待った。それからコムリンクのキーを押した。「スカッド2、報告せよ!中に入れたの?ターボレーザーを確保できたの?」
 返事はなかった。グリッタースティム工場の陰で、ハンとチューイーは緊張して顔を見合わせた。ブリアの兵士が建物の後ろから走ってきた。「われわれは目標を確保しました、中佐。デモ・チームを呼びました」
 ブリアはうわの空で頷いた。「よくやったわ、スコット、スカッド2、こちらレッド・ハンド・リーダー。応答せよ。何が起こってるの?」
 心臓が一〇回目に重い音を立てたとき、突然静電気の音がした。「レッド・ハンド・リーダー、スカッド2」ジェイス・ポールの声だ。ハンとチューイーの周りで兵士たちが抑えた歓声をあげた。「占拠した。だが、負傷者がでた。医務員を頼む。アウト」
 ブリアは急いでスカッド2のバックアップを呼び、それからシャトルの医務員を呼びだし、彼らに敷地内に飛んできても安全だと伝えた。
 彼女はコムリンクに向かって言った。「スカッド8、あなたたちトゴリアン・チームの具合はどう?」
 コムリンクから、訛りは強いが理解できるベーシックが返ってきた。「ムロヴよ。ビルはほとんど確保したわ、ブリア。でも、ジャングルの中にいるスナイパーを捜さないと。ガードの一部が逃げだしたの。ここには船が降りてるわ。ほとんどが小型シャトルだけど、ひとつだけ大きいのがある。全部見張りをつけたわ。ガードが脱出できないように」
 「よくやったわ、ムロヴ。ガモーリアンが相手じゃ、もの足りなかったでしょうね」ブリアは言った。
 ムロヴはおかしそうに笑った。
 ブリアがチャンネルを切り替えたとたん、連絡が入った。「レッド1、こちらレインボー1。状況を報告せよ」
 ブリアが答えようとして口を開いたとき、施設の真ん中でブラスターの音が爆発した。ブリアとハンとチューイーは地面に伏せ、壁にはりついた。ハンは泥を吐きだ出した。腰につけた水筒で口をすすぎたかったが、へたに動いて的になるのは願いさげだ。
 「わたしを掩護して、みんな!」ブリアが肩越しに叫んで、じりじり前に進みはじめた。ハンとチューイーはすぐあとに従った。ブラスター弾が三人をかすめ、頭の上を飛び過ぎる。
 ブリアはちらっと後ろを見て、ハンに気がついた。「さがって!わたしに任せてちょうだい!」
 「きみが有能なのはわかってる」ハンはわめき返した。「きみの手際を見逃したくないだけだ!」
 ハンは初めてブリアが毒づくのを聞いた。彼女は注意深くブラスター・ライフルの狙いを定め、ターゲットがビークルの後ろから姿を現わすのを待って、撃った。
 ガードはばったり倒れ、動かなくなった。
 「うまい!」ハンは拍手した。
 彼らは一緒に兵士たちのところに戻った。ブリアは落としたコムリンクを見つけ、それを拾いあげた。「レッド1、こちらレインボー1。状況を報告せよ」ブレヴォンの声はまだ落ち着いていた。
 ブリアは少し息をはずませて報告した。「こちらレッド1、ターボレーザーは確保した。工場もほとんど確保。倉庫と宿舎は現在攻撃中。一〇分もすれば完了する」
 「了解、レッド1。ホワイト1の出動は必要か?」
 「いらないと思うわ、レインボー1。わたしたちは優勢よ」
 「レインボー1、了解」
 彼らは耳を澄まし、緊張して待った。それから−「レインボー1、こちらゴールド1、目的を確保した」
 「レインボー1・・・了解した」
 一分後「レインボー1、こちらオレンジ1、ターゲットを確保した」
 「レインボー1、了解」
 コロニー3を除く、全員が報告を入れてきた。そのころにはブリアも自分の部下全員に確認を取っていた。「レインボー1、こちらレッド1。ターゲットを確保したわ」
 「レインボー1、了解」
 「コロニー3からの連絡がまだね」ブリアは心配そうにつぶやいた。「彼らにはバックアップが必要だわ。万事順調だといいけど・・・」
 彼女の不安に答えるように、べつの声が聞こえた。「レインボー1、こちらホワイト1、コロニー3より報告する。ターゲットは確保した」
 ブレヴォンが答えた。「了解、ホワイト1。ブルー1はどうした?」
 別の声が答えた。「彼女は死んだ」
 ブリアは顔をあげた。「これで完了よ。イリーシアはわたしたちが占拠したわ、みんな。あとは雑魚の始末だけ。船を呼びましょう」
 ハンはチューバッカを振り向き、彼を横に引っぱった。「チューイー、いますぐしてほしいことがある」
 「アルルルーン?」
 「このエリアは確保した。だが、管理ビルのムロヴとマーグには助けが必要かもしれん。あそこには宝物殿がある。彼らの様子を見てきてくれないか。あそこが確保されたのを確認してくれ。必要なら、彼らの手助けをするんだ。おまえの夜目はトゴリアンと同じぐらいきくからな。彼らがジャングルに逃げたガードたちを捜してるとしたら、おまえにも手伝える。そうだろう?」
 「フルウーフ!」チューバッカはいつものように、ハンと別々になるのをしぶった。
 「頼む!ガードが宝物殿に入り込んで、テロエンザの宝を盗むのが心配なんだ!あれはおれたちのもんだからな」
 チューイーは不満そうに喉を鳴らしたが、彼の抵抗は弱まっていた。
 「いいか、この毛玉」 ハンは怒鳴った。「言い争ってる暇はない。マーグとムロヴは信頼してる。だが、ほかのトゴリアンは知らない連中だ。それに、抜け目のないガードがひとりでもしのびこんだら、それでおしまいなんだぞ。だからおまえはマーグとムロヴを助けてあそこを確保し、宝物殿のロックがしっかり閉まってるのを確認するんだ。三〇分もあれば終わるさ。宝物殿の場所は、おれのプランでわかってるだろ?」
 「フルルルーン・・・」
 「よし。急いで行ってこい」
 チューバッカはまだ不満そうだったが、それ以上逆らわずにハンのそばを離れた。
 淡い薔薇色に染まった空から、まるで金属の雨のように次々と船が降下してきて、敷地の中央に着床しはじめた。
 ハンが腰のフラスクからひと口水を飲んだとき、浅黒い姿が彼に向かって走ってきた。ハンはゴーグルを押し上げ、弱い夜明けの光の中で目を細めた。ランドだ。彼の顔を見ないうちに、ハンは何か悪いことが起こったのを悟った。彼は急いでランドに歩み寄った。
 「ハン・・・ジャリクだ。キッドがやられた。おそらく助からんだろう。おまえを呼んでるんだ」
 「くそ!」ふたりは走りだした。
 ランドは彼を応急手当ての場所に導き、それから担架のひとつを指さした。ハンはそこに歩み寄り、担架を見下ろした。ジャリクの乱れた髪が目に入った−判別できるのは、ほとんどそれだけだった。顔全体がひどい火傷で、恐ろしいほど赤黒くなっている。ハンは最初、ジャリクはもう死んでいると思った。それから、まだ息をしていることに気がついた。彼はいちばん近い医務員を見た。オルデラン人の医務員は厳しい顔で首を振り、声を出さずに口を動かした。“気の毒だけど”
 「おい・・・ジャリク・・・聞こえるか?」ハンは汚れた手をしっかりと握りしめた。「キッド・・・おれだ、ハンだ・・・」
 ジャリクのまぶたはほとんどなくなっていた。きっと目も見えなくなっているだろう。だが、ジャリクはわずかに顔をハンに向け、口を動かした。「ハン・・・」
 「無理するな・・・ちゃんとよくなる。バクタ・タンクに入れば、すぐにまた女の子を追っかけ、インプと戦えるようになるさ」
 ジャリクはかすかな音をもらした。ハンはそれが笑い声なのに気づいた。「嘘つき・・・ハン・・・あんたに・・・話すことがある」
 ハンはごくりと唾を呑みこんだ。「何だ?聞いてるぞ」
 「名前は・・・おれの名前は・・・ソロ・・・じゃない。嘘をついてたんだ」
 ハンは咳払いして喉の熱い塊を払った。「ああ。知ってるよ。いいんだ。ソロって名前をおれがやる。おまえはとっくにそれだけの働きをしてる」
 「知って・・・たのかい?」
 「ああ。最初からな」
 指に力がこもり、それから抜けた。ハンはかがみこんで、脈をとった。そしてジャリクの手をそっと放し、立ち上がった。いまにも涙があふれそうだった。彼はしばしの間そこに立ち尽くし、悲しみをこらえた。そして通り過ぎようとする医務員の袖をつかんだ。「ジャリクは死んだ。彼のIDはどこだい?」
 彼女はコム=チップをくれた。ハンはそれを受けとり、キーを押し、“死者”のところに、“ジャリク・ソロ”の名前を入れた。
 医務員が助けを呼び、二対の作業ドロイドが近づいてきた。ハンは彼らが死んだジャリクを手際よくシーツに包むのを見守った。ドロイドは地面にきちんと並べられた死体の列にそれを運んでいった。
 ハンがまだ踵を返さないうちに、ジャリクの担架にはべつの負傷者が横たえられた。「水を・・・」女兵士はしゃがれ声でつぶやいた。ハンはフラスクを腰からはずした。「きっとよくなる」彼はそう慰めながら、水を飲ませた。「大丈夫だ」
 女は喉を鳴らして飲んだ。「ありがとう・・・」彼女は力なく担架に横たわった。
 「ああ。あんたの名前は?」
 「リンデラ・ジェンウォルドよ・・・」彼女はつぶやき、それから顔をしかめた。「腕が痛い・・・」
 「助けを呼んでくる」彼は約束して、医務員を捜しにいった。
 ジェンウォルドが手当てを受けはじめたのに満足して、彼はそこを離れ、ランドのそばに戻った。ランドは沈んだ顔で彼を見た。「ハン、すまん。彼を守るつもりだったんだが、敵がグレネードを投げてきたんで、とっさに伏せたんだ。気がついたときには・・・」ランドは言葉を切り、首を振った。
 ハンは頷いた。「ああ、わかるよ。仕方がなかったんだ、ランド。自分を責めるのはよせ」ハンは深く息を吸いこんだ。「いいやつだった」
 「ああ−」聞き慣れた咆哮があがり、ランドは言葉を切った。ハンは急いでランドに手を振り、チューバッカに歩み寄った。
 ウーキーはハンの無事な姿を見て、彼をつかみ、髪をくしゃくしゃにした。「チューイー、よく聞け。ジャリクが死んだ」
 ウーキーはハンをつかの間見つめた。それから頭をのけぞらせ、怒りと悲しみの声をあげた。ハンは心の中でそれに声を合わせた。
 チューバッカはハンを脇に引いていき、せわしなく唸った。「ムロヴが怪我をした?助かるのか?」
 わからない、チューイーはそう答えた。
 「マーグを見つけにいかなきゃならん。チューイー、おまえは砂浜に戻って<ファルコン>を管理ビルのそばの広場に降ろせ。そうすりゃ、すぐに荷を積める」
 チューイーは頷き、急いで砂浜に向かった。彼の長身は、シャトルや密輸業者たちのフレイターのあいだを忙しく動きまわる兵士たちにまぎれ、すぐに見えなくなった。
 ハンは再びランドのいる場所に顔を向けたが、彼の姿はそこにはなかった。ハンは救助ステーションに戻り、トゴリアンがどこで手当てを受けているか尋ねた。彼が尋ねた医務員は知らなかった。三人目で、ようやくその場所が確認できた。
 べつの補佐が、ほとんどのノン・ヒューマンが手当てを受けている補助の救助ステーションに案内してくれた。ハンはマーグの大きな黒い体が地面に直接置いた寝台のそばにひざまずいているのを見つけ、急いでそこに歩み寄った。
 「おい、マーグ!」
 トゴリアンは彼の声に振り向いた。それから飛び上がるように立って、ハンを抱きしめた。「マーグ、ハン・ソロに会えて嬉しい。われわれ、これから上に運ばれる。マーグ、別れを告げずに去りたくなかった」
 ハンはムロヴを見下ろした。頭の半分が包帯で覆われている。「どうしたんだ?」
 「マーグとムロヴ、ランディング・フィールドを見張っていた。三人のガモーリアン、突進してきた。ムロヴ、マーグがそいつの喉を引き裂く前に、フォース・パイクでやられた」
 「そうか・・・なあ、パル・・・残念だ・・・」ハンは言った。「だが、ムロヴは助かるんだろう?」
 「片目失った。医務員、たぶん片手切ると言う。はっきりわからない。だが、命は助かる。そして、奴隷を自由にしたことを誇りに思うだろう。司祭たち、みな死んでる」
 ハンは頷いた。こういうときは何と言えばいいのか?医務員が反重力寝台を従えて近づくと、ムロヴをそれに乗せた。ハンはマーグと一緒に医療シャトルまで歩き、ムロヴが乗せられるのを見守った。そしてマーグを言葉もなく抱きしめた。
 シャトルが飛び立つのを見送り、ハンは大きな倉庫に目をやった。ブリアはおそらくあそこにいるだろう。ジェイス・ポールが急いで横を通り過ぎるのを見つけ、ハンは中尉に彼女のいる場所を尋ねた。ポールは親指で巡礼の宿舎を指した。ハンは小走りに宿舎に向かった。そして、倉庫と宿舎の中間で足を止めた。
 反乱軍の兵士が巡礼たちを宿舎から連れだすところだった。巡礼たちの茫然とした顔には恐怖が浮かび、いまにもパニックを起こしそうに見える。ブリアはマイクを手に彼らの前に立っていた。「司祭たちは全員死んだわ!あなた方は自由よ!私たちはあなた方を助けにきたのよ!」
 「彼らが司祭たちを殺したんだ!」ひとりの老人が叫び、むせび泣きはじめた。たちまちうめき声や泣き声があたりに満ちた。
 「急いであのシャトルに乗りなさい!」ブリアは言った。「医務員が気分のよくなる薬をくれるわ。われわれはあなた方を癒せるのよ!」
 巡礼たちはしだいに落ち着きをなくしていく。“これじゃ、暴動になりかねない”ハンはそう思った。巡礼たちがブリアの言葉を聞いていないのは明らかだった。
 「エグザルテイションを与えてくれ!」誰かが叫んだ。それを合図に、巡礼たちは声を合わせ、拳を振り立てて叫びはじめた。「エグザルテイションを!」
 ブリアはシャトルに手を振った。「あれに乗るのよ!必要な手助けはするわ!」
 「エグザルテイションを!」
 群衆が前に詰めかけてくる。ブリアはうんざりした顔で部下に合図した。兵士たちの銃からスタン・ビームがほとばしる。巡礼たちは、ばたばたその場に倒れた。
 何度か自分でもスタンを浴びた経験のあるハンは、自分の体が痛むような気がして、巡礼たちに同情した。彼は顔色ひとつ変えず、兵士に巡礼たちを撃つように命じたブリアの非情さに驚いた。
 だが、そのことに異議を唱えても仕方がない。彼はそこにたたずみ、作業ドロイドがぐったりしている巡礼をシャトルに運びこむのを見守った。ブリアは向きを変え、ハンがそこにいるのに気がついた。
 彼が手を振ると、ブリアは駆け寄ってきた。ハンはふたりとも無事に乗り切ったことにほっとして、彼女を抱きしめた。「ジャリクは?」彼女は尋ねた。
 ハンは首を振った。「だめだった」
 「ああ、ハン・・・残念だわ!」
 ハンはブリアに腕をまわし、彼女を抱き寄せ、キスした。彼女もそれに応じる。ふたりは大混乱の真っ只中でかたく抱きあった。
 ようやく、彼女が体を離した。「管理ビルに行く時間だわ。テロエンザの宝物殿を見なくては」
 ハンは頷いた。「そろそろチューイーが<ファルコン>を持ってきて、積みこめるように準備してるころだ」彼は周囲を見まわした。すでに陽が昇り、目の前には混乱してはいるが、一定の秩序を保った光景が広がっている。どこを見ても反乱軍の兵士たちの姿があった。ブリアは彼の袖を引いたが、ハンは動かなかった。「ランドはどこだ?」彼は尋ねた。何分か前までここにいたのに。分け前のスパイスを取りに行ったのかな?」
 「行きましょうよ!」ブリアがせかした。
 ハンは倉庫を見た。たぶんランドはあの中で、分け前をもらうのを待っているのだろう。と、そのとき、彼の姿が見え、ハンは倉庫に向かおうとした。だが、ブリアが彼を引き戻した。「だめ!来て。早く行きましょう!」
 ハンは目を細めた。「あの中で何かが起こってるみたいだ」ランドとアーリー・ブロンとカジ・ネドマク、ほかにも六人ばかりの密輸業者たちが、倉庫のドアウェイの近くに立っている。ただ・・・何もせずに突っ立っている。ハンはランドを見た。ランドも彼を見返してきたが、動こうとしない。
 「早く来て!」
 ハンは倉庫に向かって歩きだそうとして、驚いて足を止めた。ドアのそばにあるものが見えたのだ。どおりで、誰も動かないわけだ。三脚にのったヘビー・リピーティング・ブラスターが密輸業者たちを狙っている。ブラスターの後ろには反乱軍の兵士がいた。一定の間隔をあけて、立っている三人の兵士も全員が密輸業者たちに銃を向けている。
 「いったいどういうことだ?」ハンはくるりと振り返って、ブリアに食ってかかった。「どういうつもりだ?」
 ブリアは唇を噛んだ。「あなたが見つけないことを願っていたんだけど」彼女はそう言った。「そのほうが簡単だったでしょうに。ハン、ゆうべ命令を受けたの。何かとてつもなく大きなことが起こっているのよ。だから集められるかぎりのクレジットが必要なの。みんなが犠牲を払わなくてはならないわ。密輸業者の船長たちには、少しのあいだ人質になってもらう。彼らの乗員は加工前のスパイスを集めてるわ・・・でも、極上品はわたしたちがいただくの。ハン、ごめんなさい。でも、選択の余地はないのよ」
 ハンはあんぐり口を開け、ちらっと肩越しに振り向いた。彼の同業者たちは、恐ろしい顔で彼をにらんでいる。“くそ、なんてこった!彼らはおれが最初からそのつもりだったと思うにちがいない!”
 どうすればいい?宝物殿の自分の分け前をあきらめ、それを彼らに渡すか?立場が逆なら、あそこにいる大半の連中は、自分の分け前を人に譲ろうとはしないだろう。それはわかっていた。それに・・・彼らのことはそれほどよく知っているわけでもない。
 ただし、ランドだけはべつだ。
 ハンは首を振り、ブリアを見た。「ハニー、どうしてそのことを話してくれなかったんだ?」
 「話せば、あなたがこの仕事をおりるにきまってるからよ」
 「だが、ランドはおれの友だちだ」ハンは肩をすくめた。「ほかの連中は・・・よく知らないが・・・ランドは・・・」
 「行きましょう。宝物殿のあなたの分け前は、好きなようにすればいいわ。あなたの気持ちが済まなければ、ランドにあとでそれを分ければいい」
 ハンはこの提案を考え、それからため息をついた。“すまん、ランド、この償いは必ずする”コレリア人は心の中で誓い、肩をすくめて密輸業者たちを残したまま、ブリアと一緒に歩きだした。“後味の悪い終わり方だ・・・だが、おれに何ができる?”
 チューイーがここにいなくてよかった。あのウーキーはひと一倍良心があるからな。
 ハンとブリアが管理ビルに着くと、チューイーが<ファルコン>を広場に降ろしてふたりを待っていた。チューイーはランドはどこかと訊いてきた。「アーリーと戻った」ハンはためらったあとでそう言った。
 さいわい、チューイーはテロエンザの宝物殿のことで興奮し、ハンの気まずそうな様子には気づかなかった。
 ハンは反乱軍の武器庫から持ってきた小型のサーマル・デトネーターで、ドアを吹っ飛ばした。
 彼は中に入ってショックを受けた。ほとんどの棚がすでにからっぽだ。「いったい−」
 「テロエンザはここを出ようとしていたにちがいないわ!」ブリアが指をさして叫んだ。「見て、お誂え向きに箱に詰めてある!」
 すでに誰かが宝を積みだしたように、裏の大きなカーゴ・ドアが開いていた。だが、船はどこにも見えない。おそらくテロエンザは船を呼んだものの、昨日ほかの司祭たちと一緒に暗殺者の手にかかって最期を遂げたのだろう。「よし!」彼は叫び、ブリアを抱きしめて、振りまわした。「テロエンザさまさまだな!」
 彼はブリアに情熱的にキスし、それから宝の箱を振り返った。「こうなると、リパルサー・リフト手押し車が必要だな。<ファルコン>にある。チューイー、あれを−」
 「動くな、ソロ」過去の悪夢からの声が彼を制した。テロエンザが白翡翠の噴水の除から出てくるのを見て、ハンは凍りついた。最高位司祭はブラスター・ライフルを構え、凶刃のように目をぎらつかせている。これでは、説得しようとするだけ無駄だ。
 「両手をあげろ」最高位司祭は命じた。ハンとチューイーとブリアは揃って両手を上げた。ハンは必死に頭を働かせ、この窮地を逃れる方法を考えながら、ほかのふたりをちらっと見た。だが、今度ばかりはどんな手も思い浮かばない。
 「おまえたちふたりを殺せてどんなに嬉しいか、ブリア・サレン、ハン・ソロ」テロエンザは言った。「パイロットをここに呼んである。コロニー4からもうすぐわたしを拾いにくるはずだ。このくそいまいましい惑星からは、永遠におさらばだ・・・宝物はもちろん持っていくとも。配偶者をなくしたのは哀しいが、全体としては、悪い終わり方ではない。デシリジクを頼れば、ひょっとすると・・・」
 「おい、ジャバとおれは友だちだ。おれを殺せば、ジャバは気分を害するぞ」
 テロエンザは喉を鳴らして笑った。「ハットに友だちなどいるものか。さらばだ、ソロ」
 彼はハンにブラスターを向け、むっちりした小さな指でトリガーを引きはじめた。
 ハンは目を閉じた。ブラスターが唸り−
 −だが、彼は何も感じなかった。痛みはない。焦げるような熱さも感じない。
 長い一瞬のあと、体が倒れる大きな音がした。
 “彼はおれより先にブリアを撃ったんだ!”ハンはパニックに駆られ、目を開けた。
 だが、フロアに倒れた体はテロエンザのものだった。球根のような左目があった場所に、大きな穴が開いている。
 ハンは驚いて見つめた。おれは頭がどうかしたのか?これは錯覚か?“いったいどうなってるんだ?”
 彼の横で、ブリアが体をこわばらせた。
 薄暗い部屋の隅から、ボバ・フェットが出てきた。腕にブラスター・ライフルを抱えている。
 “くそ、なんてこった!今度はフェットか!こいつはおれたちを撃ち殺すだろう!”
 悪名高い賞金稼ぎは、三人を油断なく狙ったまま、テロエンザの巨体に歩み寄り、そのそばに膝をついて、片手でバイブロ・ソーを使いはじめた。小さなのこぎりは低い唸りを発し、肉と骨を切り裂いていく。ボバ・フェットはテロエンザの角を切り落とした。
 ハンはショックのあまり目眩を感じた。
 やがてフェットは再び立ち上がった。そして角を小脇に抱え、ゆっくり後ずさりはじめた。
 ハンは訊かずにはいられなかった。「このまま立ち去るのか?」
 ボバ・フェットの機械的な声は、ほんの少しおかしそうに聞こえたか?だが、これは彼の想像かもしれない。「ああ、そうだ」フェットは答えた。「この司祭は優先的な仕事だからな。おまえたちは殺さない」
 彼は壁の開口部に達し、そこを通り抜けて現われたときと同じように素早く姿を消した。
 ハンはまたしてもあんぐり口を開けた。安堵のあまり、軽い目眩を感じる。「ブリア!」彼は叫んで、再び彼女を抱きしめた。
 三人は誰もいないテロエンザの宝物殿で、長いこといまの出来事を祝いあった。
 ハンは<ファルコン>に手押し車を取りに戻った。そして戻ってくると、彼らは効率よく運ぶために、順序よく箱を積み上げた。
 突然、反乱軍のアサルト・シャトルが<ファルコン>の隣のパーマクリートに着床し、ジェイス・ポールと反乱軍の部隊が駆けおりてきた。「ブリア・・・おい、どういうことだ?これはおれたちのものだぞ。ふたりの分け前だ。そしてふたりで<ファルコン>に乗って、ここを出ていくんだ。そうだろう?一緒に・・・違うか?」
 彼はブリアを見つめた。彼女もハンを見つめ返したものの、唇を噛んで、黙っている。ハンは胃に冷たいしこりができるのを感じた。「ブリア・・・ハニー・・・忘れたのかい?きみは約束した。おれたちは一緒にいるんだ。そうだろう?これからずっと・・・」彼はごくりと唾を呑みこんだ。「ブリア・・・」
 チューイーが怒りと苛立ちの声を放った。ブリアの手にはいつの間にかブラスターが握られていた。
 「ハン」彼女はふたりを狙いながら静かに言った。「話があるの・・・」

イリーシア
Ylesia
Rebel Dawn
P.325 - P.360 L.31
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Last Update 17/Jul/2000