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反乱の夜明け #13-c
集結 (3)

年 代 出 来 事 場 面 参 考



 サラはトゴリアンにしては極端に背が低かった。ほんの二メートルしかない。だが、見るからに健康そうな男で、艶やかな黒い毛の下で、逞しい筋肉がたっぷり潤滑油をさした網のように動いている。
 ディープスペースの会合点への帰り道、ハンはジャリクとチューバッカを拾うためにナー・シャッダに立ち寄った。チューイーとマーグが仲良くやれるか、ハンは少しばかり心配だった。ウーキーと大きなトゴリアンを紹介したハンは、チューイーが相手を見上げるというめったにない光景を目にして、にやっと笑った。マーグは値踏みするようにウーキーを見て、おもむろにこう言った。「やあ、ハン・ソロの友だち。きみ、ハンの毛むくじゃらの兄弟だな?」
 チューイーは喉の奥から低い声を発し、ハンがそれを通訳した。「チューバッカは、ごきげんよう、マーグ、と言ってる。昔の毛むくじゃらの兄弟、ハンター・マーグに会えて嬉しいそうだ」
 ふたりはにこりともせずにおたがいを眺め、それからほとんど同時にハンに顔を向けた。ハンはふたりを代わるがわる見上げた。どうやら、どちらも好感を持ったらしい。「まあ、ふたりには結構、共通点があるからな」
 たしかに、とチューイーが答えた。ふたりとも、ハンの友だちだ。
 「ハン・ソロの友だち、マーグの友だち」トゴリアンはそう言った。
 ドアのチャイムが鳴り、ハンがアパートのドアを開けると、ランドが立っていた。珍しいことに最新の流行に身を包んではおらず、粗末な軍服を着て、重いブーツをはき、ブラスター・ライフルまで手にしている。「やあ!どうした?戦争にでも行くのか?」
 「おたくがイリーシアに行くのをついさっき聞いたのさ。おれも入れてくれ。<ファルコン>に乗せてもらえるかな?」
 ハンは驚いてランドを見た。「パル、これはあんた好みの仕事じゃないぜ。ガモーリアン・ガードたちの抵抗はたいしたことはないだろうが、撃ち合いになるのは確かだ」
 ランドは頷いた。「銃の扱いなら任せてくれ。ハン、新しい船を買う金が九分どおり貯まってる。ちょうど欲しいヨットがあるんだ。小型だが、いい船だ。イリーシアの倉庫にあるスパイスを分け前にもらえるなら、この貴重な尻を危険にさらす価値があるってもんさ。あと一万クレジットあれば、あのヨットが手に入る・・・」
 ハンは肩をすくめた。「おれはかまわん。歓迎するよ」
 こうして、ひどく混み合った、だがありがたいことに短い旅のあと、彼らは反乱軍との会合座標に到着した。
 反乱軍の艦隊はもうほとんど集合していた。密輸業者の船も大半が集まっている。ブリアやほかの指揮官たちは、最後のブリーフィングを行ない、密輸業者や反乱軍の兵士たちに、彼らの役割を叩きこんだ。反乱軍のアサルト・シャトルには、各チームごとに密輸業者の船が三、四隻つくことになった。イリーシアのコロニーはいまでは九つに増えている。したがって、攻撃部隊は九つに分かれ、それぞれにブリアのような指揮官がつく。
 ブリアはいちばん警備が厳重なコロニー1を選んだ。そこにはイリーシア最大の倉庫があり、巡礼の数も最も多く、したがって最も防御されている。だが、ブリアはレッド・ハンド中隊の攻撃力を信じていた。とくにハンが自分のそばを飛んでくれるのだ。
 ハンはこのころには、ジェイス・ポールやダイノ・ヒクス、そのほかの彼女の部下とも顔なじみになっていた。自分たちの指揮官とおれがいまや懇ろな仲だってことに、この連中は気づいているだろうか?彼はちらっとそんなことを思った。イリーシアでは司祭たちの暗殺がそろそろ始まるころ。攻撃開始は明日の朝(これは船の標準時間で、イリーシアの朝と夜とは何の関係もない)と決まった。
 その夜<リトリビューション>の調理室でブリアと一緒に夕食をとっていたハンは、外部のモニター・ユニットに注意を引かれた。たくさんの船が集まってくる。と、そのとき、見慣れた形−彼が子供の頃から見ていた−が視界に入ってきた。
 彼は口に入れたものを噛むのも忘れ、それから急いで呑みこみ、指さした。「ブリア!あのでかいリベレーター・クラス・トランスポート!あれはどこで手に入れたんだ?」
 彼女はハンを見てにやっと笑った。「見たことのある船みたいね」
 ハンは頷いた。「あれは<トレーダーズ・ラック>だ!おれが育った船だ!」
 彼女は領いた。「そうよ。驚かせようと思って黙ってたの。あれは二年前にコレリアン・レジスタンスが買ったのよ。兵士の輸送に使ってるわ。<リベレーター>と改名されたのよ」
 ギャリス・シュライクの死後、<トレーダーズ・ラック>は捨てられたと聞いていたが・・・ハンは喉に熱いものがこみあげるのを感じた。あのリベレーターに新しい命が吹きこまれたのは嬉しかった。「あれで巡礼たちを安全な場所に運ぶつもりなんだな?」
 「ええ、ほとんどはね。あなたの古い家が、彼らに新しい人生を与えるのよ、ハン」
 彼は頷いた。そして大きな船からほとんど目を離さずに、残りを食べ終わった。さまざまな記憶がよみがえってくる。ほとんどがデュランナとの思い出だ・・・。
 <ファルコン>には寝台は少ししかなかったので、ハンはその晩、ブリアのキャビンに泊まることにした。彼らはかたく抱き合った。明日は戦いに出かけるのだ。
 そして戦いでは・・・人が死ぬ。
 明日の戦いが終わったら−」ハンは暗闇の中で囁いた。「おれたちはずっと一緒だ。約束してくれ」
 「約束するわ。いつも一緒よ」
 彼はため息をつき、体の力を抜いた。「よし。それに・・・ブリア?」
 「なあに?」
 明日は背中に気をつけてくれよ、スウィートハート」
 ハンは彼女の声から、微笑んでいるのを感じた。「そうするわ。あなたもよ」
 「ああ」


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 それから数時間後、ブリアはキャビンのインターコムの低いチャイム音で、浅い眠りから起こされた。彼女は即座に目を醒まし、ローブに袖を通して、隣のオフィスに入った。当直の通信将校が、メッセージが入っていると告げた。「ここに送って」彼女は顔にかかる髪を払いのけながら命じた。
 ほどなく、彼女の上級将校ピアナット・トーバルの姿が現われ、ブリアは背筋を伸ばした。「サー?」
 「ブリア・・・明日の成功を祈ってる。それを伝えたくてね。それに、実は・・・」彼はためらった。
 「実は?」
 「詳しいことは言えないが、こちらの情報部の報告では、帝国がとてつもないものを建造中らしい。恐ろしい兵器だ。反乱同盟軍全体を、一、二発で吹っ飛ばせるようなものだ」
 ブリアは司令官を見つめた。「秘密の艦隊か何かですか?」
 「いまは言えんが、それより大きなものだ」
 ブリアはトーバルが何を言っているか想像もつかなかったが、いまでは“知りたいという欲求”を抑えることには慣れていた。「わかりました。で、それが明日の襲撃とどういう関係があるんです?」
 「これに対抗するには、われわれには持てるすべてが必要だ。手に入るものすべてが。あらゆるクレジットが」トーバルは言った。「きみの任務はこれまでも重要だったが・・・いまや、頼みの綱となった。手に入るものはすべて手に入れてくれ、ブリア。武器でも、スパイスでも・・・すべてを、だ」
 「サー・・・わたしはそのつもりです」ブリアの心臓は重い音を立てはじめた。
 「わかっている。わたしはただ・・・きみに知らせておくべきだと思ったのだ。われわれはラルティアに数チーム送りこみ、さらなる情報の収集にあたるつもりだが、情報部員には買収するための金が必要だ。監視するための機材が必要なのだ・・・わかるな」
 「もちろんです、サー、期待に応えるつもりです」
 「ああ、わかっている」トーバルは言った。「きみに連絡を入れたのは、間違いだったかもしれん。余計なプレッシャーを与えることになる。だが、知らせておいたほうがいいと思ったのだ」
 「ええ、感謝します、サー」
 トーバルは軽く敬礼し、接続を切った。ブリアはオフィスに座ったまま、寝室に戻るべきかどうか考えた。いっそこのまま起きてしまおうか?
 すると、少しかすれたハンの声が呼んだ。「ブリア?何かあったのかい?」
 「いいえ、万事順調よ、ハン」彼女は言い返した。「すぐそっちに行くわ」
 彼女は立ち上がり、寝る前にハンが言った言葉を思いだしながら、ゆっくりオフィスを歩きはじめた。おれたちはずっと一緒だ・・・。“ええ、そうよ”彼女は思った。“わたしたちはおたがいの背中を守りあう。一緒に戦い、帝国を相手に生き残る。そして、それを達成するために犠牲が必要なら・・・その犠牲を払う”
 ハンは宝やクレジットのことをわかってくれるだろう。彼は金のために戦うようなふりをしているが、心の底は違う。彼女にはわかっていた。
 心が決まると、ブリアの心は落ち着いた。彼女はかたい決意を秘めてベッドに戻った。


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 イリーシアのコロニー5は日没だった。地平線に近づいた赤い陽射しが、何百という雲の隙間からもれ、空にパステル色の線を映している。白波の立つ希望の海の砂浜には、ローブに身を包んだ巡礼たちの影が長く伸びていた。
 このコロニーの筆頭副司祭、ポターザは醜い頭を上げ、太い角を前後に揺らしながら、集まった信者を眺めた。灰色のしわだらけの顔で、球根のように大きな目が血の色に光っている。彼はややあって、小さな腕を上げ、儀式を始めた。
 「ワンはオール」彼はトランダ・ティルの鼻にかかった重い発音でそう言った。
 五〇〇人の声が、それを唱和する・・・“ワンはオール”


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 ちょうどそのとき、惑星の反対側にあるコロニー4では、真夜中の直後だった。月のない夜空を黒い雲が流れ、星の輝きを隠して、暗い夜をさらに黒く染めている。司祭たちの部屋があるエリアの壁を、柔らかい、キチン質のものがひっかいていた。イリーシアのヴァーミンがあらゆる方向に散る。
 小柄で虫のようなヒャルプ、ノイ・ワグラは、平らなパーマクリートを急いで上がると、ほとんど止まらずに鉄の格子を噛んで穴を作り、窓を通過し、窓台にうずくまった。
 下の暗がりから、彼女が殺しにきた司祭たちの寝息が聞こえてくる。ジャバはこの仕事の報酬ははずむと約束してくれた。この仕事が成功すれば、自分の種族のところに帰れる。寝具にくるまった大きな生物が占領する狭い部屋は、ひどい臭いがした。ワグラは目の粗い寝具に歩み寄り、巨大な頭の前で足を留めた。トランダ・ティルが少し動き、彼女は用心深く後ろにさがった。だが、すぐにまた司祭の鼾が聞こえ、ワグラはさらに近づいた。
 “簡単な仕事だった・・・”ワグラは大きな下顎の奥に留めてあった薬瓶をつかみ、口肢を使ってストッパーを引いた。ジャバはこの薬を自分で使って効果を試した。スレジプタンと呼ばれる毒を一滴、副司祭の下唇に垂らすだけ、それでいちばん大きなトランダ・ティルもいちころだ。もがきもせずに静かに死んでしまう。彼女は何本かの脚を引っこめ、司祭の口へとよじ登っていった。


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 「オールはワン」ポターザは唱えた。
 “オールはワン”


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 ウィフィッドの殺し屋兼賞金稼ぎ、アイアクス・フワは、コロニー7の地下にある泥風呂に至る通路で待っていた。この場所になじもうと巡礼として過ごしたこの二、三週間は、退屈きわまりなかった。彼としてはさっさと醜い“ムフリダ”を始末し、ここからおさらばしたかったが、決行は今夜にしろというハットの命令だった。そしてフワは報酬の残金をふいにするような真似はしたくなかった。
 トランダ・ティルの声と、特徴のある引きずるような足音が下の暗がりからこだましてくる。フワはここにこっそり持ちこんだ、二挺の小さなホールド・アウト・ブラスターを点検した。もちろん、エネルギーは満タンだ。
 彼は緊張して待った。まったく簡単な仕事だ。まもなく彼のものになるクレジットは、獲物を追って苦労したあげくの報酬ではなく、天から降ってくるようなものだ。コロニー7のセキュリティは信じられないほどずさんだった。
 彼らの姿が見えてきた。フワはでこぼこの壁のくぼみに体をはりつけた。思ったとおり、こちらにやってくるのは、彼のターゲット、三人の副司祭だ。フワの敏感な鼻は男たちの体臭をとらえていた。
 彼らはしだいに近づいてくる。どんどん近づき−
 フワは恐ろしい唸りを発して飛びだすと、ブラスターを構えた。“眉間を狙え!”彼は最初の一発を発射しながら思った。

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 「オールに仕え、すべてのワンはエグザルテイションを受ける」
 “・・・すべてのワンはエグザルテイションを受ける”


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 落ちぶれたコレリア人のパイロットで、器用貧乏の典型的なタイプ、トガ・サルピヴォは、イリーシアのジャングルの端でつかの問足を止め、後ろを振り返った。コロニー8は夜明けの最初の光で、灰色のしみのように見える。日の出にはまだ一時間ばかりあった。サルピヴォはにやっと笑い、片手を前後に動かして顔の汗を拭った。その拍子に、彼の手についていたヴォム・パウダーの酸っぱいにおいが鼻につんときた。早く爆発を見たいものだ。
 あたりはとても静かだった。ジャングルのいさかいの音や鳴く声さえ途絶えている。風はまったくなかった。
 サルピヴォは瞬きをこらえて待った。トランダ・ティルの寝室からあざやかな橙色の炎が花のように閃いたときは、まだ音は聞こえてこなかった。そして彼は思った。“まるで夢を見てるみたいだ・・・”
 それからすさまじい爆発音が彼を襲い、彼はすんでのところで倒れそうになった。それに続いて残りの住民の悲鳴と泣き叫ぶ声がした。“うまくいった”彼はにやにや笑いながら自分に向かってそう言った。“あの火が消される前に、ポイッタに戻れる”


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 「われわれはオールを達成するためにわが身を犠牲にする。われわれはワンに仕える」
 “・・・ワンに仕える”


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 ローディアンのスニクウクスは考えこむように、濡れた鼻をひくつかせた。午後の陽射しが広い中庭に斜めに射しこみ、蒸し暑い空気中には埃が浮いているように見える。彼はきわめて注意深く、単一フィラメント・ファイバーの最後の一本を、工場の敷地に向かう通路に張りわたした。コロニー9はまだ完成されていなかった。だが、主な建物と宿舎はほぼ完成に近い状態で、まもなく操業できるところまでこぎつけていた。ここの宿舎にはほぼ三〇〇人の巡礼が寝起きしている。ほとんどがいまのところは建設現場で働かされていた。スニクウクスはその最後の一団に紛れて、イリーシアに潜入したのだった。パーマクリート職人としての彼の腕が役に立った。
 “彼らが来たぞ!”ローディアンは目に見えないワイヤーから後ずさり、それからその下をくぐって、恐ろしいワイヤーからできるだけ離れた。通路に出ると、彼は中庭を見下ろす二階のバルコニーに上がった。男女三人ずつ、六人のトランダ・ティルが、昼寝のあとの散歩から戻り、のんびりした足どりで夕食の待つ食堂へと歩いていく。ガモーリアン・ガードたちが彼らを守っている。彼らが肩に担いだ斧が、陽射しを反射してぎらぎら光っている。スニクウクスは小さなポーチからサウンド・プロジェクターのリモコンを取りだし、滑らかな感触を楽しみながら、そのデバイスを持ち上げた。
 “彼らのそばに近づく必要もない”そう思うと嬉しくなった。“この仕事は気に入ったぞ。おれの繊細な首を危険にさらさなくて済む”彼は期待に満ちて耳をひくつかせ、ダイアルを最大に回し、スイッチを入れた。
 突然、中庭の反対側から恐ろしい、かん高い咆哮があがった。あまりに高いその音に、スニクウクスはぶるっと体を震わせた。トランダ・ティルが大昔に失った故郷ヴァールの獰猛な肉食獣、ソタの鳴き声を録音したものだ。
 六人のトランダ・ティルはその場に立ちすくみ、大きな目をぎょろつかせ、その鳴き声の源を突き止めようと四方八方を見まわした。筆頭副司祭のターズは、後ろ脚に体重をのせてのけぞり、くるりと振り向いて、ほかの連中に声をかけた。が、何の役にも立たなかった。巨大な生物は無我夢中であらゆる方向に逃げまどい、ガモーリアンを踏みつぶし、中庭の壁にある出入り口に向かった。スニクウクスがブービー・トラップを仕掛けた場所だ。まもなくターズですらパニックに陥り、いちばん近い出口に走った。
 血を見るのが好きなローディアンは、司祭たちがモノ・フィラメント・ファイバーでスパッと切られるのを見て、突きでた唇を鳴らした。ファイバーはどんなブレードよりも見事に彼らを断ち切った。ターズの上体は、出口の半ばで皮がむけるように後ろにそげ、横に並んだ暗茶色の内臓が見えた。瞬く間に血が溜まり、こぼれ落ちる。彼が倒れると、上体が転がった。あっという間に、彼らは全員死にたえた。四分の一に切れた死体の周りに、真っ赤な血だまりが広がっていく。中庭には、何が起こったのか必死に考えようとしている茫然としたガモーリアンが数人、残っているだけだった。
 “これで昇給してもらえるかもしれないぞ”スニクウクスは思った。“ジャバはすでに、おれを気に入っているようだ・・・あとは彼に食らいついていればいい”


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 「エグザルテイションの恵みを受ける用意をせよ!」ポターザは一歩前に進み出た。両側の副司祭がそれに倣う。巡礼たちは期待に満ちて泣くような声をあげながら列を乱し、前に押し寄せ、たがいの上に折り重なるように倒れはじめた。ポターザはじっと彼を見つめるたくさんの顔を眺めながら、首の袋をふくらませはじめた。と、そのとき、何かが彼の目を引いた。ヒューマノイドの巡礼がほかの巡礼を押しのけて前に出てくる。これは珍しくもなんともないが、その巡礼は定められた帽子の代わりに、黒いフードを目深にかぶっていた。
 ポターザは魅入られたようにその巡礼を見つめた。フードの中がからだ。すぐ近くまできても、フードの中には何も見えない。と、突然そのフードが後ろにはずれ、頭のないそれは、ローブから武器を取りだした。ポターザは得体の知れない恐怖に駆られ、二、三歩後ろにさがり、彼の弟子たちにぶつかった。ローブが地面に落ち、ポターザの目の前に、空中に浮かんでいるようなブラスターの銃口が見えた。恐怖でかすむような頭にひどくゆっくりと、ひとつの思いが形をとった。“ああ、エアラだ。ただのエアラだ”
 そして空中からまばゆい光が落ちてきた。


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 それから数分後、イリーシアで最も古く、大きいコロニー1は、正午に近づいていた。テロエンザはホエーラドンのげっぶのような音を立てる浅い泥につかり、ほとんど動かずに目を閉じ、きわめて憂鬱な展開に思いをはせていた。
 あの呪わしいダーガは、どうやらこちらの手を読んだようだ。テロエンザは目を開け、うんざりする光景を眺めた。ヴェラティルとテリーヌとほかのトランダ・ティルが泥につかっているその向こうのランディング・フィールドでは、流線形のノヴァ・フォースの船があちこちに散り、軍服を着て完全武装した兵士が数人ずつ固まり、ありとあらゆるところに立っている。
 ダーガは、どうしてわたしのプランに気づいたのか?あの若いハットは、ひょっとすると思ったより賢いのかもしれない。いまにして思えば、キビクをあっさり殺してしまったのは間違いだったようだ。
 だが、何よりまずいのは、ダーガがどこまで知っているのか、はっきりつかめないことだった。ダーガはキビクの死に裏があると疑っているわけではなく、ノヴァ・フォースはイリーシアのディフェンスを増強してほしいという、こちらの要請の答えかもしれない。
 テロエンザはこの説明が気に入った。もしそうなら、じっと待てばいいだけだ。しばらくすれば、ベサディはノヴァ・フォースに支払うクレジットが惜しくなるにちがいない。この状況は一時的なものだ。“待つのだ。少しぐらい待つのはなんでもない。いずれにしろ、いまできることはそれしかない”
 ノヴァ・フォースの隊長はおそらく大きな重力の惑星出身の、ウィラム・カマランという人間だった。そのカマランがぴかぴかのブーツを汚さないように、おっかなびっくり泥原の端へと近づいてくる。そして、うんざりした顔でテロエンザを見て、自分のそばに来るように合図した。もう少し事情がはっきりするまでは、うわべだけでも協力的な態度を取ったほうがいい。そう判断したテロエンザは、重い体を起こして、隊長のいるところに向かった。
 すると突然、彼の目の前の泥の中でエネルギー弾が光り、火の粉が飛び散った。最高位司祭は混乱して足を止めた。“いまのは何だ?”
 テロエンザが振り向くと、ブラスター・ライフルを連射して、ジャングルから走りでてくる三つの姿が見えた。トランダ・ティルを警備していたガモーリアンたちは、すでに息絶えている。
 “プシュ。プシュ。プシュ”
 彼の周囲にブラスター弾が飛び交った。テロエンザは走ろうとした。方向を変えようとした。だが、泥で滑り、膝をついた。
 “あれはノヴァ・フォースか?ダーガは彼らにわれわれを虐殺するように命じたのか?”テロエンザはヒステリーの発作を起こしかけながらそう思った。彼の視界の端でカマランが撃っているのが見えた。だが、こちらにではなく、侵入者に向かって撃っている。ほかの兵士たちも銃を撃ちながら彼の後ろに走ってくる。“ヴァールの名にかけて、彼らはわれわれを守ろうとしているのだ!”
 逃げる場所はどこにもなかった。どのみちパニックに陥り、脚が動かない。ヴェラティルはぴくりとも動かずに横たわっている。目があった場所に穴が開き、そこから煙が上がっていた。テリーナは泥の中に潜ろうとして潜りきれず、恐怖に駆られて脚をばたつかせている。このままでは彼も殺られるのは時間の問題だ。テロエンザはまだ恐怖につかまれながらも、深く息を吸いこみ、泥の中に倒れ、死んだふりをした。
 ブラスターの音が突然止まった。テロエンザは目を開けた。“うまくいったぞ!”侵入者は倒れて死んでいる。最高位司祭は起きあがり、周囲を見まわした。
 “テリーナ!”
 彼女は半分泥と水に覆われていた。そして頭が泥の中に沈んでいる。“あれでは息ができない・・・”テロエンザは彼女のそばに行く前に、真実を悟った。彼はテリーナの大きな頭を小さな腕がゆるすかぎりしっかりと抱え、彼女の命を呼び戻そうとした。だが、彼女はすでに事切れていた。
 カマランは腕を撃たれていた。黄褐色の軍服に暗茶色のしみが広がっている。テロエンザの老執事ガナー・トスが、大勢の兵士を掻きわけるように近づき、泥の縁でいったん立ち止まったものの、中に飛びこんできた。
 「テロエンザ卿」老いたジジアンの弱い声はしゃがれていた。「恐ろしい事態です!イリーシア全体で司祭たちが殺されています!コロニー2、3、5、9から報告が入りました。外部との連絡はまったくとれません。ああ、サー、ヴェラティル卿が・・・テリーナ様も!どういたしましょう?もう巡礼にエグザルテイションを施すことはできません。どういたしましょう?」
 テロエンザは考えようとしながら重い声で唸った。これはダーガの仕業か?いや、そうではあるまい。ベサディはトランダ・ティルに頼っている。こんなことをしたのは誰だ?それに、どうすればいいのか?


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Last Update 17/Jul/2000