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反乱の夜明け #2
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年 代 出 来 事 場 面 参 考



 ブリア・サレンは誰もいないホロ・ラウンジにひとりで立っていた。目の前のホロでは、ハン・ソロが勝利を喜んでいる。そばにいて抱きしめ、キスし、一緒に祝うことができたら!“なんて素晴らしいの!ああ、ハン、あなたは勝利にふさわしい!最初からまるでチャンピオンみたいに戦ったわ!”
 あの浅黒い肌のギャンブラーは、ハンに何をあげたのだろう?明らかに高価なものにちがいない。ハンはまるで銀河一素晴らしい宝の箱の鍵のように、データ・カードをつかんでいる。
 いまは四日目の夜。デュロス、サラスタン、そしてオルデラン人の代表との会合は、明日の朝で終わる予定だった。彼らはいくつかの合意に達し、それぞれの文化を大いに学んだ。だが重要なことは何ひとつ決まらなかった。三つの反乱グループのどれも、同盟を結ぶという提案には同意しようとはしない。
 ブリアはため息をついた。ベストを尽くしたが、同盟締結まではまだまだ長い時間がかかりそうだ。ほかのグループの慎重さを責めてはいけないのだろうが、ついそうしたくなる。帝国の弾圧はひどくなるばかり、それに気づかないとしたら、彼らは何もわかっていないというしかない。
 背後に足音が聞こえ、ブリアは振り向いた。オルデランのウィンターが近づいてくる。ウィンターはクリスタル・ホワイトの髪と淡い緑色の瞳の美しい娘だった。シンプルで控えめなデザインの緑の服が、ほっそりした上品な体の線を表わしている。彼女はブリアほどではないが、背が高かった。
 ブリアは会釈し、ふたりは何分かトーナメント会場の光景を見守った。ハンはほかのプレーヤーの真ん中で、祝いの言葉を受けている。食べ物や飲み物が回り、トーナメントの審判やディーラー、ホテルのスタッフも加わって、すっかりパーティの雰囲気だ。
 「わたしたちより彼らのほうが、ずっと楽しそうね」ブリアは皮肉まじりに言った。「うらやましいわ。何の思い煩いもなさそうだもの」
 「あら、彼らにも思い煩いはあると思うわ」ウィンターが言った。「でもこの瞬間はそれを忘れ、いまだけを生きているのよ」
 ブリアは頷いた。「なかなかの哲学者ね?」
 少女は少し笑った。響きのよい、心地よい笑い声だった。「ええ、オルデランには哲学や倫理、道徳を議論する古い伝統があるの。オルデラのカフェでは、市民が座って一日中哲学を議論しているわ。これは惑星の伝統なの」
 ブリアは低い声で笑った。「コレリア人は短気な行動家という評判があるわ。人一倍実行力はあるけど、危険をおかすのも好きなの」
 「もしかしたら、わたしたちはバランスをとるために、おたがいが必要なのかもしれないわね」
 ブリアは思慮深い目でちらっと彼女を見た。「ウィンター、バーでヴァイン=カフェインでもどう?」
 「ええ」少女は頷いた。クリスタルの髪が肩で波打った。成人したオルデランの人々は髪を切らないと聞いたことがあるが、ウィンターの髪は氷河のように背中を流れている。
 湯気の立つ香りのよい飲み物を前に、椅子に落ち着くと、ブリアは金のブレスレットのボタンをそっと押し、そこに散りばめられたコルサ・ストーンを部屋に向け、宝石から目を離さずに手首をたてた。光がつかないのを見て、彼女はほっとした。“スパイのデバイスはないわ。まあ、あるとは思わなかったけど、用心にこしたことはない・・・”
 「それで、ウィンター、あなたのことを教えてくれる?なぜこの任務に同行することになったの?」
 少女は静かに言った。「ヴァイスロイ(総督)はわたしの父親代わりなの。わたしは彼の娘のレイアと一緒に育てられたのよ。小さいころからずっと一緒に」彼女はかすかに笑った。ブリアはウィンターが歳のわりに成熟し、落ち着いていることにまた驚かされた。「プリンセスに間違えられることもあるわ。でも、王室の一員ではなくてよかった。ヴァイスロイ(総督)やレイアはいつも人の目にさらされているの。絶え間なくプレッシャーをかけられ、記者にうるさくつきまとわれ・・・自分の人生が自分のものじゃないみたい」
 ブリアは頷いた。「王族はビジョン・スターよりたいへんかもしれないわね」彼女はヴァイン=カフェインを一口飲んだ。「ベイル・オーガナがあなたを育てたのね・・・でも、発見されたら危ないとわかっているのに、なぜあなたをこの任務に就かせたのかしら?」ブリアは眉を上げた。「驚いたわ。こんな危険を負うには、あなたはまだ若すぎるもの」
 ウィンターは笑った。「わたしはプリンセスより一年と数か月年上なの。一七歳になったばかりよ。オルデランではその歳で成人になるのよ」
 「コレリアもそうよ。若すぎるわね。わたしが十七のときは、分別などまるでなかった」ブリアは悲しそうに笑った。「もう昔の話・・・九年ではなくて、百万年も前のような気がする」
 「あなたはもっと年上かと思ったわ。いえ、そう見えるわけじゃないけど。でも、二十六歳で中佐だなんて、ずいぶん若いときから反乱グループに加わったのね」ウィンターはヴァイン=カフェインにトララドン・ミルクを入れて掻きまわした。
 「ええ」ブリアは軽く同意した。「年齢よりも上に見えるとしたら・・・イリーシアの奴隷だった期間のせいよ。スパイス工場は人をぼろぼろにするの」
 「奴隷だったの?」ウィンターは驚いたように見えた。
 「ええ。イリーシアから逃げたの・・・友だちに助けられて。あそこから抜け出すのはむしろ簡単だった。でも、体が自由になったずっとあとも、心と精神はまだイリーシアの奴隷だったのよ。自分自身を解放しなければならなかった。それが何よりも難しかったわ」
 ウィンターは同情の眼差しを向けながら頷いた。ブリアは、自分がこの少女にあっさり心を開いたことに驚いていた。でも、このオルデランの少女は驚くほど話しやすい。ただ会話をしているだけではなく、ブリアの話を熱心に聞いてくれる。ブリアはかすかに肩をすくめた。「そのために大切なものをすべて犠牲にしなくてはならなかった。愛や家族・・・身の安全も。でも、おかげで自分自身を取り戻せたのよ、人生に新しい目的ができたの」
 「帝国と戦うことね」
 ブリアは頷いた。「奴隷制度を許し、奨励している帝国と戦うことよ。奴隷制度は、文明人と呼ばれる知的生物が作った、最も不道徳で堕落した習慣だわ」
 「イリーシアの話は聞いているわ。何年か前、いくつか不快な噂が浮上したとき、ヴァイスロイ(総督)が調査を命じたの。それ以来あの惑星の実態を、スパイス工場や強制労働のことを、市民に知らせるために、オルデランでは公の情報キャンペーンを続けているわ」
 「でも、強制ではないのよ。それがいちばん始末が悪いの。人々は働き続けて死ぬ、しかも喜んでね。恐ろしいことよ。わたしに充分な兵士と武器があれば、明日にでも艦隊を率いてイリーシアに行き、あの臭い泥の穴を永久に閉鎖するのに」
 「でも、それにはたくさんの兵力が必要だわ」
 「そうね。いまやコロニーの数は八つか九つに増えているし・・・奴隷も何千といる」ブリアは熱いカフェインを注意深く飲んだ。「それで・・・明日の会議は楽しみ?」
 ウィンターはため息をついた。「そうでもないわ」
 「無理もないわ。同盟を結ぶのが正しい行動かどうかという議論を、一日中聞いているのは退屈でしょう。明日は会議に出ないで、楽しんだらどう?クラウド・シティにはベルドンの群れを見に行くツアーがあるし、スランタのライダーがスタントを披露する空中ロデオもあるわ。楽しいみたいよ」
 「でも会議には出席しないと。ダルニー副長官はわたしが必要なの」
 「なぜ?」ブリアは困惑した。「彼を倫理的に支えるため?」
 少女はわずかに微笑んだ。「いいえ。わたしは彼のレコーダーなの。ヴァイスロイ(総督)への報告書を作るのに必要なのよ」
 「リコーダー?」
 「ええ。わたしは見たもの、経験したもの、聞いたものを何ひとつ忘れないから」ウィンターは言った。「忘れることができないの。そうできたらと思うこともあるけど」まるで過去の忌まわしい光景を思いだしたかのように、美しい顔が悲しそうに曇った。
 「本当?」そんな人物が補佐役にいたら、どんなに便利だろう。自分の行動をデータ・ファイルやフリムジーに託すのは危険すぎるため、ブリア自身レッスンを受けたり、催眠術を使って、記憶力を増進させる努力をしているのだ。「だったら、たしかに会議を抜けるのは無理ね」
 ウィンターはテーブルの向こうで身を乗りだした。明日の会議に気が乗らない理由は、退屈しているからじゃないの。リク・ダルニーがオルデランの倫理は帝国を打ち負かすより重要だと、頑固に言いはるのを聞いているのがつらいの」
 ブリアは首を傾けた。「まあ・・・それは興味深いわ。どうして?」
 「外交のためレイアとヴァイスロイ(総督)に同行してコルサントを−」ウィンターは口を閉じ、悲しそうに笑った。「つまり、インペリアル・センターを訪れたときに、二回ほど皇帝を見かけたわ。一度は、立ち止まって向こうから話しかけてきた。おざなりの挨拶だけだったけど・・・」彼女は唇を噛みながらためらった。すると成熟した大人の表情の下に、初めて怯えた子供の顔がのぞいた。
 「ブリア、わたしは彼の目を見たの。どうしてもその目が忘れられない。パルパティーン皇帝は邪悪だわ。ひどく不自然だわ・・・」バーの中は暖かかったが、少女は身を震わせた。「彼はわたしを怯えさせた。彼は・・・悪党よ。ええ、この言葉がぴったり」
 「噂はいろいろ聞いてるわ。わたしは遠くから見ただけで、一度も会ったことはないけど」
 「会いたくない男よ」ウィンターは言った。「彼の目は・・・じっと見つめられると、魂を吸い取られるような気がするわ」
 ブリアはため息をついた。「だから戦わなければならないのよ。それが彼の望みなの。わたしたちすべてを・・・惑星も生物も・・・すべてを呑みこむことが。パルパティーンは過去に類のない、恐ろしい暴君になろうとしている。彼と戦わなければ、わたしたちは灰にされてしまうわ」
 「そのとおりね。オルデランに帰ったら、わたしたちも武装し、戦いに参加すべきだとヴァイスロイ(総督)に言うつもりよ」
 ブリアは驚いて瞬きした。「本当?でもダルニー副長官はそうは思っていないわ」
 「ええ」少女は言った。「ヴァイスロイ(総督)も武器を取ることには反対よ。でもこの数日、あなたの話を聞いていてわかったの。オルデランは戦わなければ、滅ぼされるわ。皇帝が支配しているかぎり、真の平和などありえないもの」
 「ベイル・オーガナはあなたの言葉に耳を貸すかしら?」ブリアはわずかな希望を感じた。“ここ何日かで少なくともひとりには影響を与えた・・・この旅はまったく無駄ではなかった”
 「さあ」ウィンターは答えた。「たぶんね。彼は立派な人だし、若くてもちゃんと主張のある人間を尊重してくれるから。それに帝国に反抗する必要があるのは認めているのよ。わたしとプリンセスは、情報収集のテクニックに関する特別なトレーニングを受けてるの。無邪気な若い娘なら、場合によっては熟練した外交官より役に立つから、って」
 ブリアは頷いた。「ええ、そのとおりね。残念ながら、ベテランの諜報員には無理でも、美しい顔と優しい微笑みがあれば、帝国官僚や最高司令部の中に潜入できる・・・」
 ブリアはヴァイン=カフェインをもう一杯つぎながら苦笑した。「もちろんもう気づいてるでしょうけど、帝国は男中心で、人間中心の組織だから。そして人間の男は・・・女性に・・・操られやすい。それもときにはごく簡単にね。これはいやなことだし、正しいやり方だとも思わないけど、重要なのは結果ですもの。この年月で、わたしはそれを学んだわ」
 「オーガナヴァイスロイ(総督)が聞いてくれなくても、レイアは必ず聞いてくれるわ」ウィンターは言った。「彼女はさっき話した情報収集のトレーニングと一緒に、武器の使い方も習いたいと主張したの。ふたりとも射撃をおぼえたのよ。ヴァイスロイ(総督)は最初のうちはしぶっていたけど、考え直して、レイアのために射撃の名手を選んだ。ヴァイスロイ(総督)は賢い人なの。わたしたちが、自分で身を守る必要がある状況に置かれる可能性があることをわかってくれたのよ」
 「でも、若いプリンセスを説得して、何の役に立つかしら?愛されていることはわかっているけど、まだ少女でしょう?」
 「ヴァイスロイ(総督)は来年、彼女をオルデランの代表として、元老院議員に任命するつもりよ」ウィンターは言った。「レイアはしっかりと目的意識を持っているし、影響力も持っているの」
 「なるほど」ブリアは言い、ウィンターに向かって微笑んだ。「あなたと話ができてよかったわ。正直いって少しがっかりしてたの。でもあなたのおかげで元気が出たわ。ありがとう」
 「わたしこそ、中佐。本当のことを話してくれてありがとう。コレリアン・レジスタンスは正しいわ。反乱グループは同盟を結ぶ必要がある。いつかそれが実現するといいけど・・・」


反乱の夜明け
P.30 - P.61
 トーナメントのあとのパーティがようやく落ち着きはじめたころ、ハンは隣にランドがいることに気づいた。彼はドアを示した。「来いよ、何かおごろう」
 ランドは苦笑した。「ああ、そうしてくれ。おれの金は全部おたくが持ってるんだからな」
 ハンはにやっと笑った。「おごるよ。なあ・・・ランド、少し貸そうか?それと明日ナー・シャッダに発つ客船を予約しようか?」
 ランドはためらった。「ああ・・・いや、一〇〇〇クレジット借してくれるとありがたい。もちろん、ちゃんと返す。しばらくベスピンに残るつもりなんだ。トーナメントの決勝戦で脱落した連中が、失った金を取り戻そうとしてクラウド・シティのカジノに行くはずだ。そこで稼ぐよ」
 ハンは頷き、一五〇〇クレジット分のクレジット証票をランドに渡した。「急ぐ必要はない。いつでもいいぞ」
 バーに近づくと、ランドはにやっと笑った。「恩に着るよ、ハン」
 「気にするな・・・サバック・ポットも取れたことだし・・・その余裕はあるんだ」体は疲れていたが、興奮してまだ眠れそうにない。彼はもう少し長く勝利を、<ファルコン>のオーナーになった喜びを、味わっていたかった。「おれは明日発つ。留まってる理由もないし、チューイーも心配してるだろうからな」
 ランドはバーの向こう側をちらっと見て、眉を上げた。「おい、留まる理由が少なくともふたつはあるぞ」
 ハンは友人の視線を追った。ふたりの女性がロビーへ通じる出口からバーを出ようとしている。ひとりは背が高くグラマーで、短い黒髪、もうひとりはまだ少女のような、長い白い髪の痩せた娘だった。彼は首を振った。「ランド、あんたも懲りないな。あの背が高いほうはあんたを押し倒せるぜ。無重力レスラーみたいな体をしてる。もうひとりは未成年を堕落させた罪で、素敵な独房へのご招待ってことになりそうだ」
 ランドは肩をすくめた。「あのふたりにかぎらず、クラウド・シティにはいい女がたくさんいる。それにここで面白そうなビジネスも探したい。ここが気に入ってるんだ」
 ハンはにやっと笑った。「好きにするさ。おれは家に帰って、おれの船を飛ばすのが待ちきれないね」彼はロボ=バーテンに合図した。「何にする?」
 ランドは目玉をくるっと回した。「ポラニス・レッドがいいね、おたくには毒を一杯」
 ハンは笑った。
 「で・・・新しい船でまずどこに行くつもりだ?」ランドが訊いた。
 三年ほど前にチューイーとした約束を守って、あいつの家族に会いにキャッシークに行く」ハンは言った。「<ファルコン>なら、インプのパトロールをやすやすと出し抜けられるはずだからな」
 「チューイーはキャッシークを出てからどれくらいになるんだ?」
 「もうすぐ五三年だ。いろんなことが起こってるにちがいない。あいつは父親や従兄弟たち、それに美しいウーキーの女性も残してきてるんだ。そろそろ家に帰って、彼らの近況を確かめてもいいころさ」
 五〇年だって?」ランドは首を振った。「おれのために五〇年も待ってくれる女なんか、思いつかないな・・・」
 「そうだな。それにマーラトバックとは、結婚の約束もしてないらしい。だから、彼女が結婚して、孫ができててもおかしくないと警告してあるんだ。あいつががっかりするとかわいそうだからな」
 ランドは頷いて、飲み物がやってくるとグラスを掲げた。ハンもオルデラニアン・エールのグラスを掲げた。「<ミレニアム・ファルコン>に」ランドは言った。「銀河でいちばん速い屑鉄に。大事に乗ってくれよ」
 「<ファルコン>に」ハンは繰り返した。「おれの船に。速く自由に飛び、すべてのインプの船から逃げられるように」
 彼らは厳粛な顔でグラスをカチンと当て、一緒に飲んだ。


反乱の夜明け
P.30 - P.61
 ナル・ハッタは蒸し暑かった。ここはほとんど毎日蒸し暑い。蒸し暑くて、雨が多くて、じめじめしていて、汚染されている・・・それがナル・ハッタだ。しかしハットたちはそれが気に入っていた。彼らはこの第二の故郷を愛していた。“ナル・ハッタ”はハット語で“輝ける宝石”という意味だ。
 しかし、ひとりだけこの気候にもうわの空で、ホロ・キャスト・ユニットを一心不乱に見つめているハットがいた。六か月前のアラクの急死のあと、ベサディ一族の新しいリーダーとなったダーガは、オフィスに投影された実物大のホ ロ映像に目と耳を向けていた。
 アラクの死の二か月後、ダーガは帝国で最も優秀な法医学の専門家チームを雇ってナル・ハッタに呼び、巨大な遺体を精密に解剖してもらった。アラクの死は自然死ではないと確信し、その遺体を冷凍してステイシス(均衡状態)保存フィールドに入れておいたのだ。
 専門家チームは何週間も費やし、亡きハットの巨大な死体のあらゆる組織のサンプルを採取し、それらを検査した。初期の結果では何も見つからなかったが、ダーガは調べ続けてくれと頼み−金を払うのは彼だったので、法医学の専門家たちは命令に従った。
 ダーガは法医学の専門家チームのリーダー、ミク・ビドラーのホロ映像を見つめた。ビドラーは白い肌に小柄な淡い髪の人間だった。よれよれの服に白い上衣を着たビドラーは、ダーガのホロが現われると、ハット卿に向かってかすかに頭をさげた。「ユア・エクセレンシー。コルサント・・・つまりインペリアル・センターに持ちかえった組織のサンプルの、最新の検査結果が出ました」
 ダーガはビドラーに向かって小さな手をせっかちに振り、ベーシックで話しはじめた。「遅かったな。約束は二日前だったのに。何がわかったのだ?」
 「検査の結果が少し遅れたのはお詫びします、ユア・エクセレンシー。しかしながら、今回はいままでとは違い、興味深い物質を発見いたしました。予想もつかなかった、前例のないことです。ウィヴェラルの専門家に連絡をとり、それがどこで作られたか調べてもらっているところです。われわれの手もとには不純物が混じったものしかないので、死亡要因を調べるのは難しかったわけですが、あきらめずに取り組みました。そして採取した組織に含まれているPSAの値を調べたところ−」
 ダーガは近くのテーブルを小さな手で叩き、引っくり返した。「要点を言え、ビドラー!わたしの親は殺されたのか?」
 ビドラーは大きく息をついた。「確かなことはいえません、ユア・エクセレンシー。ただ、アラク卿の脳の組織には、きわめて高濃度の珍しい物質が含まれていました。その物質は自然のものではなく、チームの誰も知らなかったものです。目下その特性を調べている最中です」
 ダーガは醜い顔をしかめた。生まれつきあざのある顔がさらに醜くなった。「やはりな」彼は言った。
 ミク・ビドラーは警告するように片手を上げた。「ダーガ卿、どうぞ・・・この検査が終わるまで待ってください。われわれは仕事を続け、はっきりしたことがわかりしだいすぐに報告します」
 ダーガは法医学の専門家にそっけなく手を振った。「よろしい。アラクの死について何かわかったら、すぐに報告しろ」
 ビドラーは頭をさげた。「必ずそうします、ダーガ卿」
 ハット卿は低く毒づきながら接続を断った。


反乱の夜明け
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 ナル・ハッタで不幸せなのはダーガだけではなかった。強大なデシリジク一族の副官、ジャバ・デシリジク・ティウレはすっかり落ちこみ、不機嫌だった。
 ジャバは彼のおばでありデシリジクのリーダーであるジリアクと午前中一緒に過ごし、デシリジクが被った損害の最終的な報告書を作りあげようとしていた。ナー・シャッダを完全に破壊し、ナル・ハッタを支配下に置こうとした帝国軍の攻撃がもたらした損害だ。帝国の攻撃そのものは、ジャバとジリアクがうまく提督を買収したおかげで失敗に終わったが、ナー・シャッダの商売がいままでどおりに戻るには、長い時間がかかりそうだ。
 ナー・シャッダはナル・ハッタの軌道を回る大きな月で、この月にふさわしく“スマグラーズ・ムーン”と呼ばれている。ほとんどの住人が、毎日ナー・シャッダを介して行なわれる違法貿易に関係しているからだ。スパイスや武器の輸送、盗品である宝や骨董品の故買・・・ナー・シャッダではこのすべて、もしくはそれ以上のことが行なわれている。
 「輸送部門の利益は、四四パーセントも落ちています」ジャバは言った。彼は体に比べると極端に小さな繊細な指で、巧みにデータパッドを叩いた。「あのくそいまいましいサーン・シルドの攻撃で、たくさんの船、多くの船長、そして乗員を失った。あれだけ腕のいいハン・ソロでさえ、船を失ったのですからな。スパイスの顧客からは、われわれが昔のように迅速に届けられないと不平が出ている」
 ジリアクはちらっと甥を見た。「あれ以来、彼はわたしたちの船を飛ばしてるわ」
 「たしかに。だが、われわれの船はほとんどが古すぎる。この商売では、時間はクレジットと同じですからな」ジャバはべつの計算をし、うんざりした声をあげた。「ジリアク、今年の利益はここ一〇年で最低になりそうですぞ」
 答える代わりにジリアクは大きなげっぶをした。ジャバが顔を上げると、ジリアクはまた食べていた。大きな口に入れる前に、栄養の高いべとべとしたソースを柔らかい沼の虫の背中に塗りつけている。去年妊娠して以来、ジリアクは成人のハットが何度か経験する典型的な成長期間のひとつを通過している最中だった。
 この一年間で、ジリアクは妊娠前に比べて三倍近い大きさになった。
 「気をつけないと」ジャバは警告した。「忘れたのではないでしょうか?それのせいで、このまえはひどい消化不良を起こしたのを?」
 ジリアクはもう一度げっぶをした。「たしかに。減らすべきでしょうね・・・でも赤ん坊には栄養が必要だわ」
 ジャバはため息をついた。ジリアクの赤ん坊はまだほとんど母親の袋の中にいる。ハットの赤ん坊は生まれてからの一年間を母親の栄養に頼るのだ。
 「エファント・モンからメッセージが入ったようだ」ジャバはコムリンクの“メッセージ”インジケーターが点滅しているのを見て、急いでそれに目を通した。「タトゥイーンに戻ってきてくれ、と。彼は精いっぱい努力して向こうのビジネスを管理しているが、レディ・ヴァラリアンがわたしの長引く不在をいいことに、縄張りを奪おうとしているのです」
 ジリアクは大きな目を甥に向けた。「行く必要があるなら行きなさい。しかし早く帰ってくるのよ。十日後のコア・ワールドからデシリジクの代表者たちが集まる会議に、出てもらう必要があるもの」
 「しかし、それはおばさんが出たほうがいいのではありませんかな。このところ彼らとは疎遠になっていることだし」ジャバは指摘した。
 ジリアクは上品にげっぶし、あくびした。「ええ、出席しますよ。でもこの赤ん坊はすごく要求が多いから・・・休みが必要なときには、代わってもらいたいの」
 ジャバは抗議しようとしたが、それを抑えた。言ったところで何になる?ジリアクは母親になってからデシリジクの問題に興味を失っていた。たぶんホルモンのせいだろう。
 ジャバはもう何か月も、デシリジク・カジディクが<ナー・シャッダの戦い>で受けた損害を取り戻そうとしていた。そして、デシリジク・カジディクの運営という重荷をひとりで肩に負うのに−もちろん、ハットには肩などないから、これは比喩的な表現だが−うんざりしていた。
 「いい知らせがあります」ジャバはべつのメッセージに目を通しながら言った。<ドラゴン・パール>の修理が終わった。あのヨットは完全に使用可能ですぞ」
 昔のジリアクなら、真っ先に“いくらかかった?”と訊いてきたものだが、いまは訊こうともしなかった。損益にもあまり興味がないのだ。
 ジリアクのヨットはナー・シャッダの防衛軍にハイジャックされ、あの戦いでかなりの損傷を受けたのだった。長いあいだ、ジャバとジリアクは、あの船はなくなったものとあきらめていた。しかし、ハットの仕事を引き受けた密輸業者が、スマグラーズ・ムーンのまわりにうち捨てられた船の残骸の中を漂流している<ドラゴン・パール>を発見したのだ。
 ジャバは<パール>をスペースドックに牽引するよう命じ、かなりの賄賂を払って、あちこちに探りを入れてみた。が、どの密輸業者がその船をハイジャックし、戦いで使用したのか、突き止めることはできなかった。
 昔のおばは、あの高価なヨットに大きな関心を持っていたのに。ジャバは暗い気持ちでそう思った。そもそも<ドラゴン・パール>が損傷を受けたのは、ジリアクが戦いの前にあれをナル・ハッタに運んでおくのを忘れたためだった。「母親業のストレスのせいよ」おばはそう言った。
 とはいえ、“母親業のストレス”のために、デシリジクは五万クレジットをはるかに超える修理代を払うはめになった。ただジリアクが不注意だったというだけで。
 ジャバはため息をつき、うわの空でおばのスナック・クエリアムの虫に手を伸ばした。寝息が聞こえ、雷のような鼾がそれに続いて、振り返ると、ジリアクは大きな目を閉じ、口を半開きにして眠りこんでいた。
 ジャバは再びため息をつき、仕事に戻った。


反乱の夜明け
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 その同じ夜、ダーガ・ザ・ハットは従兄弟のジアーと一緒に夕食をとっていた。ダーガはジアーが好きではない。おまけに彼はベサディのリーダーをめぐる有力な競争相手だったが、まあ、なんとか我慢できる男だ。ジアーはあからさまにダーガに逆からうほど愚かではないからだ。“友人は近くに・・・そして敵はもっと近くに”というアラクの忠告を思いだし、ダーガはジアーを非公式に自分の副官にし、ベサディ一族のナル・ハッタにおける幅広い事業の管理を彼に任せていた。
 しかし、ダーガはジアーをあまり自由にはさせなかった。まったく信用していなかったのだ。ふたりのハットは食事中、肉食動物が獲物を見つめるような目で相手を見ながら、用心深くあたりさわりのない会話を交わした。
 ちょうどダーガがとくに水分の多いご馳走を口に持ち上げたとき、チェヴィンの執事が現われた。青ざめた卑屈なヒューマノイドだ。「マスター、メッセージが入りました。あと数分でコルサントからの重要なホロ送信が届きます。こちらでおとりになりますか?」
 ダーガはちらっとジアーを見た。「いや、オフィスでとる」
 彼は体をうねらせてチェヴィンのオズマンのあとに従い、オフィスに着いた。“接続”ライトがちょうど光るところだった。“ミク・ビドラーが、アラクの脳の組織から採取された物質を報告してきたのだろうか?”このまえのビドラーの様子では、検査が終了するのは、何か月もあとになりそうだったが。
 おじぎするチェヴィンを手を振って退けると、ダーガはセキュリティ・ロックを作動させ、“周波数シールド化”フィールドを呼びだし、受信のキーを叩いた。
 突然、ほとんど実物大のブロンドの女性が彼の前に立った。ダーガは人間の魅力はあまりよくわからないが、この女は健康でしなやかな体をしている。「ダーガ卿」彼女は言った。プリンス・シゾールの補佐でグリと申します。プリンスが個人的にあなたとお話したいそうです」
 “何てことだ!”ダーガが人間なら、汗が噴きだしたにちがいない。だが、ハットの毛穴は肌をしっとりなめらかにしておくために油脂を分泌するだけで、汗はかかない。
 しかし、アラク・ザ・ハットに育てられたダーガは、不安を顔に表わすほど愚かではなかった。彼は頭を傾け、精いっぱい人間を真似ておじぎをした。「それは光栄だ」
 グリが送信フィールドの横に寄ると、ファリーンのプリンスであり、ブラック・サンとして知られる巨大な犯罪組織のリーダー、シゾールが現われた。長身で、印象的な男だ。  ファリーンは爬虫類種から進化した知的生物だが、彼らの外見はヒューマノイドに近い。緑色の肌に光沢のない無表情な目をしたシゾールは、筋肉質のしなやかな体つきからして、どう見ても、三〇代半ばぐらいにしか見えない(が、ダーガは彼が一〇〇歳近いことを知っていた)。頭のてっぺんで結った、肩までの黒髪をのぞけば、頭髪は一本もない。彼はパイロットのジャンプスーツに似たつなぎの上に、高価なサーコート(外衣)を着ていた。
 ブラック・サンのリーダーはダーガに向かってかすかに頭を傾けた。「ごきげんよう、ダーガ卿。このまえ話してから何か月にもなるので、お元気なことを確かめたいと思ってね。偉大なるアラクが急死されたのち、ベサディの景気はいかがかな?」
 「良好ですとも、ユア・ハイネス。あなたの助けには心から感謝しています」
 ダーガがベサディのリーダーになった初めのころ、一族のほかのリーダーたちから強硬な反対にあい−主な理由はハットの言い伝えでは凶兆だとされている、この若く不運なハットの顔のあざのせいだった−彼はプリンス・シゾールの手を借りなくてはならなかった。彼の要請から一週間もしないうちに、三人の主な反対者と中傷者が“べつべつの”事故で死に、その後、批判者たちはずっと静かになった。
 ダーガはシゾールの助けに対して報酬を支払ったが、プリンスが要求した金額はかなり控えめで、ダーガの予想より少なかった。したがってダーガには、あれでブラック・サンと手が切れたわけではないことはわかっていた。
 「あなたに必要な助力を提供できて喜んでいるよ、ダーガ卿」シゾールは手を広げ、誠実さを伝える身振りを示した。もちろん、ファリーンのプリンスは誠実だとも。ブラック・サンは、ハットの支配するこの星系に足掛かりを作りたがっているのだ。「そして、できれば、あなたとまた一緒に仕事をしたいものだ」
 「そうなるかもしれませんな、ユア・ハイネス。しかしいまのわたしは、一族の企業の運営で手いっぱいで、ナル・ハッタ以外のことにはほとんど時間を割けません」
 「だがベサディのイリーシアはべつだ。違うかな」シゾールはまるでひとり言のように軽く言ってのけた。「あれはたいした事業だ、きわめて効率がいい。しかも短期間にあそこまで発展した。実に立派だ」
 ダーガは夕食の入った胃がぎゅっと縮まるのを感じた。“これがシゾールの望みか。イリーシアが。彼はイリーシアの利益を分かち合いたいのか”
 「もちろんです、ユア・ハイネス」ダーガは言った。「イリーシアはベサディには欠かせない事業ですからな。イリーシアの事業には真剣に取り組んでおります」
 「驚くにはあたらないな、ダーガ卿」ファリーンのプリンスは言った。「当然のことだ。事業を効率よく運営するという点では、あなた方はわれわれとよく似ている。率直にいって、商才に長けていると自称するほかの多くの種族よりもはるかに優れている。たとえば人間は、合理的でも分析的でもなく、あらゆる場合に感情を持ちこむ」
 「たしかに、ユア・ハイネス、まったくそのとおりです」
 「まあ、われわれは合理的だが、どちらも家族の絆を大切にする」少しの間をおいたあと、シゾールは言った。
 “いったい何が言いたいのだ?”ダーガは思った。見当もつかないことが、彼を大いに苛立たせた。少し間をおいたあと、ダーガは曖昧に相槌を打った。「そのとおりです、ユア・ハイネス」
 「わたしが得た情報では、あなたがアラクの死の隠れた真実を突き止めるためには、助けが必要なようだ」シゾールは言った。「明らかに何か・・・奇妙な事実が浮上してきたようですからな」
 “この男はなぜこんなに早くあの法医学者の報告の内容を知ったのか?”ダーガはそう思い、それから自分の愚かさに気がついた。相手は銀河で最も巨大な犯罪組織、あのブラック・サンなのだ。彼のスパイ・ネットワークは皇帝のそれにすら勝っているかもしれない。
 「目下、調査を行なっている最中です」ダーガは曖昧に答えた。「助けが必要なときはお願いします、ユア・ハイネス。親との死別に苦しむわたしに、声をかけてくださって感謝します」
 シゾールはうやうやしく頭を傾けた。「家族には敬意を払わねばならないし、借りは返さねばならない。そして必要なら、復讐は直ちにしなければならない。わたしのソースがお役に立てると思いますよ」彼はダーガの目を見据えた。「ダーガ卿、率直にいって、ブラック・サンのアウター・リムの利益は、思いのほかあがっていないのだ。宙域の支配者であるハットと同盟を結べば、好転するのではないかと思ってね。そしてあなたは、どうやらナル・ハッタの成長株のようだ」
 このお世辞は嬉しくもなければ、励みにもならなかった。ダーガはアラクとの会話を思いだした。プリンス・シゾールはここ二〇年のあいだに、何回かアラクに連絡をよこし、同じ提案をしてきたのだ。アラクはそれをきっぱりと、だが丁重に断わり続けた。シゾールを怒らせるほど馬鹿ではなかったが、ファリーンのプリンスの補佐、つまり、シゾールがヴィゴと呼ぶ副官になりたくなかったのだ。
 「ブラック・サンの力は魅力的だ」アラクはそう言っていた。「しかしいいかな、いったんつながりを持てば、シゾールが生きているかぎり、これを断ち切ることはできん。ある意味では、皇帝の要請を断わるほうが簡単かもしれん。ブラック・サンに一キロでもやろうものなら、彼らは一パーセク取る。よく覚えておけ、ダーガ」
 “覚えています”ダーガはそう思い、ホロに顔を向けた。「考えてみましょう、プリンス・シゾール」ダーガは言った。
 「しかし、ハットの慣習では、わたしが親の死を追跡し・・・単独で神聖なる・・・復讐をすることになっているのです」
 シゾールはまた頭をさげた。「なるほど。わたしの提案を熟考し、連絡をくれるのを楽しみにしているよ、ダーガ卿」
 「感謝します、ユア・ハイネス。ご心配、いたみいります。あなたの友情も嬉しく思います」
 このとき初めてシゾールはかすかに笑い、それから彼は手を伸ばして接続を切った。
 プリンスのホロ映像が消えた瞬間、ダーガはぐったりと沈みこんだ。ファリーンのプリンスとのやりとりには疲れたが、彼はうまくかわせたことに気をよくした。
 “イリーシアか。彼はイリーシアの分け前が欲しいのだ”まあ、好きなだけ欲しがるがいい。どんな生物の子供もすぐに学ぶように、欲しがるのは手に入れることとは違う。
 “わたしがイリーシアに新しいコロニーを建設するよう命じ、新しい巡礼惑星を探すためにニルヴォナに調査チームを送ったことを知ったら、彼はいまの倍も熱心になるにちがいない”ベサディのこの新たな拡張の野心を秘密にしておいてよかった。
 突然、ダーガの頭にはイリーシアの光景が浮かんだ。あの惑星では、満足した幸せな巡礼たちが、未加工のスパイスをほとんどコストをかけず、儲けに変える。“同じ事業を、ひょっとするとコア・ワールドまで広げることができるかもしれない。パルパティーンが阻止することはありえない。皇帝はわれわれが売る奴隷を必要としているのだ・・・”
 ハット卿はにやっと笑い、通路をずるずる進み、中断されたディナーに戻った。彼の食欲は完全に回復していた。


反乱の夜明け
P.30 - P.61
 遠く離れたインペリアル・センターでは、プリンス・シゾールがコム・ユニットに背中を向けていた。「あのハットは狡猾なだけではなく、雄弁なようだな」彼はヒューマン・レプリカの暗殺ドロイド、グリに言った。「ダーガは思ったより気骨のあるハットのようだ」
 HRD−どう見ても美しい人間の女性にしか見えない−は、微妙に片手を動かした。しかしそのしぐさの意味−そして脅威−は間違いようがなかった。「なぜ彼を殺さないのです、マイ・プリンス?そうすればもっと楽に・・・」
 シゾールは頷いた。「グリ、おまえにとってはハットの分厚い肌ですら目ではないだろうが、敵になりそうな者は殺すより献身的な部下にするほうが、はるかに能率的かつ効果的なのだ」
 「あの若いベサディ卿の一族をコントロールする力はまだ弱いという報告がきています、マイ・プリンス」グリは言った。「ジャバ・ザ・ハットのほうがましな候補者ではありませんか?」
 シゾールは首を振った。「ジャバは過去に役に立ってくれた。情報を交換してな。まあ、ほとんどがもう知っているものだったが。彼の役に立ってやったこともある。彼にはこのまま貸しを作っておきたい。彼を選んだときには、わたしの恩義を喜んで返してくれるように。ジャバはブラック・サンを尊敬している。決して認めないだろうが、怖がってもいる」
 グリは頷いた。銀河のほとんどの生物はブラック・サンのことを知らないが、知っている生物、そして分別のある生物は、ブラック・サンを恐れている。
 「それに、ジャバは・・・独立心が旺盛で、自分のやり方を通すのに慣れている」シゾールは思慮深く続けた。「だが、ダーガは同じくらい頭がよいが、ジャバとは違って若い。効果的に・・・こちらの思うように、形作ることができる。彼はブラック・サンにとって有益な存在になるだろう。ハットは冷酷なうえに、金で動く。つまり、理想的だ」
 「わかりました、マイ・プリンス」彼女は落ち着いて答えた。グリはいつも落ち着いている。結局のところ、どんなに精巧ではあってもドロイドなのだ−だが彼女は、人々がドロイドと聞いて思い浮かべるような、ガチャガチャ音を立てるぎこちないドロイドとはほど遠い。このシゾールが、遠い祖先のずるずると滑って進む爬虫類とはほど遠いとのと同じょうに。
 シゾールは座る者に合わせて形が変わる椅子に歩いていき、ゆったりと腰をおろした。椅子が彼のすべての動きに合わせて素早く形を変える。彼は考えこみながら、鋭く尖った爪で頬を撫でた。鉤爪が緑がかった肌をひっかきそうになった。「ブラック・サンはハット・スペースに足掛かりが必要だ。ダーガは最もそれを与えてくれる見込みのある男だ。また・・・ベサディはイリーシアを支配している。あそこの事業はブラック・サンの事業と比べると規模は小さいが、実に効率がいい。アラク卿は狡猾な老ハットだった。彼は決してわたしのために働いたりはしなかったろう・・・が、彼の息子はどうだかわからんぞ」
 「どうなさるおつもりですか、マイ・プリンス?」グリは尋ねた。
 「ダーガにはブラック・サンが必要だと納得する時間を与えてやろう」シゾールは答えた。「グリ、ダーガが行なっているアラクの死に関する調査を注意深く監視しろ。ダーガの雇ったチームが発見した事実を、ダーガより先に手に入れるよう手配するのだ。ベサディ卿が知る前に、アラクの死因を知りたい」
 彼女は頷いた。「仰せのままに、マイ・プリンス」
 「そしてもしダーガのチームが、アラクを殺害した者を割りだせるような事実を発見したら−まあジリアクかジャバだろうが、彼らとその事実をつなぐ証拠は抹消するのだ。巧妙にな。故意に邪魔したことをダーガに気づかれては困る・・・わかったか?」
 「はい、マイ・プリンス。仰せのままに」
 「よし」シゾールは満足そうに言った。「ダーガが望むなら、何か月か調査をさせておけ・・・一年でもいい。彼に自分の汚い尻尾を追わせるのだ。そのうち苛立ちが募り、喜んでブラック・サンと運命をともにし、イリーシアを分け合いたいと思うようになる」


反乱の夜明け
P.30 - P.61
 ハン・ソロは朝早くナー・シャッダのみすぼらしいアパートに着いた。寄せ集めの家族はまだ寝ていたが、起きるのにそう長くはかからなかった。「やあ、みんな!」彼は大声で言った。「チューイー!ジャリク!起きろよ!勝ったぞ!これを見ろ!」彼は大声でわめき、バンサが窒息しそうなほど分厚いクレジット証票の束を振りながら、部屋中を駆けまわった。
 ハンとチューイーは、若い友人のジャリクと旧式のドロイド、ジージーと一緒に、そのみすぼらしいアパートに住んでいた。ハンはつい最近、このジージーを、友好的なサバックでマコ・スピンスから勝ちとったのだが、ジージーと一緒に一、二か月暮らすうちに、ハンはサバックにかけてはベテランのマコが、わざと負けたのだと確信するようになっていた。
 ジージーはハウス・ドロイドだが、少しも助けになるどころか、つっかえつっかえ、ぺちゃくちゃしゃべる厄介者でしかない。部屋を掃除するジージーを見て、ハンはすっかりいらいらし、このいまいましい骨董品を捨ててしまおうと何回も思ったものだが、その都度何とか我慢してきた。いつも最後は、うんざりして、“全部そのままにしておけ!”と叫ぶはめになる。
 ジャリク・“ソロ”は、ナー・シャッダのずっと下の層で育った路上生活者だった。一年ほど前に、遠い親戚だと名乗ってハンのところにやって来たのだ。彼はこのあたりで最高のパイロットだと評判の高いハンを尊敬していた。ジャリクは衝動的なきらいはあるが、ハンサムな若者で、一〇代後半のころのハンに似たところがある。ハンはジャリクの主張を調べ、真実を突き止めた。チューイーが名乗る権利がないのと同じくらい、ジャリクには“ソロ”と名乗る権利などなかった。しかし、ジャリクが嘘をついていたことがわかるころには、ハンはこの若者が好きになっていた。そこで彼はジャリクがそばにいることを許し、船に乗ることさえ許した。ジャリクはいまや、かなり腕のいい砲手だ。
 <ナー・シャッダの戦い>でも、恐怖を克服してTIEファイターを撃ち落とし、ハンを手伝い、ランドやサラ・ゼンドと力を合わせて戦闘の形勢を一変させ、臆病者ではないことを証明してみせた。ハンは真実を知っていることは、ジャリクには言わなかった。たとえ嘘でも、自分の名字を持つのはジャリクにとっては大切なことなのだ。だからハンは、喜んで彼に自分の苗字を貸していた。
 ハンは、興奮のあまり壁にぶつかりながら、アパートの部屋を駆けまわった。眠気の醒めない友人たちが彼を取り囲んだ。「目を醒ませ!」ハンは叫んだ。「おれは勝ったんだぞ!それにランドの<ファルコン>も手に入れたんだ!」
 この朗報にチューバッカは吼え、ジャリクは歓声をあげ、哀れなジージーは彼らの興奮ぶりにすっかり当惑してショートし、スイッチを入れ直さなければならなかった。ひと通り背中を叩いたり、祝いの言葉をかけ合ったあと、ハンとチューイーとジャリクはすぐにランドの借用証を手に、中古船の店へと向かった。
 オーナー交替の手続きを終えたのち、ハンは後ろにさがり、<ミレニアム・ファルコン>を眺めた。「おれのものだ・・・」彼は顔の筋肉が痛くなるまでにやにや笑い続けた。
 コレリア人の心は<ファルコン>を改造するプランでいっぱいだった。やりたいことはたくさんある。彼が夢見ていた船に改造するのだ。サバック・トーナメントのおかげで・・・金はたっぶりある!
 まず、シャグとサラに、帝国軍の遺棄艦<リキデイター>を覆っている軍用装甲板の回収を手伝ってもらおう。<リキデイター>は<ナー・シャッダの戦い>で壊れたバルク・クルーザーだ。空気の抜けたこの残骸は、スマグラーズ・ムーンの軌道を回る屑鉄の中をまださまよっている。いまより丈夫な装甲板を付ける、これが第一だ。<ファルコン>は<ブリア>のような目に遭わせたくない。
 それから、逃走用のブラスターを船体下部に付けたい。密輸は危険な稼業だ、急いで逃げる必要も生じる。掩護射撃付きの脱出ならもっといい。
 それが終わったら、ハイパードライブをオーバーホールし、船首にライト・ブラスター・キャノンを据え付けよう。震盪ミサイル・ランチャーもいるな。それから、四連レーザー砲塔を動かして、船の上部と右舷ではなく、上部と下部に付けてもいい。シールドも強化しようか?
 ハンは友だちと一緒に<ファルコン>を眺めながら、さまざまな夢を練った・・・このYT-1300を完璧な船に改造するんだ。銀河一の密輸船に。
 「偽装区画もいるな」彼はつぶやいた。
 「何だって?」ジャリクはハンの顔を見た。「ハン、何て言ったんだい?」
 「デッキの下に偽装区画を作るぞ、と言ったのさ、キッド」ハンはジャリクの肩を抱きながら、チューバッカににやっと笑いかけた。「誰に手伝ってもらうかはわかるだろ?」
 ジャリクはにやっと笑い返した。「いいよ!最初の積み荷は何だい?」
 ハンは少し考えた。「最初に立ち寄るのはキャッシークだ。となると、大量のボウキャスターの爆矢が適当だろう。どう思う、チューイー?」
 チューバッカは大きな声で長々と吼えた。家に帰れると知ったいま、ウーキーはハンがいままで見たことがないほど興奮していた。
 二日後、ハン・ソロは<ファルコン>の加速の早さを喜びながら、デッキの下の区画に密輸品を詰めこんだ<ファルコン>を操縦し、シャグ・ニンクスのスペースバーンから舞い上がった。チューイーは副操縦士の席に座り、ジャリクも砲手として乗りこんでいた。帝国軍のパトロールにはできれば出くわしたくないが、万一に備えて準備をしておくにかぎる。
 キャッシークは帝国の“保護星”、つまり奴隷惑星だった。帝国軍は何とか住民を鎮定していたが、ウーキーの街や家に侵入するのは最小限度に抑えていたし、つねに重武装し、大人数で行動していた。ウーキーは気が短く、衝動的に行動することで知られているからだ。
 ハンはインプのパトロールをかわし、青々とした球体、キャッシークに近づく途中で、どのセンサー人工衛星のレンジにも入らないように気をつけた。ウーキーの故郷はほとんどが森で、巨大なロシュアという木に覆われ、いくつかの海に分けられた四つの大陸から成っていた。
 きらきら光る海沿いに、青いサテンの上にまき散らされたエメラルドのように、島々が点在している。荒れ地はごくわずかで、ほとんどが赤道付近の山域の雨陰側にある。
 通信ができるレンジに入ると、チューバッカがコム・ステーションを引き継ぎ、暗号化周波数に合わせた。そしてコムに向かって、唸ったり、空咳のような音を立てたり、吼えたり、鼻を鳴らしりした。トレーニングされていない人間の耳には、彼がふだんどおりに話しているのとまったく同じに聞こえる−が、そうではなかった。
 ハンは眉をひそめた。いまの言葉の多くはこれまでも聞いたような気がするが、全体としては何を言っているのかさっぱりわからない。チューイーがコムに向かって話すのをやめると、明らかに場所を指示する一連の情報が返ってきた。
 注意深くセンサーを見ていたハンは、素早くその指示にコースを合わせた。ちょうど離床した帝国軍の艦が、惑星の縁を通過していく。
 彼はインターコムのキーを叩いた。「ジャリク、油断するなよ、キッド。見られてはいないと思うが、準備しておこう」
 緊迫した数秒が過ぎ、帝国のインプの艦が彼らに気づかず、静かに進んでいくことをインジケーターが示すと、ハンは安堵のため息をついた。
 ハンはチューイーに目をやった。ウーキーは通信相手が伝えてきた一連の指示や座標を説明した。ハンはいちばん背の高いロシュアの木々すれすれに低空飛行し、チューバッカの指示に従って即座に、かつ正確にコースを変更しなくてはならない、と。
 「いいとも、パル」ハンは言った。「ここはおまえの故郷だからな。おまえがボスだ。だが・・・さっきの隠語はいったい何だ?ウークの暗号か何かか?」
 チューバッカは喉の奥で笑い、人間の友人に説明した。帝国軍は間抜けばかりで、ほとんどの連中はすべてのウーキー語が同じではないことさえ気づかない。だが、ウーキー語には、よく似ているが少しずつ違う言葉が六種類ある、と。チューバッカがルウーク族で、彼ら特有の茶赤、栗色の体毛に覆われていることは、ハンもすでに知っていた。彼が話せないが理解するようになった言葉が、シリウークと呼ばれていることも知っている。これは大ざっぱに訳すと、“樹に住む人々の言葉”という意味だった。
 チューイーは説明を続けた。ハンがいま聞いたのはザクジクと呼ばれる言葉で、これはワルタキ島および、いくつかの辺ぴな海沿いの地域に住むウーキーが話す。貿易や旅行で一般に使われるのはシリウークであるため、ザクジクはほとんど知られていない。そこで、帝国軍がキャッシークを乗っ取ったとき、ウーキーの地下組織はザクジクを秘密の言語とした。帝国軍に知られたくない指示や情報を仲間に伝えるときには、彼らはそれを使う。
 ハンは頷いた。「わかったよ、パル。どうやってどこに飛ぶかそれだけ教えてくれ。そしたら地下組織のおまえの仲間が言うとおりの場所に連れてくよ」
 ハンはロシュアの木の枝のてっぺんをかすめ、ときにはそのあいだを飛びながら、チューイーの注文どおりの正しいコースとスピードで<ファルコン>を飛ばした。ほぼ一分ごとに、チューバッカは地下組織のウーキーに連絡を入れた。
 ついに、彼らはチューイーの故郷の街ルークロロの近くまでたどり着いた。これは縦横に交差するロシュアの枝で作られた台の上の、幅一キロの街だ。副操縦士はハンに、三〇秒も枝と枝のあいだを急降下するという危険な離れ業を注文した。<ファルコン>がハヤブサ(ファルコン)という名のとおり緑の森の中に突っこんでいくと、ハンの心臓は口まで飛び上がったが、チューイーの指示した座標は正確だった。
 ビューポートから見たかぎりでは、<ファルコン>は森に呑みこまれ、粉々に砕け散るかに見えたが、船体には何ひとつ触れなかった。チューイーが命令を出し、ハンは叫んだ。「左舷に舵を・・・切るぞ!」
 <ファルコン>は唸りをあげて鋭く左舷に曲がった。すると目の前に大きな洞穴が見えた。大きな黒い穴が彼らを呑みこもうと待ち構えている。
 しかし近づくにつれ、それが実際は巨大なロシュアの枝で、同じように巨大なほかの枝々と交差してバランスを保っているのがはっきり見えてきた。偶然そうなったのか、意図的に作られたのか、その枝は幹から分かれ、中をくり貫かれて、帝国の小さなドッキング・ベイに匹敵する規模の洞穴となっている。
 あの中に着床しろだと?」ハンはわめいた。「<ファルコン>が入らなかったらどうするんだ?」
 もちろん入る、とチューイーが怒鳴り返してきた。
 “洞穴”の入り口が近づくと、ハンはブレーキ用スラスターを起動し、彼らは首尾よく入り口を通過した。突然木漏れ陽の光が消え、<ファルコン>の赤外線センサーとランディング・ライトのビームだけになった。
 ハンは<ファルコン>を停止させ、リパルサーを使ってランディング支柱に降りた。  着床したとたんに、ジャリクがコクピットのドアウェイに現われた。文字どおり髪の毛を逆立てている。「ハン、あんたはおれが思ってたより狂ってるよ!いまのランディングときたら−!」
 「うるさい、キッド」ハンは怒鳴りつけた。チューイーは<ファルコン>のエアロックを起動するためのバッテリー以外は、すべてのパワーをいますぐ切れと吼えた。
 「わかった、わかったよ」ハンは言われたとおりにしながらつぶやいた。「そうかっかするな・・・」彼は即座にバッテリーを残し、すべてのパワーを切った。船内はかすかな赤い非常ライトだけになった。
 「で、どういうことか説明してくれるんだろうな?ここに飛べ、あっちに回れ、ここに降りろ、パワーを切れ・・・おれが軍隊で命令を遂行するように仕込まれた気の優しい男で、おまえは運がよかったぞ。で、お次は何だ?」
 チューバッカはついて来い、と合図した。すっかり興奮し、我を忘れているようだ。彼は早く故郷の空気を吸いたい、と嬉しそうに吼えた。
 外で、<ファルコン>の新しい装甲板に何かがぶつかる音がした。「おい!」ハンはひと声叫んで座席から飛び上がり、毛むくじゃらの友人を肘で押しのけた。「気をつけろ、おれの船体だぞ!」
 そして“ランプ開”のボタンを押し、ランプを駆けおり、びっくりして立ち止まった。最初にこの“洞穴”に飛びこんだときは、ひどく狭い感じがしたのに、実際に入ってみると音が反響するほど大きい。
 洞穴の入り口でハイドロ・リフトが唸り、カモフラージュ・ネットの一種である大きな“カーテン”がおりていく。数人のウーキーが手早く<ファルコン>にもネットをかけた。
 チューイーが後ろに来て、事前によく説明しておかなかったことを静かに詫びた。「つまり、こういうことか?」ハンはネットを見ながら言った。「インプがここまで追ってこれないように、ここがジャミング交点か、カモフラージュ周波数を発してるんだ」
 チューバッカはハンの推測が正しいと唸った。地元のウーキーは密輸品を受けとるためにこのランディング施設を使う。したがって、こういうことには慣れている。
 「すごいな」ジャリクはつぶやいた。彼は口を開け、ライトのついた洞穴を見まわした。この洞穴には、ドッキング施設と修理工場としての機能や備品が完備されている。「わお!たいしたもんだ!」
 ハンは自分たちが木の中に立っていることがまだ信じられなかった。いや、ではなく、木の枝の中だ。ロシュアの枝一本がこれほどでかいとすると、木自体は信じられないくらい巨大なのだろう。彼は首を振った。「認めるよ、チューイー。ここの連中のオペレーションはたいしたもんだ」
 <ファルコン>を念入りにロックしたあと、ハンとジャリクはチューイーに従い、洞穴の正面に向かった。そしてそこでウーキーの一団に紹介された。七人のウーキーが同時にすごい速さでしゃべるので、聞き慣れていないハンは、彼らの会話についていくのが難しかった。チューバッカは喜びの叫び声をかけられ、抱きしめられ、激しく叩かれ、揺さぶられ、また激しく叩かれている。
 チューイーがハンを、奴隷から解放ししてくれた命の借りがある“名誉の兄弟”だと紹介すると、今度はハンが叩かれ、揺さぶられるなどの恐ろしい危険に直面しそうになった。が、ありがたいことに、チューバッカがそれを遮り、ごくあたりまえの紹介に留めてくれた。すべてのウーキーがベーシックを理解できるわけではないので、頻繁な翻訳が必要だった。
 ハンが会ったウーキーのうち三人はチューイーの親戚で、毛に赤褐色の渦巻きがあるウーキーは彼の姉、カラボウだった。それよりも小柄な栗色の女性ジョウドールは従姉妹で、暗茶色の男ドランタも従兄弟だった(驚いたことに、ハンはこの三人がチューバッカに似ているのを見分けることができた!)。ほかの四人はウーキーの地下レジスタンスのメンバーで、ハンに会って積み荷に関する交渉をするために来ていた。
 モタンバは武器担当の年長のウーキーで、ハンが大量の爆矢を積んできたことを話すと、青い目を輝かせた。カターラはチューバッカよりも若いウーキーだが、どうやらレジスタンスのリーダーらしい。ウーキーたちは尊敬に満ちた顔で彼女の話に耳を傾けている。彼女は頻繁に父親、ターカッザに相談していた。彼はがっしりした体つきの、ハンが初めて見る黒い毛のウーキーだった。彼の背中には一筋の銀色の毛が走っている。カターラの体毛は茶と黄褐色だが、彼女にもそれがあるところを見ると、明らかに家族の特徴なのだろう。
 しばらく大騒ぎが続いたあと、チューバッカが初めて太い声で吼え、命令した。“キューラーを持って来い”
 “キューラーってなんだ?”とハンは思った。
 その答えはすぐにわかった。彼らは布製の−毛織物かもしれない−長い袋みたいなものをふたつ持ってきた。チューバッカはハンに顔を向け、まずコレリア人を指さし、それからそのキューラーを指さした。ハンはとんでもないという顔で首を振った。「この中に入れだと?おれとジャリクに、ここに這って入ってほしいだと?おれたちを木々の上に運べるように?とんでもない、パル!おれだって、おまえと同じくらいうまく登れるさ」
 チューバッカはハンを見て、首を振った。そしてハンの腕をつかむと、洞穴の入り口に連れていき、カモフラージュ・ネットを持ち上げ、その外の洞穴の縁に出ろと手を振った。
 ジャリクもほかのウーキーたちと外に出てきた。何を言われたのかほとんどわからずに当惑している。「ハン?おれたちにどうしてほしいって?」
 「このずた袋の中に入れとさ、キッド。ルークロロのリフトのところまで、おれたちを運び上げるんだと。だが、おれだってちゃんと登れると断わった」
 ジャリクは縁に歩いていき、恐る恐る身を乗りだして下を見た。それからハンのところに戻ってくると、黙って彼を見つめ、キューラーに入りはじめた。
 好奇心に駆られ、ハンも縁まで歩いていって下を見た。
 もちろん彼は、自分が地上から何キロも上の空中にいることはわかっていた。だが、それを知識として知っていることと、実際に目で見るのとは大きな違いがある。彼の下には森がどこまでも・・・どこまでも・・・さらにどこまでも続いていた。
 木の幹はハンの優れた視力でも見えないほど下まで伸びている。パイロットとしてのあらゆる経験や優れたバランス感覚にもかかわらず、ハンは軽い目眩を感じながらチューバッカのところに戻った。ウーキーはキューラーを差しだしていた。そしてハンがためらうと、力強い手を屈伸させ、鉤爪を出した。爪は鋭く尖っている。チューイーの力があれば、この鉤爪は木の幹にしっかりと突き刺さるだろう。
 「後悔するだろうな・・・」ハンはつぶやいて、その袋に入った。
 チューバッカはハンを運びたがったが、彼は森を旅するのは久しぶりだから、自分の心配だけしたほうがいい、と親戚に説得された。
 そこでモタンバがジャリクを、ターカッザがハンを運ぶことになった。ジャリクもハンもそれぞれの袋に詰めこまれていた。ハンは外を見たかったが、ターカッザは、彼の頭を袋に押しこみ、バランスを崩さないために腕も中に入れ、じっとしているようにと警告した。
 ターカッザは背中でキューラーを揺らしながらプラットフォームの縁に歩いていき、それから、唸りを発して空中に身を躍らせた。彼らはどんどん落ちていく!
 ハンは何とか叫び声を押し殺した。ジャリクがくぐもった悲鳴をあげるのが聞こえた。
 何秒かあと、ターカッザはかたい面にぶつかり、しがみついて、今度は素早く登りはじめた。葉っぱが音を立ててキューラーに当たる。ハンがやっと体の力を抜いたとたん、彼らはまた跳躍した!
 そのあとの数分、ハンは動かず、吐かないようにするので精いっぱいだった。ターカッザの最善の努力にもかかわらず、袋は激しく揺れ、急に動き、ぐるぐる回り、木の幹に当たった。
 揺れて、ぶつかって、登る。
 跳躍し、つかみ、揺れる。
 つかみ、唸り、揺れながら登る・・・。
 ハンはついに目を閉じ−どうせたいしたものは見えなかった−ひたすら耐えた。この悪夢の旅は何時間も続くように思えたが、あとでクロノを見ると、一五分ぐらいしか経っていなかった。
 ようやく最後の唸りを伴ったひと登りで動きが止まり、ハンは袋に入ったまま地面に横たえられた。目眩がおさまるのを待って(それには少しばかり時間がかかった)、彼は袋から這い出した。
 ほどなく彼は、バランスをとるために足を大きく開き、周囲のほとんどを森に囲まれた巨大なプラットフォームに立っていた。その上に立つルークロロの街は巨大なつぶれた卵のような形をしている。家々は郊外やこのプラットフォームのあちこちに散らばり、道を突き抜けて直立する枝が、さらなる緑を加えていた。
 ハンはようやく回らなくなった周囲のものを見ながら、深々と息を吸いこんだ。目の前の街は言葉では言い表わせないほど美しかった。クラウド・シティほど淡い色ではないが、ルークロロには同じ開放的で爽やかな感じがある。もしかしたらクラウド・シティと同じように、高いところにあるからかもしれない。
 いくつかの建物は二、三階の高さだったが、ちゃんと木のてっぺんと調和を保っていた。どこを見てもあざやかな緑、ロシュアの木のてっぺんの枝が風に揺れている。かすかに緑がかった青空には、きらきら光る平たくて大きな白い雲が流れていた。
 と、そのとき、窒息するように喉を鳴らす音がした。後ろを振り向くと、ジャリクがひざまずいて腹を押さえている。いまの旅に酔ったのだろう。彼は歩み寄り、若者の肩に触れた。「おい、キッド、大丈夫か?」
 ジャリクは首を振り、それからこの動作を後悔するようにつぶやいた。「少したてば大丈夫さ。ただ吐かないようにしてるだけ・・・」
 ハンは真面目くさって言った。「そいつをこらえるコツはだな、トララドンとチューバーのシチューのことを考えないことだ」
 ジャリクは恨みをこめてハンをにらみ、急いで口をおさえてプラットフォームの端に走った。コレリア人は肩をすくめて踵を返した。するとチューイーがそこにいた。「かわいそうに。ところで、チューイー、すごい旅の仕方だな。袋を持ってきてくれてよかった。あれは何を入れる袋だ?荷物か?」
 チューバッカの唇がめくれ、それから彼はおかしそうに“キューラー”という言葉の訳を教えた。
 ハンは毛を逆立てた。「赤ん坊の袋だと? おまえらはウークの赤ん坊をあれに入れて運ぶのか?」
 チューバッカは笑いだし、ハンが怒れば怒るほど、いっそう激しく笑った。街からやって来たウーキー一行の吼え声のおかげで、ハンはようやく助けられた。彼らは少なくとも一〇人はいた。年齢もばらばらだ。ハンがやや猫背の、背が低い、体毛が灰色になったウーキーに気づくのとほぼ同時に、チューバッカが喜びの声を放ちながら走りだした。
 チューイーがその老齢のウーキーを叩き、拳を打ちつけ、抱きしめるのを見て、ハンはカラボウを見た。彼女はありがたいことにベーシックがわかるのだ。「アティッチトカックか?」彼はチューバッカの父の名前を口にした。
 そのとおり、チューバッカの姉はそう答えた。息子がまもなく帰ってくると知ってからは、父はそのことばかり話していた、と。
 「ほかにもチューイーが会いたがってたウーキーがいるんだ。マーラトバックさ。彼女はいまでもこのルークロロに住んでるのかい?」
 カラボウは鋭い歯を閃かせてにやっと笑い、人間のように頷いた。
 「彼女は結婚してるのかい?」ハンは恐る恐る尋ねた。彼の親友には、この質問が大きな意味を持つことをわかっていたからだ。
 カラボウは笑みくずれ、ゆっくり首を振った。
 ハンはにやっと笑い返した。「やったぞ!こいつは祝う価値がある!」
 誰かが肩に触れた。振り返ると、カターラがべつのウーキーの男とそこに立っていた。驚いたことに、その背の高いウーキーは口を開き、驚くほどわかりやすいウーキー語でこう言った。[ごきげんよう、ソロ船長。わたしはラルラチーンです。ラルラと呼んでください。あなたをキャッシークに迎えることができて光栄です]
 ハンはあんぐり口を開けた。彼がウーキー語を理解するには何年もかかり、どんなに努力してもいまでもうまく発音できないというのに、このウーキーはハンが簡単に理解できるばかりか、真似ができそうな発音で話している。「おい!」ハンは思わず口走った。「どうやって発音してるんだ?」
 [わたしには言語障害があるのです]そのウーキーは言った。[われわれウーキーと話すときは都合が悪いのですが、人間がキャッシークを訪れたときは、とても役に立ちます]
 「そのようだな・・・」ハンはまだ驚きながらつぶやいた。
 ラルラの助けで、ハンとカターラは積み荷の爆矢の交渉を始めることができた。[わたしたちにはそれがとても必要です]ラルラは言った。[しかし、慈善を求めているわけではありません。それと交換できるものがあります、船長]
 「何だい?」
 [帝国軍のストームトルーパーの装甲服です]ラルラは言った。〔わたしたちは兵士たちが使わなくなった装甲服を集めています。最初は記念品のつもりでしたが、やがて価値があることに気づいたのです。われわれは多くの装甲服とヘルメットを持っています]
 ハンは考えた。ストームトルーパーの装甲服は、たしかに価値のある材料からできている。そしてほかの装甲服として再利用できる。また化学的に溶かし、鋳直すこともできる。「見てみたいな。場合によっちゃ交換してもいい」ハンは肩をすくめた。「もちろん・・・中古の装甲服にはたいした価値はないが・・・」
 これは真実ではなかった。良好な状態の装甲服なら、場所にもよるが、一着二〇〇〇クレジット以上にはなる。“でも、おい、彼らが持ってても使い道はないんだし、この旅からも儲けないとな・・・おれは慈善事業をしてるわけじゃないんだ”
 カターラは激しく鼻を鳴らし、託りのあるシリウークでまくしたてた。ハンにわかったのは、彼女が夜明け色の髪の人間について話していることだけだった。
 ラルラはハンに向き直った。[カターラは、装甲服はとても価値がある、あなたの故郷コレリアから来た夜明け色の髪の女性がそう言った、と言ってます]
 ハンは地下組織のリーダーにくるりと向き直った。「コレリア人だって?」彼は鋭く言った。「コレリア人の女性だって?金髪の?」
 ラルラはカターラに尋ねた。[そうです。彼女は最近のライフ・デイ−これは約一標準年のことですが−が始まった、すぐあとにここに来ました。そしてわれわれの地下組織の指導者に会い、組織作りやコード、戦略などを教えてくれました。彼女はあなたの故郷のレジスタンスのメンバーです]
 ハンはカターラをじっと見た。「彼女の名前は・・・彼女の名前は何だった?」
 ラルラはその地下組織のリーダーに向き直り、素早く話しかけ、そしてハンに向き直った。[カターラは彼女の名前は知らないと言っています。これは、万一に備えたごく普通の手順なのです。彼女が訪れているあいだ、われわれは彼女を“クアール=テレーラ”と呼んでいました。これは“陽色の髪の戦士”という意味です]
 ハンは深く息を吸いこんだ。「どんな女性だった?」彼は尋ねた。「もしかしたらそのコレリア人を知ってるかもしれないんだ。彼女はもしかしたら・・・」彼はためらった。「彼女はもしかしたらおれの・・・恋人かもしれない。おれたちはずっと昔に、帝国に引き離されたんだ」
 厳密にいえば、これは嘘とはいえなかった。ブリアはハンが帝国アカデミーに入る邪魔をしたくないといって、彼のもとを去ったのだ。彼はまだ彼女が書いたフリムジーを持っていた。愚かなことだし、それが目に入るたびに捨てようと思うのだが、どういうわけか捨てられずにいる。
 カターラの警戒するような表情は、これを聞くと目に見えて和らいだ。彼女は片手を差しだし、同情のしるしにハンの腕の上に置いた。帝国は邪悪だ、多くの家族を引き裂いた。
 ラルラはハンの鼻の高さまで手を上げた。[このぐらいの背で、長い髪は夕陽のような色・・・金赤色でした。目は空の色で、太ってはいなかった]彼は手でほっそりした体型を示した。[彼女はそのチームのリーダーで、兵士でした。彼女には奴隷として生きることがどんなことかわかっているので、キャッシークに来るように命じられたと言っていました。彼女は自分がイリーシアで奴隷だったことを話し、キャッシークや帝国に隷属されたほかの惑星を解放するために、命を捧げると言いました。彼女は熱意をこめて話しました]
 ラルラの声はわずかに変わり、より個人的な調子になった。[わたしも友人が帝国から解放してくれるまで奴隷でした。クアール=テレーラは奴隷について真実を語りました。わたしにはわかったんです。彼女にはそれがどんなものかわかっていました。わたしたちはどれだけ帝国を憎んでいるかを話しました]
 ハンは口が乾くのを感じながら、やっとのことで頷き、つぶやいた。「教えてくれてありがとう・・・」
 “ブリア”彼は麻痺したような頭で思った。“ブリアがコレリア反乱軍のメンバーだって?いったい全体、どうしてそうなったんだ?”

反乱の夜明け
P.30 - P.61
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Last Update 20/Jul/2000