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反乱の夜明け #1
勝者と敗者

年 代 出 来 事 場 面 参 考



 ハン・ソロは<ウェイワード・ガール>の操縦席で、身を乗りだした。「大気圏に入りますよ、船長」この星系の青ざめた大きな太陽が、惑星の端で巨大な赤みがかった光の曲線となり、惑星の縁に消えていく。かわりにベスピンの広大な暗い夜の側が、星を隠すようにせり上がってきた。彼はセンサーを確認した。「前部シールドは最大にしておいたほうがいいな。ベスピンの大気圏には、飛んでる−さもなければ浮かんでる−生物がいるって話だ」
 副操縦士の席に座っている船長のジャドンナが、片手でシールドを調整した。「ハン、クラウド・シティへのETA(到着予定時刻)は?」彼女は少しばかり緊張した声で尋ねた。
 「まもなくだ」ハンは安心させるように言った。<ガール>は惑星の大気圏上層を切るように降下し、暗い極へと近づいていく。はるか下のライトが、ちらちら瞬く光の霧のように見えてきた。「ETAは二六分後。クラウド・シティには、遅いディナーに間に合うように着けるはずだ」
 「早いほどいいわ」彼女は圧力包帯で吊った右手を曲げて顔をしかめた。「これはものすごく痒いんだもの」
 「もう少しの辛抱さ、ジャドンナ」ハンは言った。「着きしだい、医療施設に送ってもらうから」
 彼女は頷いた。「ねえ、ハン。文句なんてないわ。あなたはよくやってくれた。ただ、この腕を早くバクタに漬けたいだけ」
 ハンは首を振った。「軟骨と靭帯が引き裂かれてるんだ・・・痛むだろうな。でもクラウド・シティにはちゃんとした医療施設があるだろう」
 「もちろんよ。あそこはたいしたとこだもの、ハン。もうすぐわかるわ」
 ジャドンナ・ヴェロズは黒いストレート・ヘアの、ずんぐりした黒い肌の女性だった。彼女と会ったのは二日前。ベスピンに船を飛ばしてくれるパイロットが欲しいという、彼女がオルデランから出したスペーサー=ネットの広告にハンは応募したのだった。ヴェロズは故障した反重力ローダー(荷積み装置)に打たれて腕を怪我したのだが、輸送期日が迫っていたため、とりあえず応急手当てで済ませ、積み荷を届けるまで治療を延期したのだ。
 ハンはコレリアからオルデランまでの快速シャトルのチケット代を払ってもらい、そこから操縦を引き受けて、スケジュールどおり、ベスピンに到着した。
 <ウェイワード・ガール>は空気の薄い外気圏を通過し、さらに下降して、青い空をあとにしての黄昏へと降りていった。ハンは針路を変え、太陽が沈む南西に向かった。彼らが稲妻のように降下していくと、はるか下で積み重なっているふわふわした雲の上のほうが、真紅から珊瑚色、そして黄橙色へと染まりはじめた。
 ハン・ソロにもベスピンに来る理由があった。もしジャドンナの広告がネットになかったら、客船の船賃を払うために、急速に減っていくクレジットを使うはめになったろう。
 ヴェロズの事故は、ハンにとっては絶好のタイミングだった。おかげで船賃が浮いたばかりか、彼女が約束してくれた報酬で、サバック大会のあいだ、安い部屋に泊まる金と食事の金が払える。なにしろこの大会に参加するだけでも、一万クレジットという大金が必要なのだ。イリーシアの最高位司祭テロエンザから盗んだパラドーの黄金小立像と、グリーランクス提督のオフィスで拾ったドラゴン・パールを故買商に売って、ハンはこの金をどうにか作ったのだった。
 チューイーが一緒だったらな。コレリア人はつかの間そう思った。だが、ウーキーの渡航費を捻出するゆとりはなく、ナー・シャッダの小さなアパートに置いてくるしかなかった。
 大気圏の下層まで降下すると、大きな雲の塊のすぐ上で輝く、橙色の球をつぶしたようなベスピンの太陽が視界に入り、<ガール>は金色にきらめく雲の塊に囲まれた。ハン・ソロもこの雲と同じように金色の夢を抱いていた。
 ハンはすべてをこれに懸けていた・・・サバックではいつも幸運に恵まれる。しかしツキだけで勝てるだろうか?相手はほとんどランドのようなプロのギャンブラーだ。
 コレリア人はごくりと唾を呑みこみ、操縦に集中した。神経質になっている場合ではない。もうすぐクラウド・シティのトラフィック管制官から声がかかるはずだ。ハンは再び<ガール>の進入空路を修正した。
 まるで彼の思いに応えるかのように、コムから声が流れてきた。「到着した艦艇、艦名をどうぞ」
 ジャドンナ・ヴェロズは左手を伸ばしてコムを起動した。「クラウド・シティトラフィック官制局、この船はオルデランからの<ウェイワード・ガール>。進入空路は−」彼女はハンの前の機器をちらっと見て、一連の数字を口にした。
 「<ウェイワード・ガール> へ、空路を確認しました。目的地はクラウド・シティですか?」
 「そのとおりよ」ジャドンナは答えた。ハンはにやっと笑った。彼の聞いたところでは、ベスピンで目ぼしい街はクラウド・シティぐらいのものだという。もちろん、ティバナ・ガスの採取施設や精製施設、格納および輸送施設などはあるが、半分以上の到着船はクラウド・シティの豪華なリゾート・ホテルに行くらしい。ここ数年、この雲の中の街は普通の旅に飽きた旅行者のお気に入りの行楽地となっているのだ。
 「官制局。われわれはヤリス・ベスピンの厨房に届ける大事な荷を積んでるの。ステイシス(均衡状態)のナーフのテンダーロインよ。着床進路を要請します」
 「了解、<ウェイワード・ガール>」官制官は答え、それから、ややくだけた調子で続けた。「ナーフのステーキだって?今週はワイフを連れて食事に出かけるかな。めったに食べられないからね。彼女はうまいものには目がないんだ」
 「最高級のものよ、官制官。ヤリス・ベスピンのシェフが、これのよさをわかってくれるといいけど」
 「ああ、彼は一流さ」管制官はそう言い、それから事務的な調子に戻った。「<ウェイワード・ガール>、レベル65、ドッキング・ベイ7Aに着床してください。繰り返します、レベル65、7A。聞こえましたか?」
 「了解、クラウド・シティ管制官」
 「着床進路は−」管制官は一瞬言葉を切り、それから座標を口にした。
 ハンはそれをナビ・コンピューターに打ちこみ、ゆったりと座席にもたれた。名高いクラウド・シティを見るのが楽しみだ。ベスピン自体は観光地となる前からすでに有名だった。ここは宇宙船のエンジンやブラスターのエネルギー源に使われる、ティバナ・ガスの産地なのだ。
 実際どのように採取されているかはよく知らないが、ティバナ・ガスがきわめて価値のある資源だということは知っていた。したがって、採取者たちは裕福にちがいない。ベスピンの大気中に発見される前は、このガスは星の彩層や星雲団など、控えめにいっても危険な場所にしかなかった。それから、誰かが偶然ベスピンの大気にはティバナ・ガスがたくさん含まれていることを発見したのだ。
 突然センサーが静電気の音を発し、ハンはあわててコースを変えた。「おい−あれは何だ?」彼はビュースクリーンを指さした。右手に巨大なシルエットが見える。金色の雲の真っ只中に浮かんでいる。半分しか見えないが、それはコレリアの小都市が小さく見えるほど大きかった。
 ジャドンナは身を乗りだして叫んだ。「ベルドンだわ!とても珍しいのよ。何年もここの雲の中を飛んできたけど、実際に見るのはこれが初めてだもの」
 ハンはその巨大な生物に目を細めた。<ガール>はそのそばを矢のように通過していく。ベルドンは彼がいくつかの惑星で見た、ゼリー状の海の生物に似ていた。てっぺんが大きな半球形で、そこからたくさんの小さな採餌触手が垂れ下がっている。
 ハンはランディング進路を確認した。「予定どおりですよ、船長」彼は言った。珍しい海獣は彼らのはるか後ろに消えていき、前方にさっきより小さいベルドンを逆さにしたようなものが見えてきた。クラウド・シティだ。
 それは一風変わったワイングラスのように雲の中に浮かんでいた。きらきら光る冠をのせた丸いタワーや、ドーム型の建物、通信施設の尖塔、精製所の煙突。沈みゆく夕陽のなかで、クラウド・シティはコルサ・ストーンのように輝いている。
 ハンは指定の進入路を保って、雲の中にある都市のドーム型の建物の上をかすめ飛んだ。そしてまもなく、割り当てられた場所に完璧に<ガール>を着床させた。
 報酬を受けとってヴェロズ船長に別れを告げたあと、彼はサバック・トーナメントが開かれる高級ホテル、ヤリス・ベスピンに向かうために、ロボ=ハック(自動操縦タクシー)を探した。
 ほどなく彼は目的地をキーパッドに打ちこんだ。小さなロボ=ハックは街のストリートを勢いよく進みはじめ、目眩がするほどの猛スピードでめまぐるしく上下していく−低い建物を“飛び越える”ときはとくに。タクシーの窓からは、その建物を囲む雲や、ビルのあいだの深い谷間が見えた。すっかりになった街は、蓋の開いた貴婦人の宝石箱のように輝いている。
 やがてロボ=ハックはヤリス・ベスピンの前で止まった。ハンはポーター・ドロイドを退け、大きな入り口から中に入った。以前マジシャン、ザヴェリのツアーに同行したときに、豪華なホテルはいくつも見ている。だから贅沢な内装や、数階分吹き抜けになったロビーの空間を蜘蛛の巣のように交差している、細長い動く通路を見ても驚かなかった。彼は二〇かそれ以上の言語で「トーナメントの登録受付」と書かれた表示にある、上向きの矢印に従い、グライド・リフトで中二階に上がった。
 空中通路を降りると、彼はまっすぐ大きなテーブルに向かった。そこにはあらゆる人種、大きさ、形状のギャンブラーが大勢集まっていた。ハンは登録し、ブラスターを預け(武器はすべて預けねばならなかった)、IDバッジと、チップが必要なときに現金に換えることができる引換券を受けとった。最初のゲームが始まるのは明日の昼ごろだ。
 チップの引換券をシャツの内ポケット、肌にいちばん近いところにしまいこみ、受付を離れようとすると、よく知っている声が彼を呼んだ。
 「ハン!おい、ハン!こっちだ!」
 彼は振り返った。ランド・カルリジアンが広い中二階の反対側で手を振っているのが見えた。ハンは手を振って聞こえたことを示すと、ランドがハンの側に向かってのびている空中通路に乗ったにもかかわらず、自分も空中通路に走り、それに飛び乗った。
 最後にランドと会ったのは、彼がうまい儲け口を求めてオセオン星系に向かう前だった。が、ランドは何か月もこのトーナメントのことを話していたから、きっとここで会えると楽しみにしていたのだ。
 「やあ、ハン!」それぞれの空中通路の上で向き合うと、ランドは浅黒い顔をほころばせた。「しばらくだな!」
 ハンは空中を飛んで、ランドの立っている通路に移った。ランドは待ちかまえていたように、チューバッカも顔負けのすごい力で抱きしめた。「会えて嬉しいよ、ランド!」カルリジアンに背中を強く叩かれ、ハンはあえぎながら言った。
 彼らは登録エリアで空中通路を降り、つかの間そこに立ったまま顔を見合わせた。ランドは、ずいぶん金回りがよさそうに見える。オセオンの賭博場はかもばかりだったにちがいない。彼は最高級のアスカジアン布を使った高価な服を着て、新しい黒と銀のケープを粋に垂らしていた。
 ハンは微笑んだ。最後に会ったときは伸ばしはじめたばかりだった髭が、いまはすっかり立派になり、まるで海賊のような雰囲気を与えている。ハンはそのことに触れた。「口髭をはやすことにしたのか」
 ランドは誇らしげに手入れの行き届いた口髭を撫でた。「どの女性もすごく誉めてくれる。もっと前にはやすべきだったな」
 「まあ、手に入るすべての助けが必要な人間もいるからな」ハンはからかった「おれみたいにもてないのが残念だな、オールド・パル」
 ランドは嘲るように鼻を鳴らした。
 ハンはあたりを見まわした。「で・・・あの赤目のドロイドはどこだい?ヴァッフィ・ラーだっけ?サバックで取られたんじゃあるまいな」
 ランドは首を振った。「ハン、そいつは話すと長くなる。この話をちゃんとするには、酒が入った背の高いグラスがいるな」
 「そいつを短くすると?」ハンは尋ねた。「あいつがあんたを“マスター”と呼ぶのに飽きて、ほかでクラス2の能力を売ったほうがましだと決めた、とか?」
 ランドは首を振り、真面目な顔で答えた。「ハン、信じないだろうが、ヴァッフィ・ラーは仲間のところに帰って、大人になることにしたのさ。自分の運命を果たすことにしたんだ」
 ハンは狐につままれたような顔をした。「何だって?あれはドロイドだぞ。“運命”ってのはどういう意味だ?」
 「ヴァッフィ・ラーはまだ幼い宇宙船なんだ・・・いや、だったというべきかな。馬鹿げて聞こえるのはわかってる。だが、こいつは本当だ。あいつは・・・特殊な・・・種族なのさ。星間を放浪する巨大なドロイド船だ。機械ではあるが、知的生物の一種・・・種族なのさ」
 ハンは友だちを見つめた。「ランド、ライルでも嗅いでたのか?一日中バーにいたみたいな口ぶりだぞ」
 ランドは手をあげた。「本当なんだ、ハン。ほら、あの邪悪な魔術師ロクール・ゲプタの正体はクロークだったし、真空呼吸者なんてのもいた。それに巨大なスター・ケイブ(星洞)ではでかい戦いもあった−」
 「イカサマ師!」太い耳障りな叫び声が、ふたりを驚かせた。「あいつを捕まえて!彼を参加させちゃだめ!あれはハン・ソロよ、イカサマ師よ!」
 ハンはくるりと振り返った。バラベル女がかんかんになって、すごい勢いで突進してくる。彼女は曲がらない脚を少し引きずっているが、大きな歯をむきだし、かなりのスピードで近づいてきた。バラベルは爬虫類に似た大きな黒い生物で、ハンが知っているのはほんのひと握り、女のバラベルにはひとりしか会ったことがない。
 それがこの女だ。
 ハンは息を呑み、とっさにブラスターに手を伸ばした。が、彼の手は力なく太腿を打った。“くそ!”彼は後ずさりしながら、なだめるように手を上げた。「待てよ、シャラマー−」
 いつも呑み込みの早いランドは、バラベルの通り道をよけて叫んだ。「セキュリティ!セキュリティが必要だ!誰かセキュリティを呼んでくれ!」
 バラベル女は怒りに駆られ、口から唾を飛ばしてわめいた。「こいつはスキフターを使うの!イカサマ師よ!逮捕して!」
 ハンは登録テーブルのひとつにぶつかるまで後退し、それからその上に片手をついて飛び越えた。バラベルは鋭い歯をきらめかせた。「臆病者!そこから出ておいで!この男を逮捕して!」
 「落ち着けよ、シャラマー」ハンは言った。「あのときはフェアに、公正に勝ったんだ。恨みを抱くのはプレーヤーの精神に反するぞ−」
 彼女はわめきながら突進し−
 −タングル・フィールドに足をとられ、重い音をさせて倒れた。シャラマーは手足をばたつかせ、絨毯を尻尾で叩きながら毒づき、わめき続けた。
 ハンはホテルのセキュリティ部隊を見て、ためていた息を吐きだした。
 一〇分後、ハンとランドとまだ拘束されたままのシャラマーは、オフィスでチーフ・セキュリティと向かいあっていた。シャラマーはむっつりと押し黙っている。チーフがハンを頭のてっぺんからつま先までスキャンした結果、イカサマの道具は何ひとつ持っていないことが証明されたからだ。
 バラベルは気詰まりな様子で背をまるめていた。彼女の足はまだタングル・フィールドで動かない。チーフは彼女に、再び騒ぎたてるようなことがあれば退場させる、と警告した。「−それから、きみはここにいるソロに詫びる必要があると思うね」チーフはそう結んだ。
 シャラマーは静かに唸った。「これ以上彼に危害は加えない。名誉にかけて誓うわ」
 「それでは謝ったことには−」
 ハンは彼に手を振った。「無理強いはやめてくれ。シャラマーが手を出さないと約束するなら、それで結構。イカサマ師じゃないことを証明できてよかったよ」
 チーフは肩をすくめた。「いいだろう、ソロ。よし、ふたりは引きとっていいぞ」彼はハンとランドをちらっと見た。「彼女は二、三分後にタングル・フィールドを解除して釈放する」彼はバラベルを振り返った。「だが、マイ・レディ、きみには監視をつける。それを覚えておくんだな。ここで行なわれるのはトーナメントだ。飛び入り参加自由の格闘技じゃないんだ。わかったかな?」
 「ええ」彼女はしゃがれた声で答えた。
 ハンとランドはオフィスをあとにした。ハンは何も言わなかったが、ランドのことだ、このまま済ますとは思えない。思ったとおり、カフェに向かう空中通路に乗ったとたん、ランドはにやっと笑った。「ハン、ハン・・・またしても昔の恋人ってやつか?まったくな・・・たしかにおたくはよくもてるよ!」
 ハンは歯をむきだし、シャラマーと同じくらい恐い顔で吐き捨てるように言った。「うるさい、ランド。いいから・・・何も言うな」
 どっちにしろ、すでにランドは笑いすぎて話せなくなっていた。


反乱の夜明け
P.7 - P.29
 ハンとランドは、数時間もおたがいの身に起こったさまざまな出来事を報告しあった。ランドはオセオン星系でどんな冒険をしてきたか、面白おかしく話してくれた。ナー・シャッダを発ってから、何度もひと財産手に入れては−いちばん最近の積み荷は宝石の原石だった−失ったことも。「ハン、あれを見せたかったな」ランドは悲しげに言った。「ゴージャスだったぜ。<ファルコン>の倉庫の半分もあったんだ。あれを今でも持ってたらな。だが、あのいまいましいベルビアン鉱山を半分買うために、ほとんど使っちまった!」
 ハンは半分は同情し、半分はあきれて友だちを見た。「良質の鉱石を入れて本物らしく見せてあったのか?だが実際には一クレジットの値打ちもなかった?」
 「そのとおり。どうして知ってるんだ?」
 「昔、同じ手口の詐欺をやったやつを知ってるんだ。そいつのは、デュラロイが産出されるというふれこみの小惑星だったが」ハンは、昔サバックで五〇万クレジットのウラン鉱山を手に入れたものの、結局は一文の得にもならなかったことは黙っていた。鉱山は本物だったが、帳簿がまったくいい加減で、株主が調査を始め・・・まったく、起訴されずに済んだだけで運がよかった!
 しかし、それは全部過去のこと。失敗した冒険を思いだして悔しがるのは、ハン・ソロの流儀に反する。
 「<ファルコン>といえば、どこに入れてあるんだ?」
 「ああ、ここにはないんだ」ランドは言った。「ナー・シャッダの店に置いてきた。賭けで大きく勝つコツのひとつは、でかい勝負ができる、大きく勝ったり負けたりできるように思わせることだ。そうすれば効果的にブラフをかけられる・・・」
 「覚えておくよ」ハンはその忠告を心に留めながら言った。「で、どうやってここに来たんだい?」
 「大型豪華客船のひとつ、<クイーン・オブ・エンパイア>に乗ってきたのさ」ランドは言った。「華やかにな。言うまでもないが、あの船には最高のカジノがある。おれと<クイーン>は古いなじみなのさ」
 ハンは茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべた。二、三週間前ブルーに会ったんだが、あんたがドレア・レンサルの新しい船で、粋な旅をしているって言ってたぜ。ほら、ドレアがナー・シャッダの戦いのあとで回収した、キャラック・クラスの監視艇<レンサルズ・ヴィジランス>でさ」
 ランドは咳払いした。「ドレアは素晴らしい女性だ。海賊にしては、驚くほど洗練されてる」
 ハンは喉の奥で笑った。「だが、ランド!あんたには年をとりすぎてやしないか?少なくとも四〇にはなってるぞ!海賊のクイーンのペットにされるってのは、どういう気分だい?」
 ランドは気色ばんだ。「そんなんじゃないさ・・・彼女はちっとも・・・」
 ハンは笑った。「あんたの母親といってもおかしくない歳だ。そうだろ?」
 ランドは口髭の下で白い歯をひらめかせた。「そんなことはない。それに・・・おれの母親はドレアとはまるで違うよ」
 「で、何で別れたんだ?」
 「海賊船での生活は・・・面白かったが、おれの好みからいうと、少しばかり・・・荒っぽすぎてね」
 ハンは彼のめかしこんだ服を見ながら頷いた。「なるほど」
 ランドは真面目な顔になった。「だが・・・ドレアとはいまでも友だちさ」彼は付け加えた。ここ二、三か月、おれは・・・その・・・」彼は明らかに言いにくそうに肩をすくめた。「ドレアはいいときに現われた。おれは・・・とにかく、誰かがそばにいるのは悪くないもんだ」
 ハンはランドを見た。「ヴァッフィ・ラーがいなくなって寂しかったってわけか?」
 「いや・・・ドロイドを寂しがるなんてことがあるか?だが・・・ハン、あいつとはすごく気が合ったんだ。コンパニオンみたいな気がしたもんさ。あいつがそばにいるのに慣れていた、わかるだろ?だからあの小さな真空掃除機が家族と一緒に行っちまうと、実のところ・・・寂しくなったのさ」
 チューイーがいなくなったときのことを想像し、ハンは黙って頷いた。
 ふたりは少しのあいだ飲み物をすすり、一緒にいる嬉しさを味わいながら静かに座っていたが、やがてハンはあくびをこらえ、立ち上がった。「そろそろ寝るとしよう。明日はたいへんな一日になるからな」
 「テーブルで会おう」そして彼らは、それぞれの部屋に向かった。


反乱の夜明け
P.7 - P.29
 サバックは旧共和国の初期にさかのぼる古くからのゲームで、賭け事のなかでは最も複雑で、最も予測不可能な、最もスリルのある−そして最も罪作りなものだ。
 このゲームは七六枚一組のカード・チップで行なわれる。どのカード・チップの価値も、“ランドマイザー”から送られる電子的な刺激で、いつ何時変わるかわからない。場合によっては、あっという間に勝ち手が“ドボン”の手になるのだ。
 カードは四組ある。セーバー、ステイブ、フラスク、そしてコインだ。数のカードはプラス一からプラス一一まであり、“ランク”のカードは四種類−コマンダー、ミストレス、マスター、エース−プラス一二から一五までの価値がある。
 残りは一六枚のフェイスカードで、同じものが二枚ずつあり、組み合わせによりゼロやマイナスの価値になる。イディオット、クイーン・オブ・エア・アンド・ダークネス、エンデュアランス、バランス、デマイズ、モデレーション、イーヴル・ワン、スターだ。
 ポットは二種類。ひとつはハンド・ポットで、それぞれの勝負の勝者に与えられる。ハンド・ポットを勝ちとるためには、プラス、マイナスにかかわらず、二三かそれ以下のいちばん高い手を持っていなくてはならない。引き分けのときは、プラスの手がマイナスの手に勝る。
 もうひとつのポットは、サバック・ポットだ。これは“ゲーム”のポットで、これを取るには、ピュア・サバック(カード・チップの合計がちょうど二三)を作るか、イディオット・アレイ(イディオットのフェイスカード一枚と、二と、三を、一枚ずつ−文字どおり〇二三−から成る)を作るしかない。
 テーブルの真ん中には“干渉フィールド”があり、ブラフやコールが巡っていくなか、カードをそこに置けば、その価値を“凍結させる”ことができる。
 クラウド・シティのサバック・トーナメントには、銀河中から大きな賭けをする一〇〇人以上のギャンブラーが集まり、ローディアン、トワイレック、サラスタン、ボサン、デヴァロニアン、人間・・・ほかにも多くの種族がテーブルを囲んでいた。トーナメントは四日間、切れ目なく続く。毎日、約半分の競技者が脱落し、テーブルの数がだんだん少なくなり、やがてたったひとつになる。そこでは最高のなかでも最高の者たちが、最後の勝負を賭けるのだ。
 賭け金は高い。勝者には、一万クレジットの参加料の二倍、三倍−あるいはもっと−のクレジットを持ちかえれるチャンスがあった。
 サバックはマグ=ボール無重力ポロのように伝統的な観戦スポーツではないが、トーナメント・ホールに入れるのは競技者だけなので、トーナメントを見たい人のために、ホテルのラウンジには巨大なホロ・プロジェクションが設置されていた。競技者の連れや、取り巻き、脱落した競技者、その他トーナメントに興味のある人々は、このラウンジを出入りして、トーナメントの進行に注意を払い、無言で誰かを応援できる。
 このホロの横には、競技者のIDと競技の進行を示す順位表が表示される。トーナメント二日目のこの日は、五〇人ほどの競技者が一〇のテーブルを囲んでいた。名前の横の順位によれば、ハン・ソロはツキに助けられ、一日目の競技を間一髪で切り抜けている。彼はサバック・ポットこそ取れなかったが、脱落せずに済むだけのハンド・ポットを勝ちとっていた。
 ラウンジの見物人には、ハンを応援している女性が交じっていた。だが、ハンは彼女がベスピンにいるなどとは思ってもいなかったし、ブリア・サレンにも、それを伝える意思はなかった。もう何年もコレリアのレジスタンスで活動しているブリアは、いまやすっかり変装の名人で、この日は赤みがかった金色の長い髪を短い黒髪のかつらで隠し、青緑色の瞳には髪と同じくらい黒いバイオ=レンズをはめていた。シックなビジネス服に注意深く詰め物をしているせいで、ほっそりした肢体がグラマーで筋肉質に見える。変えられなかったのはただひとつ、身長だけだが、背の高い人間の女性は大勢いる。
 彼女はハンがまた大写しになることを望みながら、ラウンジの後ろに立って熱心にホロを見ていた。彼がここまで切り抜けてきたのが嬉しかった。“ハンがこの大会で優勝してくれたら!彼は幸運に値するわ。たくさんのクレジットが手に入れば、密輸業者として命を危険にさらす必要もなくなる”
 つかの間、ハンのテーブルが大写しになった。今日の相手は、サラスタンとトワイレック、ボサン、そして人間の男と女だった。逞しい太い首や、背が低くてがっちりした体格から判断すると、女性のほうは重力が大きい惑星の出身らしい。
 ブリアはサバックのことはほとんど知らないが、ハン・ソロのことは知っていた−別れてから七年経ったいまでも、彼のことならよくわかる。彼の顔のすべてのしわ、笑ったときの目尻のしわのでき方、怒ったときや疑っているときは目が細くなることも知っていた。しばらく切っていないように見えるくしゃくしゃの髪・・・彼の手の形や、手の甲にはえた細い毛・・・何もかもがいまでもはっきり思いだせる。
 ブリアはハン・ソロをよく知っていたから、彼がブラフをかけていることもわかった。
 自信満々に笑いながら、ハンは身を乗りだし、べつのチップの山を真ん中に押しだした。彼の賭け金を見ると、サラスタンはためらい、持ち札を捨てた。ふたりの人間もカードをふせたが、ボサンは彼らより度胸があった。彼はハンの賭け金に対抗し、これみよがしにそれを大きく上げてきた。
 ブリアは表情こそ変えなかったが、体の横で両手を拳に握りしめた。“彼はおりるかしら?それともブラフがきくことを祈って、このまま勝負を続けるつもり?”
 トワイレックが干渉フィールドにべつのカード・チップを押しやり、賭け金を釣り合わせた。
 すべての目がハンに注がれた。
 コレリア人はこの世に何の不安もないかのように、にやっと笑った。そして挑戦の言葉か、気の利いた冗談を言うように唇を動かし、またしてもクレジット・チップの山を前に押しだした。その額の大きさにブリアは唇を噛んだ。これで負けたら失格になる。取り返す方法がないもの!
 ボサンは初めて不安そうな様子を見せ、左右に目をやって、結局、持ち札を放り投げた。トワイレックは苛立ちと緊張で頭部の触手をひくつかせている。
 そして最後は、やはり持ち札を置いた。ハンは満面に笑顔を浮かべ、ハンド・ポットの賭け金をすくいあげようと手を前に伸ばした。“あれは本当にすごい手だったのかしら?それともわたしが正しくて、あれは全部ブラフだったの?”
 顎のたるみを動かしながら、サラスタンが突然ハンのカード・チップをつかんだ。だが、ディーラーがこの行為に大きな声で警告を発した。どっちにしても、いまごろはディーラーの合図で、カード・チップの価値が変わっているはずだ。
 ブリアはホロに向かって大きく頷いた。“すごいわ!その調子よ、ハン!彼らをやっつけて!勝つのよ!”
 彼女の横で、誰かが歯をむきだし、低い軋むような声で言った。「あの悪党のハン・ソロが、バラベルのあらゆる疫病に呪われるように!彼はまた勝ったわ!汚い手を使ってるにきまってる!」
 ブリアは口の端をひきつらせ、目の隅で、明らかに激怒している巨大なバラベル女をちらっと見た。“まったくハンは面白い人・・・こんなに怒らせるなんて、いったい何をしたの?”
 ブリアの横で何かが動いた。振り返ると、彼女の補佐で、コレリア人のジェイス・ポールが立っていた。彼は彼女の耳もとで囁くように言った。「中佐、オルデランからの代表が到着しました。彼らは会合場所に向かっている途中です」
 ブリアは頷いた。「すぐ行くわ、ジェイス」
 補佐はラウンジを出ていった。ブリアは高価なデータパッド(これは偽物で、彼女は自分の仕事をできるかぎり読める形にしないように心がけていた)をちらっと見て、バラベルに曖昧に微笑み、ラウンジを出た。ここクラウド・シティでの任務に取りかかる時間だ。
 クラウド・シティが大規模なサバック大会を開くと知ったとき、ブリアは反乱軍の代表が極秘に集まるには、理想的な状況だと思いついたのだった。レジスタンスのグループは、多くの帝国領惑星で急速に大きくなっている。たがいに連絡を取り合う必要があった。しかしこの種の会合は内密に行なわなければならない。インプのスパイはどこにでもいるのだ。
 情報部員なら誰でも、最もよい隠れ場所は群集の中であることを知っている。おまけにインペリアル・コアからかなり離れたクラウド・シティには、インプはそれほど目を光らせてはいない。大きなトーナメントは完璧な隠れみのになる。たくさんの船が出入りし、人間もエイリアンも多数出入りするなかでは、ホテルの会議室に数人の人間とひとりのサラスタンとデュロスが集まっても、誰の興味を引くこともない。
 自分でも認めたくはないが、トーナメントの期間中にクラウド・シティを選んだ理由のひとつは、ひょっとしてハン・ソロを見かけることもあると思ったからかもしれない。もちろん、彼が参加することを知っていたわけではないが、ハンのことだ、大きな勝利のチャンスがあるところには、必ずいるような気がしたのだ。
 空中通路に乗って、いちばん近いターボリフトに向かいながら、ブリアは変装を取り去り、夜遅くハンの部屋を訪れる自分を想像した。彼にはまだ、最後に見た彼女の記憶があざやかに残っているだろう。彼女がモフ・サーン・シルドの愛人を装っていたときの。でも事情を説明すれば、彼はわかってくれるにちがいない。彼女はコレリアのレジスタンスのために情報を収集していただけで、シルドとのあいだには何もなかったのだ、と。
 彼女は真実を告げ、それからふたりは話をする。たぶんワインを飲みながら。やがてどちらからともなく手を握り、そしてそれから−
 ブリアは目を閉じて、ターボリフトでヤリス・ベスピンの五〇階吹き抜けの、クリスタルをふんだんに使ったパステル調の豪華なロビーの上へと運ばれていった。もしかしたら、彼女がすべてを説明したら、ハンもレジスタンスに加わり、多くの惑星に死をもたらしているあの独裁者、皇帝から、自分たちの惑星を解放しようと努力している仲間のコレリア人たちを助けたいと思うかもしれない。
 もしかしたら・・・ブリアはそれを心に描いてみた。地上や宇宙で肩を並べて勇敢に戦い、おたがいにかばい合い、帝国軍との戦いに勝利し・・・その日の戦いが終われば、たがいに抱きあって−
 これ以上の幸せがあるだろうか。
 ターボリフトが減速するのを感じ、彼女はため息をついて目を開けた。空想も結構だが−ときには励みとなるのはそれしかないが −それに惑わされて、この任務を忘れるわけにはいかない。
 ターボリフトのドアが滑らかに開いたときには、準備は整っていた。彼女は自信に満ちた足どりでリフトを出ると、カーペットの敷いてある廊下を歩きだした。
 そして会議室の前で足を止め、暗号を打ちこんだ。ドアが開く。ちらっとジェイスを見ると、彼は頷いて、監視デバイスのたぐいはいっさいないことを伝えた。ブリアはそれを確認してから、初めてこの会合に集まったほかのメンバーに顔を向けた。
 最初に一歩前に出たのは、例によって悲しげな顔つきの青い肌のデュロス、ジェンサー・ソビルスだった。彼はサラストから来たシアン・テヴ同様、ひとりで出席している。ブリアはふたりのエイリアンに温かく挨拶し、彼らと、危険をおかしてこの会合に彼らを送りだしてくれた、それぞれのグループに感謝した。これは実際に危険な旅なのだ。つい先月も、惑星ティブリン(Tibrin)の反乱グループの指導者がひとり、同じような会議に向かう途中で捕まった。そのイシ・ティブはインプのマインド・プローブを避けるために自殺せざるを得なかった。
 オルデランは三人の代表を送ってきた。そのうちのふたりは人間で、ひとりはカーマシ。この派遣団の団長は灰色の髪と顎髭の中年の男だった。リク・ダルニーという保安省の副長官で、ベイル・オーガナ・ヴァイスロイ(総督)の信を受けた内閣のメンバーだ。彼には、まだ一〇代の長いクリスタル・ホワイトの髪の少女が付き添っていた。ダルニーは彼女をウィンターだと紹介し、父娘を装って旅をするために連れてきたのだと説明した。この派遣団のノン・ヒューマン、カーマシを初めて見るブリアは、好奇心をそそられた。彼らはいまやこの銀河では珍しい種族なのだ。
 惑星カーマスはクローン大戦のあと、皇帝の手先、ダース・ヴェイダーにより滅ぼされた。だが、これはほとんど知られていないが、大勢のカーマシが何とかオルデランに逃れ、そのほとんどが、ひっそりとそこに住んでいるのだ。
 そのカーマシはイレニク・イトクラと名乗り、オルデランのヴァイスロイ(総督)の相談役だと自己紹介した。彼はブリアよりも背が高く、キルトのような衣装をまとい、宝石をつけていた。外見はヒューマノイドだが、金色の綿毛に覆われ、顔には紫の縞がある。大きな暗い色の瞳には、静かな悲しみが浮かんでいた。彼がどれほど多くの苦しみを目撃したかを思うと、ブリアは胸が痛んだ。
 イレニクは代表者たちが挨拶を交わすあいだ、黙っていることが多かったが、彼の何かがブリアの心に触れた。そして彼が自分からは発言しなくても、必ず意見を求めようと決心した。このカーマシは静かな力、そして自信を漂わせている。おそらく貴重な意見を述べてくれるにちがいない。
 何分か世間話を交わしたあと、ブリアは長いテーブルにつき、会合の口火を切った。「反乱グループの同志のみなさん」彼女は凛とした静かな声で言った。「ここに集まるために危険をおかしてくれたことを感謝します。われわれコレリアの反乱グループは、同じ活動をしているほかの地下組織と連絡をとり、すべての反乱グループにひとつになるよう、呼びかけているのです。故郷の惑星を抑圧し、同胞の魂を殺している皇帝に立ち向かうには、強く団結しなければなりません」
 ブリアは深呼吸した。「この提案がどんなに恐ろしい、危険なものであるかはわかっています。でも、ひとつにまとまり同盟を結ばなければ、反乱グループに勝利はありません。われわれが分裂しているかぎり、孤立したグループであるかぎり、われわれの抵抗はいつか帝国につぶされてしまうでしょう」
 彼女はひと息ついた。「コレリアの地下組織は、この提案について注意深く検討してきました。われわれはこの提案が引き起こす急激な変化も、同盟がどれほど難しいかもわかっています。たしかに個々のグループであるかぎり、帝国はわれわれを一度につぶすことはできません。ひとつにまとまれば、一度の戦いで滅ぼされてしまう可能性もあるでしょう。また異なる種族が力を合わせるのが、どれほどたいへんなことかもわかっています。異なる倫理観や道徳観、イデオロギー、宗教−機器や武器の設計が違うことは言うまでもありませんが−これらすべてのことが障害になりうるからです」
 ブリアはテーブルについている人々を、ひとりずつ見ていった。「しかし、みなさん、われわれは団結しなければなりません。その違いを乗り越え、協力しあう方法を見つけなければならないのです。方法はあるはずです。それを見つけるのがこの会合の目的です」
 デュロスの代表者が指でテーブルを叩いた。「中佐、あなたの言葉は感動的だ。心情的には賛成だが、事実に直面しなくてはならん。人間以外の生物が居住する惑星があなた方と同盟を結べば、人間よりはるかに大きな危険をおかすことになる。皇帝のノン・ヒューマン蔑視は誰もが知っている。同盟軍がパルパティーンの軍隊に挑戦し、敗れれば、皇帝の怒りは真っ先に人間以外の生物が住む惑星に向けられるだろう。パルパティーンのことだ、人間の反乱分子への教訓として、われわれすべてを滅ぼすかもしれん」
 ブリアは頷いた。「あなたの意見はよくわかりました、ジェンサー」彼女はテーブルを見まわした。「ダルニー副長官、あなたの意見は?」
 「われわれオルデランは、はじめから反乱活動を支援してきた」彼は言った。「反乱グループには情報、資金、それに専門的技術を提供している。しかし、われわれは戦いは好まない。オルデランの文化は、武器や暴力がないところに成り立っている。オルデランは平和な惑星、戦争は嫌悪すべきものだ。あなた方の努力は支援するが、戦闘員として参加することは考えられんな」
 ブリアは暗い顔でダルニーを見た。「副長官、オルデランは暴力を差し控えることなどできないかもしれませんわ」彼女は小柄なサラスタンを振り向いた。「シアン・テヴ、あなたの考えは?」
 「中佐、われわれは帝国の支配下で押しつぶされ、反乱を企む余裕などないのが現状です」小さなエイリアンは顎を震わせた。暗くうるんだ瞳は悲しそうだった。「わたしの故郷でも帝国軍に対し、多くの不満が囁かれていますが、おおっぴらに抵抗したのはほんのひと握りです。われわれの洞窟には恐怖が満ちています。サラストを実質的に支配しているのはソロスーブ社で、帝国は彼らの上得意です。もしサラストが反乱同盟軍に加われば、内戦が起こるでしょう!」
 “長い会議になりそうだわ”ブリアはため息をつき、暗い気持ちでそう思いながらも、公正で中立な声を保った。「どれもみな正当な懸念ですね。しかし、これらの問題を話し合うだけなら、何も傷つかないし、何の義務も生まれません。そうでしょう?」
 つかの間の逡巡のあと、三惑星の代表者たちは話し合いに同意した。ブリアは深く息をつき、話しはじめた。


反乱の夜明け
P.7 - P.29
 “ここまで残れたなんて嘘みたいだ”ハンはひとつしか残っていないサバック・テーブルにつきながら、疲れ果てた頭でそう思った。トーナメント四日目の夜、残っているのは決勝進出者だけだ。“あと少しだけ運が続いてくれれば・・・”
 二〇時間ぶっとおしで寝たいと思いながら、彼はゆっくり背中のこりをほぐした。彼はひどく疲れていた・・・この数日は、食事や睡眠のためにほんのわずかな休憩をとるだけで、あとはゲームの連続だった。
 ほかの決勝進出者もテーブルについた。小柄なチャドラ=ファン、ボサン男、そしてローディアン女だ。チャドラ=ファンは男なのか女なのか、ハンにははっきりわからなかった。彼らは男女とも同じ長いローブを着る。
 彼らを見ていると、最後の競技者がハンの向かいの最後の座席に座った。彼を見て、ハンは心の中でうめいた。“こうなると思った。ランドみたいなプロと戦って、おれにどんなチャンスがある?”
 たぶんこのテーブルで“アマチュア”の競技者はハンだけだろう。ほかはみんなランドのように、サバックで主な生計を立てている“プロ”にちがいない。
 彼は一瞬、あきらめて歩み去りたい誘惑に駆られた。ここで負ければすべてを失う。この数日の苦労が水の泡だ・・・。
 ランドがハンを見て頷いた。ハンも頷き返した。
 ディーラーが近づいてきた。サバックの場合はほとんどディーラーも賭けに参加するが、トーナメント・ゲームでは、ただカードを配り、ゲームを見守るだけで・・・競技に参加することは禁止されている。
 このディーラーはビスだった。大きな手に五本の指があるビスは、親指と小指が向かいあっているため、きわめて器用にカードを配る。ビスの毛のない大きな顔が、大広間の巨大なシャンデリアの下で光っていた。
 ディーラーは新しいカードチップを開け、交互に切り交ぜた。それから配られるカードの順番が誰にも予測できないようにランドマイザーを何回か引いた。このあとは、ランドマイザーが勝手に任意の間隔でカード・チップの価値を変える。
 ハンはランドが緊張しているのを見てとり、少し元気がでた。ランドのしゃれた服はしわになり、目の下にはくまができ、髪もまる一日梳かしていないように見える。
 もっとも、人のことはいえない。彼は手で顔をこすり、その拍子に不精髭が指にあたって、髭を剃り忘れたことに気づいた。
 無理に背筋を伸ばして座ると、ハンはカード・チップの最初の手を取り上げた。
 三時間半後には、ボサンとローディアンは脱落し、振り返りもせずに立ち去った。ボサンはすべてのクレジットを賭け、“ドボン”したのだ。ランドが勝つと、ボサンは別れの挨拶もなしに怒ってテーブルを離れた。ローディアンのほうはカードをふせたものの、一文残らず失ったわけではなかった。彼女は損失を抑え、まだ利益のあるうちにやめたのだ。賭け金はとてつもなく高くなっていた。サバック・ポットだけでも二万クレジットはあるだろう。
 ハンの運は続いていた。彼の手もとには、かなり高額の賭け金でも払えるだけのクレジットがある。心の中で彼はそれを合計してみた。いまカードをふせてゲームをおりても、一〇〇か二〇〇の誤差はあれ、おおよそ二万クレジットとともにベスピンを去ることになる。疲れて目はかすんでくるし、山になったカード・チップは数えにくい。
 ハンは考えた。二万クレジットは大金だ。あと少し足せば、自分の船を買えるだろう。やめるべきか?それとも留まるべきか?
 チャドラ=ファンがまた五〇〇〇上げてきた。ハンはこれに応じた。ランドも応じたが、ランドのチップはそれでほとんど底をついた。
 ハンは自分の手を見た。彼の手もとにはマイナス八にあたるエンデュアランスのカード・チップがある。それを見て彼は思った。“この勝負にぴったりだ。耐える者(エンデュアランス)が勝つ・・・ほかのチップはプラス一五のステイブのエースと、プラス六のフラスクだ”
 合計一三。もう一枚カードを取る必要がある。大きな価値のカードがこないといいが。「一枚もらうよ」ハンは言った。
 ディーラーは無造作にそれを投げた。ハンはカード・チップを拾い、それを見てみぞおちが沈むような気がした。マイナス一三のデマイズだ。“くそ!さっきより勝ちが遠くなった!”
 そのとき、カードが波打ち、彼の目の前で変わった。
 そしてハンの手は、価値がマイナス二のクイーン・オブ・エア・アンド・ダークネスと、コインの五、ステイブの六、そして価値が一四のコインのマスターになった。合わせると・・・二三だ。すごい!“ピュア・サバックだ!”
 この手なら、ハンド・ポットもサバック・ポットも手に入り・・・優勝できる。
 彼を負かせる手はイディオット・アレイだけだ。
 ハンは深呼吸し、ひとつのクレジット・チップの山以外はすべて前に押しだした。この手を干渉フィールドに入れてしまおうか?ちらっとそう思ったが、それでは競争者に彼の手が本当にいいことがばれてしまう。相手のチップをすっかり吐きださせ、一気に優勝にもちこむためには、ブラフだと思わせておく必要がある。
 “このまま変わるなよ”彼はカード・チップにそう命じ、少しのあいだランドマイザーが作動しないように祈った。公正なランドマイザーは本当に行き当たりばったりなのだ。一ゲームにつき何度もカード・チップのパターンを変えることもあれば、一、二回しか変えないこともある。これから三分のあいだに−この人数でコールが一巡する平均的な時間だった−カード・チップが変わる率は五分五分だと、彼は踏んだ。
 ハンは苦痛なほど意志の力を酷使して平静な顔を保ち、ゆったりと座っていた。これはブラフだと彼らに思わせなくては!
 ハンの右手で、小柄なチャドラ=ファンが大きな耳を前後に素早く揺らし、それから軋むような声で弱々しくつぶやいた。そしてきちんと慎重に、彼(数時間の競技のあいだに男であることがわかった)はテーブルの上にカード・チップをふせ、立ちあがって歩み去った。
 ハンは自分のカード・チップをじっと見た。“そのまま・・・変わるな!”脈が勢いよく打っている。彼はランドがそれに気づかないことを祈った。
 ランドはしばらくためらい、カードを要求した。ハンは耳の中で血が勢いよく流れる音を聞きながら、カルリジアンがゆっくり手を伸ばし、干渉フィールドにカード・チップをふせるのを見守った。
 そして体をこわばらせた。フィールドのぼんやりした光が反射し、カード・チップの色がちらっと見えたのだ。紫。もしハンのかすんだ目が幻を見たのでなければ、あのカード・チップはイディオットだ。イディオット・アレイの最も重要なカードだ。
 ハンは唾を呑もうとしたが、口が乾きすぎていた。“ランドはプロだ”彼はそう思った。“わざとあの紫がちらっと見えるように置いたのかもしれない。イディオットを持っていることを知らせるために。だが、なぜだ?ブラフをかけてるのか?おれが怖気づいてゲームをおりるのを期待してるのか?それとも、これはみんなおれの想像か?”
 ハンはランドを見た。ランドの手もとにあるカードは二枚。プロのギャンブラーはハンに笑いかけ、素早く何かをデータ・カードに打ちこみ、データ・カードと残り少ないクレジット・チップをハンのほうに押しだした。「借用証だ」彼は柔らかい声で滑らかに言った。「おれの店にあるどの船にも有効だ。好きな船を選べばいい」
 ビスはハンを見た。「それでいいかな、ソロ?」  口が乾きすぎて声がかすれるのが心配で、ハンは黙って頷いた。
 ビスはランドに向き直った。「借用証を受け付ける」
 ランドは干渉フィールドのイディオットに加え、二枚のカードを持っていた。ハンは目をこすりたい衝動と戦った。ランドはおれが汗をかいてるのがわかるだろうか?“落ち着け、考えろ”ハンは自分に命じた。“ランドの手はイディオット・アレイなのか・・・それとも・・・ブラフか?”
 真相を知る方法はひとつしかない。
 “そのまま、そのままだ”彼はカード・チップにそう命じ、慎重に最後のチップの山を前に押しだした。「コールだ」彼は不自然なしわがれ声で言った。
 ランドはテーブルの向かいから長いあいだ彼を見て、わずかに微笑んだ。「いいだろう」彼はゆっくり手を伸ばし、干渉フィールドのカードを表に向けた。
 イディオットがハンを見上げた。
 ゆっくりと動きながら、ランドは次のカード・チップを取り、表を向けてイディオットの隣に並べた。二のステイブ。
 ハンは息ができなかった。“おれはおしまいだ・・・一文なしだ・・・”
 ランドは最後のカードを表にした。
 フラスクの七。
 ハンは驚いてそのカードを見つめ、ゆっくり目を上げた。ランドは歪んだ笑いを浮かべ、肩をすくめた。「たいしたもんだ」彼は言った。「ブラフでだませると思ったんだがな」
 “ランドはブラフだったんだ!”ハンはそれに気づいて目眩を感じた。“勝ったぞ!信じられないが、勝ったんだ!”
 彼はカード・チップをゆっくりおろした。「ピュア・サバックだ。サバック・ポットもおれのもんだ」
 ビスは頷いた。「みなさん、ソロ船長が優勝しました」彼は襟についた小さなアンプに向かって言った。「おめでとう、ソロ船長!」
 彼はぼうっとした頭でビスに頷いた。それからランドが身を乗りだし、テーブル越しに手を差しだしているのに気づいた。ハンは興奮して手を伸ばし、彼の手を握って大きく振った。「信じられない。いいゲームだったな!」
 「おたくがこんなすごいプレーヤーだとは思わなかったぞ」ランドはにこやかに言った。こんなに負けたのに、何だって平静でいられるんだ?ハンには不思議だった。それから、ランドがプロのギャンブラーであることを思いだした。彼はこれまでに、何度も同じような経験をしているのだろう。
 ハンはランドのデータ・カードを手に取り、それを見た。「で、どの船が欲しいんだ?」ランドは訊いた。「ほとんど新品のYT-2400コレリ・システムズのライト・ストック・フレイターを手に入れたばかりだ。あれを選ぶべきだろうな。きっと気に入る−」
 「<ファルコン>をもらう」ハンは急いで言った。
 ランドの眉が上がった。「<ミレニアム・ファルコン>か?」彼は明らかにショックを受けていた。「いや、ハン。あれはおれ個人の船だ。この取引には含まれてない」
 「どの船でもいいと言ったぞ」ふたりはにらみあった。「あんたはどの船でもいいと言った。<ファルコン>もあの店に置いてある。おれはあれが欲しい」
 「だが−」ランドはぎゅっと口を結び、怒りを閃かせた。
 「何だい?」ハンは尖った声で応じた。「約束は守るだろうな」
 ランドはしぶしぶ頷いた。「ああ、守るとも」彼は深々と息を吸いこみ、音を立てて吐きだした。「いいだろう・・・<ファルコン>はおたくのものだ」
 ハンはにやっと笑って両手を空中に振り上げ、嬉しさのあまり即興のステップを踏みながらぐるぐる回った。“チューイーがこれを聞いたらどんなに喜ぶか!<ミレニアム・ファルコン>はおれのものだ!ようやく、自分たちの船が手に入った!”


反乱の夜明け
P.7 - P.29
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Last Update 20/Jul/2000