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帝国の後継者 #2
二人のジェダイ

年 代 出 来 事 場 面 参 考

 穏やかだが強い響きのある声がした。懐かしいタトゥイーンの風景−見慣れた風景が奇妙にゆがんでいる−のただ中で足を止めると、ルーク・スカイウォーカーは後ろをふり返った。
 懐かしい人物が立っていた。  
コルサント
Coruscant
小説 上 P.24-27

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 オビ=ワン・ケノービ(Obi-Wan Kenobi)「ルーク」

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 ルーク・スカイウォーカー(Luke Skywalker)「やあ、ベン。久しぶりですね」
 オビ=ワン「じつに、久しぶりだ。でも、この次はもっと長い間、会えなくなるだろう。別れを告げに来たのだよ、ルーク」
 オビ=ワン・ケノービが重々しく言った。あたりの景色が揺れたような気がした−そのとたん、ルークは頭の隅で、自分が眠っていたことを思い出した。インペリアル・パレス(Imperial Palace)の続き部屋で眠りながら、ベン・ケノービの夢を見ているのだ。ベンは、ルークの無言の思いに答えるかのように言った。
 オビ=ワン「わたしは夢ではない。だが、われわれを隔てる距離があまりに遠くなってしまったので、このような姿でしか来られないのだ。いまや、この最後の道も閉ざされようとしている」
 ルーク「だめです。あなたが行ってしまっては困ります、ベン。ぼくたちには、あなたの助けが必要なのです」
 ベンの眉がわずかに上がり、唇に懐かしい笑みがかすかに浮かんだ。
 オビ=ワン「わたしは必要ないのだよ、ルーク。おまえはジェダイだし、強いフォースを持っている」
 笑みが消え、一瞬、彼の目がルークには見えない何かに向けられたような気がした。彼は、静かに続けた。
 オビ=ワン「いずれにしても、わたしが決めることではないのだ。長居をしてしまったようだ。この世から彼方の世への旅を、これ以上先にのばすわけにはいかない」
 そのとき、とある記憶が甦った−ヨーダが死の床に横たわり、ルークが死なないでほしいと哀願している。
 ヨーダ“わたしのフォースは強い。でも、それほど強くはないのだよ”
 ジェダイ・マスターは静かに言った。
 ベンが記憶を助けるかのように言った。
 オビ=ワン「それが万物のみちだ。おまえも、いつか同じ旅に向かうのだ」
 ふたたび彼の目が宙を漂ったかと思うと、またルークを見つめた。彼の目つきが鋭くなった。
 オビ=ワン「おまえのフォースは強い。忍耐と修練によって、さらに強く成長するだろう。だが、決して油断してはいけない。皇帝は滅びたが、ダーク・サイドはいまだに衰えてはいないのだ。それを忘れてはいけない」
 ルーク「決して忘れません」
 ルークは誓った。ベンの表情がやわらぎ、笑顔が戻った。
 オビ=ワン「おまえは、これからも大きな危険に出あうだろう、ルーク。でも、新しい味方も得られる。いつでも、どこでも、おまえがほんのちょっと望みさえすればな」
 ルーク「新しい味方?どういう人たちです?」
 ルークはくり返した。視界が揺らめき、しだいにぼやけていく。ベンは、ルークの問いが聞こえなかったかのように告げた。
 オビ=ワン「では、これでお別れだ。わたしは、おまえを息子として、弟子として、友人として愛した。ふたたび会えるときまで、フォースがおまえと共にあらんことを」
 ルーク「ベン!」
 ベンは背を向け、その姿がしだいに消えていく・・・夢の中で、ルークは彼が去ったことを知った。ルークはつぶやいた。
 ルーク“おれは一人になってしまった。最後のジェダイだ”
 オビ=ワン“古きジェダイの終わりではない、ルーク。新たな始まりなのだ”
 はるか彼方から、おぼろげなベンの声がかすかに聞こえたような気がした。声はしだいに静寂の中へと遠のき、やがて何も聞こえなくなった・・・そこで、ルークは目覚めた。
 しばらく横になったまま、空に拡がるインペリアル・シティのほの暗い明かりを見つめながら、寝ぼけた頭でけんめいに時間と空間の感覚をとり戻そうとつとめた。混沌とした意識と、重くのしかかるような悲しみが身体の芯を満たしているような感じがする。はじめに、オーウェンおじとベルーおばが殺された。つぎに、実の父親、ダース・ヴェイダーがルークのために自らの命を犠牲にした。そしていま、ベン・ケノービの魂さえも連れ去られてしまった。三たび、彼は孤児となったのだ。
 ため息をつき、毛布から抜け出すと、ローブをはおってスリッパをはいた。そして続き部屋のキッチンで数分のうちに飲み物−ランドが最後にコルサント(Coruscant)を訪れたときに彼から教わった特製の奇妙な混合飲料−を作り、ライトセーバーをローブの帯に差すと、屋上へと向かった。



 新共和国の中心をここ、コルサントへ移すことに、彼は強硬に反対した。誕生したばかりの政府を旧インペリアル・パレスに設置することには、さらに強く反対した。象徴主義そのものが間違っていると思うし、すでに象徴を重視しすぎる傾向がある集団にとっては、ことさら危険なのだ。しかし、どれほど欠点があろうとも、パレスの屋上からの壮大な眺めのすばらしさは認めざるをえなかった。
 しばらくの間、彼は屋上の縁に立ち、胸高の石細工の手摺りにもたれて、ひんやりとした夜の微風に髪をなびかせていた。真夜中でさえ、インペリアル・シティは活気にあふれており、絡みあうビークルや通りのライトが流麗な芸術作品を形作っているかのようだ。頭上には、街のライトとときおり通り過ぎるエアスピーダーのライトに照らされて、低くたれこめる雲がほの暗い彫り天井のように、果てしなく続く都市と同様にさまざまな方向に広がっている。はるか南には、同じように街の明かりに照らされたマナライ山脈の、雪におおわれた頂が見える。
 山々をながめていると、彼の二〇メートルほど後方でパレスの扉が音もなくあいた。無意識のうちに手がライトセーバーに伸びる−だが、すんでのところで手を止めた。通路をこちらに向かってやって来る気配・・・ふり返ると、C-3POがいつもの不安と安堵の入りまじったような様子で、とことこと歩いて来る。
 ルーク「ここだよ、3PO」
コルサント
Coruscant
小説 上 P.27-34
コミック #1 P.7-8

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 C-3PO「こんばんは、ルーク様。おじゃまして、すみません」
 頭をかしげてルークの手にしたカップをのぞきながら言った。
 ルーク「かまわないよ。ちょっと、新鮮な空気にあたりたかっただけなんだ」
 3PO「ほんとうですか?もちろん、詮索する気はありませんが」
 気分とは裏腹に、ルークは思わずほほ笑んだ。役に立ち、礼儀正しくありたいという3POの気持ちと、好奇心の強さはうまく両立したためしがない。ともかく、どことなく滑稽な感じがするのだ。ふり返って、ふたたび街を見わたしながらドロイドに言った。
 ルーク「ちょっと、気が滅入っているだけさ。実際に機能する政府を作るのは、思っていたよりずっとむずかしい。ほかの評議員たちも、これほどとは考えていなかったようだけどね。ことに今夜は、ベンがいてくれたらと思うよ」
 彼は、ちょっとためらった。しばらく、3POは無言だった。やがて、口を開いた。
 3PO「あの方はいつも、わたしにとても親切でした。もちろん、R2にも親切でした」
 ルーク「おまえは、じつにユニークな宇宙観をもっているね、3PO」
 ルークはカップを口元に持ちあげて、ふたたび浮かんだ笑みを隠した。そのとたん3POが体を硬直させたのが、彼の目の隅に入った。ドロイドは心配そうに訊いた。
 3PO「気分を害されたのではありませんか?そのつもりは、まったくなかったのですが」
 ルーク「気を悪くなんてしていないよ。じつを言うと、おまえはベンの最後の教えをぼくに伝えてくれたのかもしれない」
 3PO「え、何のことですか?」
 ルーク「政府も、どの惑星も大切だ、3PO。でもあらゆるものをふるいにかけると、すべて人びとが形づくっているものにすぎない」
 3PO「そうですね」
 ルークは飲み物をひと口すすった。短い沈黙があった。ルークが説明を加えた。
 ルーク「つまり、ジェダイは銀河の重要な問題に関わりすぎてはいけないんだよ。個人個人への配慮が欠けてしまうから」
 彼は3POに笑いかけた。
 ルーク「個々のドロイドへの配慮もね」
 3PO「ああ、よくわかりました」
 3POは、頭をルークのカップのほうに寄せた。
 3PO「すみませんが・・・もしよろければ、何を飲んでいらっしゃるのか、教えていただけませんか?」
 ルーク「これかい?」
 ルークはカップをちらっと見た。
 ルーク「このまえ、ランドが作り方を教えてくれた飲み物だよ」
 3PO「ランド?」
 3POがくり返した。いかにも不服そうな声だ。礼儀正しさをプログラムされているせいか、このドロイドはランドがどうしても好きになれないのだ。二人の初対面の情況を考えれば、それも無理のないことだった。
 ルーク「そうだよ。出所はあやしげだけど、とてもおいしい。ホットチョコレートっていうんだ」
 3PO「そうですか」
 ドロイドは姿勢を正した。
 3PO「それでは、ほんとうにあなたが大丈夫なら、わたしはもう行ってもいいですね」
 ルーク「いいとも。ところで、おまえはここに何をしに来たんだい?」
 3PO「もちろん、レイア様のお遣いです。あなたが何か悩んでいらっしゃると言われて」
 3POは、わざわざ聞くまでもないというように驚いた様子で答えた。
 ルークは、笑いながら首を振った。彼を元気づける方法は、いつだってレイアがいちばんよく知っている。小声でつぶやいた。
 ルーク「やってるな」
 3PO「え、何ですか?」
 ルーク「レイアが新しいジェダイの技を自慢して見せてる、ってことさ。真夜中でも、ぼくの気持ちを感じとれることを証明してみせてね」
 ルークは手を振った。3POは、首をかしげた。
 3PO「ほんとうに、あなたのことを心配なさってましたよ」
 ルーク「わかってる。ちょっと、冗談めかしてみただけさ」
 3PO「そうでしたか。では、あなたは元気だと伝えましょうか?」
 ルーク「もちろん。下へ行ったら、彼女にぼくのことを心配するのはやめて眠るように言ってくれ。疲れていなくても、つわりの発作だけで十分つらいんだから」
 3PO「そのようにお伝えします」
 ルーク「それから、愛している、とね」
 3PO「わかりました。おやすみなさい、ルーク様」
 ルーク「おやすみ、3PO」
 ドロイドの後ろ姿を見送ると、新たにこみあげる憂鬱感にふたたび彼の気分は沈んでいった。むろん、3POには理解できないことだ。暫定評議会のメンバーも、誰一人わかってはくれなかった。妊娠三か月を過ぎたばかりの、ここでつわりに苦しんでいる、レイアを除いては・・・
 彼は身を震わせた。冷たい夜気のせいではなかった。
 ヨーダ“この場所は、ダーク・サイドが強い”
 以前、ヨーダがダゴバの洞窟で同じことを言った。ルークが、じつは彼自身であったダース・ヴェイダーとライトセセーバーで決闘した洞窟だ。その後何週間も、ダーク・サイドの力と存在の鮮明な記憶がどうしても頭から離れなかった。ヨーダの与えたその修練の第一の目的が、まださらに歩まねばならぬ長い道があることを彼に示すことだったとわかったのは、ずっと後になってからだった。あの洞窟がどうしてダーク・サイドの力をおびるようになったのか、いくどとなく彼は考えた。ダーク・サイドの強い人間か何かが存在していたことがあったのだろうか?皇帝がここに住んでいたように・・・
 ふたたび、彼は身を震わせた。パレス内ではそのような邪悪な力の凝縮をまったく感知できないことに、頭がおかしくなりそうだった。じつは評議会も、はじめてインペリアル・シティへの移動を検討したとき、そのことを何よりも重視して彼に尋ねたのだった。皇帝の居留による影響はまったく残っていない、と彼は歯ぎしりする思いで告げねばならなかった。しかしながら、彼が感知できないというだけでは、必ずしも存在しないということにはならないのだ。彼は頭を振った。
 ルーク“やめるんだ”
 強く自分に言い聞かせた。実のない考えをいくら巡らしたところで、妄想にとりつかれるのが関の山だ。たぶん、このところ続く悪夢と睡眠不足の原因は、軍事優先の反乱軍を市民を基盤とした政府に変えようと奮闘するレイアたちを見守っているストレスにすぎないのだろう。レイアにしても、少しでも不審をいだいていたら、ここに近づくことに決して同意しなかったはずだ。
 レイア。無理やりルークは気分を楽にして、ジェダイのセンスを周囲に働かせようと努力した。パレスの上部のなかほどに、眠そうなレイアの存在を感じた。彼女と、胎内に宿した双子の存在。しばらく、彼女を起こさないように軽く接触したまま、やがて生まれてくる胎内の子供たちの不思議な感触に新たな驚きをおぼえていた。スカイウォーカーの特質を確かにそなえている。ともかく、彼らを感じることができるという事実が、彼らのフォースがきわめて強いにちがいないことを示しているのだ。
 少なくとも、彼はそういうことだと考えた。機会があれば、いつかベンにそういったことを尋ねてみたいと、ずっと思っていた。そしていま、その機会はもう訪れることはない。にわかにあふれ出る涙をこらえながら、彼は接触を断った。手にしたマグの冷たい感触。残りのチョコレートを飲みほすと、最後にもう一度あたりを見まわした。都市を、雲を・・・そして、心の目で、雲のかなたの星を。惑星がめぐり、人びとが住む星々。何十億もの人びと。いまだに、その多くが新共和国の約束した自由と光を待ち望んでいるのだ。
 輝かしい光、そして同じく輝かしい希望に抗うかのように彼は目を閉じた。疲れていた。すべてを改善することのできる魔法の杖など、ありはしない。たとえ、ジェダイでも。

 3POがとことこと部屋を出て行ってしまうと、レイア・オーガナ・ソロ(Leia Organa Solo)は疲れたようにため息をついて頭を枕に戻した。
 レイア“五分の勝利も、無よりはまし”
 ふと、そんな諺が脳裏をかすめた。しばらく、その諺を信じる気にはなれなかった。五分の勝利とは、五分の敗北ということでもある。
 ふたたび、ため息をついた。ルークの心の接触を感じたのだ。願っていたとおり、3POと会ったことで彼の暗い気持ちが明るくなった。だが、ドロイドが去ってしまうと、またもや彼は憂鬱感に襲われている。自分で彼のところに行ったほうがいいのかもしれない。ここ数週間、彼を悩ませていることをすっかり話させることができるかどうか、やってみるために。と、ふいにお腹がねじれるように動いた。
コルサント
Coruscant
小説 上 P.34-39

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 レイア・オーガナ・ソロ(Leia Organa Solo)「大丈夫よ。安心なさい。あなたたちのルーク叔父さんのことをちょっと心配していただけなの」
 そっとお腹をさすりながら、なだめるように言った。ゆっくりと、動きはおさまっていく。ナイトテーブル上の、半分ほど中身の入ったグラスを取りあげると、しかめっらをしないようにしながら飲みほした。温かいミルクは彼女のお気に入りの飲み物リストでは、はるかに下位にあるものだったが、消化器系の断続的な痛みをやわらげるには、いちばん効き目が早いのだ。最悪の時期はもう過ぎたと、どの医者も言っている。彼らが正しいことを願うばかりだった。
 かすかな足音が隣室のほうから聞こえてくる。あわててグラスをナイトテーブルにどんと置いて、片方の手で毛布を額まで引きあげた。ベッドサイドの明かりがついたままだったので、フォースを使って消そうとした。明かりは明滅さえしない。歯を食いしばって、ふたたび試みる。またしても、うまくいかない。まだフォースをうまくコントロールできず、明かりのスイッチほど小さなものも動かせないのだ。毛布をはねのけ、明かりに大急ぎで手を伸ばそうとした。すると、部屋の反対側のドアがあいて、ガウンを着た背の高い女の姿が現われた。

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 ウィンター(Winter)「ユアハイネス。どうかしました?」
ちらちらと光る白髪をブラシで目の前からかきあげながら、静かに言った。レイアは、ため息をついてあきらめた。
 レイア「入って、ウィンター。いつからドアのところで聞いていたの?」
 ウィンター「聞いてなんかいません。ドアの下から明かりがもれていたので、何か用があるかと思っただけです」
 そっと部屋に入って来ると、ウインターはレイアの言葉が気にさわったような口調で言った。
 レイア「わたしは大丈夫よ」
 レイアは安心させるように言いながら、この女性にいつになったらびっくりさせられなくなるのだろうと思った。真夜中にとび起きて、ぐしゃぐしゃの頭で古びたガウンをはおっていても、ウィンターはレイアが最高に振る舞ったときよりも堂々として威厳がある。オルデランで二人とも子供のころ、ヴァイスロイの宮廷への訪問者があたりまえのようにウィンターをプリンセス・レイアと間違えたことが、いくたびあったことか。
 ウィンターは、もちろん忘れてはいないだろう。すべての会話を逐語的に記憶できる者なら、プリンセスと間違えられた回数だって当然思い出せるはずだ。公式の会合では彼女の隣に座り、非公式の廊下での雑談では彼女の隣に立っている無言の助手が、じつは彼らの発言を逐一記録していることを暫定評議会のメンバーたちが知ったらどう思うだろうかと、レイアはよく考えたものだ。嫌がる評議員も絶対にいるだろう。
 ウィンター「もう少しミルクを持ってきましょうか、ユアハイネス。それとも、クラッカーでも?」
 レイア「けっこうよ、ありがとう。このところ、お腹の具合はそんなに悪くないの。でも、・・・ね。ルークのことなの」
 ウィンター「ここ九週間、彼を悩ませていることですね?」
 レイア「もう、そんなになるかしら?」
 ウィンター「ご多忙でしたから」
 レイアは眉をよせた。ウィンターは肩をすくめた。あいかわらず如才ない。レイアはそっけなく言った。
 レイア「いいから、聞かせてちょうだい。わからないのよ、ウィンター、ほんとうに。彼はベン・ケノービがいなくて寂しいのだと3POに言ったそうだけど、それだけじゃないと思うの」
 ウィンター「プリンセスの懐妊と関係があるのかもしれません。九週間前なら、ちょうどそのころとぴったりです」
 レイア「そうね。でも、モン・モスマやアクバー提督が政府をコルサントに移すことを強硬に主張していたのも、そのころよ。それに、謎の天才的戦術家が帝国艦隊を指揮しているという情報がボーダーランド・リジョンから届きはじめたのも...さあ、どっちか決めて」
 彼女は、手のひらを上に向けて両手を突き出した。ウィンターは、ちょっと考え込んだ。
 ウィンター「彼が自分で話す気持ちになるまで、待つべきだと思います。ソロ船長が戻れば、話を聞き出せるかもしれません」
 怒りと寂しさにどっと襲われて、レイアは親指と人差し指をぎゅっと握りしめた。ハンは、またしてもあのばかげた接触任務とやらに出かけてしまったのだ。彼女をたった一人残して。 やがて怒りがおさまると、罪悪感をおぼえはじめた。そう、ハンはまた行ってしまった。でも、ここにいるときだって、ほとんど顔も合わせないようなものだ。新政府設立という膨大な任務に時間をとられるようになるにつれて、食事をする時間も、ましてや夫に会う時間などほとんどないような日が多くなっていた。
 レイア“でも、それがわたしの仕事なんだわ”
 しっかりと自分に言い聞かせた。それも、残念ながら彼女にしかできない仕事なのだ。同盟国のほとんどすべての政府高官とは違って、彼女は政治の理論と、より実践的な側面について広範囲にわたる訓練を受けていた。オルデランの王家に育ち、養父から組織全体におよぶ法則を学んだ。その学習力は、すでに一〇代にして帝国元老院で父親の代理を務めるほどに優れていた。彼女の専門的知識なくしては、ことに新共和国発展の重要な初期段階にあっては、すべてが容易に崩れ去ってしまうのだ。あと数か月、わずか数か月経てば−そうすれば、少しはゆっくりできるだろう。そのときに、ハンに償いをしよう。罪悪感は消えた。だが、寂しさは残っていた。
 レイア「そうかもしれないわね。それまでは、わたしたちは少し眠っておいたほうがいいわ。明日は忙しくなるから」
 ウィンターはわずかに眉をつりあげ、さっきのレイアのそっけなさをまねるような調子で聞いた。
 ウィンター「まだこれ以上、忙しくなることが?」
 レイア「これこれ、あなたは、皮肉を言うにはまだ若すぎるわ。ほんとうに、もう−あなたといっしょに寝るつもりよ」
 レイアは、真顔を作ってたしなめた。
 ウィンター「ほんとうに、もう用はないのですね?」
 レイア「ええ、ないわ。早く、お行きなさい」
 ウィンター「わかりました。おやすみなさい、ユアハイネス」
 ウィンターは静かに部屋を出て、背後でドアを閉めた。ベッドにもぐりこんで横になると、レイアはふたたび毛布を引きあげて枕の位置をほどよく整えた。
 レイア「あなたたち二人も、おやすみなさい」
 お腹をやさしくなでながら、そっと赤ちゃんたちにささやいた。自分の腹に話しかけるなんぞ、少々オツムの弱いやつだとハンは何度となく言っていた。でも、どうやら彼は誰でも多少オツムが弱いと密かに思っているらしいのだ。
 ハンがひどく恋しい。ため息をつき、ナイトテーブルに手を伸ばして明かりを消した。いつしか眠りに落ちていった。

 銀河を四分の一ほど横断したところで、ハン・ソロはマグの飲み物をすすりながら周囲の半ば混乱した様子をながめていた。彼はふと思った。
 ハン・ソロ(Han Solo)“おれたちは、パーティから引きあげたはずだったよな?”
タトゥイーン
Tatooine
小説 上 P.39-40
コミック #1 P.9



 それにしても、めまぐるしく逆転し続ける銀河の中にも決して変わらないものがあるとわかったのは、結構なことだ。コーナーで演奏しているバンドは違うし、ブースの布張りも以前ほど快適ではない。でも、それを除けば、モス・アイズリー酒場は何もかも昔と同じだった。ルーク・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービとはじめて出会った日と変わらない。一〇回以上も人生をくり返したほど、遠い昔のことのような気がする。
 かたわらで、チューバッカ(Chewbacca)が低い声で唸った。

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 ハン「心配するな、いまに来るさ。ドラヴィス(Dravis)のことだ。何にだって時間どおりに来るなんてこたあ死ぬまでないと思うぜ」
 ハンがなだめた。ゆっくりと、彼は人混みを見まわした。いや違うな、と自分に訂正した。もう一つ変わったことがある。かつて常連だった密輸業者どもの姿が、ほとんど見あたらないのだ。ジャバ・ザ・ハットの組織のお残りを引き継いだ奴は、タトゥイーンからどっかに鞍替えしてしまったにちがいない。ふり返って酒場の裏手のドアに目を凝らしながら、ドラヴィスにそのことを忘れずに聞いてみようと思った。影がテーブルにおちたとき、彼はまだ横のほうを見つめていた。

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 ドラヴィス「やあ、ソロ」
 忍び笑いをしているような声だった。ソロはゆっくりと三つ数えてから、なにげなく声のほうをふり向き、うなずきながら言った。
 ハン「やあ、ドラヴィス。久しぶりだな。ま、座れよ」
 ドラヴィス「ああ、あんたとチューイーと、二人とも両手をテーブルにのせたら、すぐにな」
 ドラヴィスはにやにや笑っている。ハンは、むっとした顔で彼を見た。両手でマグをかかえこみながら言った。
 ハン「おい、よしてくれ。おまえを撃ち殺すだけのことで、はるばるここまでお招きしたと思うのか?昔からの仲間じゃないか」
 ドラヴィス「そうだとも。少なくとも、昔は仲間だったよ。だが、おまえは立派な奴になっちまったって噂だぜ」
 ドラヴィスは、腰を下ろしながらチューバッカを値踏みするような目でちらっと見た。ハンは肩をすくめて気持ちを雄弁に表現した。
 ハン「立派な奴ってのは、ずいぶん曖昧な言い方だな」
 ドラヴィス「それじゃあ、はっきりさせてやろう。おまえさんは反乱同盟軍に参加して、将軍になって、もとのオルデランのプリンセスと結婚して、じきに双子の子供も生まれるそうじゃないか」
 ドラヴィスの片眉がつりあがり、せせら笑うように言った。ソロは気まり悪そうに手を振った。
 ハン「じつは、将軍てのは二、三か月前まえにやめさせてもらったよ」
 ドラヴィス「悪かったな。で、用件はなんだ?警告か?」
 ドラヴィスは大声で笑いだした。ソロは眉をよせた。
 ハン「どういう意味だ?」
 ドラヴィス「とぼけるなよ、ソロ。新共和国が帝国に取って代わった。イカしてるし、ナイスだし、結構なことだが。あんたもよくわかってるだろうが、密輸業者にとっちゃどのみち同じことさ。だから、おれたちの商売をやめろっていうお上の命令のための呼び出しだったら、笑わせてもらって引っ返すだけの話よ」
 もはや、からかうような口振りではない。彼は腰をあげた。
 ハン「まるで見当違いだ。じつは、あんたを雇いたいと思ってるんだ」
 ドラヴィス「なんだって?」
 ドラヴィスは、中腰のまま静止し、用心深く聞いた。
 ハン「聞いたとおりだ。おれたちは、密輸業者を雇いたいのさ」
 ドラヴィス「帝国との戦いに関係あるのか?もし、そうだったら・・・」
 ゆっくりと、ドラヴィスは座りなおし、尋ねた。ハンは安心させるように言った。
 ハン「無関係だ。大げさな話が行きわたっているようだが、つまるところ現在、新共和国には輸送艇が不足している。ましてや、経験豊かなパイロットとなれば言うにおよばずだ。手軽にまっとうな金を稼ぐ気があるなら、いいチャンスだと思うんだが」
 ドラヴィス「なるほど。何か、魂胆でもあるのか?」
 ドラヴィスは椅子の背に片腕をもたせかけて寄りかかると、ハンに疑うような目を向けた。ハンは首を振った。
 ハン「魂胆なんかない。惑星間貿易を再開するために、輸送艇やパイロットが必要なだけだ。おまえのとこには、どっちもあるからな。それだけの話さ」
 ドラヴィスは、しばらく考えこんでいる様子だった。やがて、彼は尋ねた。
 ドラヴィス「で、どうしてわずかな金目当てであんたらのためにじきじき働く必要がある?このまま密輸をやってりゃ、一回ごとにもっと稼げるんだぞ」
 ハン「それでもいい。密輸業者を雇うメリットってのは、あんたのお客が関税みたいなものを払わせられる場合にしかない。だが、今回は...払わなくていいんだ」
 ハンはにやりと笑った。ドラヴィスは彼をぐっとにらみつけた。
 ドラヴィス「よせよ、ソロ。できたてのほやほやの政府が、しかも財政難で金に目がくらんでるような政府が、だぜ。そいつらが山ほど関税を積み上げないなんてことを、信じろっていうのか?」
 ハン「好きなものを信じるがいいさ。まあ、やってみるんだな。でも、納得がいったときには、連絡してくれ」
 ハンの口調が冷ややかになった。ドラヴィスはハンの目を見据えながら、頬の内側を噛み、考えこんだ様子で言った。
 ドラヴィス「なあ、ソロ。あんたを信用してなきゃ、のこのこやって来たりはしなかったよ。まあ、あんたがどんな悪だくみをやらかそうとしてるのか、ちょっぴり興味もあったけどな。それで、この話を信じてやろうかって気になってる。自分で確かめてみようってくらいにはな。だが、いいか、正直言っておれの仲間のほとんどの奴らは信用しないぜ」
 ハン「なぜだ?」
 ドラヴィス「あんたがご立派になっちまったからよ。おい、そんなに怒った顔するなって。しごく単純な事実さ。おまえは、この商売がどんなものだったか忘れちまったほど長いこと現場を離れてるってこと。金儲けこそ、密輸業者を駆り立てるものなんだぜ、ソロ。金儲けと刺激だよ」
 ハン「すると、お前は何をするつもりなんだ?帝国の宙域で商売するのか?」
 レイアに教わった駆け引きの術を必死で思い出そうとしながら、ハンは応じた。ドラヴィスは肩をすくめ、正直に言った。
 ドラヴィス「金になる」
 ハン「いまのところは、たぶんな。だが、奴ら領域は、この五年間どんどん縮小してきたし、これからもますます狭くなっていくだろう。いま、われわれの装備は、ちょうどどっこいどっこいってとこだ。でもな、おれたちの仲間のほうが連中より意欲的だし、ずっとよく訓練されてる」
 ドラヴィス「かもな。でも、ちがうかも知れんぞ。あっちには新手の指揮官がいるって噂だからな。あんたたちをさんざん痛い目にあわせてる奴じゃないか?オブロア=スカイ星系でやられたみたいにな。つい先だって、あそこでエロミンの機動部隊を失ったって話じゃないか。あれほどの機動部隊を失うなんて、だらしないにもほどがあるぜ」
 ドラヴィスは、眉をつりあげた。ハンは歯ぎしりした。彼はドラヴィスに指で狙いをつけた。  ハン「おれたちを悩ませる奴は、お前たちも悩ませるってことだけは肝に銘じておけよ。それに、新共和国が金に飢えていると思うなら、帝国がいまどんなに金を欲しがってるかも、考えてみるんだな」
 ドラヴィス「確かに、冒険だな。さてと、また会えて楽しかったよ、ソロ。でも、もう行かなきゃならん。あんたのプリンセスによろしくな」
 立ちあがりながらドラヴィスは、あっさり同意した。ハンはため息をついた。
 ハン「お仲間におれたちの申し出を伝えてくれよ、いいな?」
 ドラヴィス「わかった。応じてくる奴もいるかもしれないな。わからんぞ」
 ハンはうなずいた。およそこの会見の結果として、予想していたとおりだった。
 ハン「ひとつ忘れてたよ、ドラヴィス。ジャバ亡きあとの親分は、誰なんだ?」
 ドラヴィス「そうだな・・・秘密ってわけでもないだろうしな」
 ドラヴィスは、用心深く考えこんで彼を見た。ついに決心したように言った。
 ドラヴィス「いいか、まだはっきりと決まったわけじゃないんだ。だが、賭けをするとしたら、おれはタロン・カード(Tarron Karrde)にあり金ぜんぶ賭けるね」
 ハンは眉をよせた。もちろん、カードの噂は聞いたことがある。だが、彼の組織が一〇強に入っていることをにおわせるようなものは何もなかった。ましてや、そのトップだなどとは・・・。ドラヴィスが間違っているか、カードが目立たないことを好むタイブなのか、いずれかだろう。
 ハン「奴は、どこにいるんだ?」
 ドラヴィス「居場所を知りたいんだな?たぶん、いつか教えてやるよ」
 ドラヴィスは、ずるそうに笑った。
 ハン「ドラヴィス...」  ドラヴィス「もう、行くよ。また会おうぜ、チューイー。そうそう。ところで、あそこにいるあんたの友達におれがいままでお目にかかった最高にできの悪い助っと(バックアップマン)だって言ってやんな。ちょっと、あんたに教えといたほうがいいかと思ってね」
 またニヤッと笑うと、ふたたび背を向けて人混みの中に立ち去った。ハンは、その後ろ姿を見送りながら顔をしかめた。それでも、ドラヴィスは少なくとも背中を見せて立ち去った。これまでに接触した密輸業者のなかには、その程度もハンを信用していない連中がいた。ある意味で前進だ。隣で、チューバッカが軽蔑するような唸り声をあげた。ハンは肩をすくめた。
タトゥイーン
Tatooine
小説 上 P.40-46
コミック #1 P.9-10
 ハン「評議会で、アクバー提督が何て言うかな?カラマリは戦争前だって密輸業者どもを排除しようとしてたし、それを知らない奴はいないしな。心配するなって、いずれやって来るさ。とにかく、何人かはな。ドラヴィスには金儲けとか刺激とか、勝手なことを言わせておきゃいい。でも、安全な商売続行の便宜をはかってやって、ジャバみたいに儲け隠しもなし、銃撃もしないって話には、連中もそのうち興味を示すと思うぜ。さて、おれたちも行くとするか」
 ブースからぬけ出すと、彼はカウンターの向こうに見える出口のほうへと歩きだした。なかほどのブースにさしかかったとき、立ち止まって、一人で座っている男を見おろした。
 ハン「メッセージがある。おまえは、ドラヴィスがこれまでに出会った最高にできの悪い助っとだとさ」
タトゥイーン
Tatooine
小説 上 P.46-47
コミック #1 P.10

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 ウェッジ・アンティリーズ(Wedge Antilles)「そんなことだと思ったよ」
 ウェッジ・アンティリーズは、テーブルの後ろからそっと出ながらニヤッとして見あげ、黒髪を指でかきあげながら言った。
 ハン「ああ。だが、ドラヴィスは間違ってない」
 密かにとはいえドラヴィスの言うとおりだと認めるのは、ハンがはじめてだった。彼の知るかぎり、ウェッジが磨き板ガラスの上のこぶみたいに目障りにならないのは、TIEファイターを撃墜するXウイングのコクピットに座っているときだけなのだ。
 ハンはあたりを見まわしながら聞いた。
 ハン「ところで、ペイジはどこだ?」

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 ペイジ中尉(Lieutenant Page)「ここです」
 低い声が肩越しに聞こえた。ハンはふり向いた。かたわらに、中肉中背、まるで特徴のない男が立っている。誰の注意も引かないような、どんな背景にも目立たずに溶け込んでしまえるような男。それもまた、計画のうちだった。
 ハン「不審な者を見かけたか?」
 ペイジ「援護部隊(バックアップトループ)なし、武器も奴の銃だけ。あなたを本気で信用していたんですよ」
 ペイジは首を振った。ハンは、最後にもう一度あたりを見まわした。



 ハン「そうだな。一歩前進ってとこだ。行こうか。急がないと、コルサントに戻るのが遅くなる。途中で、オブロア=スカイ星系も回って行きたいしな」
 ウェッジ「行方不明のエロミン機動部隊か?」
 ハン「そうだ。連中があの一件の真相を突き止めたかどうか、知りたいんだ。もし運がよけりゃ、首謀者の見当もつく」
 ハンは厳しい顔で言った。


小説 P.47
コミック #1 P.10
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注!!ダイジェスト版です。詳細は参考書籍にて。(^_^)
Last Update 09/Aug/2000