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帝国の後継者 #1
スター・デストロイヤー<キメラ>

年 代 出 来 事 場 面 参 考



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<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.8-9
コミック #1 P.1-2
チェル中尉(Lieutenant Tschel)「ペレオン艦長、監視部隊から連絡が入りました。偵察艇がハイパー・スペースから離脱しました」

ざわめきの中で左舷ピットから声がかかった。ペレオンはそれには答えず、<キメラ>のブリッジで操作員の肩越しにモニターに見入っている。

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ギラッド・ペレオン艦長(Captain Gilad Pellaeon)「この部隊を追ってくれたまえ」

ディスプレイをライトペンで軽くたたきながら命じた。操作員が訝しげに目をあげた。

操作員「でも、艦長・・・」
ペレオン「聞こえておる。指示に従うんだ、中尉」
操作員「わかりました」

操作員はおもむろに答えると、キーの操作にとりかかった。

チェル「ペレオン艦長」

間近でふたたび声がした。ディスプレイを見つめたまま、ペレオンは近づく足音を待ち受けた。やがて、帝国艦隊で過ごした五〇年間に身につけた威厳ある態度で身を起こし、ゆっくりと振り向いた。若い士官のきびきびとした足取りが重くなったかと思うと、ふいに止まった。

チェル「あの、艦長」

ペレオンの目をのぞきこんだ彼の声が、にわかに小さくなった。ペレオンはしばし無言だった。周囲の乗員の注意を引くためだ。やがて口をついて出た言葉は、穏やかだが水のように冷ややかだった。

ペレオン「ここはシャウム・ヒーの家畜市場ではないのだぞ、チェル中尉。ここはインペリアル・スター・デストロイヤーのブリッジだ。定時報告は遠くから大声でどなるのではなく、所定の者にじかに、いいか、じかに伝えるのだ。わかったかな?」
チェル「わかりました」

そのまましばらくペレオンは彼を見つめていたが、わずかに頭を下げてうなずいた。



ペレオン「報告したまえ」
チェル「は、はい。ただいま、監視部隊から連絡がありました。偵察艇がオブロア=スカイ(Obroa-skai)星系の探査から戻ってきたそうです」
ペレオン「よろしい。何も問題はなかったかね?」
チェル「たいしたことはありません。どうやら現地の住人が、セントラル・ライブラリー・システムの全出力に反対したようです。それと、大隊指揮官の話では何者かに追跡されたようですが、うまくまいたそうです」
ペレオン「だといいがな」

オブロア=スカイはボーダーランド・リジョンで戦略的に重要な位置を占めており、情報部の報告によれば新共和国は人員と援軍の増強にやっきになっているらしい。襲撃時に、相手側に武装した密偵艦があるとすると・・・いずれ、すぐにわかることだ。

ペレオン「艦が戻りしだい、ただちにブリッジ指令室に報告するよう大隊指揮官に伝えてくれ。それから監視部隊に警戒警報を発令するように。以上、行きたまえ」
チェル「了解」

<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.9-10
コミック #1 P.2
軍隊式にくるっと回転して、中尉は通信コンソールへと引きあげて行った。
若いな・・・真の問題はそこにあるのだ。ペレオンは、少しばかり苦々しさをおぼえながら思った。その昔、帝国の最盛期には、チェルのような若者が<キメラ>級のブリッジ士官になることなど、とうてい考えられなかった。だが、いまは・・・彼は、操作モニターをのぞき込んでいる同年配の若者に目をやった。いまは逆に、<キメラ>の乗員はいずれも若い男女ばかりだ。
ゆっくりとブリッジを見まわすペレオンの胸の内に、あのときの怒りと憎悪が甦ってきた。艦隊指揮官の多くは、初代デス・スターを、帝国の巨大な軍事力を(すでに帝国の政治的支配力を手中にしたように)より堅固に直接支配しようとする、皇帝のあくどい企てだと見ていたのだ。バトル・ステーションの弱点が明らかになった後も、彼がそれを無視して第二デス・スターの建設を進めたことは、その疑念をいっそう深めただけだった。もし、断末魔にスーパー・スター・デストロイヤー<エグゼクター(Executor)>を道連れにさえしなければ・・・艦隊の高級幕僚の中で第二デス・スターを失ったことを心底嘆く者はまずいなかっただろう。
五年の時を経たというのに、ペレオンはあのときの光景を思い浮かべて思わず身をすくませた。コントロールを失った<エグゼクター>は未完成のデス・スターに激突し、バトル・ステーションの大爆発に巻き込まれて微塵に砕け散ってしまったのだ。艦を失うことだけでも無念だったが、なによりそれが<エグゼクター>だったことがいっそう無念だった。あのスーパー・スター・デストロイヤーはダース・ヴェイダーの旗艦であり、それが暗黒卿の伝説的というか、致命的なほどの気まぐれによるものかはさておき、艦の任務に就くことが昇進への早道とされていた。つまり<エグゼクター>の死は、多数の若く優秀な中堅どころの士官や乗員の死でもあったのだ。
艦隊は、あの大失態から決して立ちなおることはできなかった。総指揮権を持つ<エグゼクター>を失い、戦闘は修羅場と化し、最終的に撤退命令が下されるまでに何隻ものスター・デストロイヤーを失ってしまった。ペレオン自身、<キメラ>の先任艦長の死後、指揮をとって団結を守ろうとあらゆる手を尽くしたものの、二度と反乱軍より優位に立つことができなかったのだ。それどころか、じりじりと後退させられ・・・ついにここまで来てしまった。
ここ、かつての帝国の辺境で、いまは名ばかりとなった帝国が支配しているのは、当時の四分の一の星系である。厳しい訓練を受けているとはいえ、スター・デストロイヤーの乗員は、いずれも経験のない若者ばかりで、故郷から強制的に徴兵された者がほとんどだった。 だが彼らは、帝国史上おそらくもっとも偉大な戦闘精神の指揮下にあるのだ。ペレオンは、ふたたびブリッジを見まわしながら硬い残忍な笑みをもらした。そうだ、帝国はまだ滅亡してはいないのだ。尊大にも新共和国を宣言した連中も、間もなく気づくことだろう。
時計を見る。〇二一五時。スローン大提督(Grand Admiral Thrawn)は司令室で瞑想しているころだ・・・ブリッジの端から大声で報告するのもさることながら、インターコムなどで大提督の瞑想の邪魔をするのも、帝国では御法度である。じきじきに話すか、まったく話さないか、いずれかなのだ。

ペレオン「この部隊の追跡を続けてくれ。すぐに戻る」

ドアに向かいながら、ペレオンは操作員に命じた。大提督の新司令室には、ブリッジの二レベル下にある先任指令官の豪華な接客用続き部屋があてられていた。何よりも先に、その続き部屋を第二ブリッジに改造したのだった。第二ブリッジであり、瞑想室であり・・・もしくはそれ以上のもの。再改装を最近終えて以来、大提督がほとんどそこにこもっていることは<キメラ>の艦上では周知の事実だった。ただ、彼がそこで何をしているか、ということは誰も知らない。ドアに向かいながら、ペレオンは上着を整え、気持ちをひきしめた。それも、間もなく明らかになるだろう。

<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.10-12
コミック #1 P.2
ペレオン「スローン大提督、ペレオン艦長が参上いたしました。ご報告が・・・」

最後まで言い終えないうちに、ドアが音もなく開いた。緊張し、うす暗い控えの間に足を踏み入れる。素早く周囲を見まわすが、興味を引くものもなく、五歩ほど先の主室に向かった。だしぬけに、首の後ろで空気が動く気配がした。
<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.12-13
コミック #1 P.3

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ルク(Rukh)「ペレオン艦長」

猫のような低い耳障りな声が耳元で言った。ペレオンは飛びあがってふり向くと、五〇センチと離れていない所に立っている背の低い針金のような生き物に悪態をついた。

ペレオン「なんだ、ルク!何をする気だ?」

ルクはただじっと彼を見あげている。ペレオンの背中をひと筋の汗が流れた。黒い大きな目、突き出した顎、ぎらぎらと光る鋭い歯。暗がりにいるルクは、普通の照明下で見るよりもいちだんと恐ろしげに見える。ペレオンは、ルクとその仲間のノーグリを使うスローンの目的を知っていたから、なおのことだった。

ルク「職務を果たしているだけだ」

やがて、ルクが口をきいた。痩せた腕をなにげなく奥のドアのほうに伸ばしたとき、ノーグリの袖の中にすっと消える暗殺者の細いナイフがペレオンの目に止まった。拳を握り、また開くと、暗灰色の肌の下で鋼鉄の針金のような筋肉が動く。

ルク「入ってもいい」
ペレオン「“ありがたいね”」

ペレオンは唸るように言った。ふたたび上着を整えて、ドアのほうに向きなおる。近づくとドアは開き、彼は中に入った。やわらかい照明に浮かぶ美術館。入り口ではたと足を止めると、呆然として室内を見まわした。四方の壁にもドーム型の天井にも、一面に絵画が並んでいる。どことなく人類の作だと思わせるものも多少あるが、明らかに異星人の作品らしきものがほとんどだ。台座付きの、もしくは台座なしのさまざまな彫刻もそこここに置かれている。部屋の中央にはリピーター・ディスプレイが二重の円形に並び、外側が内側のサークルよりわずかに高くなっている。ペレオンの位置から見るかぎりでは、いずれのディスプレイにも美術作品が映し出されているようだ。
二重サークルの中心には、ブリッジにある提督の椅子の複製にスローン大提督が座している。じっと動かない。うす明かりの中でゆらめく暗青色の髪、人間の体型はしているもののまさに異星人的な、冷たげなくすんだ青白い肌。背もたれに寄り掛かり、うすく閉じた瞼の隙間から赤い光の筋だけをのぞかせている。スローンの聖所をこんな形で侵すことが賢明だったかどうか、ふと不安をおぼえてペレオンは唇をなめた。もし、大提督の気分を害しでもしたら・・・スローンの物静かなやわらかい声がペレオンの思いを中断させた。瞼をうすく閉じたまま、ごく控えめに手まねきをした。
<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.13-14
コミック #1 P.4

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スローン大提督「入りたまえ、艦長。どうだね?」
<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.14-16
コミック #1 P.4-5



ペレオン「たいへん・・・興味深いですな」

外側のディスプレイ・サークルに歩み寄りながら、ペレオンはそう答えるのが精一杯だった。

スローン「当然ながら、すペてホログラフだが。彫刻も、絵画もだ。行方不明になったものもあるが、大半は現在、反乱軍に占領されている各惑星にある」

スローンの声に、無念そうな響きが感じられた。

ペレオン「そうですか。提督、お知らせしたほうがいいかと思いまして。オブロア=スカイ星系から偵察隊が戻りました。間もなく、指揮官の帰任報告の準備が完了します」
スローン「セントラル・ライブラリー・システムに割り込むことができたのかね?」
ペレオン「部分出力だけはできました。すべて完了したかどうかは、まだわかりませんがどうやら、追跡されたようです。指揮官は、うまくまいたと思っているようです」
スローン「...違うな。うまくまいたとは思わん。反乱軍の追跡だとすれば、なおさらだ」

深く息を吸いながら背筋を伸ばすと、ペレオンが部屋に入ってはじめて、ぎらつく赤い眼を開けた。その眼を平然と見つめ返しながら、ペレオンはかすかな誇りを感じていた。皇帝の上級指揮官や廷臣たちの多くは、この目をその意味では、スローンの存在自体も気味悪がっていたのだ。おそらくそのために、大提督の活躍の場はほとんど未知領域(アンノウン・リジョン)に限られ、彼は銀河の未開の地をつぎつぎと帝国の支配下に置いたのだった。その輝かしい功績により彼は大将軍(ウォーロード)の肩書きと、大提督の白い軍服を着用する権利を与えられた。皇帝からそのような名誉を授けられたのは、人間以外ではスローンだけである。おかげで皮肉なことに、彼は未開領域(フロンティア)での戦役にいっそう欠かせない存在となった。ヴェイダーではなく、スローンが<エグゼクター>の指揮にあたっていたら、<エンドアの戦い>はどのような結末を迎えただろうかと、ペレオンはよく考えたものだ。

ペレオン「そうです、大提督。監視部隊に警戒警報を発令しました。非常警報にしましょうか?」
スローン「待て。まだ、数分の猶予があるはずだ。ところで艦長、きみは芸術には明るいかね?」
ペレオン「その・・・あまり詳しくはありませんが。たしなむ時間があまりなかったもので」

唐突な話題の変化にちょっぴり慌てて答えた。スローンは右手にある内側のディスプレイ・サークルの部分を身振りで示した。

スローン「時間を作りたまえ。サッファの絵だ。帝国前(PED)、およそ一五五〇年から二二〇〇年ごろの作品だ。様式の変化に注目したまえ。このあたりはテンコーラにはじめて接触したころ。あそこは、パオニッド・エクストラッサ美術の作品だ。サッファの初期の作品との類似点に注意したまえ。それに、帝国前一八世紀中期のヴァトクリーの平板彫刻(フラットスカルプ)とも似ている」

ペレオンは、適当にあいづちをうった。

ペレオン「そうですね。提督、そろそろ・・・」

大気をつんざくような警笛の音に、彼の言葉が途切れた。

チェル「「ブリッジよりスローン大提督へ。敵の攻撃です!」」

チェル中尉の張りつめた声がインターコムから呼びかける。スローンはインターコム・スイッチを入れた。

スローン「こちらスローン。非常警報を発して、現在の状況を報告せよ。できるだけ落ち着いてな」
チェル「「了解」」

無音の警戒ランブが点滅しはじめ、ペレオンの耳に室外の唸るような警笛がかすかに聞こえる。
<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.17
コミック #1 P.5



チェル「「センサーが新共和国のアサルト・フリゲート四隻を捉えています。そして]ウイング・ファイター大隊が少なくとも三隊。左右対称のX字隊形を組んで、わが軍の偵察艦の針路に突入してきます」」

チェルが続けた。緊張してはいるが、さっきよりはいくぶん抑制のきいた声だ。ペレオンは小声でののしった。スター・デストロイヤーたった一隻、おまけに乗員はほとんど戦闘経験がない。敵方は、ファイターの編隊を従えたアサルト・フリゲート四隻・・・

ペレオン「エンジン出力を最大にするんだ。ハイパースペースへのジャンプに待機せよ」

インターコムに向かって命じると、彼はドアに向かって足を踏み出した。

スローン「ジャンプ命令は取り消す、中尉。TIEファイターの乗員を持ち場に集合させ、デフレクター・シールドを作動させよ」

依然として冷静にスローンが言った。ペレオンがぱっとふり向いた。

ペレオン「提督・・・」

スローンは、手をあげて制止した。

スローン「来たまえ、艦長。ちょっと様子を見てみよう」

スイッチに手を触れると、たちまち展覧会は終了した。一転して室内は小型のブリッジ・モニターと化し、壁や二重ディスプレイ・サークル上に操舵装置、エンジン、武器などのリードアウトが現われた。空間には戦略ホログラフが表示され、片隅で侵入者を示す球が明滅している。間近の壁のディスプレイは、到着予定時間(ETA)十二分を示している。

スローン「幸い、偵察艇は十分先行しているから、まだ危険ではない。まず、敵方の勢力を確かめてみよう。ブリッジに告ぐ、至近距離にある監視艇三隻に攻撃命令を発せよ」
チェル「「了解」」

部屋を横切って、三つの青い点が監視部隊から離れて迎撃針路に進入した。それに応じてアサルト・フリゲートと]ウイングが進路を変更したとき、スローンが椅子から身を乗り出すのをペレオンは視界の端でとらえた。青い点が一つ消滅した。スローンは、背もたれに身をあずけながら言った。

スローン「みごとだ。よくわかった。残りの監視艇二隻を撤退させよ。そして、4セクター部隊に侵入者の針路からの緊急離脱を命ぜよ」
チェル「「了解」」

たぶんに戸惑った様子でチェルが答えた。ペレオンには、彼が戸惑っている理由がよくわかった。

ペレオン「艦隊の他の艦に、通信だけでもしたほうがよろしいのでは?<デス・ヘッド>は二〇分で、他の艦もほとんど一時間以内にやって来られます」
スローン「いまはこれ以上、わが軍の艦を巻き込んではならんのだよ、艦長。いずれ、生き残るものがいるかもしれん。だから、反乱軍にわれわれの手の内を知られてはまずいのだ。そうだろ?」

ペレオンを見あげる彼の唇に、かすかな笑みが浮かんだ。彼はディスプレイを振り向いた。

スローン「ブリッジに告ぐ。左二〇度に航路を変更せよ、侵入者の針路に合わせ、上部構造を彼らに向けてくれ。彼らが防御領域に侵入したら、ただちに背後に4セクター監視部隊を再結集させてすべての送信を妨害させるのだ」
チェル「「わ、わかりました。でも・・・」」
スローン「理解する必要はない、中尉。黙って、従うのだ」
チェル「「了解」」

ペレオンは、各指示に応じて旋回する<キメラ>を捉えるディスプレイに目をやりながら深く息をつき、おそるおそる言った。

ペレオン「わたしにも理解できませんが、提督。上部構造を彼らの方向へ向けると・・・」

ふたたび、スローンは手をあげて制止した。

スローン「よく見ていたまえ。そして学ぶのだ、艦長。よろしい、ブリッジ、転回停止、現在位置を保持せよ。ドッキング・ベイのデフレクター・シールドを解除し、他の出力をすべて増力してくれ。TIEファイター中隊は、準備完了しだい進撃せよ。<キメラ>より二キロメートル直進し、散開隊形で掃討戦に入れ。バックファイア・スピード、ゾーン攻撃隊形を組め」

応答を確認すると、ペレオンを見あげた。

スローン「これで、わかったかね、艦長?」
ペレオン「まだ、わかりません。艦の方向を変えたのはファイターの出口をカバーするためだということはわかりましたが、あとは、ただの古くさいマーグ・サブル包囲戦術ではありませんか。そんな単純な戦術で、敗れるような相手ではありません」
スローン「まったく逆だ。敵は敗れるばかりか、徹底的に崩壊する。見ていたまえ、艦長。そして、学ぶのだ」

スローンは冷ややかに訂正した。

<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.17-20
コミック #1 P.5-6
TIEファイターは発進し加速しながら<キメラ>を離れると、エーテル方向舵の中に急旋回して艦の後方で風変わりな噴水のしぶきのように散開した。攻撃部隊に気づいた侵入軍の艦隊は、進路を変更した。ペレオンは仰天して目をしばたたかせた。

ペレオン「あれは、いったい何をしているんです?」
スローン「敵が知っている唯一の対マーグ・サブル・ディフェンスさ。より厳密に言うと、心理的に彼らが企てることができる唯一のディフェンスだ」

スローンの声には、満足げな響きがはっきりと認められた。彼は明滅する点をうなずいて示した。

スローン「いいかね、艦長、あの部隊を指揮しているのはエロミンだ・・・エロミンはマーグ・サブルを適用した変則的な攻撃にはまるで対応できんのだ」

ペレオンは、侵入者たちに目を凝らした。依然としてまったく無駄なディフェンス体勢に転じようとしている・・・少しずつ、スローンの意図がわかりはじめた。

ペレオン「先ほどの監視艇の攻撃ですね。あれで、エロミンの部隊だとわかったのですね?」
スローン「芸術を学びたまえ、艦長。種族の芸術を理解すれば、その種族を理解することができるのだ」

スローンは夢みるように言うと居住まいを正した。

スローン「ブリッジに告ぐ。速力を最大にせよ。援護攻撃、用意」
<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.20-21
コミック #1 P.6



一時間後、すべてが終わった。

大隊指揮官の背後で指令室のドアが音もなく閉まり、ペレオンはまだディスプレイに映っている宙図に目を戻し、無念そうに言った。

ペレオン「オブロア=スカイは窮地にあるようです。しかし、鎮圧のためにわれわれの兵力を失うわけにはいきません」
スローン「いまのところは、そうかもしれん。だが、それもいまだけのことだ」

ペレオンは眉をしかめてデスク越しに彼を眺めた。スローンは、ぼんやりと一枚のデータカードを指先でいじりながら、ビューポートの外の星に見入っている。奇妙な笑みが昏に浮かんだ。ペレオンは慎重に声をかけた。

ペレオン「提督?」
スローン「二つの謎だよ、艦長。一年以上も追っている謎だ」

スローンはふり返り、おもむろに例のぎらつく目を向け、データカードを上にあげて言った。そしてだしぬけにインターコムに向かうと、たてつづけに喋りはじめた。

スローン「ブリッジ、こちらはスローン大提督。<デス・ヘッド>に通信して、ハービッド艦長にわれわれは一時的に艦隊を離れるが、各ローカル星系の戦術的調査を続けて、できるだけデータを取り出すようにと伝えてくれ。その後で、マーカー(Myrkyr)という惑星に針路を定めてくれ。ナビ・コンピューターで位置がわかる」

ブリッジの応答を確認すると、スローンはペレオンのほうに向きなおった。

スローン「当惑してるらしいな。マーカーのことを聞いたことがないようだが」

ペレオンは、大提督の言葉の真意をはかりかねて首を振った。

ペレオン「聞いているはずでしょうか?」
スローン「たぶん、知らんのだろう。ほとんどが密輸業者や反乱分子ばかりで、銀河の無用な屑のような連中だ」

彼はひと息入れると、肘先のマグから何か−匂いから察するに強いフォービッシュ・ピールらしい−をちょっぴり口にふくんだ。ペレオンは無言でじっと待った。大提督の話が何であれ、話すときには独自のやり方と時を選ぶはずだ。スローンは、マグを置きながら先を続けた。

スローン「七年ほど前、たまたま手持ちの参考資料を目にしてな。わたしが注意を引かれたのは、あの星には三〇〇年以上も居住者がいるというのに、当時の旧共和国やジェダイとも、ずっと完全に孤立していたことだ。そのことから何を推理するかね、艦長?」

彼は暗青色の片眉をわずかにつりあげた。ペレオンは肩をすくめた。

ペレオン「未開領域の惑星で、非常に遠く離れているために誰も関心を払わないのでしょう」
スローン「たいへん結構だ、艦長。はじめ、わたしもそう思った・・・だが、違った。実は、マーカーはここから一五〇光年しか離れておらん。われわれと反乱軍との境界付近、旧共和国の境界内にある。真相は、はるかに興味深い。おまけに、ずっと利用価値がある」

スローンは、まだ手にしていたデータカードに目を落とした。ペレオンもデータカードに目をやった。

ペレオン「で、その真相が、提督の一つめの謎となったわけですか?」
スローン「またもや、たいへん結構。そのとおりだ。マーカーがというより、厳密にはそこに住む土着動物が、第一の謎だった。第二は、ウェイランドと呼ばれる天体にある」

スローンが彼に笑いかけ、データカードを振った。

スローン「オブロア人のおかげで、ついにその星の位置を突き止めた」
ペレオン「お喜び申し上げます。その謎について、詳しく説明していただきたいのですが」

いいかげんこのゲームにうんざりしてペレオンは言った。スローンは微笑んだ。背筋がぞっとするような笑み。大提督は静かに言った。

スローン「いいとも。解く価値のある唯一の謎。反乱軍の完全、かつ徹底的な壊滅だ」

<キメラ>
Chimaera
小説 上 P.21-23
コミック #1 P.6
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注!!ダイジェスト版です。詳細は参考書籍にて。(^_^)
Last Update 24/Nov/1999