反乱の夜明け #13-a |
年 代 | 出 来 事 | 場 面 | 参 考 |
---|
ダーガはコム・システムのスイッチを入れ、何年も前に彼の親がくれたコードを打ちこんだ。このコードがまだ使われているといいが。これは重要な通信なのだ。 つながるまでに数分かかった。状態も決して良好ではない。相手はこのアウター・リムからは遠く離れているから・・・。 ようやく銀河一有名な賞金稼ぎの、粒子の粗い、縁のぼやけたホロ映像が現われた。だが、フィルターを通したフェットの金属的な声は、はっきり聞こえた。 「ボバ・フェット。わたしはベサディのダーガ卿だ」ハットは言った「ごきげんよう」 「ダーガ卿」抑揚のない声からは何も感じられなかった。興味も、驚きも、熱意もない。「おれはアウター・リムからだいぶ離れた場所にいるんだ。何の用だ?」 「優先的な仕事を頼みたい。きわめて微妙なうえに、おそらく危険な状況だ。だから、きみに頼みたい。きみはこちらの注文どおりの仕事をしてくれる男だからな。この件では、どんな間違いも許されない。最も腕のたつ賞金稼ぎが必要なのだ」 ボバ・フェットは頷いた。「優先的な仕事は高いが、払ってもらえるのか?ほかの仕事を放りだしてあんたの仕事に専念するには、よほどの報酬がないとな」 「ああ、ああ、金は払う」ダーガは言った。「イリーシアの最高位司祭、テロエンザを始末してくれたら、二〇万クレジット払う」 「それじゃ足りんな。三〇万にしてもらおうか」ボバ・フェットは言った。「そうすれば、いますぐアウター・リムに戻る」 ダーガはためらったものの、結局頷いた。「いいとも。だが、この仕事はタイミングが肝心なのだ。証拠としてテロエンザの角を持参してもらいたい。わたしがナル・ハッタを発ったあと、イリーシアに到着する五時間前までのあいだに殺してくれ。ほかのトランダ・ティルには、しばらくのあいだ彼が死んだことがわからないようにな。彼らに暴動を起こされては困る。わかったか?」 「ああ。殺す前に、あんたに連結をとり、確認するよ。ほかのトランダ・ティルに、テロエンザが死んだことを悟られないようにするんだな」 「そのとおりだ」ダーガは自分の船のIDコードをフェットに告げ、正しく伝わったことを確認した。 「“優先”の規定を説明する。おれはあんたが言った獲物に専念する。テロエンザの角をあんたに届けるまでは、ほかの仕事はいっさいしない。テロエンザを始末した報酬は三〇万クレジットだ」 「そのとおり」 「以上」 装甲服に身を包んだぼやけたホロ映像が波打ち、それから消えた。 ダーガはジアーと話すために、ナル・ハッタの周波数に合わせた。テロエンザの後継者は三人の候補にまで絞られた、ジアーはそう答えた。ダーガは自ら彼らを面接し、イリーシアの最高位司祭を選ぶことにした。 テロエンザの血がついた角をこの手に握れたら、どれほど気分がすっとすることか。台を作って壁に飾ってもいい。 |
P.298 - P.307 L.10 |
それから二日間、ブリア・サレンとハン・ソロは一緒にナー・シャッダを歩きまわり、反乱軍の、いわばガイド役を務める密輸業者や一匹狼の海賊を募った。海賊の場合には、イリーシア作戦にも手を貸してくれるものを探した。彼らはイリーシアの守りが薄いこと、倉庫の中にはベサディのスパイスがうなっていることを強調した。 ふたりとも、注意深くビジネスの関係を保っていたが、ブリアはハンの態度がしだいにぎこちなくなっていくのを感じた。そして、それが自分自身の気持ちを反映していることにも気づいていた。 ハンはこの一〇年間の暮らしをブリアに語って聞かせた。彼女もレジスタンスに入ってからの自分の人生をほんの少し語った。彼女はコルサントで彼のもとを去ったあと、エグザルテイションへの焦がれと闘いながら、さまざまな惑星を放浪したのだと打ち明けた。「実際にイリーシア行きの船の切符を買って、乗船する列に並んだことも二回ばかりあったわ。二回とも結局最後は乗れなかったけど。どうしても乗れなくて、列を離れ、その場を立ち去ったの。そのあとすっかり落ちこんでしまったわ」 そしてようやくコレリアで、この中毒に立ち向かうのを助けてくれるグループと出会った。彼らの助けで、なぜこれほど虚しいのか、その理由に気づいた。「自分自身の心を掘りさげるのに、何か月もかかった。そしてやっと、なぜ自分を傷つけたいのか理解できたのよ。母が自分の思いどおりにならないわたしを憎み、嫌っているからといって、わたしまで自分を憎む必要はないことが、ようやくわかったの。歪んだ形で母を喜ばせるために、自分をだめにする必要はない、とね」 ハンはブリアの母親を思いだし、同情の色を浮かべた。「昔は両親がわからないのがとてもつらかったもんだが・・・きみのお母さんに会って、考えが変わったよ。孤児になるより、始末の悪いこともある」 ブリアは弱々しく笑った。「そのとおりよ、ハン」 ブリアの申し出には、大勢の密輸業者や海賊が興味を持ち、契約した。ジャバが資金的に援助し、自分が使っているパイロットたちにこの仕事を勧めたことも大いに役立ち、ジャバのもとで働いているパイロットの多くが、ガイド役を引き受けることに同意した。 そのあいだも、反乱同盟軍は宇宙に集結し、艦長や地上戦の指揮官たちはバトル・プランの演習を行なっていた。反乱軍の攻撃船一グループにつき、少なくともひとりの密輸業者があたるだけの“徴兵”が終わると、ブリアとハンは<ミレニアム・ファルコン>に乗り、ディープスペースの会合座標に向かった。そこは通常の航路からはだいぶ離れているが、簡単なハイパースペース・ジャンプ一度でイリーシアに達する距離だ。 ブリアはすっかり<ファルコン>に惚れこみ、その速度と武装に目をみはった。彼女に船の中を見せてまわり、彼が改造した部分を示すのは楽しかった。この地上攻撃に備え、ハンはシャグとチューイーの助けを得て、長いこと欲しいと思っていた船体下部の砲を取り付けた。これが地上戦であることを考えると、この砲が威力を発揮する可能性は大いにある。 <ファルコン>が<リトリビューション>とのドッキング針路に近づくと、ブリアはにやっと笑った。「今度はわたしの船をお見せするわ」 ハンは笑った。これはふたりが再会して以来、いちばんくつろいだ時間だった。「美しい船だ」彼は星を散りばめた宇宙に浮かぶ、マローダー・コルヴェットのすっきりした形を賛えた。 <ファルコン>を降りると、<リトリビューション>の船長、テドリス・ブジャリンがふたりを出迎えた。ハンは驚いて彼を見つめた。「テドリス!」彼は反乱軍の軍服を着た、長身の男に向かって叫んだ。「いったい何だって、おまえがここにいるんだ?」 ブリアはふたりの顔を見比べた。「知り合いなの?」 「ああ、そうとも」ハンはテドリスの手を激しく振り、背中を叩きあいながら答えた。「テドリスとおれはアカデミーで一緒だったんだ」 「ハン、話せば長くなるが、<デスティニー>でおまえに早く軍を辞めろと言われたあと、帝国の堕落ぶりがますます目につくようになってな。そんなとき・・・」彼は骨張った顔を歪めた。「ハン、覚えてるか?おれはティシャパールの出身なんだ」 ハンは忘れていた。彼は旧友を見つめた。ゆっくりと事情が呑みこめてきた。「ああ・・・テドリス・・・気の毒に。おまえの家族もか?」ハンは卒業式の日に、テドリスの家族に会っている。 「大虐殺で殺された」テドリスは答えた。「そのあとは、とても留まれなかった。どんな形でもいいから、彼らと戦いたくなったんだ」 ハンは黙って頷くいた。 ブリアは船の中をハンに見せてまわった。ハンは元軍人として、部下の統制がとれ、彼らの動きがきびきびしていることに感心し、またしても彼女の異なった面を見る思いがした。レッド・ハンド中隊の面々は、明らかに自分たちの指揮官に心酔していた。彼らの多くは元奴隷で、囚われた人々を解放するために喜んで命を懸けるつもりでいるのだった。 ブリアはハンを反乱同盟軍のほかの中佐たちに紹介した。そして彼らはこの奇襲に関するプラン会議を何度か開いた。ボサンはイリーシアのセキュリティ情報を集めて協力し、サラスタンは一〇隻の船と、ほぼ二〇〇人近い兵士を送ってきた。ハンとブリアがイリーシアを出てからこの一〇年のあいだに、サラストからは大勢の巡礼がイリーシアに行き、二度と戻ってこなかったのだ。 コレリアン・レジスタンスの船に加え、オルデランとシャンドリラからも兵士たちが加わった(もっとも、オルデランの場合は医者やトランスポートのパイロットといった非戦闘員が大半を占めていた>。「これはうまくいく、反乱同盟軍をそう納得させるのはたいへんだったの」ブリアはハンに打ち明けた。「でも、反乱軍の兵士たちは明らかに戦闘体験を必要としている・・・だから、この奇襲は兵士たちに帝国軍と戦う自信をつけてくれる、と司令部を説得したのよ」 アウター・リムの反乱軍の船は、すでにこの襲撃の詳細な説明を受けていた。ハンはぞくぞくと集まる艦隊を眺め、ひょっとすると成功のチャンスがあるかもしれない、と思いはじめた。彼はイリーシアの大気の中を飛ばす反乱軍のアサルト・ランディング・シャトルのパイロットを相手に、何度かブリーフィングするはめになった。 そうしたブリーフィングの最中、ハンはまたしても旧友に出会った。「ジャラス!」顎の垂れた小柄なサラスタンが、ほかの人々と<リトリビューション>のブリーフィング・エリアに入って来るのを見て、ハンは大声で叫んだ。「いったいここで何をしてるんだ?」 ジャラス・ニブルはよれよれの軍服を指さした。「こいつを見ればわかるだろ?」彼は軋むような声で答えた。「<イリーシアン・ドリーム>は、いまじゃ<ドリーム・オブ・フリーダム>になってる。何年か前から反乱軍のために飛んでるんだ」 ハンはサラスタンにブリアを引き合わせた。ブリアは一〇年前、自分たちを<ヘロッツ・シャックル>から助けてくれた、勇気あるパイロットに会えたことを喜んだ。ハンもニブルも、ブリアの中隊があの<シャックル>を拿捕したこと、それがいまは<エマンシペーター>と命名され、反乱軍の役に立っていることを知って、大いに感銘を受けた。 <リトリビューション>は、べつの中佐の指揮のもと、この奇襲に参加し、アサルト・シャトルやバックアップの兵士たちを運ぶ。 ブリアはハンが反乱軍の中佐や、ほかの兵士たちと交流するのを見守った。こんな幸せな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。ハンはみんなと食堂で食べ、兵士たちと冗談を言い合って、昔のような軍隊暮らしを楽しんでいる。兵士たちはハンの知識と、彼がアカデミー出身の帝国軍将校だったことに敬意を表し、テドリス・ブジャリンがアカデミー時代の“スリック(器用者)”ことハンの、ワイルドな脱線行為のいくつかを披露したあとは、とくに彼に親しみを持った。 ハンはレジスタンスに加わるべきだわ。ブリアは密かにそう思い、彼がそれに気づいてくれることを願った。注意深く“ビジネス”の関係を保ってはいたが、ふたりで一緒に過ごしていると、ようやく自分のいるべき場所に戻ったような気がする。 ハンはわたしのことをどう思っているのかしら・・・ブリアはずっとそう考えていた。 彼らの二日目の終わりに、ブリアはオード・マンテル>のレジスタンスに会うように、というメッセージを受けとった。彼らが反乱同盟軍に加わる可能性があるという。自分の船のスピードを披露できるチャンス到来とばかり、ハンは<ファルコン>で彼女を送ろうと申し出た。もっとも、最初に彼がハイパースペースにジャンプしようとすると、気難しい<ファルコン>は、これに協力するのを拒み、二度ばかり叩いても効き目がなかった。ハンはハイドロスパナを手に大汗をかき、しばらくしてようやく<ファルコン>のご機嫌を取り結んだ。 ハイパースペースにジャンプしたあと、ブリアはハンの手際に感心しながら、副操縦士の席から彼が操縦するのを見守った。「素晴らしい船ね。あなたがこれを勝ちとるのを見ていたのよ」 ハンは驚いてブリアを見た。「何だって?あそこにいたのか?」 ブリアはサバックのトーナメント大会の最中に、ベスピンに滞在していたことを話した。「あなたを応援していたの。あなたが勝ったときは・・・」彼女は言葉を切り、顔を赤らめた。 「勝ったときは、何だい?」ハンは彼女を見つめた。 「ああ・・・直接おめでとうと言いたいと思っただけ。ところで、あのバラベルにいったい何をしたの?ずいぶん怒っていたようだったけど」 ハンはブリアを見て口をひくつかせ、それから笑いだした。「シャラマーに会ったのか?」 「正式にじゃないわ。でも、彼女が失格したあと、何度か並んでゲームのホロを見るはめになったの。彼女、ものすごく怒ってたわよ」 ハンは喉の奥で笑い、それから彼とシャラマーが五年前、デヴァロンで争ったことを話した。「頭を噛みちぎってやると脅されたよ。チューイーがいなかったら、ほんとにそうなってただろうな」 「デヴァロン?ああ、ええ、あのときね−」ブリアは言いかけて、ハンの表情に気がつき、再び黙りこんだ。 彼女は唇を噛んで、彼の視線に耐えた。「イリーシアのリバイバル集会のときにいたのは、やっぱりきみだったのか。あのときは目の錯覚だったと思って、何か月も酒を控えたよ」 ブリアは頷いた。「ええ、わたしだったわ。でも、あなたに正体を明かされるわけにはいかなかったの。わたしがあの群衆の中にいたのは、任務のためだったから」 「どんな任務だ?」 ブリアは彼の視線を受けとめた。「ヴェラティルの暗殺よ。でも、あなたのせいで失敗した。わたしの知るかぎりでは、ヴェラティルはまだ生きているわ。もっとも、まもなく死ぬことになるでしょうけど」 ハンは長いこと彼女を見つめていた。「きみはレジスタンスのためなら、ほんとに何でもしてきたんだな」 ブリアは彼の視線に耐えられなくなった。「そんな顔で見ないで!彼らは邪悪な存在よ!殺されてあたりまえだわ!」 彼はのろのろと頷いた。「ああ。たぶんそうだろう。だが・・・戸惑いを感じるよ」 ブリアはかすかに笑った。「わたしもときどき自分が恐ろしくなるわ」 オード・マンテルに到着すると、ブリアはレジスタンスのリーダーたちと会い、今回の任務とその重要性を説明した。その会合のあとで、レジスタンスは即座に三隻の船と一〇〇人の兵士、そのための供給物資や医療関係者を提供すると申し出て、ブリアを喜ばせた。 ハンとブリアが<ファルコン>を飛ばしてディープスペースの会合座標に戻る支度をしていると、下級将校がフリムジーのメッセージを持ってきた。ブリアはざっと目を通し、ハンを見上げてかたい微笑を浮かべた。「トゴリアから司令部に連絡が入ったわ。少人数だけど、加わりたいと申し出たトゴリアンがいるそうよ。途中で拾ってほしいそうなの」 ハンはにやっと笑った。「マーグとムロヴだな?」 「名前はないけど、たぶん彼らも入ってるでしょうね。途中で寄れる?」 「もちろん」彼はブリアの目を見た。「トゴリアは美しい惑星だ。もう一度見られるチャンスを逃す手はない」 ブリアは目をそらした。トゴリアの砂浜で、彼女とハンは初めて親密になったのだ。トゴリアはたしかに美しい。そしてふたりにとっては思い出の地だった。 旅のあいだ、ふたりはあまり話さなかった。ブリアはすっかり神経質になり、胃がかたくしこるのを感じた。ハンはどう感じているのだろう。 |
Rebel Dawn P.298 - P.307 L.10 |
NEXT : |