前に戻る

位置を確認する

次に進む

反乱の夜明け #9-a
ハットと反乱軍の交渉

年 代 出 来 事 場 面 参 考



反乱の夜明け
P.190 - P.201
 ジャバはナル・ハッタにある彼のプライベートな謁見室で、おばの横に寝そべり、突拍子もない申し出をデシリジクに持ちこんできたブリア・サレンを見ながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。この女は人間にしては、なかなか話がうまい。それだけは認めざるを得ない。
 「万能なるジリアク」ブリアは体の前で両手を広げた。「これがあなたの一族にとって、どれほど大きなチャンスか、考えてみてください。デシリジクが弾薬と燃料を援助してくれれば、コレリアン・レジスタンスはあなた方の目の上のこぶ、イリーシアを取り除きます。ベサディに杭が打たれるのを見たくありませんか?しかも、こんなに慎ましい要求で!わたしたちは兵士と武器と、船を提供し・・・」
 「しかし、あなた方はイリーシアの倉庫にあるスパイスを手に入れる」ジリアクはハット語で言った。ジャバとジリアクのプロトコル・ドロイド、K8LRが即座にそれをベーシックに直した。ジリアクはリパルサー・スレッドをわずかに揺らし、身を乗りだしている反乱軍の中佐をじっと見た。「それに反して、われわれが得るのは消極的な利益ばかり。この申し出から積極的な利益を受けられるなら、また話は・・・」
 ブリア・サレンは首を振った。「危険をおかすのはわたしたちですもの、スパイスもわたしたちがいただきますわ、ユア・エクセレンシー。反乱軍を維持するのは金がかかるのです。無償であなた方の敵を片づけろ、というのは理屈に合いません」
 ジャバ自身は、彼女の意見に賛成だった。なぜジリアクはこんなに頑固なのか?
 ジャバは初めて口をはさんだ−ベーシックで。めったに使わないが、彼はベーシックが話せる。「そちらの申し出とわれわれから欲しいものを、確認させてもらってもいいかな?」
 ブリアはジャバに顔を向け、かすかに頭をさげた。「もちろんですとも、ユア・エクセレンシー」
 「ひとつ」ジャバは指を折った。「デシリジクはイリーシアを襲うための弾薬と燃料を買う資金を援助する。ふたつ、デシリジクはその攻撃の前にトランダ・ティルを始末するよう手配する・・・そうかな?」
 「はい、ユア・エクセレンシー」
 「そのために、どうしてデシリジクが必要なのです?」ジリアクが尊大に尋ねた。「それほどよく素晴らしい軍隊なら、弱小のトランダ・ティルひと握りぐらい、自分たちで始末できるでしょうに」
 「あの司祭たちが死んでいれば、より容易く巡礼たちをこちらの指示に従わせることができるからです」ブリア・サレンは滑らかに答えた。「デシリジクほど規模の大きなカジディクなら、司祭たちの暗殺を手配するのは、さほど難しくないはずです。イリーシア全体でも、せいぜい三〇人の司祭しかいないのですから。少なくとも、われわれはそういう情報を受けとっています。ほとんどのコロニーに、たった三人ずつですからね。それに・・・われわれはトランダ・ティルの共感振動と闘うはめになりたくありません−戦いに専念したいんです」
 「なるほど」ジャバは言った。「三つ・・・こちらの資金援助及び司祭の抹殺と交換に、イリーシアに降下し、あの惑星におけるベサディの事業を破壊する。工場を爆破し、ベサディが二度とあそこを再建できないようにする」
 「そのとおりです、ユア・エクセレンシー」反乱軍の中佐は言った。「危険をおかすのはわれわれです。もちろん、巡礼たちと倉庫のスパイスは、われわれがいただきます」
 「なるほど。その申し出は考える余地があるな。わがデシリジクは−」
 「いいえ!」ジリアクはうんざりしたように鼻を鳴らし、会見は終わったというように手を振った。「あなた、話はもう充分聞きました。申し出はありがたいが−」
 「おばさん!」ジャバはつい大声を出した。ジリアクが言葉を切り、驚いたように振り向くと、彼は声を落とし、ハット語で続けた。「ふたりだけで話したいのですが」
 ジリアクはかすかに鼻を鳴らし、それから頷いた。
 「いいでしょう」
 ブリア・サレンが返事を待つように言い渡され、K8LRの案内で謁見室を出ていくと、ジャバは言った。「おばさん、これは願ってもない申し出ですぞ。イリーシアの事業を抹殺するために傭兵を雇えば、あの反乱軍に払う何倍も金がかかる。少なくとも・・・」彼は頭の中でざっと計算した。「五倍はかかる。この申し出は承諾すべきです」  ジリアクはたしなめるように甥を見た。「ジャバ、何だってそんな馬鹿なことを。いいこと、デシリジクは決して戦いの一方を援助しない。おまえは反抗運動の側につきたいの?そういう方針は厄いしかもたらしませんよ!」
 ジャバは深く息を吸いこみ、心を鎮めるためにハット語のアルファベットを頭の中で思い浮かべ、それから答えた。「おばさん、わたしは反乱軍と同盟を結ぶべきだと言っているわけではありません。しかし、彼らを使ってわれわれの目的を果たすのは、一向にかまわないし、そうすべきだ!あの人間の女と、彼女が率いる反乱軍は、運命がもたらした贈り物だ。ブリア・サレンはこの襲撃には願ってもない指揮官です」
 「それはまたどうして?」ジリアクは目を瞬いた。
 ジャバはうんざりして、息を吐きだした。「忘れたのですか、おばさん!何年も前にザヴァルを殺し、イリーシアを逃げだしたふたりの人間は誰です?ハン・ソロがわれわれのために働くようになってから、わたしがあの一件を調査したことは覚えているはずですぞ」
 ジリアクは顔をしかめた。「いいえ・・・」
 「わたしは覚えている。ハン・ソロは船を盗んでイリーシアを逃げだした。テロエンザの宝物殿からめぼしい宝を盗み、あの最高位司祭のお気に入りの奴隷を盗んで。その奴隷の名前はブリア・サレンだった。さっきの女です。あの女はイリーシアに個人的な恨みがある!どんな手段を使っても、ベサディの奴隷惑星を閉鎖するでしょう」
 ジリアクはまだ顔をしかめていた。「だから?あの女が個人的な復讐を遂げたがっているとしても、それがわれわれにとって、どんな利益になるというの?」
 「あのスパイス工場が破壊されれば、デシリジクにとってこれほど喜ばしいことはない!考えてごらんなさい!ベサディが一挙に力を失い、富の源を失うのですぞ!これはきわめて得な取り引きだ!」
 ジリアクは大きな腹の上で巨体を揺すりながら、突きでた目で宙をにらみ、この申し出がどういう結果をもたらすか思い浮かべようとした。「いいえ」彼女はきっぱり否定した。「これは少しも得にはならない」
 「なりますとも、ジリアク」ジャバは言いはった。「それに、多少手を加えれば、きわめて役に立つ」彼は少し考えたあとでこう付け加えた。「こういってはなんだが、あなたがこの申し出をじっくり考えたとは思えませんな」
 「そう?」ジリアクは甥の上にそびえるように体をそらした。「甥御、おまえの判断には欠陥があるわ。わたしはこの何年間か、おまえとおまえの無鉄砲な親を比べないように努力してきた。でも、おまえの親は偉大なる企画とやらで、デシリジクを破産させそうになったのよ。それから愚かにも、あの泥の球、囚人惑星キップに送られるはめになった。でも・・・」
 ジャバは放蕩なゾルバを引き合いに出されるのは好まなかった。「おばさん、わたしは親とはまるでちがう。知っているはずですぞ!残念ながら、あなたは昔の鋭さや分析力を失ったようだ。ベサディは、近い将来何とかしなくてはなりません。さもないと、おそらくわれわれは滅ぼされてしまう。なぜ、この提案に反対するのか、聞かせていただきたい」
 ジリアクは喉をごろつかせた。たるんだ口の端に緑の淡がわずかににじみでた。「危険すぎる。不確かな要素が多すぎる。人間は自分たちの行動を正確に予測する知性に欠けているわ。彼らはわれわれからクレジットを受けとり、ベサディに寝返りかねない」
 「反乱軍は自分たちの大義に命を懸けている。そんなことはしませんよ」ジャバは言った。「たしかにあなたには、人間がわかっていないようだ、おばさん。あのサレンのグループは、くだらない奴隷のために命を懸けるほど頑固で愚かなのですよ。人間はそういうものなのです。とくにあの女は」
 「おまえは人間を理解しているというの?」ジリアクは鼻を鳴らした。「で、その優れた洞察力はどこで培ったの?ほとんど裸同然で跳ねまわる踊り子たちを見て?」
 ジャバはいまや本気で腹を立てはじめていた。「とにかく、わたしにはわかるのです!この申し出を断わるべきではないことも!」
 「だからコレリアン・レジスタンスのために、三〇人ものトランダ・ティルを殺す手配をすべきだというの?」ジリアクは言い返した。「それがこのナル・ハッタで明るみにでたら、どんなことになるか。ここにいるトランダ・ティルがどんなに大騒ぎすることか!彼らはわれわれの従兄弟にあたる種族よ、ジャバ。人間はわれわれとは何の関係もないわ!」
 ジャバはその点を考えていなかった。彼は黙っておばの反対を考えてみた。「何とか手配できるでしょう。これまでも、無数の暗殺を行なってきたが、うまく罪を逃れてきたではありませんか」
 「それに」ジリアクは不機嫌な声で言った。「イリーシアの事業は破壊したくない。あれはそっくりデシリジクのものにしたいの。スパイス工場が破壊されては、たとえベサディをしのぐことができても、それがどんな益になるというの?」
 「工場はまた建てられる」ジャバは言った。「ベサディが大量のスパイスを倉庫に貯めこみ、どんどん価格をつり上げるより、そのほうがはるかにましです!」
 ジリアクは首を振った。「一族のリーダーはこのわたし。そしてわたしの決定はノーです。この話はこれで終わりよ」
 ジャバはなおも説得しようとしたが、ジリアクは手を振って黙らせた。そしてひと声吼えてK8LRを呼んだ。ドロイドはしきりに勇敢さを称えながら、すぐに人間の女を再び謁見室に案内してきた。
 ジリアクはうんざりした目でジャバを見て、大きな音を立てて鼻を鳴らした。「ガール、さっきは遮られたが−」ジリアクは意味ありげにちらっとジャバを見た。「お断わりする。申し出はありがたいが、デシリジクはこの件に関して反乱軍と手をつなぐことはできません」
 ブリア・サレンは失望を浮かべてため息をつき、それから背筋を伸ばした。
 「わかりました、ユア・エクセレンシー」彼女は軍服のポケットに手を入れ、何かを取りだした。「気が変わったら、ここに連絡を−」
 ジリアクは片手を振って、差しだされたデータカードを拒否した。それから、それに手を伸ばしたジャバをにらんだ。ジャバはデータカードを受けとり、ブリアを見つめた。「これはわたしがもらっておく。さらばだ、中佐」
 「話を聞いてくださって感謝します、ユア・エクセレンシーズ」ブリア・サレンはふたりに向かってそう言い、深々とおじぎした。ジャバは彼女が立ち去るのを見送った。踊り子の衣裳を着せたら、さぞ似合うことだろう。あの赤みがかった髪を、よく筋肉が発達したむきだしの肩に垂らしたら。あの女は素晴らしい体をしている。それに身長もたっぷりある。どれほど素晴らしい踊り子になることか!
 ジャバはため息をついた。
 「ジャバ」おばが言った。「いまのように、わたしの判断をないがしろにする態度には、感心できないわね。下等な生物を相手にする際には、デシリジクはつねに統一の見解を示す必要がある、今後はそれを忘れないように」
 口を開けば反抗的な言葉が飛びだしそうで、ジャバは黙っていた。ブリア・サレンの申し出がどんなに大きなチャンスを与えてくれるか、おばが考えようともしないことに、彼はまだ腹を立てていた。
 “わたしがデシリジクのリーダーなら、偏執的なほど安全第一のおばの言葉に、耳を傾けなくても済むのに”ジャバはそう思った。“大きな利益を手に入れるためには、ときには不確実な危険もおかさなくてはならない。母親になってからのジリアクは愚かで弱くなってしまった”
 ジャバはこのとき初めて、もしもジリアクがいなくなれば、自分が、このジャバ・デシリジク・ティウレが、デシリジクの次のリーダーになることに気がついた。そうなれば好きなように采配がふるえる。
 ジャバはそこに横たわり、考えこむように尻尾を痙攣させて、それからちらっとおばを盗み見た。突然、おばの腹が波打ち、赤ん坊が這いでてきた。「ママの可愛い子!」ジリアクは叫んだ。「ジャバ、見て!この子は毎日大きくなるわ!」
 ジリアクが甘い声で赤ん坊をあやすのを聞いて、ジャバは顔をしかめ、げっぷをし、それ以上ふたりを見ていられずに急いで部屋を出た。


反乱の夜明け
P.190 - P.201
 ブリア・サレンはワイングラスを取りあげ、ゆっくり、味わってから、連れに向かって微笑んだ。「おいしいワインだわ。ありがとう、ランド。こうやって、何もせずにくつろぐはずいぶん久しぶりよ」
 ランド・カルリジアンは頷いた。ブリアはデシリジクのリーダーと会ったあと、今日のシャトルでナル・ハッタからナー・シャッダに戻ってきたのだった。交渉が不満足な結果に終わりがっかりしている彼女を慰めるために、ギャンブラーはこのスマグラーズ・ムーンでいちばんのホテル・カジノ、チャンス・キャッスルでナーフ・テンダーロインのディナーをおごると申しでた。ブリアは柔らかい素材の青いドレスを着ていた。ランドはこのまえと同じ、黒と赤の装いだった。「昔に乾杯」
 「どれくらい昔に、だい?」ランドは自分のワイングラスをゆっくり回しながら尋ねた。「その・・・反乱軍の奇襲部隊のリーダーというのは、忙しいものなんだろうな。たぶん、どこかの宙域のモフの恋人と同じくらいに」
 ブリアはドレスと同じ色の青い瞳を見ひらき、それから細めた。「どうしてそれを知っているの?話した覚えはないのに・・・」
 「ナー・シャッダは銀河の犯罪者が集まる場所だ。おれはひとりの情報ブローカーに貸しがあってね。そいつに連絡を入れたんだ。ブリア・サレン中佐。そうだね?」
 ブリアはぎゅっと口を結び、短く頷いた。「おい」ランドは手を伸ばして、彼女の手の甲に優しく触れた。「おれは信頼できる男だと言ったはずだぞ。帝国には何の恩もなければ義理もない。これほどの臆病者じゃなければ、おれも反乱軍に加わりたいくらいさ。おれはたくさんの秘密を知ってる。それを口にしない分別もある」
 ブリアは弱々しい微笑を浮かべた。「あなたのことはよく知らないけど、臆病者じゃないことは確かよ、ランド。ボバ・フェットに立ち向かうことのできる人間が、臆病者のはずがないわ。レジスタンスに加わるべきよ。あなたは腕のいいパイロットだし、自分で考えて判断ができる。それにとても頭がいい。あっという間に将校になれるわ」
 彼女はためらい、それからさっきより真剣な声で付け加えた。「それに、サーン・シルドのことは・・・物事は外見どおりではない、と言っておきましょうか。わたしはレジスタンスの任務を果たしていたの。でも、パーティに同行し、彼の客をもてなし、補佐のような役目を果たしていただけ。彼はみんなに違う印象を与えたがっていたけれど」
 「だが、きみはスパイでもあった」
 「情報を収集していた、と言ってほしいわね」
 ランドは低い声で笑った。「で、明日ナー・シャッダを発ったあとは、どこへ行くんだい?」
 「自分の部隊に戻るの。それと次の任務に。でも、この旅でふたりの将校を失ってしまった・・・それと腕の立つ戦士もひとり」ブリアは暗い顔になった。「フェットはまるで虫を踏みつぶすように、あの三人を殺したわ」
 「だから銀河一恐ろしい賞金稼ぎだといわれてるのさ」
 「そうね・・・」ブリアはワインをもうひと口飲んだ。「彼はたったひとりの軍隊みたいなものね。帝国に忠実なのが残念だわ。味方についてくれれば、とても役に立つでしょうに!」
 ランドはブリアを見た。「この戦いはきみのすべてなんだね?帝国を打ち負かすことが」
 彼女は頷いた。「ええ、これがわたしの人生よ。この夢を少しでも実現に近づけるためなら、持てるすべてを捧げる覚悟だし、実際にそうしているわ」
 ランドはフラットブレッドをちぎり、キャッシークの森の蜜を垂らして口に入れた。「だが、その目的のためにもう何年も捧げてきた。ブリア・サレンが自分の人生を送るチャンスはいつ来るんだい?もう充分、と自分に告げる日は?きみはいつか一か所に落ち着き、家族を持ちたくないのかい?」
 美しい顔に悲しみが浮かんだ。「最後にそう訊いたのはハンだったわ」
 「ほんとに?きみたちふたりがイリーシアにいたときに?ずいぶん昔のことだな」
 「ええ。あなたと話すことができてよかった。彼の近況も知ることができたし。ねえ、ランド、あと二、三か月で、わたしとハンが初めて会ってから一〇年になるの。信じられないわ・・・これだけの時間がどこへ行ってしまったのかしら?」
 「いつも行くところさ。銀河の中心には巨大なブラック・ホールがある。そいつが時間をどんどん吸いとるんだ」
 ブリアは肩をすくめ、皮肉な笑みを浮かべた。「ほんと、そのとおりね。その説明を覚えておかなくちゃ」
 ランドはワインをつぎ足した。「だが、まだおれの質問には答えてないよ。きみはいつになったら、ただのブリアに戻るんだい?」
 青緑色の瞳がランドの視線を真正面から受けとめた。「帝国が崩壊したら。パルパティーンが死んだら。そうしたら、落ち着くことを考えるわ。そして子供を生みたい・・・いつかね」ブリアは微笑んだ。「料理や家事はまだ覚えていると思うわ。母はわたしを“立派な”妻に仕込もうと、長いこと努力していたんですもの。当然、そこには女性の義務とされていることも、たっぷり含まれていたのよ」
 ランドはにやっと笑った。「そういうお母さんじゃ、レジスタンスの戦士といういまの状況は気に入らないだろうな。軍服に身を包んで、完全武装してるきみの姿を見たらね」
 ブリアは笑い、目玉をくるっと回した。「かわいそうなお母さん!いまのわたしを見ることができなくて幸いね。ショックのあまり卒倒してしまうわ!」
 給仕がステーキを運んできた。ふたりはしばしそれを食べるのに専念した。「ランド、とてもおいしいわ。軍隊の食事の何倍もおいしい!」
 ランドは微笑んだ。「それも反乱軍に加われない理由のひとつだな。おれはうまいものが好きでね。携帯用の食料じゃ、とても我慢できない」
 ブリアは頷いた。「でも人はたいていのことに慣れるものよ・・・練習を積めばね」
 「あまり慣れたくないね」ランドは軽い調子で応じた。「どうしてこのすべてをあきらめられる?」彼は片手を振って、明るいレストランとその先のゲーム・テーブルを示した。
 ブリアは頷くいた。「まあね。反乱軍の軍服を着ているあなたは想像しにくいわね」
 「少なくとも、かなり仕立てを直してくれなきゃ、着たくないね」ランドが言い、ふたりとも声をあげて笑った。
 「戦った経験はあるの?」ブリアは少し真面目な声で尋ねた。
 「もちろんさ」ランドは答えた。「最近は、パイロットの腕も標準以上だが、こう見えても、砲手としてもなかなかのものだ。あちこちで戦ってるよ。それに、もちろん、<ナー・シャッダの戦い>があった。ハンとサラとおれは、あの戦いの中心にいたんだ」
 「その話が聞きたいわ。わたしが知っている密輸業者は、みんな独立心が強くてとても頑固だわ。その密輸業者たちがひとつになって帝国艦隊に勝ったなんて、信じられない」
 感心して聞いてくれる相手に、自分自身とその冒険を話すのは大いに楽しいものだ。ランドはふたつ返事でかなり詳しく話しはじめた。密輸業者たちが力を合わせ、ドレア・レンサルの海賊艦隊と組んで帝国軍のファイターを撃ち落とし、大型戦艦もいくつか仕留めたことを。ブリアはときおり戦略や戦術的な質問をはさんで彼を促しながら、熱心に耳を傾けた。
 やがて、ランドの話が終わり、デザートを頼むと、ブリアはゆったりと座り直して給仕がテーブルを片づけるのを待った。「すごい話ね!驚いたわ。密輸業者の度胸と腕はたいしたものね。みんな素晴らしいパイロットなのね」
 「ああ。さもなけりゃ、インプの税関船から逃げだせるもんか」ランドは得意満面で答えた。「彼らはどんな状況にも対処できる。小惑星帯の中も飛ぶし、星雲や宇宙嵐の中も飛ぶ。それにどんな場所にも着床できる。腕のいい密輸業者は、まず、怖いものなしだ。おれは彼らが不規則な重力フィールドと格闘しながら、自分の艦とほとんど同じ大きさの小惑星に着床するところも見たことがある。重力移動、大気圏の気流、砂嵐、吹雪、台風・・・なんでもござれだ」
 ブリアは真剣な目で彼を見た。「なるほど。そういう経験を積んでいるとしたら、密輸業者は銀河一のパイロットね・・・でも戦いとなると、どうかしら・・・」
 ランドは片手を振った。「ああ、彼らはその気になれば、戦士としてもかなりのものさ。インプがいつ目の前に現われ、レーザーを浴びせてくるかわからない、そういう状況で仕事してるんだからな。もちろん、<ナー・シャッダの戦い>では、彼らは自分の家や家族を守るために戦った。そうでなきゃ、大半が正当な報酬を要求してきただろう」
 彼女は突然何かを思いついたように、瞬きした。「つまり・・・彼らは金になれば、傭兵みたいなこともする、ってこと?」
 ランドは肩をすくめた。「ああ、もちろん。密輸業者の多くは海賊に毛がはえたようなもんだ。たっぷり儲かると踏めば、ほとんどがどんなことでもする」
 彼女はマニキュアした爪で下唇を叩きながら考えた。と、突然ランドはその手を見つめた。「おい・・・」彼は身を乗りだし、その手を自分の両手で包んで、優しく調べた。「何があったんだい、ブリア?」
 彼女は深く息を吸いこんだ。「この古傷のこと?イリーシアのスパイス工場で働かされていたときの名残よ。いつもは化粧で隠しているんだけど、ほら、何もかも<クイーン>に置いてきてしまったから」
 「ドレアがきみの荷物は返すと約束してくれた」ランドは言った。「キャビンのナンバーも教えてある」彼は戸惑っているように見えた。「その傷のことを聞いてすまない。ただ・・・きみのことが気になるんだ。これを見て、きみがあの惑星でどれほどつらい思いをしたか考えると、胸が痛くなる」
 ブリアは彼の手を叩いた。「ええ。ありがとう、ランド。でも、わたしはこうして助かった。イリーシアではいまでも毎日人々が死んでいるのよ。果てしない苦痛や、栄養不良や、残酷な裏切りよりも、もっとましな人生を送って当然の善良な人たちが」
 彼は頷いた。「その話はハンから聞いてる。彼もきみと同じ気持ちさ・・・だが、おれたちにはどうにもできない。そうだろう?」
 ブリアは強い目で彼を見つめた。「いいえ、できるわ、ランド。そして生きているうちは、わたしは決してあきらめない。いつかあの地獄のような惑星を封鎖してやる」ブリアは突然、にやっと笑った。ランドはそれを見て、いまは不在の友のことを思いだした。「ハンならこう言うわね。“おれを信じろ”って」
 ランドはくすくす笑った。「おれもちょうど、きみはときどきハンによく似た表情をすると思ってたところさ」
 「彼はわたしの模範なの。彼にはいろいろなことを教わったわ。いかに強くあるか、勇気を持ち、独立心を保つか。昔のわたしがどれほど意気地のない泣き虫だったか知ったら、驚くでしょうね」
 ランドは首を振った。「いや、信じられないな」
 ブリアは古傷を見下ろした。両手と前腕の日に焼けた肌に、まるでグロー・スパイダーの巣のように白い傷跡が無数に走っている。「ハンもこれを見るたびにつらそうな顔をしたものよ・・・」彼女はつぶやいた。
 ランドは少しのあいだ彼女を見ていたが、やがてこう言った。「いまでも彼のことを思っているんだね?彼を愛しているんだ」
 ブリアはまたしても深く息を吸いこみ、それから真剣な顔で彼を見上げた。「わたしには彼だけよ」彼女はきっぱり答えた。
 ランドはかすかに目を見ひらいた。「つまり・・・彼だけってことかい?ずっと?」
 ブリアは頷いた。「もちろん、何度か誘われたことはあるわ。だけどレジスタンスがわたしの人生だし。それに・・・」彼女は肩をすくめた。「正直いって、ハンのあとは・・・どんな男も何だか・・・物足りなくて」
 ランドは残念そうに笑った。どうやら彼がどんなにモーションをかけても、ブリアのハートを射止めるのは無理なようだ。彼女のハートは昔もいまもハンのもの、か。「まあ、少なくとも、やっこさんが戻ってきたときに、きみを盗んだせいで殴られずに済む。物事はすべからく明るい面を見ないとな。そうだろ?」
 ブリアはランドを見て微笑し、ワイングラスを口に運んだ。「乾杯しましょうよ。わたしの愛する人に。ハン・ソロに」
 ランドは自分のグラスを取りあげ、彼女のグラスに触れた。「ハンに。銀河一幸運な男に・・・」


反乱の夜明け
P.190 - P.201
NEXT :

前に戻る

位置を確認する

次に進む

Last Update 15/Jul/2000