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反乱の夜明け #7-a
ハットの正義と反乱軍の報復

年 代 出 来 事 場 面 参 考


 「おばさん」ジャバはデータパッドのスクリーンを見つめた。「このままでは、デシリジクは四四年で破産ですぞ」
 彼らはナル・ハッタの島にあるパレスのジリアクのオフィスにいた。デシリジクのリーダー、ジリアクは、赤ん坊がそれを見つけて飛びつくようにと、アスカジアン・シルクのきらきら光るリボンを垂らしていた。もちろんハットの赤ん坊はそのあざやかなリボンに手を伸ばすことはできない。この三か月で、突起は少し長くなったが、まだ腕にはならないからだ。最近は母親の袋の外で一度に二、三時間過ごすことができるため、このチビハットが袋の中で眠っているときしかジリアクとゆっくり話ができない。これはジャバにとっては苛立たしいかぎりだった。
 ジャバの発言に、ジリアクは赤ん坊と遊ぶのをやめ、驚いて甥を見た。「本当?」ジリアクは巨大な額にしわを寄せた。「そんなに早く?そんな可能性があるとは思ってもみなかった。とはいえ・・・四四年・・・それだけあれば、その事態は変えられるわ。終わりが来るずっと前に。それは何の報告?」
 「すべての事業の報告ですよ、おばさん。一週間かけてデシリジクの収入の完全な会計報告を作成したのです」
 「それで、クレジットはどこに行くの?」
 「たとえば、これはシャグ・ニンクスのスペースバーンからの請求書ですが」ジャバはデータパッドのキーに触れ、書類を呼びだした。「われわれの船のサブライトおよびハイパードライブ・エンジンをすべて改良するのに、五万五〇〇〇クレジットかかっている」
 「それは少しばかり法外な値段ね」ジリアクは言った。「すべての船の改良が本当に必要だったの?」
 ジャバはうんざりして、大きなため息をついた。緑の涎が彼の前の床に飛び散った。「シャグ・ニンクスはナー・シャッダの住人には珍しい男ですぞ。これは正当な値段です、おばさん。それに、思いだしてください、われわれはこの半年のあいだに、帝国軍のパトロールや海賊のせいで三隻の船を失った。サブライト・エンジンがあまりに古く、時代遅れなので、帝国の税関船や海賊から逃げられなかったせいでね。それにハイパードライブも遅すぎて、配達が遅いと顧客から文句が出ている。だから、ええ、さらに船を失うのを避けるために、改良は絶対に必要でした」
 「ああ、そうね、思いだしたわ」ジリアクは曖昧に応じた。「まあ、それが必要なら、必要なのよ。あなたの判断を信じますよ」
 “事実上だけでなく名目上も、わたしがここを運営すべきだというのが、わたしの判断だ”ジャバはそう思ったが、声に出してはこう言った。「少なくとも改良は終わった。ツキがあれば、われわれの船はより多くのスパイスを、より速く輸送できる。そしてこの先行投資を取り戻せるでしょう。ただ、ベサディが新しく発表した加工スパイスの値段を、今回はしばらく維持してくれればいいのだが。これはここ三か月で三回目の値上げですからな」
 ジリアクは笑いだし、大きく響く音がほとんど人のいないオフィスにこだました。(赤ん坊を生んで以来、ジリアクは赤ん坊を誘拐され、身代金のために人質にされるのを恐れ、昔の取り巻きや追従者のほとんどを解雇していた。ジリアクが男で、子供のいなかったころに比べると、最近の謁見室は寂しいものだ。贅沢な部屋には最も信頼できる寵臣しかいない。もちろんジャバは、ナル・ハッタとタトゥイーンのパレスでは、いまでも騒々しい取り巻きやバンドや踊り子たちに囲まれていた>。
 ジリアクは笑いやむと、こう叫んだ。「もちろん維持するわけがないわ!最近彼らは、ブラック・マーケットのスパイスの量を減らそうとしている。価格をつり上げるためにね。単純な経済学よ。かなり効果的でもある」
 「たしかに」ジャバは暗い声で答えた。「しかし、そう無茶な上げ方はできないはずです、おばさん。このままどんどんつり上げれば、帝国のスパイス・マーケットと争わねばならない。そうなれば、皇帝のありがたくない注目を浴びることになりますからな」
 帝国の法令により、すべてのスパイス、とくにきわめて価値のあるグリッタースティムは、帝国に属している。しかし、帝国のルートで合法的に売られているスパイスの値段はとてつもなく高いため、相当な金持ち以外はそれを買う余裕などない。そこで密輸業者やケッセルでの裏取り引きや、スパイスを産出するほかの惑星が出現することになる。
 「とにかく、船の改良は必要だった」ジャバは付け加えた。「マーケットから、直接ベサディと取り引きする、と脅されているのですからな」
 「ベサディには、こちらに匹敵する密輸艦隊はないわ」ジリアクは事実に即して指摘した。
 「いまのところは。しかしわたしの得た情報によれば、ダーガはすでに何隻か船を買い、さらに何隻か交渉中だということです。彼はわたしたちより立派な艦隊を作ると発表している。スパイス貿易をそっくり手に入れるつもりなのでしょうが、そんなことはとうてい許せません」
 「そうね、甥御」ジリアクは淡い緑青色のリボンを振りながら言った。「どうしたらいいかしら?」
 「スパイスの輸送にパイロットを雇う努力を、倍化しなければならんでしょうな。ソロのように腕のいいパイロットも、探せばいるはずだ」
 「彼はいなくなったの?」彼女は赤ん坊の頭を撫でながらうわの空で尋ねた。
 ジャバは大きな目玉を回して、カーノヴィアン・イール=パプのボウルに手を伸ばし、キーキー声をあげながらもがいているご馳走を口に放りこんだ。チビハットは彼を見て、緑茶色のべとべとした涎を垂らした。ジャバは急いで目をそらし、ごくりと喉を鳴らして呑みこんだ。「もう何か月も前にね。報告では、コーポレート・セクターに行ったとか。彼の留守は痛い」彼はデータパッドを振った。「ソロは素晴らしい男だ。早く戻ってほしいものです」
 ジリアクは驚きを浮かべて振り返った。「ジャバ、あの男は人間よ。しかも男よ。趣味が変わったの?おまえはあの退屈な裸同然の踊り子たちに、性的魅力を感じるのだと思ってたわ。ソロが踊り子の衣装を着て、あの毛むくじゃらの獣と一緒におまえの前で浮かれ騒ぐところは、とても思い描けないわね」
 ジャバはそれを想像して喉の奥で笑った。「ホッホウ、おばさん!違いますとも。ソロが好きなのは、あの男が迅速にわれわれに金をもたらしてくれるからです。ソロなら捕まって、密輸の積み荷と船を没収されるようなことは、絶対にない。きわめて賢い、機知に富んだ男ですからな・・・人間にしては」
 「帝国はここリムの中にも、どんどん入りこんでくるわね。ヒューマノイドが居住する惑星で大虐殺があったし・・・」
 「アトラヴィス宙域のマントゥイーンでね。その後ほかでもある。二週間前ティシャパールの市民が、帝国とその税制に対して穏やかなデモを行なったのです。するとあの宙域のモフは、近くの帝国軍駐留基地から艦を送った。そして、司令官が群集に離散を命じたあと、群衆がそれに応じないと、司令官の合図で、リパルサーで上空に浮かんでいた帝国艦がエンジンを始動した。ほとんどの群集が即座に燃えて灰になったとか」
 ジリアクは巨大な頭を振った。「パルパティーンの部隊は、われわれの種族の巧妙なやり方を学ぶべきね。何という資源の無駄遣い!着床して彼らを集め、全員を乗せて、奴隷として売ったほうがどれほどいいか。それなら、帝国は批判者を排除できるし、同時に儲けることもできる」
 「皇帝はあなたを顧問としてインペリアル・センターに招くべきですな、おばさん」これは半分冗談だったが、考えてみれば、毎日ジリアクを相手にあれこれ相談せずに済めば、もっと仕事がはかどる。そのとき赤ん坊が体をうねらせ、彼の前にやってきた。ジャバがにらみつけると、愚かなチビハットは彼に向かってゴロゴロ喉を鳴らし、げっぷをして吐いた。
 “おお、ぞっとする!”ジャバは広がっていく臭い液体から後ずさりした。
 ジリアクは清掃ドロイドを呼び寄せ、赤ん坊の口を拭いた。「そんなことは、口にするのもやめてちょうだい、ジャバ」彼女はぞっとしたように言った。「パルパティーンがノン・ヒューマンをどんなふうに扱うか知ってるでしょ。あの男はノン・ヒューマンを嫌悪するあまり、ハットが自分より優れた種族だということさえ気づかないんだから!」
 「たしかに。視野の狭い男ですな。しかし、権力者だ。それは否定できない。まあ、われわれは賄賂を払って、帝国の厳密な監視はまぬがれているが。金はかかるが、その価値はある」
 「同感ね。<ナー・シャッダの戦い>のあと、彼がわたしたちに手を出さないのは、評議会が自発的に帝国に払う税を二倍にしたからだもの。ナル・ハッタにはほとんどの惑星の五〇倍の富がある。そのおかげでかなりの保護を手に入れることができるわ。新しいモフと数人の帝国元老院議員、それに軍の高官にも賄賂を払える」
 清掃ドロイドが仕事を終え、床はまたぴかぴかになった。ハットは細心の注意を払って床をきれいに保つ。絨毯がなければ、磨きあげる。そのほうが滑りやすいからだ。
 「反逆罪に問われた元老院議員のモン・モスマが、三つの反乱グループを説得して同盟を承知させ、彼らはコレリアン協定と呼ばれる文書に署名したとか。近い将来、反乱グループは広範囲に及ぶ可能性がありますな、おばさん」ジャバはデータパッドを振った。「それに、戦いになれば儲けられる。損失を取り戻せるかもしれませんぞ」
 「そのいわゆる反乱軍たちが、帝国の力に敵うわけがないわ」ジリアクは嘲笑った。「彼らに肩入れするのは愚かよ」
 「いや、そういう意味では言ったわけでは・・・」ジャバはおばの言葉にあきれながら、あわてて言った。「しかし、一時的にどちらかを助け、儲けることができる場合もある。もちろん、永久的な同盟という意味ではないが」
 「銀河の政治には首を突っこまないことね、覚えておきなさい、ジャバ」ジリアクは赤ん坊を抱き、優しく弾ませた。“そんなことをするとまた吐くぞ”ジャバは皮肉っぽく思った。
 思ったとおり、チビハットはまた吐いた。幸い、清掃ドロイドはまだ呼べば聞こえるところにいた。
 「おばさん・・・」ジャバはためらいながら言った。「このごろはひどく・・・複雑な状況です。赤ん坊は毎日コミュナル・ナーサリー(共同保育場)に預けてはどうですかな?そうすれば仕事に集中できる。赤ん坊は袋の外で長いあいだ過ごせるようになったし、それに、ナーサリーには代理袋母もいます」
 ジリアクはショックと怒りに顔を歪め、尻尾をぴくぴく動かし、体をのけぞらせた。「ジャバ!そんなことを提案するとは!一年後ならともかく、この子はまだ、つねにわたしが必要なのよ」
 「ただの提案ですよ」ジャバはなだめるように言った。「デシリジクの資産を、ナー・シャッダがモフ・シルドに襲撃される前の状態に戻すには、もっと多くの時間と努力が必要だ。最近わたしは一日の大半を費やしています」
 「ホッホッ!」ジリアクは大笑した。昨日は新しいバンドの演奏で、あの新しい奴隷の女がおまえの謁見室を隅から隅まで跳ねまわるのを見て、午後の半分を費やしたくせに!」
 「どうしてそれを−」ジャバは傷ついてそう言いかけたが、口をつぐんだ。何時間か楽しんでどこが悪い?ベサディの新たな相場引き上げの影響について完璧な報告を用意するために、彼は夜明けとともに起きて、書記ドロイドや筆記者たちとデシリジクの会計報告に取り組んでいたのだ。
 「わたしが何も知らないと思ったら大間違いよ、甥御。でも、もちろんおまえの余暇に文句をつける気はないわ。働くばかりで楽しまないハットは鈍くなるもの。でも、わたしが赤ん坊と過ごす必要があることも、尊重してほしいわね」
 「わかりました、おばさん。もちろん尊重しますとも」ジャバはそう答えたものの、心の中では怒りが煮えたぎっていた。彼は素早く話題を変えた。「スパイスの値上げについて説明させるために、ベサディを招集すべきですな。ほかの一族をあおって彼らを糾弾できるかもしれません」
 「何のために?」
 「公式に譴責させ、ベサディに罰金を課してもらうのです。不満はほかの一族からも出ている。彼らもデシリジクと同じくらい、この価格の高騰に苦しんでいるのですからな。やってみる価値はある。おばさん、ハット大評議会に、各カジディクのリーダーを招集するよう、提案してもらえませんか?」
 ジリアクは頷いた。彼女も明らかに和解したがっていた。「よろしい、ジャバ。この週が終わるまでにそうするわ」
 ジリアクは約束を守り、三日後、ジャバはデシリジクのボディガードを伴って体をうねらせ、ハット大評議会の巨大な会場に入った。ハットの犯罪シンジケート、カジディクのリーダーや代表者はみな、そこに入る前に多種多様のスキャンやセキュリティ・デバイスを通過した。ボディガードもそれに倣った。武器とみなされるものはすべて持ちこみ禁止だった。ハットは疑い深いのだ。
 ジャバはデシリジクのメンバーに割りあてられた場所に向かい、自分に話をさせてくれるよう、ほかのメンバーに頼んだ。ジリアクの右腕として、彼にはその権利がある。彼らは喜んで同意した。ジャバは彼の親のゾルバでさえも代表を送ってきたのに気づいた。ふたりは親密ではなかったが、デシリジクのカジディクがひとつ残らず代表者を送り、すべての一族がジリアクの招集を真剣に受けとめていると知るのは慰めとなった。
 すべてのカジディクの代表者たちが揃うと、最近、大評議会の事務局長に任命されたグレジクが開会を宣言した。
 「パワーの同志、利益の兄弟たち、今日はデシリジクによって提言された問題を討論するために、あなた方を招集しました。まずデシリジクの代表であるジャバから、話を聞きましょう」
 ジャバはグレジクの演壇の前にくねっていき、両腕を上げて居並ぶハットを鎮めた。ほかのハットたちが囁き続けていると、彼は尻尾を持ち上げ、石の床にバシッと大きな音をさせて叩きつけた。
 会場はしんと静まり返った。
 「同僚のハットたちよ、今日はベサディ・カジディクの悪行について、重大な申し立てがある。ここ一年、彼らの行状はますますふとどきになっている。すべてが<ナー・シャッダの戦い>から始まった。われわれすべてがあの戦いで損害を受けた。だが、ベサディは無傷だった。われわれは船を、パイロットを、積み荷を、あの月のシールドの一部を失った。たくさんの取り引きを失ったのは言うまでもない!おまけに戦いの余波もあった。ナー・シャッダのシールドの一部を失ったために、<ピースキーパー>の墜落により、数区画におよぶ建物が崩壊した。その後片付けと復興はいまも続いている。誰がそれを払ったのか?あらゆる一族が、不動産とクレジットを失った。だが、ベサディは無傷だった。そして彼らだけが、損害を支払う余裕が最もあるにもかかわらず、まったく損害を被っていない彼らだけが、何も払っていない!われわれはみな損害を被ったが、ベサディは無傷だった!」
 ジャバが言葉を切ると、ほかのハットのつぶやきが広がった。彼はベサディに割りあてられた区画を見て、ダーガがいないのに気づいた。代わりに代表者として、ジアーとそれよりも下のメンバーが出席していた。
 「ナル・ハッタが脅かされたとき、ベサディは何をしていたのか?自分たちの故郷を襲っている帝国に奴隷を売っていたのだ!すべての一族が、グリーランクス提督に法外な賄賂を払うことに協力した。そして結果的には、それが恐ろしい通商停止からわれわれの惑星を救ってくれた。すべての一族が協力した・・・ベサディを除いて
 ほかのハットが“そうだ”とつぶやく。ジャバは自分の演説を誇りに思った。これはもう、雄弁といってもいいくらいだ。演説のうまいジリアクでさえも、こんなにうまくは話せないだろう。ジリアクが赤ん坊と一緒に過ごすために来られなかったのは、むしろ幸いだった。彼女はこの件に関して彼ほど詳しくないし、最近は昔のように経済に興味を示さない。
 「そして戦いのあと、仲間たちよ、ベサディは何をしたか?われわれの再建の手助けをしたか?賄賂を負担したほかの一族に、その分を償うと申し出たか?再建を助けるために奴隷の労働者をひとりでもよこしたか?」ジャバは叫ばんばかりに声をはりあげた。「いいや!仲間たちよ、彼らはすべてのカジディクの利益が吹っ飛ぶほど、スパイスの値段を上げただけだ−この最悪の時期に!これは立派な商売だ、と言う者もいるかもしれない、ただ儲けをあげたいだけだ、と−だがわたしはそうは言わない!ベサディは乗っ取ろうとしているのだ!わたしたちをこの商売から締めだそうとはかっている!ベサディは、自分たち以外のハット一族をナル・ハッタから一掃したいのだ!」
 ジャバの声は雷のように響きわたった。強調するために尻尾を強く叩きつける音が、洞穴のようなホールに反響する。
 「ベサディは譴責されるべきだ!彼らを譴責し、罰金を徴収して、それを損害を受けた一族に分配するよう提案し、大評議会がただちにこの提案に関する票決をとることを要求する!あらゆるハットの名にかけて、これを要求する!」
 ホールは大騒ぎになった。尻尾をばしばし叩く音と、憤りの叫び声が響きわたる。ベサディの代表を振り向いて尻尾を脅すように揺らしたり、大声で侮辱し、毒づくハットもいた。
 ジアーはあわてて周囲を見まわし、友好的な者がひとりもいないことに気づいた。彼は両腕を上げ、声をはりあげて叫んだが、彼の声はほかのハットたちの怒りにかき消された。
 ようやく熱狂は鎮まりはじめた。グレジクが静かにするように尻尾を叩き、やっと静かになった。
 「慣習により、ここに出席しているベサディの代表者であるジアーには、この非難を弁解する権利があります。何か言うことがありますか、ジアー?」
 ジアーは大きな喉で咳払いし、ごくりと唾を呑みこんだ。「仲間たちよ、どうしてベサディを非難できるのだ?儲けることは褒め称えられるべきことだ、中傷されることではない!ジャバとジリアクは、ナー・シャッダの戦いでいちばん損害を被った。だから彼らと一緒にベサディに反抗するように、きみたちを焚きつけているのだ!実際は、ベサディは何も間違ったことはしていない!われわれは何も−」
 「ああ、おまえたちは何もしていない!」トリニヴィー・カジディクのリーダーが遮った。「デシリジクはわれわれを救う戦略を提供してくれた。だが、ベサディはすべてをわれわれに賄わせ、儲けをひとり占めした!」
 ジアーは首を振った。「わたしたちがしたのは−」
 「われわれはハットだ!」べつのリーダーが叫んだ。「ほかの種族から搾取するのは、われわれの誇りだ!儲けるのがわれわれの誇りなのだ!しかし、われわれは自分たちを滅ぼそうとはしない!競争はする・・・だが滅ぼそうとはしない!」
 大混乱が巻き起こった。尻尾を叩く耳障りな音、叫び声、毒づく声、怒鳴り声、激しい非難が会場を満たした。
 グレジクは秩序を取り戻すために、何度も何度も尻尾を叩きつけなければならなかった。「票決をとることにします。ベサディを公式に譴責し、罰金を課すのに賛成かどうか、カジディクの代表者のみなさん−賛成か反対か、投票してください」
 それぞれのカジディクのリーダーが、前にある投票タブを親指で押した。
 少したってから、グレジクが片手を上げた。「票決が出ました。四七対一でベサディを譴責することに賛成」
 歓声が起こった。
 「ベサディのジアー−」
 「待ってください!」という声が割って入った。聞き覚えのある声だ。ジャバが振り返ると、ジリアクが会場を横切ってくるのが見えた。「待ってください、わたしは投票していません!」
 「ジャバがあなたのカジディクを代表して投票しました、レディ・ジリアク。なぜ遮るのです?もう一度票決をとり直してほしいのですか?」グレジクは丁寧に言ったが、この問題を先に進めたがっているのは明らかだった。
 「票決をとり直すですって?」ジャバがおばを見つめた。ふたりの目が合った。ジリアクは一瞬後に首を振った。「甥はわたしの代理です、グレジク卿。どうか続けてください」
 ジャバはゆっくりと息を吐きだした。一瞬、ジリアクがみんなの前で、彼の判断と権威に異議を申し立てるつもりだと思ったのだ。多くのハットが彼に好奇の目を向けていた。ジリアクが無条件に後押ししないような投票を、なぜジャバが提案したのか、彼らは明らかに不思議に思っていた。
 ジリアクは甥の横に滑ってきたが、ジャバはそばに来てほしくなかった。仲間のハットの前で彼の判断に疑いを投げ、彼に恥をかかせるとは!おばに邪魔されずに−それも何と無分別な干渉だ!−ひとりでデシリジクを運営できたら、どんなに楽だろう。
 「ベサディのジアー」グレジクが中断されたところから続けた。「ほかのカジディクたちに同等に分け与えられる一〇〇万クレジットを払うまで、ベサディをハット大評議会から除名します。これからは自分たちの種族をほかの種族のように利用できる、かもとみなさないことを勧めます」
 事務局長は入り口に立っていたガードとその長に手を振った。「ガードマスター、ベサディの代表団をこのホールから送りだしたまえ」
 ジアーとほかのベサディは入り口に進みながら、自信に満ちた態度をとり、せせら笑いを浮かべようとしたが、この意図は完全に失敗した。ほかのハットたちの静かな囁きは大笑いになり、耳障りなわめき声になった。それから侮辱の叫び声になり、ひやかしになり、脅しになった。
 ジャバは心の中で微笑み、“午後の仕事としてはまあまあだった”と自惚れた。“そうとも、悪くない”


反乱の夜明け
P.125 - P.134
 ブリア・サレンは彼女の司令船、ライト・クルーザー<リトリビューション>の通路を急いでいた。奴隷船<ヘロッツ・シャックル>への襲撃を控え、部下を閲兵しにいく途中だった。内心は興奮し、待ちきれずにうずうずしていたが、外見は落ち着いていた。青緑色の瞳は厚い氷河の氷のように冷たかった。
 彼女は心の中でバトル・プランを再検討した。弱点を分析し、あらゆる付随事態に予備の選択肢の用意があることを確認した。この作戦はスムーズに進むはずだが、<ヘロッツ・シャックル>は重武装したコレリアン・コルヴェットだ。決してあなどれない。
 船の規模は<リトリビユーション>も<シャックル>とたいして変わらないから、互角に戦えるはずだ。ブリアの艦はリパブリック・サイナー・システムズのマローダー・クラス・コルヴェットだった。美しい流線型のこの船は、宇宙でも大気圏でも戦える。マローダーはコーポレート・セクターの監視艦隊では、最も一般的な大型艦だ。コレリアの地下組織はこの中古のマローダーをオーソリティから買いとり、旗艦としてブリアに預けていた。
 この作戦の司令官として、ブリアはイリーシアの軌道を回っているスペース・ステーションに、情報部員を送りこんでいた。そして数日前その情報部員から、イリーシアの司祭たちが約二百人のエグザルテイション中毒になった栄養不良の奴隷たちを、ケッセル鉱山に輸送するプランを立てているという報告が入ったのだ。
 つかの間ブリアは、第一波の攻撃部隊と一緒に行くことができたら、と思った。戦いの大半は三隻のシャトルに乗りこんだこの兵士たちが引き受ける。敵の大半を殺すのも彼らだ。そしてブリアはこの奴隷船には私怨を抱いていた。一〇年近く前、<ヘロッツ・シャックル>は、ブリアとハン、それにふたりのトゴリアン、マーグとムロヴがイリーシアから脱出するときに、彼らを捕らえようとしたのだ。
 ブリアはため息をついた。第一波の攻撃中は、彼女の持ち場はこの司令船だ。ここで戦いの調整をし、第二波の兵士たちを適所に割り当てるために、敵の抵抗が大きい場所を見きわめる必要がある。
 これは<リトリビューション>がコレリアン・レジスタンスのものとなってから、五回目の任務だった。ブリアは実践に戻れたことを喜んでいた。コレリアの地下組織で八年過ごすあいだ、彼女は割り当てられたことは何でも、しかも首尾よくやり遂げた。だが、スパイ活動は正直なところ性に合わない・・・それに“交渉係”の仕事もそれほど好きではない。こうして本物の戦いに戻れるのは嬉しかった。
 ブリアを“現場”に戻してくれたのはモン・モスマだった。皇帝から反逆罪に問われた、このもと元老院議員は、反乱軍には同盟が必要だとそれぞれの抵抗グループを説得できる、影響力と雄弁さの両方を持ちあわせていた。モスマはブリアよりもこの仕事に長けていた。そしてすべての時間をなげうち、惑星から惑星へと飛びまわり、地下組織のリーダーたちと会った。ブリアとほかのコレリアン・レジスタンスのメンバーは、わずか一か月前に、コレリアン協定の調印を祝ったばかりだ。
 公には、モン・モスマはこの協定を実現に導いた功労者だとされていた。彼女が助けとなったことは間違いない。しかし、実はコレリア出身の元老院議員ガーム・ベル・イブリスが、この協定の発案者のひとりだったという噂を、ブリアは聞いていた。コレリアに加え、その協定に加盟したのは、オルデランとシャンドリラ−モン・モスマの故郷−だった。
 星系から星系へ、惑星から惑星へ旅をして、モン・モスマは抵抗グループがあればそれと接触し、なければ新しいグループを作った。もと元老院議員の肩書きは助けになったが、あだになることもあった。一方では、この肩書きのおかげで、重要な貴族や産業界の先頭に立つ人々に会うことができたが、もう一方では、とくに最初のうちは、自分たちの忠誠心を試すためにパルパティーン皇帝が送りこんだ、帝国軍のスパイではないかと彼女を疑ったグループもあった。
 モン・モスマは、帝国軍のトルーパーにも、疑い深い抵抗グループのリーダーたちにも、何度も殺されそうになった。モン・モスマがコルサントを逃亡したすぐあと、彼女と会い、話をしたブリアは、モン・モスマの静かな威厳、確固とした決意、そして驚くほどの知性に感銘を受け、彼女に対して畏敬の念に近い気持ちを抱いていた。
 ベイル・オーガナがオルデランの平和主義を貫くという決意を変えたのは、ひとつにはあなたのおかげよ、モン・モスマに握手を求められ、そう言われたときは、どれほど嬉しく、誇らしかったことか。いま、オルデランのヴァイスロイ(総督)は帝国に対する武装革命を指示している。しかし、政府からかなりの反対を受け、いまのところ自分たちの惑星を武装する努力は、ごくささやかに、内密にしか行なわれていない。
 コレリアン協定は、ブリアやほかのコレリア人たちがこれまで形成しようと取り組んできた、反乱同盟軍の始まりとなった。それぞれの反乱グループは自治を保ち続けるだろうが、少なくとも理論上は、モン・モスマが同盟軍の戦術指揮をとることになっていた。いまのところ、未熱な反乱同盟軍はまだ戦いの洗礼を受けてはいない。だが、そのチャンスはまもなく来るはずだ。
 <リトリビューション>の通路の角を曲がると、医療将校と一緒になった。ダイノ・ヒクスは彼らが救出したあとの奴隷たちを引き受ける男だ。ヒクスは小柄で、輝く青い目の、顎髭をはやした男だった。彼の恥ずかしそうな微笑には、たいていの人々がひきこまれる。ヒクスはオルデランの有名大学の学者で、そこで医学と心理学の研究に励み、中毒患者の治療を専門とするようになった。六か月前にコレリアン・レジスタンスに参加して以来、彼はイリーシアの巡礼の抱えている問題に、これまでの研究から得た優れた技術を適用していた。
 ブリアは、栄養不良で働き過ぎのイリーシアの巡礼のなかには、苛立ちを抱えた理想主義者が大勢いるにちがいないと確信していた。ほぼ二年前、初めてイリーシアを襲撃して以来、彼女が助けた奴隷のうち一六人は、いまではコレリアン・レジスタンスの勇敢な戦士や諜報員となっている。ほかの一〇人は・・・死後、勇敢さを称えるメダルを授与された。
 ブリアはコレリアの司令官たちにこう指摘した。巡礼たちがエグザルテイションの中毒症状を乗り越える道を見いだせれば、何千もの奴隷を抱えたイリーシアは、反乱軍の兵士を募る金脈になりうる、と。実際、ブリア自身エグザルテイションへの依存を乗り越えコレリアの地下組織に加わったのだ。でも、そのためにほぼ三年のたゆみない努力が必要だった。彼女は瞑想から薬まであらゆる手段を試したあと、自分の人生を奴隷と奴隷制度を奨励する帝国の打倒に捧げると決めて、初めて強くなれたのだった。
 しかし、レジスタンスは、巡礼を治療するのに三年も費やすことはできない。数年ではなく、数週間数か月で効く治療法を見つける必要があった。
 そこでダイノ・ヒクスが登場する。彼はエグザルテイションの影響に関して肉体的、精神的、そして感情的に徹底した分析を行ない(そのために、彼はトランダ・ティルの男たちに会いにナル・ハッタに行き、彼らがどのようにこの効果を作りだすのかを調査した)、治療法を見つけた。ヒクスの治療法は、中毒性のない薬から対話式のグループ・セラピーまで、精神的、感情的、肉体的治療を混合したものだった。
 順調にいけば、今日ヒクスは新しい治療法を試す機会を手にすることができる。
 彼は目を上げてブリアをちらっと見た。「緊張していますね、中佐?」
 彼女はかすかに微笑んだ。「わかる?」
 「いえ。ほとんどの人は気づかないでしょう。わたしは特別です。新しいセラピーに取り組んだときに、あなたをよく知るようになりましたからね。それにヒューマノイドの精神的および感情的な状態を判断するのが、わたしの仕事です」
 「そうね」ブリアは認めた。「ええ、少し緊張してるわ。これはカスタム・パトロール艦を捕まえたり、孤立したインプの前哨基地を襲撃するのとは違う。今回は、わたしを、わたしの体と精神をしばりつけていた人々と戦うんですもの。巡礼の中毒症状を目のあたりにすると、自分の症状が戻ってきそうでいつも怖いの」
 ヒクスは頷いた。「この襲撃には感情的な関わりがあるわけだ、軍事的な目標だけではなく。不安を感じるのは当然です」
 ブリアは彼をちらっと見た。「でも、それは任務を遂行する妨げにはならないわ、ヒクス」
 「わかってます。レッド・ハンド中隊はとても有能だと聞いています。あなたの部下はわたしの見るところ、あなたを追ってブラック・ホールに入り、反対側に出てきそうだ」
 ブリアは少し笑った。「それはどうかしら。もしわたしがブラック・ホールに入るほど気がふれていたら、彼らには退却する分別があることを望むわ。でも、わたしの部下はパルパティーンのインペリアル・パレスにでも、ついてきてくれるでしょうね」
 「あそこで長いこともちこたえるのは無理ですよ」彼はあっさり言った。
 彼女は笑ったが、目は笑っていなかった。「でもしばらくは楽しめるわよ。パルパティーンに一発お見舞いできるなら、命を懸ける価値はあるわ」
 「第一波はいつ出発するんです?」
 ブリアは身につけている小さなクロノ・リングをちらっと見た。「スペース・ステーションの諜報員からのシグナルを待ってるの。それからマイクロジャンプする。<ヘロッツ・シャックル>が発進した直後に、イリーシアのスペース・ステーションから合図が入るはずよ。奴隷船がこの星系を出る前に捕まえたいの」
 「なるほど」
 ブリアは右に曲がってターボリフトに乗った。「乗船用シャトルに乗る兵士たちを最終点検するために下に行くところよ。一緒に行く?」
 「いいですとも」
 彼らはリフトでシャトルの発進ベイまで降りた。リフトを出ると、発進エリアは艦や機器や武器の最後の点検をする兵士たちでごったがえしていた。兵士のひとりがブリアに気づき、口に二本の指を入れ、鋭く口笛を吹いた。「中佐がみえた!」
 ブリアは戦闘前の最後の調整を監督していた副官のジェイス・ポールに命じた。「みんなを集めて」
 短い命令がかかると、シャトルに乗船する兵士たちは整列した。シャトル一隻につき一中隊、およそ一〇人の兵士が乗る。第一波も第二波も、シャトルは三隻ずつ発進する。第一波は<ヘロッツ・シャックル>に乗りこみ、奴隷商人たちの抵抗を制圧する責任を負っていた。第二波は第一波を補強し、仕上げを手伝う。
 ブリアはゆっくりと兵士の列のあいだを歩き、彼らをじっと見て、制服や武器、表情を調べていった。そして異常に目をぎらつかせた若い兵士の前で止まり、彼の紅潮している頬や赤い鼻を見て、眉をひそめた。「バリド伍長・・・」
 彼は敬礼した。「はい、中佐!」
 彼女は手を伸ばし、彼の頬に、それから額に触った。「列を離れなさい、バリド。少なくともデグリー一の熱があるわ」
 スコット・バリドは敬礼した。「お言葉を返すようですが、中佐、わたしは元気であります」
 「ええ、そうね」ブリアは言った。「わたしが皇帝のウーキーのめかけならね。ヒクス?」
 医療将校はベルトのポーチから医療プローブを取りだし、それで若者の顔に触れた。「デグリー二の熱です、中佐。白血球の数からすると、感染症を起こしています、おそらく伝染性です」
 「医療ドロイドのところに行きなさい、伍長」ブリアは命じた。
 若い兵士はがっかりして、抗議しようとしたが、考え直して従った。彼の交替要員が、指図を待たずに列に入った。
 ブリアは点検を終えると、立ち止まって兵士たちに言った。「よろしい。マイクロジャンプのシグナルがありしだい発進します。Yウイングが先に行き、敵のシールドを破壊する。それからはあなたたちの出番よ。エアロックにドッキングしたあとは、戦いになるでしょう。エアロックがなければ、作るだけよ。二隻のシャトルに特殊技術チームが同乗するわ。彼らは機関セクションのすぐ前に穴を開けるはずよ」
 彼女はひと息ついた。「いいこと、あの船にはさげすまれ、当惑し、怯え、おそらくエグザルテイションの禁断症状に苦しみはじめている奴隷がいる。彼らは攻撃してくるかもしれない。自分自身を危険にさらす必要はないけど、彼らに大怪我をさせないように努力してちょうだい。そういう奴隷にはスタン・ビームを使うの。わかった?」
 同意のつぶやきが広がった。「何か質問はある?」
 質問はなかった。兵士たちはすでにリーダーや小隊リーダーに充分に指示され、何度も復唱させられていた。
 ブリアは彼らに向かって頷いた。「これはレッド・ハンドの最も大きな任務よ。成功すれば、また実戦に使ってもらえるわ。だから、宙域司令部が感心するような働きをしましょう・・・いいわね?」
 兵士たちは全員、声を揃えて同意した。
 小隊リーダーと話し合うために向きを変えたとき、突然コムリンクが鳴った。彼女はキーを押した。「はい?」
 「中佐、たったいまシグナルが入りました。<ヘロッツ・シャックル>はイリーシアのステーションを離れました」
 ブリアは頷いて、小隊リーダーに向き直った。「第一波、乗船開始。第二波は・・・待機」
 三〇人の兵士がそれぞれのシャトルに急いで移動し、デッキに足音が鳴り響いた。
 ブリアは個人用周波数を開いた。「<クリムゾン・フュエリー>、こちらはレッド・ハンド・リーダー」
 「どうぞ、レッド・ハンド」
 三分後のマイクロジャンプに備えて。<リトリビューション>はすぐあとを追うわ」
 「了解、レッド・ハンド・リーダー。マイクロジャンプに備えます」
 ブリアとダイノ・ヒクスは急いでシャトルおよび社とる・ファイター発進ベイを去り、ターボリフトで上がって、小走りにブリッジに向かった。彼らが入っていくと船長が顔を上げた。ブリアは戦術スクリーンの前に座った。そこからはビュースクリーンも見える。「ブジャリン船長」彼女は言った。「最後のYウイングがジャンプした一〇秒後に、わたしたちもジャンプよ」
 「了解、中佐」ブジャリンは言った。長身のテドリス・ブジャリンは、若いにもかかわらず、もう髪の毛が後退している。帝国がティシャパールの市民を大虐殺した際に、家族全員を殺され、そのあとコレリアン・レジスタンスに加わった男だ。帝国軍で受けたトレーニングは大いに役に立ち、彼はすぐに昇進した。有能な将校だし、善良な男だ。彼は家族が殺される前から、帝国軍をやめようと考えていたという。そして家族が殺されたことがきっかけになったのだった。
 ブリアは緊張して秒読みを見た。六機のYウイングは二機ずつハイパースペースにジャンプしていく。ビューポートの星の線が尾を引き、<リトリビューション>もそのあとに続いた。
 リアルスペースに戻るとすぐに、<リトリビューション>はシャトル・ベイを開けた。シャトルの第一波が発進し、最速の半分の速さで、最速で飛ぶYウイングの後ろから<ヘロッツ・シャックル>に近づいていく。
 Yウイングの最初の一組がすごい速さでコレリアン・コルヴェットに向かい、それぞれ二発のプロトン魚雷を船尾と船体中央部に向けて一斉に発射した。ブリアはそれを満足して見つめた。彼らの目的は<ヘロッツ・シャックル>に穴を開けることではなく、過度の損害を与えずに、シールドを破壊することだった。できれば<シャックル>は無傷で、反乱軍の艦隊に加えたい。第二波のシャトルの一隻には、コンピューター技術者や技師、パイロット、そして損害コントロールおよびリペア・チームから成る捕獲乗員が乗ることになっていた。
 この攻撃が<ヘロッツ・シャックル>の不意を衝くのは大いに結構だが、ブリアはそれをあてにしてはいなかった。だから<シャッタル>がシールドを上げて航行しているのを見ても驚かなかった。Yウイングが突進していくと、巨大船は砲撃してきた。だが、機敏なYウイングはその弾を簡単にかわす。<リトリビューション>は注意深く火器のレンジの外に留まっていた。
 Yウイングから発射された四発のプロトン魚雷は、青白く瞬いてシールドに当たったが、それを貫かずに奴隷船の船体に散らばった。Yウイングの最初の一組が離れ、次の攻撃に備えて弧を描いて戻っていく。<ヘロッツ・シャックル>は再び砲撃し、今度はそのビームのひとつがYウイングをかすめた−損害はたいしたことはなかったが、そのYウイングは戦線を離脱した。
 ブリアはプロトン魚雷が四発あれば、<シャックル>のシールドを破壊できると踏んでいたのだが・・・二組目のYウイングが最速で突進し、一機目が砲撃した。
 今回も青白い爆発は広がったが、それから突然、艦の横に目に見えるほどの衝撃があり、装甲板に黒い線が走った。
 「やったわ!」ブリアは、コム・ユニットのキーを叩き、Yウイング・チームのリーダーに言った。「<クリムゾン・フュエリー>、よくやったわ!シールドは破壊された!今度はイオン・キャノンでとどめを刺すのよ!回避飛行をするようチームに命じて!もう撃たれるのはごめんだもの!」
 「了解、レッド・ハンド・リーダー。センサー・セットとソーラー・フィンを狙います。これから接近します」
 一組のYウイングが、あらかじめ決められたターゲットに向けてイオン・キャノンを連射し、<ヘロッツ・シャックル>に向かっていく。イオン・キャノンは、敵の船の船体に損害を与えずに、船に搭載されているすべての電気機器−もちろんエンジン、ターゲット・コンピューター、そしてブリッジのシステムを含めて−に損害を与えるように造られている。したがって<シャックル>を捕獲したのち、もちろん、すべての電気システムを初期化しなくてはならない。
 <ヘロッツ・シャツクル>は何度も何度も撃ってきたが、大型艦の兵器で効果的に捉えるには、Yウイングは速すぎたし、敏捷すぎた。
 まもなく電気システムをやられ、<シャックル>は無力に宇宙を漂いはじめた。攻撃隊のシャトルの第一波が近づいていく。ブリアはクロノを見た。“いいわ、時間どおりよ”一隻が<シャックル>がよく奴隷を乗船させるのに使う、前部の巨大なエアロックにはりついた。残りの二隻は、奴隷船の両側にはりつき、中に入る道を作りはじめた。
 チームのリーダーから次々に報告が送られてくる。「レッド・ハンド・リーダー、こちら第一チーム、デッキ4の前方倉庫にある荷積みエアロックから報告しています。われわれは中に入りましたが、激しい抵抗にあっています。乗員はわれわれが乗りこんだときに奴隷を移しましたが、ここにはまだ何人か残っています。巡礼はわれわれと同様、荷箱の後ろに避難しています。激しい銃撃戦が続いています。ターボレーザー・アクセス・シャフトにたどり着けるように、彼らを後退させる予定です」
 「レッド・ハンド・リーダー、第二チームの報告です。われわれはデッキ4のエンジンの前方にある船体を突破し、簡易エアロックを作りました。いまそこから中に入っています・・・」
 「レッド・ハンド・リーダー、右舷のこのセクションの装甲板は少々厄介で・・・待期しろ−」それからまもなく−「レッド・ハンド・リーダー、突破しました!」
 ブリアは第二波を投入するタイミングを検討しながら、艦に入っていくチームの進行を見守った。船体に穴を開けて入った二チームは、ささやかな抵抗にしかあわずに進んでいたが、エアロックから侵入した前方のチームは、ターボリフトに向かう途中で、敵の激しい抵抗にあっていた。レッド・ハンド中隊の評判は広まりはじめていたから、奴隷商人たちが最後まで戦おうとするのは理解できる。おそらく<シャックル>の乗員たちは、襲撃船の船首に描かれた血の滴る手のシンボルで、こちらの正体に気づいているのだろう。
 ブリアは立ちあがり、船長に言った。「テドリス、わたしが第二波の任務から戻るまで、あなたが指揮をとってちょうだい。わたしが連絡したら、バックアップを送って。でも連絡がなければ送る必要はないわ。Yウイングをパトロール・ステーションに移した?」
 「はい、中佐。敵の援軍が駆けつけても、少なくとも一五分前に警告があるはずです・・・もちろん、われわれが送信をジャミングする前に、敵が事態をイリーシア側に知らせることができたとしての話ですが」
 「よくやったわ、船長」
 ブジャリンは頷いたが、敬礼はしなかった。反乱軍の規則は帝国宙軍よりはるかにくだけている。ブリアは二週間かかって、やっと彼に「サー!」という敬称と一緒に敬礼する習慣を捨てさせたのだった。
 「幸運を、中佐」彼は言った。
 「ありがとう、運が必要かもしれないわね。送りこんだチームは、彼らを前方の船倉から追いやったけど、彼らが強力な防御を備える時間は充分あったもの。きっといまごろはブリッジとそのアクセス通路にこもって、電子機器を直そうとしてるわ。少し・・・創造的な方法を使う必要がありそうね」
 ブジャリンは微笑んだ。「あなたはそれに長けていますよ、中佐」
 一〇分後、ブリアのシャトルはポータブル・エアロックにドッキングし、彼女の率いる部隊はブラスター・ライフルを構えて、デッキ3の通路を小走りに進んでいた。
 緊急用バッテリーのライトが照らす気味の悪い薄暗い照明のなかで、自由の利かない<シャックル>はまるで捨てられたように見える。だが、これは錯覚だ。何人かの奴隷たちの泣き叫ぶ声がかすかに聞こえた。おそらく彼らはデッキ4の厳重なセキュリティ船倉に集められ、閉じこめられているのだろう。奴隷商人たちが逃げだす時間を稼ぐために、侵入した兵士たちに大勢の奴隷をぶつけて、兵士たちの速度を鈍らせようと思いつかなければいいが。一度そういうことが起こり、ブリアはまだときどきその悪夢にうなされる・・・ショックを受けて青ざめた丸腰の奴隷たちの顔、ブラスターの閃光の残響、叫び声、ばたばた倒れる人々、焼け焦げた肉の悪臭・・・。
 ブリアは船首にある船長室に急いだ。それはブリッジの真下にあり、彼女のプランの鍵を握っていた。
 彼女はコムリンクのキーを叩いた。「捕獲乗員・・・どんな調子?」
 「中佐、船体への損害は最小限に抑えられたようです。Yウイングはしっかり的に当てましたよ。すでに修理にとりかかっています」
 「電気システムとコンピューターはどう?」
 「そっちは難しいですね。それにブリッジを占拠しないうちは、システムは作動させられません。彼らに船をコントロールされては困ります」
 「上で再起始動させようとしているかもしれないわ。それを阻止できる?」
 「できると思います、中佐」
 「よろしい。システムとエンジンをしっかり点検して。わたしの連絡を待って、再初期化を始めてちょうだい」
 「了解、中佐」
 ブリアのチームは、船長室に行く途中でたった一度、それもひと握りの抵抗にしかあわなかった。一〇人の奴隷商人と彼らに武装させられたひとりの不運な奴隷が、昇降階段にあわてて作られたバリケードの後ろで待っていた。
 ブリアは兵士たちにひとつ前の通路まで退却するように合図し、囁いた。「いいこと、みんなで一斉に撃つわよ。このラレンズが−」彼女は小柄で機敏な痩せた兵士に頷いた。「わたしたちが撃っている下を這っていき、あの害虫どものど真ん中にスタン・グレネードを投げこむから。わかった?」
 「はい、中佐」
 ラレンズはグレネードをくわえ、うずくまって前に進む準備をした。
 「三つ数えるわ、いい・・・一・・・二・・・三!」
 ブリアとほかの兵士たちは、素早く進むラレンズの背中を撃たないように高く狙い、バリケードに向かってライフルを連射しながら、首を縮めて昇降階段に駆けこんだ。
 ブラスターの閃光が狭い空間に閃く。ブリアは短剣の刺青をした腕を狙い、その腕が(おそらくその腕の持ち主も)バリケードの後ろに落ちるのを見守った。すると初めてブラスターを撃ったときのことを思いだし、ちらっとハンとの思い出が浮かんで胸を突かれたが、それを抑えた。思い出に浸っている時間などない・・・目の前の仕事に集中しなければ・・・。
 その直後に大きなドカンという音がし、突然反撃がやんだ。ブリアは兵士たちについてくるように合図した。「いいこと、黄褐色のローブを着ているのが巡礼よ!」
 彼女は前方に走った。大の字に横たわった奴隷商人たちが見えた。三人はすでに死に、ひとりは腕を吹き飛ばされていた。巡礼は驚愕し、力なく逃げようと動いている。
 ブリアは押し寄せる憎しみを感じながら足もとの死体を見下ろした。六人の奴隷商人はまだ生きている・・・手にしたブラスター・ライフルのトリガーの上で、指がぴくっと動いた。
 「中佐、保護特務部隊を手配しましょうか?」ラレンズは彼女を不審そうに見た。彼はレッド・ハンド中隊に入ったばかりなのだ。何人かの古参兵が苛立たしげに彼を見た。
 「彼らは害虫よ、ラレンズ」ブリアは言った。「彼らが将来、危険をもたらさないようにしなくては。メクト、あなたとシアンでここの処理をしてちょうだい。スタンが切れたときに危険な目に遭わないように、この巡礼はどこかの部屋に入れておいて」
 メクトは頷いた。彼は奴隷だった中年の男だった。イリーシアのではなく、帝国の奴隷だったが。「長くはかかりません、中佐」
 ラレンズは何か言おうとして、考え直したようだ。ブリアは兵士たちに合図し、先に進んだ。  五分後、彼らは船長室にいた。ブリアは彼の部屋の“おもちゃ”のいくつかを見ないようにした。明らかに、この船の船長が何人かの奴隷と楽しむために使ったものだ。彼女はキャビンの真ん中に歩いていき、頭上を指さした。「みんな、ブリッジはこの真上よ」彼女は隊長のひとりをちらっと見た。「チーム1、デッキ2のブリッジに向かう通路で攻撃してちょうだい。敵の注意をそらしたいの」
 彼は頷いた。ブリアは言った。「わたしの合図に備えて」
 「了解、中佐」彼は兵士たちを従えて部屋を出ていった。
 ブリアは残った兵士たちに言った。「チーム4とチーム5は、わたしと一緒にブリッジを攻撃するわ」
 まだ入ったばかりの兵士たちが、ちらっと顔を見合わせた。ここからどうやってブリッジを攻撃するのか?彼らは明らかに困惑している。
 「ジョアーンはどこ?」ブリアは訊いた。
 がっしりした兵士が前に進み出た。彼女の顔はほとんどヘルメットで隠れている。「ここです、中佐」
 ブリアは上を指さした。「ジョアーン、わたしたちがあそこに行けるように、トリックを入れたあなたの破壊袋を使って」
 「了解、中佐」彼女は放りだされた大机に登り、レーザー・トーチを使いはじめた。ブリアが何をプランニングしているか気づいた、新参兵士たちが、肘で突つきあい、くすくす笑いだした。
 三分後、破壊専門家のジョアーンはブリアを見下ろし、親指を上げた。「中佐、破壊爆弾を仕掛けました。デッキに通じる立派な丸い穴が開きますよ」
 ブリアは微笑んだ。「よろしい」彼女はコムリンクに言った。「チーム2・・・ブリッジの攻撃を始めて」
 再びブラスターの射撃音が聞こえはじめた。
 「レナ」ブリアはべつのがっしりした筋肉質の女性に頷いた。「あなたは達しい腕をしてるわ。スタン・グレネードを持って待機して。爆発が落ちついたら、あの害虫のほとんどが麻痺するように、すぐにそれを穴を通して投げこんでちょうだい」彼女は残りの兵士たちを見た。「みんな、レナがグレネードを投げこんで、砲撃がやんだらすぐに、あそこから上がるわ。いいこと、この上にあるのはブリッジよ。撃つ場所に注意して。損害を与えすぎたら、捕獲乗員に一か月は口をきいてもらえないわよ。わかった?」
 兵士たちのあいだで笑いが起こった。
 「セット完了」ジョアーンが言った。「後ろにさがって目を覆って。三〇秒で爆発するわ」
 兵士たちは素早くキャビンの端まで後退した。何人かの兵士はブラスト・ゴーグルをさげ、ほかの者たちはただ目をそむけた。ブリアとジョアーンとレナは、装飾の施された分厚いスクリーンの後ろに立った。
 ほどなくシューッという音がし、くぐもったドンという音が続いた。重たいものが大机にあたり、デッキの上を滑ってきた。煙のにおいが鼻孔をくすぐる。ブリアはジョアーンに頷いた。「よくやったわ」
 破壊の専門家とレナは、すでに大机の上によじ登っていた。レナが三つのスタン・グレネードを、違う方向に高く放りこむ。ドカーンという音に叫び声やわめき声があがった。
 レナはジョアーンに押し上げてもらい、穴の向こうに消えた。彼女がブラスターを撃つ音が聞こえてきた。
 ブリアは大机によじ登り、誰かにお尻を押し上げてもらい、穴を通過した。効果的なひと押しだったが、あまり品のある格好とはいえなかった。
 ブリッジには乗員たちが倒れていた。ほとんどが麻痺していたが、ドアから這い出ようとしている奴隷商人も何人かいる。ブリアは巨大なローディアンを見つけ、この緑色の肌をした生物の肩のあいだを撃ちぬいた。ボサンの奴隷商人が、彼女に向かって撃ってきた。が、エネルギーが足りず、ビームは途切れがちだった。ブリアは身をかわし、くるりと前転して、腰のブラスターで彼の顔を撃った。その害虫はナビ・コンピューターのまん前に立っていたから、強力なブラスター・ライフルは使いたくなかったのだ。
 まもなく、すべてが終わった。沈黙が訪れ、怪我人のうめき声しか聞こえなかった。ブリアは素早く状況を点検した・・・仲間の六人が怪我をし、ひとりは助からないかもしれない。ブリアは急いで特別チームを編成し、怪我人を治療するため<リトリビューション>に運ばせた。
 数分後、捕獲乗員の、再起動の準備ができたという報告に、ブリアは緊張して見守った。機械の唸る音が聞こえ、それから突然、非常用照明が消えブリッジが明るくなった。戦術スクリーンも明るくなり、ナビ・コンピューターが静かな音を発しはじめる。
 ブリアは兵士たちに害虫の処理を任せ、ターボリフトに向かいながらコムリンクのキーを叩いた。「ヒクス・・・いる?」
 「<リトリビューション>にいます、中佐」医療将校が報告してきた。「怪我人はこっちに着きました。万事順調ですが、カロニルは・・・だめでした。残念です。医療チームと一緒に手を尽くしたんですが・・・」
 ブリアは悲しみを呑みこんだ。「わかってるわ。まだそこにいる必要がある?」
 「いえ。ここは医療ドロイドで間に合います。<シャックル>に戻るシャトルに乗ります」
 「そうして。もうすぐあなたが必要になるわ。セキュリティ船倉にまっすぐ来てちょうだい。奴隷が閉じこめられているのはあそこよ。そっちで会いましょう」
 ブリアはターボリフトで二デッキ分下り、船尾に向かった。ロックされた入り口にたどり着く寸前、足を引きずる音が聞こえた。彼女は武器を手に振り向いた。何とか逃れた奴隷商人のひとりが、ブラスターを彼女に向けていた。
 女の目はぎらぎらして瞳孔が広がり、髪が顔のまわりにはりついている。「止まらないと撃つわよ!」彼女は震える両手でブラスターを持ったまま怒鳴った。
 ブリアは止まった。“恐怖で震えているの?そうかもしれない・・・でもそれだけが原因ではなさそうだ”
 「武器を置いて!」女がわめいた。「置かないと殺すわ!」
 「それは考えものね」ブリアはブラスターの銃口をデッキに向けながら、静かに言った。「死んだら、人質として役に立たないわよ」
 女はブリアの言葉の意味を考えようとして顔をしかめた。が、結局無視することに決めたようだ。「シャトルがいるの!シャトルと、何人かの奴隷がいるわ!残りはいらない!わたしの取り分がほしいだけよ!」
 「それは無理ね」ブリアはかたい静かな声で言った。「わたしは奴隷商人じゃない。奴隷を解放するために来たんですもの」
 女はこの言葉にすっかり混乱しているように見えた。彼女は首を傾げた。「彼らを売りたくないの?」彼女は疑わしげに言った。
 「ええ。彼らを解放したいのよ」
 「解放ですって?」女は、ブリアがハット語をしゃべったかのように、ぽかんとした顔になった。「二、三〇〇〇クレジットの価値がある奴隷もいるのよ」
 「関係ないわ」ブリアは言った。
 奴隷商人は眉をひそめた。「なぜ?」
 「奴隷制度は間違っているからよ」ブリアは言った。「あなたはわたしの時間を無駄にしてるわ。わたしを殺すか、このまま行かせて。わたしからは何も得られないわ」
 今度はブリアの言葉を理解したとみえて、女は明らかにブリアの返事に驚いていた。この女は興奮剤を摂取しているにちがいない。おそらく、カスーナムだろう。女は全身を震わせていた。銃口も震えている。ブリアは目を細めて揺れる銃口を見つめた。それは揺れて・・・揺れて・・・それからわずかに沈んだ。興奮剤を使っている女は、個人的な利益をまったく気にしない人間を理解しようと努力していた。
 ブリアは目にも留まらぬ速さで武器を構え、同時に横に飛んだ。奴隷商人はブラスターを発射したが、激しく震えているせいでビームはブリアを焦がしもしなかった。ブリアは奴隷商人の胸の真下を撃ち、女は叫んで崩れ落ち、喉を鳴らした。
 ブリアは女に近より、だらんとした手からブラスターを蹴り飛ばして、彼女を見下ろした。女の腹には、大きな黒く焦げた穴が開いている。女は浅くあえぎながらブリアを見つめ返した。ブリアは奴隷商人の額に狙いを定めた。「とどめをさしてほしい?」
 女は首を振り、必死にしゃべろうとした。「い、いえ・・・」彼女は苦しそうに喉を鳴らした。「死に・・・たく・・・ない・・・」
 ブリアは肩をすくめた。「まあいいわ。たぶん五分は生きていられるでしょうよ」
 ブリアは武器を手に奴隷商人をまたぎ、船倉に向かった。
 ロックを開けるには、ブラスターを使わなければならなかった。パニックに陥った叫び声が聞こえてくる。入り口が勢いよく開いた。
 中に入ったとたんに悪臭が鼻をついた。人間やエイリアンの悪臭が、強すぎて目に見えるくらいだ。
 ブリアは、泣き叫び、うめきながら、身を縮めて後ずさる、みじめな巡礼の集団を眺めた。彼らは痩せこけた鉤爪のような手を差しだし、懇願していた。「司祭を連れてきてくれ!司祭が必要なんだ!イリーシアに帰してくれ!」
 ブリアは吐き気を感じた。が、すぐにそれを抑えた。“これはわたしだったかもしれない・・・もう一〇年近く前だけど、わたしもこうなる運命だったんだわ・・・ハンがいなければ・・・”
 足音が背後から近づいてくる。ブリアはブラスターを構えながら振り向いた。だが、今度はダイノ・ヒクスだった。彼は眉を上げた。「ちょっと神経過敏ですかな、中佐?」
 ブリアは恥ずかしそうに微笑んだ。「ほんの少しね」
 「通路で死んでいる女性と関係があるんですか?」
 「さあ、どうかしら」ブリアはブラスターをホルスターにしまいながら、自分が震えているのに気づいてうんざりした。「関係があるのは、むしろこっちでしょうね」彼女は苦しみ悶えている巡礼たちに顔を向けた。「任せるわ、ヒクス。ひと苦労しそうね」
 彼は医師特有の、優しいが落ち着き払った態度で彼らを眺めながら頷いた。「あとどれくらいで、<シャックル>はトランスポートと落ち合う準備ができますか?」
 ブリアはクロノをちらっと見た。三五分でこの船を乗っとり、再び作動させろと言ってあるの。もう三九分経ってるわ。もうすぐ・・・」
 コムリンクが鳴り、彼女は微笑んでそれに答えた。「レッド・ハンド・リーダーよ」
 「中佐、ジェイス・ポールです。船を確保しました、捕獲乗員たちの報告では、ハイパースペースにジャンプできるそうです。会合座標に向かいます」
 「了解、ジェイス。<リトリビューション>に連絡を入れるわ。ヘザー中尉にこっちに向かうように言って。<デリヴァランス>は巡礼たちを移送するのを待ってるはずよ」
 「了解、中佐」
 ブリアはコムリンクのキーを叩いた。「ブジャリン船長、<ヘロッツ・シャックル>は積み荷ごと捕獲したわ。所定の座標で<デリヴァランス>と落ち合う準備をしてちょうだい」
 「了解、レッド・ハンド・リーダー。そこで会いましょう。それから・・・中佐?」
 「何、テドリス?」
 「順調な任務遂行、おめでとうございます」
 「ありがとう、テドリス」


反乱の夜明け
P.135 - P.151
 一か月後、自分の司令官に会うために珍しくコレリアを訪れたブリア・サレンは、彼のオフィスに早足で入っていった。ピアナット・トーバルは目を上げた。小柄で黒い髪の、真剣な目をした男だ。「お帰り。遅かったな。二日前に着くと思っていたよ」
 「すみません」彼女は言った。「<プライド・オブ・ザ・リム>からSOSが入ったものですから。インプの監視艦二隻に出くわしたのです。その戦いで<リトリビューション>がサブライト・エンジンに損傷を受け、まる一日ドックに入るはめになって」
 「わかってるよ」彼はそう言ってちらっと微笑んだ−魅力的な微笑みだ。「その報告は<プライド>から受けとった。弁解する必要はないぞ、サレン」
 彼女は微笑み返し、彼の合図で疲れきって椅子に座った。「それで、わたしの報告は読んでいただけました?」
 「ああ。きみの友人のヒクスの報告では、<ヘロッツ・シャックル>から助けだした巡礼は、まともな市民に戻りつつあるそうだな。おめでとう。彼と彼の新しい治療への信頼が報われたようだ」
 ブリアは目を輝かせながら頷いた。「彼らをもとの生活に戻せるのは、わたしにとっては、大きな意味があるんです。家族も喜ぶでしょうし・・・彼らは品位を取り戻して生きられます。それに快適に・・・」
 「もちろん、彼らがわれわれに加われば、快適な暮らしを送るわけにはいかないが」トーバルは言った。「健康を取り戻したらそうする、と話している者もいるらしい。それには二か月かかるだろうが。イリーシアの司祭が簡単に巡礼を洗脳できるのは、ひとつにはあの栄養不良のせいもありそうだな」
 ブリアは頷いた。「歯茎からいつも出血していたのを覚えています。その影響をほぼ乗り越えるには、二か月間ちゃんとした食べ物が必要でした」
 彼はデータパッドにちらっと目を落とした。「<ヘロッツ・シャックル>は再修復がほぼ終わり、戦線に加われそうだ。あれを手に入れてくれてありがとう。それで・・・あの船を命名したいかい?」
 ブリアは少し考えて言った。「<エマンシペーター>と呼んでください」
 「エマンシペーター(解放者)か、いい名前だ」
 トーバルはデータパッドを切り、デスクに肘をもたせ、身を乗りだした。「ブリア・・・職務上のことはこれで終わりだ。実は、きみの経歴にいくつか気になる点があってね」
 彼女は驚いて目を見ひらいた。「でも−!」
 「ああ、誤解しないでくれ、サレン。きみはいい戦士だし、能力のあるリーダーだ。誰もそれは否定しないよ。しかし、奴隷商人たちがきみの中隊のことを何と言っているか知ってるかい?レッド・ハンド中隊は−冷酷無慈悲のシンボルだ、と彼らは言ってる。<ヘロッツ・シャックル>を乗っ取ったときの、この報告を見てみてくれ。囚人はなし。ひとりもだ」
 ブリアは体をこわばらせた。「司令官、彼らは奴隷商人です。文明のある惑星が、自分たちをどう見ているか知っているんです。だから激しく抵抗し、誰ひとり降伏しませんでした。最後まで向かってきたんです」
 「わかった・・・」トーバルは言った。ふたりは長いあいだ見つめ合っていたが、先に目をそらしたのはトーバルのほうだった。
 トーバルは咳払いして、ぎこちない沈黙を破った。「アウター・リムでは、状況がいちだんと厳しくなっている」彼は言った。「あそこの反乱グループは本当に人手不足なんだ。レッド・ハンド中隊にはしばらくあそこで、彼らに手を貸してやってほしい」
 「わかりました」ブリアは言った。「司令官・・・」
 「何だね?」
 「もっと新兵を得る方法があるかもしれません」
 「というと?」
 「その、これまではイリーシアの巡礼のせいぜい五〇パーセントしか、癒すことができませんでした、覚えておられますか?」
 彼は頷いた。
 「ですが現在は、グレナ基地に連れてきた巡礼にはダイノの新しい治療法が施されています。彼は成功するレートは、九〇パーセント以上になるだろうとみています」
 「それはとても励みになるな。しかし、それが何の関係があるのだね?」
 ブリアは緑青色の目で彼の黒い目を見つめ、身を乗りだした。「司令官・・・イリーシアには八〇〇〇を超える巡礼がいます」
 トーバルは体を引いた。「何が言いたいんだね、サレン?」
 「少し手を貸してください・・・トランスポートのための古い兵員船が一隻、クルーザーをもう二隻ばかり、それと兵士たち、それがあれば、わたしはあの惑星を確保できます。イリーシアの事業を永久に閉鎖することができます。すべてのコロニーを手に入れ、そこのすべての奴隷を解放します。もしもさっきのパーセンテージがたしかなら、彼らのうち数百人がわれわれに加わるでしょう」
 「それはまたすごい“もしも”だな」トーバルは言った。
 「ええ。でも、試してみる価値はあると思います」
 「われわれにはそんなに兵士はいない。コレリアン・レジスタンスのすべてを合わせても、とても惑星を手に入れるほどは集まらないぞ、サレン!」
 毎日オルデランから新兵が入っています」ブリアは指摘した。「イリーシアには、多くのボサンやサラスタンの巡礼がいます。彼らの故郷が兵士や船を送ってくれるかもしれません。頼んでみる価値はありますわ。それにシャンドリラはどうです?彼らは新しい反乱同盟軍の一員です−わたしたちを助けると誓いましたわ!」
 「新兵か・・・たしかに魅力的だな」
 彼女は力強く頷いた。「きっとうまくいきます。奴隷を解放するついでに、イリーシアのスパイスを手に入れ、オープン・マーケットで売りましょう。わたしたちはいつもクレジットに困っていますもの。そのスパイスがあれば、どれだけターボレーザーやプロトン魚雷が買えるか考えてみてください!スパイスを回収したあとに、倉庫や工場を爆破すれば、イリーシアとその汚らわしい奴隷売買は過去のものになります」
 ブリアは自分が落ち着きを失っていることに気づいたが、興奮のあまり気にならなかった。彼女はトーバルのデスクの端をつかんで、手の震えをごまかした。
 「反乱同盟軍が、ドラッグを売って資金を作ることに賛成するとは思えんな」トーバルは言った。
 「だったら彼らには、どこからクレジットを得たか、言わなければいいんです!」ブリアは凄みのある微笑を浮かべた。「彼らは贈り物の出所を詮索したりしませんわ。彼らはクレジットを受けとり、それを使う。われわれには武器が、医療具が、軍服が、弾薬が・・・ありとあらゆるものが必要です!」
 「そうだな。レジスタンスで戦うには金がかかる」
 「考えてください。レッド・ハンド中隊なら、きっとやれます。それにイリーシアが優秀なコレリア人を吸いあげなくなれば、もっと兵士が集まりますわ。最近はどんな人々がイリーシアに行くと思います?人生に満足していない、法外な税を払うことができない、もっとよい人生を欲しがっている若者です。わたしたちが欲しい人材です」
 「そうだな」彼はまたそう言った。「しかし、イリーシアの大気圏のことはどうだ?一〇〇人の奴隷たちを解放した二年半前コロニー3の襲撃では、われわれはあそこのいまいましい大気圏で船を失った。イリーシアのあの不安定な大気は、最大の防御のひとつだ」
 ブリアはそのときのことを思いだし、つらそうに顔を歪めた。「パイロットには警告したのですが・・・激しい風にあおられて・・・」
 「サレン・・・あれはきみの責任ではなかった。だが、その点は考える必要があるぞ。司令部もきっとその点を指摘するにちがいない」
 彼女は頷いた。「何か方法を考えますわ。必ずあるはずです。たとえば、もっと優れたパイロットを雇うとか。われわれの兵士たちは熱意はありますが、正直いって・・・彼らの大半がほとんど未経験です。トレーニング・プログラムをもっと・・・」
 「そのとおりだ。シミュレーションの改良を考慮中だよ。実戦の前に兵士たちに経験を積ませる手だてもだ」
 ブリアは立ち上がり、デスク越しに身を乗りだした。「考えると約束してください。わたしはやってみせます。襲撃資金を集める方法についても考えがあります。せめて考えてください、お願いします」
 彼は落ち着いた目で、長いあいだ彼女を見ていた。「わかったよ、サレン。考えてみよう」
 「ありがとうございます、サー」


反乱の夜明け
P.151 - P.155
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Last Update 01/Jul/1999