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反乱の夜明け #4
家庭の幸せと厄介な問題

年 代 出 来 事 場 面 参 考



反乱の夜明け
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 チューバッカとマーラトバックの結婚式の夜明けは、約束と希望に満ちて明けた。その日の、結婚式のことを告げられたハンは、友人の幸せを喜んだが、彼を失うことが悲しくもあった。だが、彼と一緒に過ごした二年は楽しかったし、チューイーも何年か楽しい結婚生活を味わったあとは、またときどき彼と組んでこの仕事をしたいと思うかもしれない。結婚して幸せになるのも結構だが、結婚するからって、死ぬわけじゃないさ。違うか?
 チューイーは結婚式の支度で忙しく、ハンは彼とゆっくり話をする暇はなかった。ウーキーには人間のような“ベスト・マン(付き添い人)”はいないだろうに、チューイーはハンに敬意を示し、自分の横に立ってくれと頼んだ。ハンはにやっと笑った。「わかった、おれはベスト・ヒューマン(付き添い人間)ってわけだな?」
 チューバッカはおかしそうに吼え、うまい表現だとハンを褒めた。
 ハンはみんなの邪魔にならぬよう、アティッチトカックの家の隅に座りながら、たった一度だけプロポーズした女性のことを思った。相手はブリアで、彼が十九歳、彼女が十八歳のときだった。だが、あのときの彼は恋に夢中のうぶな若者だった。若く、愚かで、何もわかっていなかったのだ。ブリアが彼のもとを去って、かえってよかったくらいだ。 ハンはベストの内ポケットを開け、折りたたんだ古いフリムジーを取りだした。そしてそれを開け、一行目を読んだ。

 “愛するハン、
  あなたにこんな仕打ちをするわたしを許してください。ごめんなさい。あなたを愛してるわ。でも、これ以上一緒にはいられないの・・・”


 ハンは口を歪め、フリムジーを再びたたんでポケットに押しこんだ。去年の<ナー・シャッダの戦い>のすぐ前まで、彼はブリアがエグザルテイションなしでは生きられず、イリーシアに戻ったのにちがいないと思っていた。
 ところが、コルサントの贅沢なペントハウスで、豪華なイヴニングドレスを着て髪を結いあげた彼女に偶然出会った。彼女はアウター・リムのモフ、サーン・シルドをダーリンと呼び、モフの愛人のように振る舞っていた。それ以来、ハンは彼女を軽蔑しようと懸命に努力してきた。ブリアが実際にモフを愛しているなどという考えは、一度も浮かばなかった・・・彼女が誰を愛しているのか、彼にはわかっていた。彼女は彼を見て青ざめ、一生懸命隠そうとしたが、愛はまだそこに、彼女の目の中にあったからだ。
 モフ・シルドは<ナー・シャッダの戦い>の直後に自殺した。一時はどのニュースもその話題で持ちきりだった。だが、彼の葬儀の映像(ハンはそれをじっくり見た)には、ブリアは映っていなかった。
 “そしていま・・・驚いたことに、彼女がコレリアの反乱グループの一員であることがわかった”そうなると、ブリアがモフ・シルドの家にいたのはそのためだったような気がしてくる。彼女はモフを、そして彼を通して帝国をスパイする任務についていた、反乱グループの情報部員だったのか?
 それなら説明がつく。これは愉快な事実ではないが、ブリアが情報を得るためにモフと寝ていたほうが、見たとおりのまま−大事にされているゴージャスな慰みもの−であったよりは、彼女を尊敬できた。
 あのモフが死んだいま、彼女は何をしているのだろう。明らかに、さまざまな惑星を訪れ、そこの地下レジスタンス組織の手助けをしているのだ。
 それに・・・“一年ほど前”、人間の反乱グループがイリーシアを襲い、コロニー3を攻撃し、一〇〇人あまりの奴隷を救出したという話を聞いたが、ブリアはあれに関わっていたのか?
 カターラやほかのウーキーに言わせれば、ブリアは危険をおかして彼らにコレリアの反乱軍からの武器や弾薬を届けてくれた、一種の聖人戦士だった。それにキャッシークは帝国の隷属惑星だ。
 イリーシアの宗教がまやかしの無意味な儀式だったことがわかったとき、彼女がどんなにショックを受けたか、ハンは思いだした。彼女は怒り狂い、ひどく恨んでいた。あっという間に巡礼から奴隷に貶められた事実を憎んでいた。あの恐ろしい認識から何年か経て、彼女はその怒りを、奴隷を使うイリーシアと帝国へのレジスタンスのエネルギーに換えたのか?
 ブリアと別れたあと、ハンは女性に困ったことはないナー・シャッダに戻れば、付き合ってもう二年以上になるサラ・ゼンドが待っている。サラはいきのいい楽しい女で、腕のいいパイロットで、密輸業者であるばかりか、熟練した技術者でありメカニックでもある。彼女とハンには多くの共通点があった−何よりも、ふたりとも、それができるあいだは、楽しいときを過ごすこと以外には興味がない。
 サラはハンのもの。それでいて、少しも重荷にはならない。彼らはおたがいに何の約束もしていなかったし、ふたりともそれで満足していた。
 ハンは、自分が本当にサラを愛しているのか−そして彼女も彼を愛しているのか−考えることがあった。彼女のことは好きだし、彼女のためならほとんど何でもするだろう。だが、愛しているのか?この答えは自分でもよくわからないが、ブリアに感じたような気持ちは、サラにもほかの誰にも感じたことはない。
 “だが、あのときのおれはキッドだった。大量のニュートロニウムが落ちるみたいに恋に落ちた、ただのむこうみずなキッドだった。いまはもっと賢い・・・”
 彼が部屋の隅で物思いにふけっていると、皿を手に忙しく結婚式の祝宴の準備をしていたチューバッカの姉のカラボウが、突然立ち止まり、腰に手をやって彼をにらみつけた。彼女は憤りも露わにハンを招き、大声でわめいた。ハンは立ち上がった。「おい、もちろん、隠れてるわけじゃないさ」彼は言った。「ただ邪魔にならないようにしていただけだ。準備はできたのかい?」
 カラボウは語気荒く用意はすべて整った、ハンはいますぐ来るべきだと告げた。
 ハンはチューイーの姉に従い、ロシュアの葉がサラサラと風に鳴る木のてっぺんの陽光の中に出た。彼が歩いていくと、ジャリクがその横に並んだ。ジャリクはウーキー語がわからないため、たいていハンのそばにいた。ハンがいないときは、ラルラとしかしゃべれないのだ。「で、いよいよこれが年貢の納めどきかい?」ジャリクはハンに尋ねた。
 「そうらしいな、キッド」ハンは言った。「チューイーの自由な時間は、もう秒読み段階だ」
 ハンの言葉を捉えたカラボウは、この人間の男を刺すように見た。「フルルルルルーム!」これには訳は必要ない。ハンはくすくす笑った。「気をつけたほうがいいぞ、キッド。彼女は簡単におれたちをばらばらにできる」
 カラボウは、ほかの惑星の道と同じくらい広い枝の道を歩いていく。彼らは街の中心から遠ざかり、ウーキーたちの家がある木の頂へと進んでいった。マーラは仕事場の近くに住んでいるから、彼女の住居もこういう郊外にある樹上の家のひとつなのだろう。
 数分後、彼らはべつの道に曲がり、さらに曲がった。「どこに向かってるんだろう?」ジャリクは不安そうに言った。「どこを歩いてるかさっぱりわからない。ここに置き去りにされたら、ルークロロに帰れないよ。あんたはわかるかい?」
 ハンは頷いた。「それで思いだしたが、おまえのナビゲーション技術は、磨く必要があるぞ、キッド」彼は言った。「だが、カラボウにこれ以上歩かされたら、疲れきって、とてもじやないがパーティの気分にはなれないな」
 彼らはまたしてもべつの小さな道に曲がった。すると前方に大勢のウーキーが集まっているのが見えた。そのまま歩き続けると、突然道が終わった。
 彼らが立っているロシュアの枝は引き裂かれ、低い枝の上に押し曲げられていた。近くの木の頂が巨大な枝の重みで沈んでいる様子は、まるで広大な緑の谷を見渡しているかのように壮観だった。西へ広がるうねりの中に、丸みを帯びた緑の丘がそびえ、かがり火のような黄色い太陽が輝き、至るところに鳥が飛びまわっている。
 「なあ・・・」ハンはカラボウに言った。「いい眺めだ」
 彼女は頷き、ここはウーキーにとって神聖な場所なのだと説明した。ここに立ち、この眺望を前にすると、この惑星の雄大さを味わうことができる。
 式の準備はできていた。司祭役はいなかった。ウーキーの男女は自分たちで結婚するのだ。ハンはチューバッカの横に行き、緊張している友人を元気づける笑みを浮かべ、ウーキーの頭の毛をくしゃくしゃにした。「おい、力を抜けよ。おまえは素晴らしい女性をつかまえたんだぜ、パル」
 よくわかっている・・・ただ、誓いの言葉を覚えていられるか心配だ、チューイーはそう答えた。
 大勢のウーキーとルークロロに戻る道のあいだに立っていると、ウーキーたちが突然真ん中で分かれ、マーラトバックが彼らに向かって小道を歩いてきた。
 彼女は頭のてっぺんからつまさきまで、銀灰色の薄手のヴェールに覆われていた。その透き通ったヴェールはとても軽く、マーラトバックはまるできらきら光るエネルギー・フィールドの霞の中にいるように見える。が、彼女がチューイーの横に並ぶと、実際はほとんど透明の糸で編んだか織ったものであることがわかった。婚礼のヴェールを通して、マーラの青い瞳がはっきりと見えた。
 ハンはチューイーとマーラが交わす誓いの言葉に耳を傾けた。はい、わたしたちはおたがいを誰よりも愛しています。はい、たがいの名誉は自分の名誉と同じように大切です。はい、たがいに誠実を誓います。はい、死はふたりを分かち合いますが、わたしたちの愛を奪うことはできません。
 命のパワーはわたしたちとともにあります、彼らはそう言った。命のパワーはわたしたちの結びつきを強くし、わたしたちは・・・ひとつになります。命のパワーはつねにわたしたちとともにあるでしょう。
 ハンは柄にもなく厳粛な気持ちになった。つかの間、彼はチューイーを羨ましいとさえ思い、マーラトバックの瞳が愛に輝いているのを見て、心が痛んだ。彼をこんなに愛してくれた人間は誰もいなかった。“デュランナは愛してくれたかもしれないが”彼は自分を育ててくれたウーキーの未亡人のことを思いだし、そう思った。
 ブリア・・・彼女には深く愛されていると思ったものだが、彼女は奇妙な方法でそれを示した。
 チューイーはマーラのヴェールを上げ、彼女を抱き寄せた。彼らは頬を優しくこすりあい、それから、大きな勝利の吼え声とともに、チューイーは彼女を抱いたまま、自分より少し小柄なだけの大人のウーキーをまるで身軽な子供のように振りまわした。
 集まったウーキーは足踏みし、吼え、歓声をあげた。
 ハンはジャリクに言った。「これで終わりみたいだな!」
 だが、結婚の祝いは終わりにはほど遠かった。誓いで結ばれたふたりは、ありとあらゆるウーキーの料理が並ぶ木の頂のテーブルに導かれた。ハンとジャリクはテーブルのあいだを移動し、慎重に味見した。ウーキーはほとんどの肉を生のまま出す。調理されている料理もあるが、人間はそれにも注意する必要がある。ウーキーはスパイスをきかせた料理が大好きで、人間の喉には辛すぎるものもあるからだ。
 ハンはテーブルを調べ、ジャリクに多くの“安全な”ウーキーのご馳走を教えた。ザチビクはかたい肉で、ハーブとスパイスで味付けしてある・・・ヴロルティク“カクテル”は、ロシュアの葉といろいろな肉を何週間かグラーキン蜜に漬けた料理・・・ファクトリン・ミートのパイ、フローズン・ゴルナー、シンタック・リング、揚げクラク・・・。
 サラダやフラットブレッドもあったし、森の蜜ケーキや冷たくしたフルーツもあった。
 ウーキーの酒がどんなに強いか、苦い経験から知っているハンは、次々に回ってくる酒は飲まないほうがいい、とジャリクに忠告した。アカラグム、コルティグ、ガルモール、グラーキン、シーキアン・ブランデー、と種類は豊富だった。
 「おれの忠告を聞いたほうがいいぞ、キッド」ハンは言った。「ウーキーは人間が数分で床に転がっちまうような、自家製の酒の造り方を知ってるんだ。おれはゴリム・ワインとグラリニン・ジュースにしとくよ」
 「だけど、グラリニン・ジュースは子供の飲み物だ」ジャリクは文句を言った。「それにワインのほうは・・・」
 「ジャーはどうだ?甘いアルコアリ・ミルクとヴァインベリーの抽出液だ。おれには甘すぎるが、おまえは好きになるかもしれん」
 ジャリクはシーキアン・ブランデーの巨大な瓶を物欲しそうに見ている。ハンは警告するように首を振った。「キッド・・・あれはやめとけ。おまえが毒を盛られたムラク=パプみたいに具合が悪くなっても、面倒はみないぞ」
 ジャリクは顔をしかめたものの、ゴリム・ワインのカップを手にとった。「わかったよ、たぶんあんたの言うとおりだろう」
 ハンは笑ってグラスを合わせた。「ああ、そうだ」
 それからしばらくして、ハンがバーベキュー・トラックーン・リブとリルーン種を混ぜた辛いサラダの皿を持ってひとりで立っていると、どこか懐かしい感じの−だが、会ったことは一度もない−暗茶色のウーキーが近づいてきた。ウーキーはハンの前で足を止め、自己紹介した。
 ハンはもう少しで皿を落としそうになった。デュランナマピアの息子?」彼は叫んだ。「おい!」ハンは急いで皿とカップを置き、そのウーキーを抱きしめた。「やあ、会えて嬉しいよ!何て名前だい?」
 ウーキーはハンに抱擁を返し、ウーチャカロクだと名乗った。ハンは少し後ろにさがり、彼を見ながら、涙が出そうになった。ずっときみに会いたいと思っていた、母親がどんなふうに死んだか、きみは知っているにちがいない。そう言ったチャック(彼はこう呼んでくれと言った)も、同じくらい感動しているように見えた。
 ハンは喉の熱い塊を呑みこんだ。「チャック、あんたの母さんは英雄として死んだ。彼女がいなかったら、おれはとっくに死んでたよ。彼女は勇敢なウーキーだった。戦士だった。ギャリス・シュライクという男が彼女を撃ち殺したんだが・・・彼も死んだよ」
 チャックはハンが母の復讐をするためにシュライクを殺したのか知りたがった。「正確にはそうじゃない」ハンは言った。「おれが殺す前に、誰かが彼を殺したんだ。でもシュライクが死ぬ前に、思いきり苦しめてやったよ」
 チャックは喉を低く鳴らし賛意を示した。母はきみを愛していた、だからきみは義兄弟みたいな気がする、と彼は言った。<トレーダーズ・ラック>に乗ってからというもの、母は自分が作るワストリル・パンが大好きで、パイロットになりたがっている人間の少年の話をたくさん知らせてきた、と。
 「なあ、チャック」ハンは言った。「デュランナは生きて見ることができなかったが、おれはいまパイロットなんだ。そしておれの銀河一の親友がウーキーの・・・」
 チャックは笑いだした。自分とチューバッカは、ルークロロに移住し、チューバッカの大おばの姪と結婚したまた従兄弟を通じて、遠い親戚にあたるのだと言った。ハンは瞬きした。「遠い・・・ああ、ええと、そいつはすごい。おれたちは幸せな大家族ってわけだ」
 ハンはチャックを花婿のチューイーのところに連れていき、状況を説明し、彼に紹介した。チューバッカはハンの“義兄弟”を歓迎し、音を立ててチャックの背中を叩いた。
 祝宴は夜遅くまで続いた。ウーキーたちは踊り、歌い、何代も家族に受け継がれてきた木の楽器を演奏した。ハンとジャリクはやがて疲れ果て、酔いつぶれて、巨大なテーブルの下で体を丸め、眠りこんだ。
 翌朝ハンが目醒めると、祝宴は終わり、チューイーとマーラはウーキーのハネムーンにあたるふたりだけの時間を持つために、森に出かけたあとだった。これを知ったハンはがっかりした。カターラとの交渉はあと二日もあれば終わる。<ファルコン>は新たな荷を積み、キャッシークを去らねばならない。チューイーには別れを告げずに立ち去ることになる。
 だが、結婚式のに親友のことを思いだせというほうが無理かもしれない。それに、キャッシークにはどうせまた来るんだ、これがチューイーとの永遠の別れってわけじゃない。


反乱の夜明け
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 ナル・ハッタのオフィスにいるダーガ・ザ・ハットの前に、ミク・ビドラーのホロ映像がはっきりと現われた。ダーガは瞳孔の細い大きな目をいっそう突きだし、くねりながらそれに近づいた。「検死結果について新しいことがわかったのか?このまえ話していた物質が何かわかったのか?」
 「ユア・エクセレンシー、この物質はとても珍しいもので、最初は何だかわかりませんでした、あるいは、その効果についても確かではありませんでした」年配の法医学者は、まるで本当に昼も夜も働いていたかのように、ひどく疲れた顔で答えた。「しかし、この物質に関する検査と追跡調査は完了しました。そうです、その物資は毒でした。われわれはそれが惑星マルキイから出たものであることを突き止めました」
 「マルカイトの毒殺者か!」ダーガは叫んだ。「なるほど!異国の、ほとんど判別不可能な毒を使う隠れ暗殺者たち・・・ほかに誰がハットに効くような毒を思いつく?われわれの種族には毒はあまり効かないのだ・・・」
 「わかっております、ユア・エクセレンシー」ミク・ビドラーは言った。「そしてこのきわめて稀で、正体のわからなかった毒は、毒薬のなかでも最高のものです。われわれは便宜上X-1と名付けました」
 「そしてX-1は、ナル・ハッタの自然では発生しないものなのだな」ダーガは絶対的な確信を得たくて念を押した。「これは事故ではあり得ないのだな」
 「はい、ユア・エクセレンシー。X-1は故意にアラク卿に与えられたにちがいありません」
 「与えられただと?どうやって?」
 「確かではありませんが、いちばんありそうな方法は口からの摂取です」
 「何者かが致死量の毒をわたしの親に盛ったというのか」ダーガの声は冷たくなり、怒りで鋭くなった。「犯人を見つけて復讐してやる・・・必ず・・・この代価を払わせてやる」
 「あの・・・そうではありません、ユア・エクセレンシー」ビドラーは神経質そうに唇を舐めた。「この計画はそれほど・・・あからさまな・・・ものではありませんでした。実際・・・かなり巧妙なものでした」
 “だとしたらハットの仕業にちがいない”ダーガはそう思った。彼はビドラーをにらみつけた。「それで?」
 「X-1は大量に摂取すると致命的です、ダーガ卿。しかし、少量では殺すことはできません。これは脳の組織に集まり、犠牲者の思考過程の悪化を進行させる原因となります。また中毒性も高く、犠牲者が定期的に摂取し、脳の組織に大量に含まれたあと突然摂取をやめると、あなたの説明にあった破壊的な痛み、けいれん、そして死などの症状を起こすきっかけとなります」彼はひと息ついた。「それが親御さんの亡くなった原因です、ダーガ卿。体内のX-1が原因ではなく・・・突然の摂取中止が原因なのです」
 ダーガは噛みしめた口から言葉を押しだした。「中毒症状を起こすには、どれくらいの期間、それを摂取する必要があるのだ?」
 「おそらく数か月でしょう、ダーガ卿。しかし、確かではありません。少なくとも数週間。摂取の中止が即座に致命的になるまでには、かなりの量を摂取していなければなりませんから」ビドラーはためらった。「ダーガ卿、この調査では、X-1がとても高価であることがわかりました。銀河でただひとつの惑星で育つ特定の植物のおしべから作られるもので、その惑星の位置を知っているのはマルカイトの毒殺者たちだけです。ですから、あなたの親を殺すほどのX-1を買うことができるのは、かなり裕福な人あるいは人々だけです」
 ダーガは少し間をおいてから言った。「わかった。調査を続けてくれ。さらに新しい事実が判明するかもしれん。そしてすべてのデータを送ってもらいたい。わたしはX-1がどこから来たのか究明するつもりだ」
 ビドラーは素早くおじぎした。「もちろんです、ユア・エクセレンシー。しかし・・・これらの調査はその・・・安くはありません」
 「代価は問わん!」ダーガは怒鳴った。「わたしは知らねばならん。真実を見つけるための金は払う!X-1の源を見つけだし、わたしの親にそれを与えた者を見つけだす!ベサディの金はわたしの金だ!わかったか、ビドラー?」
 科学者は再び、今度はもっと深くおじぎした。「はい、ユア・エクセレンシー。調査を続けます」
 「そうしてくれ」
 ダーガは通信を切り、オフィスの中をうねうねと動いた。“アラクは殺されたのだ!初めからわかっていた!X-1を買えるほど裕福な者といえば、デシリジクのジリアクしかいない・・・それともジャバか。とにかく犯人を見つけだし、そいつをこの手で殺してやる!死んだ親にかけて−必ず復讐せずにおくものか”
 その日から一〇日間、ダーガはパレスのあらゆる召使いを無慈悲に尋問した−とくに、料理人たちを。何人かは尋問の途中で死んだが、彼らのうちの誰かがアラクの食事に手を加えたことを示す証拠は、ひとつとして見つからなかった。
 ダーガはほかの仕事を放りだし、それぞれの尋問に立ちあっていた。彼のライバルであるジアーがその尋問の終わりごろ訪れた。ちょうどドロイドたちが、ベサディの事務をとっていた女のトランダ・ティルの死体を運びだしていたときだった。
 年上のハットは、うんざりして四本脚の巨大な死体に目をやり、皮肉たっぷりに尋ねた。「あれで何人になる?」
 ダーガはジアーをにらみつけた。彼はこのベサディの実力者をアラクの死と結びつけたかったが、ジアーは数か月前−アラクの死後−呼び戻されるまでは、ナー・ヘッカでベサディの利益を監督していたのだ。ジアーがナル・ハッタに戻ってきたとき、ダーガは徹底的に彼を調べたが、彼とアラクの死を結びつける証拠はまったくなかった。
 それに、裕福だとはいえ、ジアーは大量のX-1を買えるほどの財源は持ちあわせていない。彼の口座からも例外的な引き出しはなかった。
 「四人だ」若いハットは怒鳴った。「彼らにはわれわれの強さはないからな。下等種族がわれわれに従うのは少しも不思議ではないな・・・彼らは精神的にもそうだが、肉体的にもかなり劣っている」
 ジアーはため息をついた。「きみのトワイレックのシェフがいなくなったのは残念だ。彼のフレゴン=ブラッドのソースに浸したムルブラット幼虫のヒレ肉は、素晴らしかったからな」彼はまたため息をついた。
 ダーガの巨大な口がめくれた。「シェフの代わりはいくらでもいる」彼は簡潔に言った。
 「きみが雇った専門家チームは間違っているかもしれない。そう思ったことはないのか、親愛なる従兄弟よ」
 「彼らは銀河一優秀な連中だ。推薦状も申し分なく立派だった。皇帝の最高軍事補佐官の依頼で、調査にあたったこともあるくらいだ・・・ターキン総督ですら彼らを使ったことがある」
 ジアーは頷いた。「たしかに立派な推薦状だ。聞くところによると、あの総督は、自分を失望させる者には冷酷無慈悲だそうだからな」
 「ああ、そういう話だな」
 「とはいえ、従兄弟よ・・・きみがそのチームに殺人の証拠を見つけるよう強要したせいで、彼らが切羽詰まってその報告をでっちあげた可能性はないかな?」
 ダーガは少しの間そのことについて考えた。「いや・・・証拠はそこにあった。わたしは検査報告書を見たんだ」
 「検査報告書は偽造できる。それに・・・きみは強迫観念に駆られて大金を費やし、彼らはベサディから大いに儲けた。このクレジットの流れを止めたくないと思っているのかもしれんぞ?」
 ダーガは従兄弟を見た。「いや、彼らは自分たちが発見した事実を正確に報告している。費用については・・・アラクはベサディの長だった。彼の身に何が起こったか突き止めるのは当然ではないか?ほかの者たちに、ハットを殺すのは簡単だと思われては困る」
 ジアーは尖った舌で口の下の部分を舐めながら考えていた。「まあ、そのとおりかもしれん、従兄弟よ。しかし・・・みんなに、きみはとんでもない浪費家だと思われては困るだろう?調査の費用はベサディの経営資本からではなく、個人の金で払うことだ。それならもう何も言わん。それがいやなら・・・そうだな、もうすぐ一族の会議が開かれる。われわれの財務報告に関して意見を述べるのは、良心的な一族のリーダーであるわたしの義務だ」
 ダーガは従兄弟をにらみつけた。
 ジアーも彼を見据えた。「そして・・・従兄弟よ・・・わたしに事故が起これば、きみの不利になるだけだぞ。きみが発見できない場所に、財務報告書のコピーを納めてある。わたしが死ねばそれが提出されるだろう−どれほど自然に見える死でも、だ」
 ジアーを撃て!ダーガはガードにそう命令したい衝動をこらえた。ハットはなかなか死なないことで有名なのだ。たとえ首尾よく撃ち殺せたとしても、すでに三人も死んでいるうえに、さらにまたジアーが死ねば、ベサディの全員が彼を引きずりおろそうとするかもしれない。
 ダーガは深々と息を吸いこんだ。「きみの言うとおりだろうな、従兄弟よ」彼はついに折れた。今日からは個人的に調査の費用を払うとしよう」
 「結構。それから・・・ダーガ。きみの親が亡きいまは、必要に応じ、年長のわたしが助言する必要があると思う」
 もしダーガに歯があったら、怒りのあまり激しく歯ぎしりしていたにちがいない。「何かな?」
 「ブラック・サンだ。きみがパワーを固めるために、彼らを利用したことは公然の秘密だ。だが、今後は控えるのだな。ブラック・サンを雇って、さっさと手を引くというわけにはいかん。彼らの奉仕は・・・高くつく」
 「彼らは充分な報酬を受けとった」ダーガはこわばった声で答えた。「わたしはきみが思っているほど馬鹿ではない」
 「結構。それは喜ばしいことだ。きみを心配していたのだ、親愛なる従兄弟よ。あんな素晴らしいシェフを思いつきで殺すハットは−賢いとは思えんのでな」
 ダーガは怒りに燃え、べつの召使いを尋問するために体をくねらせながらジアーのそばを離れた。


反乱の夜明け
P.72 - P.94
 ジャバ・ザ・ハットと彼のおばジリアクはゆったりと寝そべり、ナル・ハッタにあるジリアクのパレスの豪華な謁見室で、ジリアクの赤ん坊が部屋を這いまわるのを見ていた。ハットの赤ん坊はジリアクの袋の外で一時間近く過ごせるようになっていた。この段階では、ハットというより、巨大な太ったウジか昆虫の幼虫に似ている。両手はまだちょっとした突起で、母の袋を完全に出るときまで成長しない。赤ん坊ハットが大人のハットに似ているのは、飛び出た目と垂直の瞳孔だけだ。
 ハットの赤ん坊は、生まれたときは愚かで、ハットの若者は約百歳になるまで責任年齢には達しない。それまでは、きちんとした世話と食物を与えられるべき子供とみなされる。
 ジャバは磨き上げた石の床をのたくる赤ん坊を見ながら、ここがナー・シャッダならもっと仕事がはかどるのに、と思わずにはいられなかった。ナル・ハッタからデシリジクの密輸王国を監督するのは難しかった。ジャバは何度もナー・シャッダに帰るべきだとおばに勧めたのだが、ジリアクはナー・シャッダの汚い空気は赤ん坊の健康によくないと、頑としてそれを拒んでいた。
 おかげでジャバは、ナル・ハッタとナー・シャッダを往復して過ごさねばならず、タトゥイーンの彼の事業はそのしわよせを受けていた。ジャバが留守のあいだタトゥイーンを管理しているのはノン・ヒューマノイドのチェヴィンのエファント・モンで、なかなかよくやっていたが、彼自身がそこにいるようなわけにはいかない。
 モンはこれまで数々の冒険をともにしてきた男だった。このヴィンソス出身の醜い生物は、ジャバが心から信頼できる宇宙で唯一の存在だ。なぜか(ジャバにさえその理由ははっきりしなかったが)エファント・モンは、昔からジャバに完全に忠実だった。ジャバはこのチェヴィンが、彼を買収しようとする申し出を数えきれないほど受けているのを知っていた。しかし・・・エファント・モンはどんなに大金をくれるといわれても、絶対にジャバを裏切らなかった。
 ジャバはその友人の忠誠に感謝し、エファント・モンの行動はごく少ししか監視していなかった。これだけの年月を経たあとで、モンが彼を裏切るとは思えない・・・が、備えあれば憂いなし、だ。
 「おばさん、ベサディの会計事務所にいる、われわれのスパイからきた最新の報告に目を通しましたが、彼らは驚くほど儲けている。ダーガのリーダーシップに関する意見の衝突さえ、まったく影響していないようだ。イリーシアは毎月加工スパイスを作り続け、巡礼を満載した船がほぼ毎週到着している。憂鬱ですな」
 ジリアクは巨大な頭を甥に向けた。「ダーガは思ったよりよくやっているわね、ジャバ。彼がリーダーシップを保てるとは思わなかった。いまごろはベサディを乗っ取れると思っていたのに。でも、ダーガのリーダーシップに関して不満な者がいるとはいえ、おおっぴらに反対する者は死に、彼らの代わりはひとりも出てこない」
 わずかな希望が呼び覚まされ、ジャバはおばに向かって目を瞬いた。いまの発言は、昔のジリアクのようだぞ!「なぜ彼らが死んだか知っているのですか、おばさん?」
 「ダーガがブラック・サンと取り引きするほど馬鹿だったからよ。反対者たちの死は、ハットの仕業にしては露骨すぎる。ほかにあれだけの力があるのはブラック・サンぐらいだわ。そうですとも。彼らを立て続けに暗殺するような冷酷で不敵な男は、プリンス・シゾールぐらいなものよ」
 ジャバは興奮し、こう思った。“おばはこの母親業でぼうっとした状態から抜けだしたのか?”
 「たしかにプリンス・シゾールは一目おく必要のある男です。わたしはときどき彼の願いを叶えてやることにしているのです。味方につけておきたいのでね・・・一度タトゥイーンで助けてもらったように、必要なときに借りを返してもらいたいですからな。彼はそのときわたしを助け、見返りに何も要求しなかった。昔の借りがあるからです」
 ジリアクは、人間の癖を真似、ゆっくり首を振った。「ジャバ、わたしの考えは知っているわね、何回も言ったはずよ。プリンス・シゾールを軽く見てはだめ。いちばんいいのは、できるだけ遠く離れ、ブラック・サンとは関わりを持たないことよ。一度彼らにドアを開ければ、彼のしもべとなる危険をおかすことになる」
 「ええ、気をつけていますとも。ダーガがしたようなことは絶対にしません」
 「よろしい。ダーガはドアを開けたことにすぐに気づくでしょう。そして簡単には閉められないことに。彼がそのドアを通れば・・・もう自由ではいられなくなる」
 「では、むしろダーガがそうするほうが望ましいのでは?」
 ジリアクはわずかに目を細めた。「いいえ。それではシゾールを満足させるだけ。これは願わしい状況とはいえないわ。彼は明らかにベサディを狙っている。そしていったんベサディを支配下に置いたが最後、デシリジクも手に入れようとするわ」
 ジャバは無言で同意した。シゾールはチャンスがあればナル・ハッタのすべてに干渉してくるだろう。「ベサディといえば、わたしが報告したイリーシアの利益については、どうですかな?ベサディを止めるにはどんな手を打てばいいのか?いまやイリーシアのコロニーは九つになり、同じ星系の居住可能な惑星ニルヴォナにも、新しいコロニーを作る準備をしているようですぞ」
 ジリアクは少し考えた。「またテロエンザを利用する時が来たかもしれないわね」彼女は言った。「ダーガはアラクの死がテロエンザの責任だとは疑ってはいないようだから」
 「どんなふうに?」
 「まだわからない・・・テロエンザをそそのかして、ダーガからの独立を宣言させるとか。彼らが戦えば、ベサディの利益は急にさがるわ。そしてそれから・・・わたしたちがその事態を収拾する」
 「さすがですな、おばさん!」ジャバはまた昔の狡猾なジリアクの片鱗を見られて嬉しかった。「ここにある数字を報告しますから、われわれの費用を抑えるために、よい知恵を貸して−」
 「おお!」
 ジリアクの愛情こもった甘い声に遮られ、ジャバは口を閉じた。ハットの赤ん坊は母親によじ登り、小さな腕を持ち上げながら、大きな目でジリアクを見つめて口を開き、尋ねるようにさえずった。
 「見て!」ジリアクの声は温かく、甘かった。「ママがわかってるのよ、そうよね、可愛い子?」
 ジャバは目玉が眼窩から飛びだし、床に落ちそうになるまで目玉を回した。“たったいま、この千年で最も偉大な犯罪者のひとりの終焉を目撃したぞ、彼は暗い気持ちでそう思った”
 ジリアクは赤ん坊をすくい上げて袋の中に入れた。ジャバはあからさまな憎しみに近い表情で、その小さな生物を見つめた。


反乱の夜明け
P.72 - P.94
 ハンはウーキーの地下組織のメンバーと二日一緒に過ごし、契約を完結した。<ファルコン>のロックを開く時が来た。彼とジャリクは爆矢を秘密の区画から取りだし、船からおろした。カターラ、キチール、そしてモタンバは新しい“おもちゃ”に興奮の叫びを発しながら箱の周りに集まった。
 そのあいだ、ほかのメンバーがひっきりなしに船に出入りし、ストームトルーパーの装甲服を積みこんだ。ハンは四〇近くの服とヘルメットを一〇個、<ファルコン>に積むことができた。これがマーケット価格で売れれば、この旅にかかった費用が倍になって戻ってくる。悪い取り引きじゃないぞ!
 <ファルコン>の乗員が動きまわれるスペースを残し、すべての装甲服を積み終わるころには、が訪れていた。洞穴の出口をうまく出て、木のあいだを突き抜け、垂直に上昇するのはかなり難しい。ハンは夜明けまで待つことに決めた。彼とジャリクは世話になったウーキーたちに別れを告げ、操縦席で体を伸ばして目を閉じた。
 翌朝、まだ日が昇る前に、ハンは大きな−そして聞き慣れた!−ウーキーの吼え声に起こされた。彼は目を開け、飛び上がり、眠そうなジャリクにあやうくつまずきそうになりながらランプをおろし、急いでそれを駆けおりた。「チューイー!」
 この大きな毛玉に会えたのが嬉しくて、ハンはつかまれても、振り回されても、髪の毛を逆立つまでくしゃくしゃにされても、文句を言わなかった。そのあいだじゅう、チューバッカはひっきりなしに文句を言い続けた。自分を置いていこうとするとは、どういうつもりだ?ハンはそんな馬鹿だったのか?まったく人間ときたら!
 ウーキーにやっと解放されると、ハンはすっかり当惑してチューイーを見上げた。「何だって?おまえを置いていこうとしていた?おれはナー・シャッダに戻るだけさ、パル。忘れてるなら言ってやるが、チューイー、おまえはもう結婚してるんだぞ。おまえの居る場所はここ、キャッシークだ。マーラと一緒にな」
 チューイーは異議と不服を吼えたてながら首を振った。“命の借り”だと?パル、おまえが“命の借り”を誓ったのは知ってるが、現実的になれよ!おれと一緒に帝国のインプのクルーザーから逃げ回るんじゃなく、おまえはマーラと一緒に、故郷に落ち着くべきだ!」
 ウーキーがまた不服を言おうと口を開いたとき、後ろで大きな怒りの吼え声がして、ハンは飛び上がり、首を縮めた。大きな毛むくじゃらの手が肩をつかみ、まるでフリムジーの切れ端のように彼を自分に振り向かせた。顔を上げると、マーラトバックがのしかからんばかりにいた。チューイーの妻は歯をむき出し、青い目を細くして激怒している。ハンは両手を上げ、友人の毛むくじゃらの胸に後ずさった。「おい、マーラ!落ち着けよ!」
 マーラトバックはまた吼え、怒りをこめた非難を浴びせた。どうして人間は、ウーキーの慣習や名誉にこんなに無知なの?チューバッカに“命の借り”を捨てろだなんて。ウーキーに与えられる最大の侮辱だわ!わたしの夫は勇敢な戦士で、腕のいいハンターよ。約束をしたらそれを守るわ!とくに“命の借り”はね!
 マーラの怒りに直面し、ハンは両手のひらを上に向け、肩をすくめたが、口をはさむことはできなかった。彼は懇願するように友人を見上げた。ハンを哀れんだチューイーが仲裁してくれた。彼はマーラとハンのあいだに入り、ハンはもちろん侮辱する気も怒らせる気もなかったのだと素早く言った。彼は悪意からではなく、何も知らなかったから、そう言ったのだと。
 ついにマーラは力を抜き、咆哮はぶつぶついう声に変わった。ハンは彼女に向かってすまなそうに笑った。「なあ、悪気はなかったんだ、マーラ。チューイーのことはよく知ってるよ。勇敢で、頭がよくて素晴らしいやつだってことはわかってる。ウーキーの“命の借り”は何事にも勝るってことを知らなかっただけなんだ」
 彼は友人に向き直った。「わかったよ、一緒に来るんだな。飛び立つ準備をしようぜ、パル。花嫁にさよならを言えよ」
 航行前の点検を行なうハンとジャリクを残し、チューバッカとマーラトバックは立ち去った。何分かあと、<ファルコン>のランプが閉まる音が聞こえ、やがてチューバッカが副操縦士の席に滑りこんだ。「心配するなよ、パル。また戻ってくるさ・・・すぐにな。カターラと彼女の地下組織とはいい取り引きができた。インプと戦ってこの惑星を解放するには、大量の弾薬が必要だ。おれはその手助けをするつもりさ」
 「ああ、ついでに儲かるからね」右舷砲塔にいるジャリクの声が、インターコムから聞こえてきた。
 ハンは笑った。「ああ・・・もちろんさ!チューイー・・・用意はいいか!行・・・く・・・ぞ!」
 <ミレニアム・ファルコン>は静かにリパルサーで浮きあがり、木の枝の“洞穴”から出るまでゆっくり前方に進んだ。それから、突然三人とも座席に押しつけられた。ハンは木のトンネルを垂直に急上昇し、赤みがかった金色に染まる空高く舞い上がった。<ファルコン>が高く昇るにつれ、黄金のシャワーがキャッシークに注がれるように見えた。
 “クアール=テレーラ”陽色の髪の戦士か・・・“ブリアはいま何をしているんだろう?たまにはおれのことを考えるのだろうか?”
 ほどなく、キャッシークは彼らの後ろで急速に小さくなっていくただの緑の球になり、彼らは星を散りばめた闇を切り裂くように飛び続けた。


反乱の夜明け
P.72 - P.94
 ボバ・フェットはアウター・リムにある惑星テスの、安っぽい賃貸アパートで、ブリア・サレンとテスの反乱軍のリーダーとの会話に耳を澄ましていた。この宇宙で最も有名な賞金稼ぎは、ほとんどの惑星が羨むにちがいないスパイ・ネットワークを含め、多くのソースを持っていた。ときどき帝国の仕事を引き受ける彼は、反乱軍司令部が見たがるであろう通信記録やほかの情報にも通じている。
 ブリア・サレンは反乱軍の将校だったが、賞金を懸けているのは帝国ではない。怪我をさせずに生きたまま捕まえれば五万クレジット。これは帝国の賞金よりずっと高額だ。最初はベサディ一族のリーダー、老アラク・ザ・ハットがこの賞金を懸けたのだが、アラクの死後それを引き継いだ跡取りのダーガは、三か月以内に引き渡せば特別手当てを出すと約束していた。
 ボバ・フェットはもう一年近く、時間ができるとブリア・サレンを捜していた。彼女は極秘の任務に送りだされることが多く、きわめて追跡しにくかった。それに家族とのつながりも断っている。おそらく自分が帝国軍に捕まったときの彼らの危険を減らすためだろう。故郷のコレリアにいるときは、反乱軍司令部の秘密基地の中にいる。そしてそういう秘密基地は、セキュリティもガードも厳重だった。
 それも当然・・・何といっても反乱軍は、帝国軍のストームトルーパーにいつ何時攻撃されるかわからない。彼らはその不安とともに暮らしているのだ。そこで彼らは基地の場所を最高機密とし、定期的にそれを移動している。たとえどんなに執念深く、どんなに有能でも、これでは一匹狼の賞金稼ぎが生け捕りにするほど近づけるチャンスはほとんどない。
 もしもベサディが死んだブリアで満足してくれるのなら、ボバ・フェットは反乱軍の基地の中でも、何とか彼女を殺せる自信があった。しかし、怪我をさせずに生きたまま捕まえるとなると、これは難しい。
 しかし、たまたま数日前に、スパイ・ネットワークを通じて、テスで地下レジスタンスの会合があるという情報が入った。そこで彼はブリアもそこにいることに賭け、二日前に<スレーヴT>で飛んできたのだ。彼の勘は当たり、彼女は昨日の夕方現われた。
 二日前テスに着いた日に、ボバ・フェットは反乱軍の現在の基地を見つけた。それは宇宙港のある街の真下、一連の古い雨水管渠と半地下室の中にあった。彼は古い雨水管渠と通風シャフトからその基地のはずれに潜入し、掃除道具のある場所を見つけた。そしてそこの床掃除用小ロボットに、ごく小型の音声収集装置をつけた。この小ロボットたちは、自由に部屋から部屋へと動きまわり、小さなスキャナーが“ゴミ”と認めるものを何でも吸いこむ。
 それ以来、彼はこの音声収集装置をモニターしていたが、今日その準備が実を結んだのだった。ブリア・サレンはテスの反乱軍のリーダーふたりと会っていた。その部屋を掃除していた一体の小型床掃除用ロボットがプログラムされた指示に従い、サレンたちが部屋に入ってくると急いで彼らの邪魔にならないように部屋の隅に退き、そこで会議が終わるのを静かに待っているにちがいない。
 数々の反乱グループの理念など、ボバ・フェットには何の関心もなかった。帝国は規律を維持し、ボバ・フェットは規律を重んじる。そもそも既存の政府に抵抗するのは犯罪だ。テスの反乱も例外ではなかった・・・無政府状態を作りだそうと躍起になっている、見当違いの理想主義者たちだ。
 彼らの話を聞きながら、ボバ・フェットはヘルメットの中で嫌悪に目を細めた。テサン側の出席者は、ウィンフリド・ダゴア中佐と彼女の助手であるパロブ・ゴダルヒ中尉。いまはサレンが、数々の反乱グループは反乱同盟軍としてまとまる必要があると彼らに説いていた。高官の中にも同盟軍の組織を支援する動きがある、と彼女は言った。
 帝国の元老院議員であるシャンドリラ出身のモン・モスマは、最近コレリアの地下抵抗組織のブリアの上官たちと極秘裏に会い、話し合った。このときモン・モスマはゴーマン、デヴァロンランパ1および2といった惑星における帝国の大量虐殺に言及し、皇帝は病的な狂人か邪悪な男だと認め、良心的生物は、帝国を覆さねばならないということに同意した。
 サレンは熱をこめ、はやる心を抑えるようにかすかに声を震わせて、断定的に話していた。彼女が自分の大義を大切に思っているのは明らかだが、フェットに言わせれば、彼女の情熱は見当違いだ。
 サレンの話が終わると、ウィンフリド・ダゴアは咳払いをした。彼女の声は年と緊張のせいでしわがれていた。「サレン中佐、われわれもコレリア、オルデラン、そして他の惑星の兄弟や姉妹たちと同じ気持ちです。しかしこのアウター・リムは、コア・ワールドからあまりにも遠く、かりにあなたたちのグループと同盟を結んだとしても、われわれはあまり役に立たないでしょう。われわれはここで、自分たちのやり方で事を進めています。皇帝はわたしたちにはほとんど注意を払っていません。わたしたちは帝国の船を襲撃し、あらゆる意味で帝国に対抗します−が、わたしたちは独立を重んじています。大きなグループに参加する気はありません」
 「ダゴア中佐、そのような孤立政策は、帝国の大虐殺を招くもとよ」サレンは暗い声で言った。「いいこと、きっといつかはそれが起こる。パルパティーンの軍隊があなたのグループを永遠に見過ごすことはないわ」
 「そうかもしれません・・・あるいはそうでないかもしれません。それでもやはり、現在行なっている以上のことは、わたしたちにはできません」
 誰かが動いたように椅子が軋み、服がこすれる音がボバ・フェットに聞こえた。それからサレンが再び話しだした。「ダゴア中佐、あなたには船がある。兵士も、武器もあるわ。かなり離れてはいるけれど、ここはコーポレート・セクターに最も近い惑星よ。コーポレート・セクターで武器を購入し、ここに送ってほかの地下組織に送りだすことができる。ここにいるからといって、あなたの助けが必要とされていないとは思わないでちょうだい」
 「サレン中佐、武器を買うにはクレジットがいりますよ」ゴブルヒ中尉が言った。「そのクレジットはどこからくるんですか?」
 「あなた方テサンが、何とか数百万クレジット提供してくれたら、もちろんありがたいけど」ブリアが皮肉たっぷりに言うと、力ない笑いが起こった。「いまその資金を集めているところなの。レジスタンスの資金を捻出するのはたいへんなのよ。でも、帝国に恐しいほど搾取されている人々のなかには、反乱グループに加わる能力や勇気はないが、多少のクレジットなら出せる人が大勢いるわ。ハット卿たちからの寄付もある・・・もちろん内密に、だけど」
 “そいつは興味深い・・・”と、フェットは思った。これは彼には耳新しい情報だった。しかし、考えてみると、ハットはどんな争いでも両側と自分たちの側に味方することで知られている。クレジットやパワーを増やすチャンスがあれば、ハットはたいていそこにいる。
 「われわれはハット・スペースからあまり遠くありません」ダゴアは考えるような声で言った。「ほかのハット卿たちとも接触を図り・・・彼らに援助の意思があるかどうか、確かめられるかもしれません」
 「援助ですって?」ブリア・サレンは嘲笑うように言った。「ハットが?彼らは寄付するかもしれない。実際に多少はしてくれたわ。でもそれは自分たちの理由のためよ。ええ、そしてその理由は、わたしたちの目標とは何の関係もない。ハットはよこしまだわ・・・でも、ときには彼らの目的とわたしたちの目的が重なることもある。そういう場合は、気前よくクレジットを出すでしょう。もっとも、彼らがその寄付からどんな利益を得るのか、われわれには推測もつかないことが多いけど」
 「推測しないほうがいいのかもしれませんね」ゴダルヒ中尉は言った。「とはいえ、サレン中佐、いまはわれわれの関与を増やすことに多少メリットがあるかもしれません。われわれの新たな帝国軍のモフは、サーン・シルドよりはるかに無能です。シルドがいたころより、いまのほうがずっと楽にいろいろなことができますからね」
 「ええ、そのことも話したいと思っていたの」ブリア・サレンは言った。「わたしたちはこの新たなモフ、イレフ・オルゲグを観察してきたけど、彼がここアウター・リムで定めた新らしい手順のほとんどは、とても馬鹿げているわ。あの男はまるでガモーリアンの血を引いているみたいだわ」
 さざなみのように笑いが広がった。
 ブリアは続けた。「オルゲグは横柄で愚かよ。シルドと同じ間違いはしない、個人的に軍をコントロールしていくと主張している。この方針のおかげで、ここアウター・リムにおける帝国軍の脅威は激減したわ。インプの司令官たちは、些細なことでもオルゲグの許可を得なくてはならないんだもの。彼は軍を麻痺させているわ、ダゴア中佐」
 「ええ、たしかに」ダゴアは同意した。「で、わたしたちにどうしろというのですか?」
 「アウター・リムの帝国軍の供給船や軍需品集積場を、頻繁に襲撃してもらえる?わたしたちにはその武器が必要なの。オルゲグに連絡がいき、彼が命令を出すまでには、あなた方はとうに逃げられるでしょう」
 ダゴアは少し考えた。「それぐらいは約束できると思います、サレン中佐。残りの事柄に関しては・・・相談したいと思います」
 今日のうちに、みんなに話してみて」ブリアは言った。「わたしは明日発つ予定なの」
 ボバ・フェットは耳をそばだて、その後のプランを明らかにするよう無言で彼女を急かした。しかし反乱グループたちが立ち上がり、部屋を出ていくときの椅子のこすれる音以外には、何も聞こえなかった。
 フェットは近くの宇宙港のすべてを念入りにモニターしたが、翌日はブリア・サレンをちらりと見ることもできなかった。彼女は反乱軍の船にこっそり乗ったにちがいない。
 賞金稼ぎはこの失敗に少しがっかりしたが、狩人として最も重要なのは−そしてボバ・フェットは狩りを生きがいにしていた−忍耐力だ。彼は、誰が知らせたのかわからないように、モン・モスマの背信行為や反乱軍のプランを、帝国軍に知らせてやることにした。帝国軍の将校たちは、賞金稼ぎを“屑”だとか、もっと悪い言葉で呼び、公然と馬鹿にしている。フェットはもっと明確な情報を提供できればいいのにと思った。反乱軍が実際のプランを明らかにしていれば!
 フェットはテスへの旅を無駄にはしなかった。ギルドと連絡をとると、彼らのリストには、テスの山中の、厳重に監視された“安全な”私有地で暮らしている金持ちの実業家が入っていた。一般の賞金稼ぎからは“安全”だろうが、ボバ・フェットはべつだ。その実業家の行動は簡単に予想がついたので、プランニングは馬鹿ばかしいほど簡単だった。この男は習慣にしばられていた。死体はばらばらになってもかまわないという条件だったため、ボディガードと争う必要もない。ただ殺せばよかった。
 彼は、ラークワルの木の中に見晴らしのよい場所を見つけた。ここに一時的に“隠れ家”を作り、獲物を殺して、ボディガードやセキュリティ部隊がここを突き止める前に逃げればいい。おそらく一発で仕留められる。


反乱の夜明け
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Last Update 20/Jul/2000