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反乱の夜明け #15-b
最後のケッセル・ラン (2)

年 代 出 来 事 場 面 参 考



 彼は<ファルコン>をひたすら飛ばし、グリッタースティムの樽を捨てたピットの座標にとって返した。そして刻々と時が過ぎるにつれ、半狂乱になりながら、四時間も小惑星帯のはずれを必死に捜索した。「ここにあるにちがいないんだ!」彼はチューイーに叫んだ。
 だが、なかった。
 ハンはラウンジの戸棚にある補助センサー・ユニットまで引っぱりだし、それからさらに二時間捜索した。と、突然、コクピットにいるチューバッカの咆哮が、彼の仕事を中断した。「いま行くよ!」彼はわめき、船の前部に走った。
 チューイーは急速に<ファルコン>に近づいてくる、センサーのふたつのブリップを指さした。ハンは船のIDを確認し、片手でぴしゃりと額を打ちながら、吐き捨てるように毒づいた。「くそ!またインプか!こんなときに!何だっておればかり、こんな目に遭うんだ?」
 ハンは操縦席につき、くるりと半分回って、ピットに向かった。チューバッカは低く唸って尋ねた。なぜスパイスを積んでいないのに、逃げなくてはならないのか?
 「そんなこともわからんのか?」ハンは小惑星がにじんで線になるほど速く飛びながら怒鳴った。「やつらはおれたちが捨てたスパイスを見つけたにちがいない。そしておれたちがそれを捜しに戻ったのを知ってるんだ!あのカプコットのやつがおれの話を信じちゃいなかったことは、おまえもわかってただろ。やつらはおれたちを密輸の疑いで逮捕し、<ファルコン>を取りあげちまうだろう。そんなことになったら、この船は二度とおれたちの手には戻ってこないんだぞ!」彼は鋭く左に舵を切り、インプ・デストロイヤーほどもある小惑星をよけた。
 「それに・・・捜索と称して、またこの船の中を荒らされるのはまっぴらだ。カプコットたちが散らかしたあとを掃除したばかりだからな」
 ふたりはピットを通過し、モーに向かった。追っ手の税関船は二隻、そして彼らは決して離れまいとするように、しつこく食らいついてくる。
 ハンの手が物の怪に憑かれた男のように、コントロールの上を舞った。<ファルコン>は逆立ちしたり、裏返しになったり、横に立ったりしながら、危険な小惑星帯を飛んでいく。チューイーは綱渡りのようなハンの操縦に恐怖の叫びを発した。「うるさい!毛玉!」ハンはわめいた。「気を散らすな!」
 チューイーの咆哮は、低いうめき・・・おそらくは祈りになった。だが、ハンは忙しくて、それを聞いているどころではなかった。
 彼らはピットの終わりに近づき、モーに突入しようとしていた。「チューイー、<ファルコン>の船腹の装甲板を捨てるぞ。あのインプがブラック・ホールのそばを飛ぶのを避けてくれればいいが!」ハンはこわばった声で言った。「まったくしつこいやつらだ!」
 チューバッカはアルルルルーンとひと声、憂いに満ちた咆哮を放った。「仕方がないんだ!<ファルコン>をやつらに渡すわけにはいかん!」
 二隻の帝国軍の艦はまるでトラクター・ビームで張りついているかのように、<ファルコン>にぴたりと追いすがってくる。ハンとチューイーは、<ファルコン>のコースとスピードと方向とシールドをせわしなく調節した。
 ついに切羽詰まったハンは、正気の人間なら決して近づかないほどの距離までブラック・ホール群に接近した。<ファルコン>の速さだけが彼らの望みだった。
 <ミレニアム・ファルコン>はモーのブラック・ホール群をかすめて飛んでいた。重力井戸に引きこまれるのをかろうじてまぬがれているのは、スピードがのっているからだ。<ファルコン>が危険な重力井戸の周囲を上昇したり、その縁をかすめるように近づくたびに、彼らを見守る目のようなアクリーション・ディスク(降着円盤)が広がったり細くなるように見える。帝国軍の艦は全速で彼らを追ってくる。
 ハンは不可能なスピンに挑み、裏返しになり、急降下して、モーの最後にさしかかった。計器を見ると、追跡してくるのは一隻だけだ。小さいほうはどうやら、ハンの操縦についてくることができなかったとみえて、黒いアクリーション・ディスクの中でかすかな光を発して爆発するのが見えた。
 「やったぞ!」彼は叫んだ。「おまえたちに捕まるもんか!今日はお断わりだ!永久にお断わりだ!」
 もう一隻もようやく遅れはじめた・・・<ファルコン>はもうほとんどモーから出ている。「おい、チューイー!やったぞ!」
 「アルルルーン!」
 ハンは矢のようにケッセルを通過し、それから突然、重力井戸から自由になった。彼は急いでナビ・コンピューターにかがみ込み、その一瞬後、叫んだ。「コースを入力した。チューイー、パンチだ!」
 次の瞬間には、彼らは安全なハイパースペースにジャンプしていた。ハンはぐったりと座席に沈みこんだ。「きわどいところだったな」彼はかすれた声でつぶやいた。
 チューイーも同意した。
 「おい、チューイー、見ろよ!」ハンは計器を指さした。「新記録だ!」
 チューイーはこの新記録のせいで、神経がずたずただと苦い声で唸った。ハンは目を細めた。「おい、こいつはおかしいぞ」彼は言った。「おれたちは時間だけじゃなく、航行した距離も実際に縮めてる。一二パーセク以下になってるぞ!」
 チューイーは疑い深い唸りを発し、毛むくじゃらの関節で距離計を叩いた。さっきの荒っぽい操縦で計器の回路がショートし、止まってしまったにちがいない、と。
 ハンはそんなはずはないと抗議したものの、癇癪を起こしたチューバッカに歯をむきだして怒鳴られ、あきらめた。「わかった、わかったよ。疲れて、文句を言う元気もない」彼はそう言って、両手を振りあげた。
 “だが、おれはやった、距離を一二パーセク以下に縮めた・・・”彼は頑固にそう思った。
 だが、いまは新記録より、差し迫った問題がある。いったいジャバに何と言えばいいんだ?


Rebel Dawn
P.367 L.32 - P.370
 ハンは、ジャバ・ザ・ハットが使っているコレリア人の執事ビドロ・クワーヴの、傷だらけのごつごつした顔と向かい合っていた。クワーヴの後ろには、タトゥイーンにある砂漠のパレスの砂色をした壁が見える。「やあ、クワーヴ」ハンは執事のホロに向かって言った。「ボスと話をさせてくれないか」
 あざやかな白の縞が入った真っ黒な髪に、あざやかな緑色の目をした醜いコレリア人は、意地悪な微笑を浮かべた。「やあ、ソロか。ジャバがずっと呼んでたぞ。どこにいたんだ、ソロ?」
 「あちこちさ」ハンは短く答えた。彼は遊ばれるのが好きではなかった。「インプとちょいとばかりあったもんだから」
 「そいつは気の毒に。ジャバがあんたと話したいかどうか聞いてくる。あの積み荷が遅れて、すっかり怒ってるからな。あのスパイスは行き先が決まってたらしいぜ」
 ハンは無表情にコムを見ていた。「クワーヴ、冗談はいいから、さっさとつないでくれ」
 「ふん、冗談なもんか」
 クワーヴの傷を負った顔が静電気の乱れで見えなくなり、一瞬、ハンはこのまま切ってしまおうかと思った。だが、ちょうど手を伸ばしたとき、静電気が突然消え、ジャバの巨大なホロ映像に変わった。「ジャバ!」ハンは安堵と不安の混じりあった調子でしゃべりだした。「なあ、聞いてくれ・・・ちょっと困ったことになった」
 ジャバは不機嫌だった。彼は、ジリアクから相続したフッカー(水ギセル)とスナック・クエリアムの組み合わせの中で、渦巻いている茶色い物質を吸っていた。彼の巨大な瞳孔はドラッグのせいで広がっている。
 “くそ”ハンは毒づいた。“よりによって、彼がスパイスをやってるときにあたるとは・・・”
 「あ−、やあ、ジャバ。おれだよ、ハンだ」
 ジャバは何度か瞬きし、やっと焦点を合わせた。「ハン!」デシリジクのリーダーは割れ鐘のような声でわめいた。「どこにいた?先週ここに来ると思っていたぞ!」
 「その、ジャバ、それを説明するために連絡を入れたんだ。聞いてくれ・・・おれのせいじゃない・・・」
 ジャバは混乱して瞬きした。「ハン、マイ・ボーイ・・・何のことだ?わたしのグリッタースティムはどこにある?」
 コレリア人はごくりと唾を呑みこんだ。「その、ああ、そのことなんだ、ジャバ。その・・・あれはトラップ同然の・・・インプはおれを待ち伏せしてて−」
 「関税役人がわたしのスパイスを持ってるのか?」ジャバがあまりにも突然すごい声で吠えたため、ハンは思わず首を縮めた。「何という不始末をしでかしてくれたんだ、ソロ?」
 「違う!違うんだ、ジャバ!」ハンは叫んだ。「やつらの手には入らなかった!ああ、やつらにはあれがあんたの積み荷だってことはわかっちゃいないさ!だが・・・そいつを関税役人に見つからないようにするために、おれはスパイスを捨てなきゃならなかったんだ。印をつけといたが、やつらはすぐに解放してくれなかった。取りに戻ったときには・・・スパイスは消えてた」
 「わたしのスパイスが消えた」ジャバは不気味なほど静かな声で言い、陰気な目でハンを見た。
 「その・・・そうなんだ。でも、なあ、ジャバ、心配はいらん。この埋め合わせはする。ああ、ちゃんとするよ。おれとチューイーで働いて支払う、心配しないでくれ。確実に返す。おれたちが腕ききだってことは知ってるだろ。それに、ジャバ、あれは仕掛けられた気がするんだ。おれがランに行くのを、あんたとモルース・ドゥールのほかに、どれくらいの人間が知ってたんだ?」
 ジャバはハンの質問を無視した。彼は続けざまにフッカーを吸い、大きな目を瞬いた。それから手を伸ばし、水をたたえた球体から虫をつかみ、口の中に入れた。
 「ハン・・・ハン、わたしがきみを息子のように愛していることはわかっているな?」彼はゆっくりともったいぶって言った。「しかし、商売は商売だ。きみはわたしの何より大事なルールを破った。きみが好きだからといって例外は作れない。あの積み荷は二万と四〇〇クレジットだった。一〇日以内にスパイスかクレジットを届けろ。さもないとひどい目に遭うぞ」
 ハンは唇を濡らした。一〇日・・・しかし、ジャバ−」
 接続が突然切れた。ハンは精魂尽き果ててがっくりと操縦席に沈みこんだ。“どうすればいい?”


Rebel Dawn
P.371 - P.373 L.26
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Last Update 30/Aug/2002