反乱の夜明け #13-b |
年 代 | 出 来 事 | 場 面 | 参 考 |
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ハンはトゴリアでいちばん大きな都市、カロスのはずれのランディング・フィールドに<ファルコン>をおろした。航行後の点検を済ませ、ログを最新のものにすると、彼とブリアは昇降ランプに向かった。数人のトゴリアンがすでにフィールドに向かってくる。そのなかには、胸と髭が白いひときわ大きな黒い毛の男が交じっているように見えた。かたわらにオレンジと白の小柄な女がいる。 ブリアは興奮して叫んだ。「マーグとムロヴよ!」 ふたりは小走りにランプを降りた。足が地面に着いたとたん、ふたりともぎゅっとつかまれ、抱きしめられて、体が浮き上がった。「マーグ!」ハンは古い友だちに会えたのが嬉しくて、足をだらんとさげたまま白い胸を夢中で叩いた。「元気か、バディ!」 「ハン・・・」マーグは感無量で、言葉も出ないくらいだった。トゴリアンは、とくに男たちは情が深いのだ。「ハン・ソロ・・・マーグ、再びハン・ソロに会う、こんな嬉しいことない。久しぶりだ!」 “こいつのベーシックは錆びついてるぞ”ハンはそう思っておかしくなった。マーグのベーシックは、昔も流暢とはいえなかったが、あれから一〇年の歳月を経て、昔よりぎこちなくなったようだ。 「ああ、マーグ、ムロヴ!ふたりにまた会えて嬉しいよ!」 挨拶が終わるとムロヴは、あれからイリーシアと争ったトゴリアンが何人かいて、今回の攻撃に加わりたがっている、と説明した。「六人のトゴリアンが奴隷にされたか、それに近い扱いを受けたのよ、ハン」ムロヴは言った。「もう二度とあのひどい場所に誰も閉じこめられないようにしたいの」 ハンは頷いた。「いつでも好きなときに出発できる」 マーグは首を振った。「明日まではだめだ、ハン。サラのモズゴス、空中で大きなリフォンに攻撃受け、翼、傷ついた。サラ、モズゴス借り、われわれにメッセージ送った。明日ここに着く。今夜、ハンとブリア、われわれの名誉の客。いいか?」 ハンはブリアを見て肩をすくめた。「ああ、いいとも」 ブリアは彼の目を見ずに答えた。「喜んで・・・」 彼らは一〇年間の出来事をたがいに語りあって、午後を過ごした。トゴリアの習慣で、彼らは一年に一か月しか一緒に過ごせないが、マーグとムロヴはとても幸せそうに見えた。彼らの子供たちはどちらも女の子で、ハンとブリアはこのふたりにも会った。ひとりはまだ子猫のように小さく、とても可愛かった。ブリアとハンは美しい庭園で、二時間ばかり子供たちと遊んだ。 その夜彼らは、トゴリアンのご馳走を食べ、上等のワインを飲みながら、トゴリアンの語り部が、一〇年前に四人がイリーシアから脱出したときの顛末を語るのに耳を傾けた。長い年月のあいだに、かなり脚色された“実話”の中で、ハンはおかしいほど見事な英雄に持ち上げられ、ハン自身にも誰のことだかわからないくらいだった。 ハンは強いトゴリアンの酒を飲みすぎないように気をつけた。ブリアは水しか飲んでいなかった。「飲めないのよ」彼女はハンに訊かれるとそう答えた。「好きになりすぎるのが怖いの。一度中毒になると、ほかのものにも中毒になりやすいから」 ハンは彼女の自制心に感心し、それを伝えた。 祝宴が終わると、マーグとムロヴは彼らの客をいちばん立派なゲストハウスに導き、夜の挨拶をして立ち去った。 ハンとブリアは居間をはさんで向かい合い、長いこと黙って顔を見合わせた。ハンはひとつしかない寝室をちらっと見た。「どうやら・・・マーグとムロヴは、まだおれたちが一緒だと思ってるらしいな」 「そのようね」ブリアは目を合わせずに同意した。 「おれは床で寝るしかなさそうだな」 「あら、わたしは兵士よ。毛布もなしに、泥の穴の中で寝たこともあるわ。レディ扱いする必要はなくてよ、ハン」彼女は微笑して小額のクレジット硬貨を取りだした。「どっちがベッドに寝るか・・・これで決めましょうよ」 ハンはとっておきの笑顔を浮かべた。「いいとも、ベイビー。おれはそれでもかまわない」 ブリアは彼を見た。ふたりの目が合った。「あらまあ」彼女はたったいま四、五クリック走ってきたように息を切らせてそう言った。 彼の息づかいも少しばかり荒くなっていた。「あらまあ、何だい?」彼は一歩前に進み出た。 ブリアはいまにも消えそうな笑みを浮かべた。「銀河が人間の女性には急に危険な場所になったってことよ。その微笑みにどんな効果があるか、よく知ってるんでしょう?」 正直な話、ハンには多少の心あたりはあった・・・それに何人かの女性も知っているはずだ。彼はゆっくり二歩、彼女に近づきながら、喉の奥で笑った。「ああ・・・場合によっちゃ、ブラスターより効き目がある」 ブリアはいまにも逃げだしそうに体をこわばらせたが、彼がもう一歩前に出ても動かなかった。ハンは彼女の手が震えているのに気がついた。「それを投げ上げるんじゃないのかい?」彼は柔らかい声で尋ねた。 彼女は頷いて、深く息を吸いこんだ。手の震えが多少おさまった。「ええ、裏と表のどっち?」 「そいつはトリック・コインじゃないのか?」ハンはそう言いながら、もう一歩前に出た。 「まさか!本物のコインよ!」ブリアはわざと口をとがらせ、丸いコインを彼に見せ、ひねって回してみせた。表には皇帝の顔、裏には帝国のシンボルが刻印されている。 ハンはもう一歩近づいた。手を伸ばせば、彼女の肩に触れることができる。「わかった。おれは・・・表だ」彼は静かに言った。 ブリアはごくりと唾を呑んで、コインを投げ上げた。だが、震えているせいでそれを受けそこねた。だが、ハンがそれをつかみ、見もしないで握りしめた。「表なら一緒にベッドで寝る・・・裏なら一緒に床で寝る」 「でも・・・わたしたちは・・・」ブリアは口ごもった。全身が細かく震えていた。「ただのビジネスの・・・」 ハンはコインを肩越しに投げ捨て、ブリアを抱き寄せた。そして過ぎた日の・・・失った年月の思いをこめて彼女にキスした。彼女の口に、額に、髪に、耳に・・・そして再び口に。ようやく顔を上げると、こう言った。「ビジネスなんかくそくらえだ・・・そうだろう?」 「ええ・・・」ブリアはつぶやき、彼の首に腕を巻きつけてキスを返した。 彼らの後ろでは、床の上の編んだマットに転がったデシクレッド硬貨が、薄明かりにかすかに光っていた。 |
Rebel Dawn P.307 L.11 - P.312 L.3 |
翌朝ハンは微笑みながら目を醒まし、ベッドをおりて、美しいトゴリアの庭を見下ろす小さなバルコニーに出た。深呼吸しながら、小さな空飛ぶ蜥蜴の鳴き声を聞いていると、初めて砂浜に行った日に、ブリアの指にとまった蜥蜴のことを思いだした。 あの砂浜をもう一度訪れる時間があれば・・・。 “おい、このイリーシアの奇襲が終わったら、銀河中の時間がおれたちのもんだ・・・使い切れないだけのクレジットも手に入る。そうしたらここに戻ってくればいい。それからたぶん、コーポレート・セクターにでも向かい、あそこで仕事を見つけよう。<ファルコン>があれば、どこへでも行けるし、何でもできる・・・” ブリアは彼のためにレジスタンスを離れてくれるだろうか?だが、ゆうべふたりが分かち合ったものを考えれば、彼女がしぶるとは思えなかった。ふたりは一緒にいるために作られたのだ。もう別れることなど考えられない。 足音が近づいてくるのが聞こえたが、ハンは振り向かなかった。彼は庭を見下ろしたまま、樹木の花が香る爽やかな空気を吸いこんだ。両腕がウエストに回され、彼女の髪が背中に触れた。「ハン・・・おはよう」 「ああ。気分のいい朝だ」彼は静かに答えた。「こんなに気分がいいのは久しぶりだな・・・一〇年ぶりだ」 「ゆうべ言ったかしら、あなたを愛してるわ」彼女はつぶやいて、彼のうなじにキスした。「髪を切る必要があるわよ」 「ああ、何度も聞いた」彼は答えた。「もう一度言いたければ、言ってもいいよ」 「愛してるわ・・・」 「いい響きだ。だが少し練習する必要があるな。もう一度言ってごらん」 ブリアは笑った。「まあ、自惚れてるわね」 彼は低い声で笑い、振り向いて彼女を抱きしめた。「なあ、会合座標までは、<ファルコン>はトゴリアンでいっぱいになる。きみはおれの膝に座るはめになるかもしれないぞ」 「わたしはかまわないわ」 |
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